彼はローマにおける最高権力を、ただ一人の手に納めることに成功した。
矢継ぎ早に軍政改革、元老員改革に着手し、首都ローマに大量の公共工事を行って市民からの支持を絶対の物とした彼は、突如として「共和国の法の例外となる権力」を返し、共和制への復帰を宣言する。
しかし、それは巧妙に計算され尽くした、オクタヴィアヌス流の「独裁への道」であった。
ストレートに改革を推し進めたカエサルは、その目的を「自己の権力要求」へと転換され、イデオロギーによって暗殺された。
オクタヴィアヌスは、カエサルの発した
「多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない」
という言葉を、嫌というほど知り抜いていた。
なにしろ、カエサルは暗殺者たちの見た「見たいと欲する現実」を理由に殺されたのだ。
故に、オクタヴィアヌスは、自分の目指すゴールを周到に隠蔽した。
彼は、多くの人に「見たいと欲する現実」を「自らの手で見せる」ことによって、自分が本来「見られたくないと思う現実」から目をそらさせた。
その隙に、彼は緻密にして繊細な「帝政」という精密機械を、生涯をかけて組み立てて行ったのである。
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初代ローマ皇帝、アウグストゥス(オクタヴィアヌスの尊称)の見据えたゴールは、カエサルによって作られた「帝政」という概念の実現でした。
30代とは思えないほど恐ろしく冷静な目線で、何十年も先を見通しつつ、帝政というシステムの部品をチマチマと組み立てていく彼の手腕は、とにかく「すげえ」という感想しか出てきません。
作者自身が「感動はしないが、感心してしまう」と評した通り、やることなすこと全てが計算尽くで、人間ここまで先読みして行動していけるものなのか、と感心することしきりの一冊です。
まあ、その過程は精密機械の組立と同様に「ドキドキワクワクはしない」のですけども。
アウグストゥスの凄いところは、当人自身に「そうした、人をワクワクさせるような要素が、自分にはない」とはっきり自覚して、それを前提に全てを計算しつつ行動した、という「面白みもへったくれもない」けど、「結果はきっちり残した」という点にあります。
それ故に、感心させられても「なんて退屈なやつだ」だと感じるのですが。
死んでから、その功績に気づかされるタイプなんでしょうね、こういう人。
実際、アウグストゥスが死ぬ間際になって初めて、ローマの人々は「最高権力の世襲」という、帝政の始まりを自覚したでしょうから。
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不明
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