レビューメディア「ジグソー」

この、臨場感...冷たい戦闘。

本の蟲。
実は結構読書家で、特に若い頃は乱読しました。
ジャンル的にはSF~ファンタジー~ミステリなどからコミックまでイロイロ。
3桁では収まらない蔵書の中からトピックをご紹介していきます。

“航空宇宙軍史”。小説家谷甲州のSF連作。
谷甲州は理系のニオイプンプンの作風だが、青年海外協力隊員やJICAでの海外生活もあり、単なるSFというより冒険小説のような設定と、きちんとした人物描写がありフィクションとしても楽しめる。
ただ小説の肌触りはハード。かなり考察をした内容で、冷たい宇宙での冷たい戦闘が語られる。
そこには、宇宙ロボットもので語られるようなビームサーベルでの接近戦や「ダダダダ、バリバリ、ズガーン」と吹き出しがあるような熱い戦闘はない。

潜んでいた襲撃艦により遠距離から友軍が砲撃・壊滅させられる。その射程に刻々と近づく自艦。敵の砲撃精度を襲撃艦から放たれる観測用のレーザーによるものと看破し、それを避けるために自艦至近でミサイルを自爆させ煙幕を張る。それを目標消失と判断した襲撃艦が去るまで息を殺してやり過ごす。時間だけが冷酷に過ぎて行く中息詰まる自艦内での乗員の心の動きをえぐった「砲戦距離一二、〇〇〇」。

表題作「仮装巡洋艦バシリスク」。戦闘中エンジンが暴走し、帰還がかなわなくなった仮装巡洋艦内で宇宙の観測に生存装置の続く限りの使命を見いだしたクルーが、宇宙史に伝説として語られている存在しないはずの「探査船オディッセウス『0』号機」の痕跡を発見するが、残された時間が足りない。艦長一人残して総員退出し、一人残された艦長は生存装置の続く限りの観測をする。その手記を未来の宇宙飛行士が見つけるが、それはその仮装巡洋艦の速度では到達し得ない遠さの星域であった、という少しミステリとホラーの要素を持った作品。

この作品が「航空宇宙軍史」と呼ばれるシリーズの1作目だが、かなり時系列としては未来のものもある。設定を同じくする連作といった風情。当初地球-月連合の「航空宇宙軍」とその支配に対して対抗・独立をもくろむ衛星国家の連合政体「外惑星連合」との戦いが主軸だが、遠い未来では「航空宇宙軍」と「汎銀河連合」との対立に発展していく。この「汎銀河連合」が「航空宇宙軍」の行動から生まれたことがパラドックスとして語られる奥が深い作品。

この冷たい戦闘とそこに生きている人間の熱さがリアルでいい。
現在ハヤカワ文庫版は廃刊、ただしこのシリーズ徐々に電子ブック化されているので、再刊される可能性はアリ。

【収録作品】
星空のフロンティア
砲戦距離一二、〇〇〇
襲撃艦ヴァルキリー
仮装巡洋艦バシリスク
  • 購入金額

    360円

  • 購入日

    1986年頃

  • 購入場所

17人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (4)

  • makibisiさん

    2011/08/23

    あらすじを見させていただくと、面白そうですね~。

    廃刊したものも徐々に電子化されているので、再刊されそうですね。
  • cybercatさん

    2011/08/23

    makibisiさん、コメントありがとうございます!
    >あらすじを見させていただくと、面白そうですね~。
    ハードなSFですが、設定におぼれることなくヒトを描いている、という点では福井晴敏に似た点があります。ただ、福井晴敏より遙かに理系で冷たい肌触りですが。
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