Intelから、3月18日に新型のSSD“Intel Solid-State Drive 730 Series”(以下、SSD 730)が発売された。
700番台の製品型番が振られた同社製SSDでは、エンタープライズ向けに開発された710、720シリーズがあるが、Webサイトにて確認すると、Intel 730はコンシューマー向けの製品に位置付けられている。
既存の2シリーズ、コストパフォーマンス重視の300シリーズと性能重視の500シリーズに、ハイエンドモデルの730シリーズが加わったということのようだ。
新しく加わったハイエンドモデルはどのような特徴や性能を備えているのだろうか。
今回は、SSD 730の480GBモデルをレビューする機会をいただいたので、その実力を探ってみたい。
ハイエンドユーザー向けの証であるドクロマークが印象的なSSD 730は、データセンター向けの製品 Intel SSD DS S3500/S3700に採用されているIntel製コントローラ“PC29AS21CA0"を搭載している。
SSD 730とは、簡単にいってしまうと、エンタープライズ向きのSSDを一般PC市場向けにチューニングしたSSDである。
容量のラインナップは、240GBと480GBの2モデルのみで、ともに2.5インチのSerial ATAインターフェースを採用している。
480GBモデルにおける転送速度の公称値は、シーケンシャルリードが550MB/s、ライトが470MB/sとなっている。
下位モデルとなるIntel SSD 530(以下SSD 530)の480GBモデルでは、シーケンシャルリードが540MB/s、ライトが490MB/sであることから、シーケンシャルアクセス性能においては、優位性は見られない。
最新のSSDでは、転送速度が500MB/s前後の製品が目立つようになってきている。
これは、転送速度が既にSerial ATA 6Gbps(600MB/s)の限界値に達しつつあるためである。シーケンシャルアクセス性能だけでは、製品の差別化がしにくい状況になってきているのだ。
ランダム4KBにおけるIOPS(1秒間当たりの処理回数)は、480GBモデルにおいては、リードが89,000IOPS、ライトが74,000IOPSである。
SSD 530のリード48,000IOPS、ライト80,000IOPSと比較すると、リード性能が大幅に向上している。
エンタープライズ向け製品と同じコントローラを搭載していることだけあり、故障するまでの平均時間を表すMTBFは、SSD 530の120万時間から200万時間に伸びている。
総書き込み容量を表すTWBは、480GBモデルで128TBである。
保証期間である5年で換算すると、1日当たり70GBもの書き込みに堪えうる設計がされていることになる。
SSD 530シリーズにおいて、同様に保証期間で換算すると、TWBが36.5TBで1日当たりの書き込み容量は20GBとなる。
設計上においては、SSD 730はSSD 530の3.5倍の耐久性を持っていることになる。
SSD 530との性能比較で気になるのは、消費電力である。
SSD 530は大幅な省電力化が図られているモデルではあるのだが、その点を差し引いたとしても、SSD 730のアクティブ時5.5W、アイドル時1.5Wの消費電力はかなり高い。
消費電力が高ければ、発熱量やバッテリーの駆動時間に影響するので、ノートPCで使用する際には考慮すべき点といえそうだ。
ここからは各種ベンチマークソフトを使用して、SSD 730のパフォーマンスを検証していく。
検証環境は以下のとおりである。
・CPU Intel Core i7-2600K
・マザーボード ASUS P8Z68-V PRO(Intel Z68チップセット)
・メモリ CORSAIR CMZ8GX3M2A1600C9B DDR3 1600MHz 8GB×2
・ストレージ PLEXTOR PX-128M2P(システムドライブ)
・電源 Thermaltake Evo Blue 750W
・OS Windows 7 Professional 64bit
また、比較対象として、以下の2つのSSDを用いた。
Intel SSD 510 SSDSC2MH250A2 250GB(以下 SSD 510)
Samsung SSD 840 EVO MZ-7TE250B/IT 250GB(以下 840 EVO)
テストは、検証対象となる3つのSSDをFドライブに設定し、各種ベンチマークソフトをFドライブを対象にして行った。
なお、比較対象の2つのSSDには250GBモデルを使用しているが、480GBという高容量のSSDを複数用意することは困難であるため、その点はご容赦いただきたい。
■CrystalDiskMark
まずは定番のベンチマークソフトである“CrystalDiskMark”で大まかな性能を把握してみよう。
テストデータは「デフォルト(ランダム)」、テスト回数を5回に設定して実行した。
・Sequential Read/Write
まずは、“Sequential Read”と“Sequential Write”の計測結果から見てみよう。
この結果からは、連続したデータを読み書きする時の性能が分かる。
Sequential Readでは、840 EVOが500MB/sを超えているが、SSD730は460MB/sに留まっている。
それどころか、旧型製品であるSSD 510に迫られている。
Sequential Writeにおいては、僅かながら、SSD 730が840 EVOをスコアを上回っているが、
僅差であるので、ほぼ同等の性能といえるだろう。
・512K Random Read/Write
次に、512KB単位のランダムリード/ライトの計測結果である。
この結果からは、大きめのデータを分割してランダムに読み書きする時の性能を把握することができる。
ランダムリードにおいては、シーケンシャルリードと同様にSSD 730は840 EVOに及ばない。
しかし、ランダムライトでは、SSD 730が840 EVOよりも2割程度も上回っている。
SSD 730は、ランダムライトに強みがありそうだ。
・4KB Random Read/Write
このテストでは、4KB単位の小さなデータをを分割してランダムに読み書きする時の性能が分かる。
ここでの測定結果は、512K Random Read/Writeと似た傾向にある。
SSD 730は、840 EVOにリードでは劣るが、ライトで勝っている。
・4KB Random Read/Write(QD=32)
このテストでは、4KBのデータをNCQ(Native Command Queuing)を使ってランダムに読み書きする時の性能が分かる。
NCQとは、複数のデータを先送りして、効率の良い順番に並び替えてから処理を行う機能である。
また、QDとは、“Queue Depth”の略で、同時に発行される命令数のことをいう。
QD=32というのは、ストレージ側が32の命令を受け付け、効率良い順序に並び替えてから実行することを意味している。
4KB単位の読み書き性能では、先述した“4KB Random”の測定結果よりもQD=32の方が、より実質的な性能を示しているといえる。
さて、測定結果だが、リードでは840 EVO、ライトではSSD 730が優位となった。
また、SSD 510は両者よりも大幅に低い数値となり、旧世代のコントローラを搭載した製品との性能差が明確に現れた。
■ATTO Disk Benchmark
次に“ATTO Disk Benchmark”を使って、データサイズごとのシーケンシャル性能を調べてみた。
計測は、テスト長をデフォルトの256MB、QD=4の設定で行った。
測定結果は、CrystalDiskMarkにおけるシーケンシャルリード/ライトのものと同様の傾向となった。
すべてのデータサイズにおいて、840 EVOの方がSSD 730よりも良い数値を示している。
SSD 730では、データサイズが512KB未満までは、リードとライトの速度が不均一になっている点が興味深い。
SSD 510
SSD 730
840 EVO
■Iometer
最後に“Iometer”でI/O性能(input/output)を検証してみた。
4KBサイズのランダムリードとライトを50%ずつ混合させた状況で、5分間テストを実施した時のIOPSを取得した。
テスト領域サイズは1GB、QD=32に設定した。
テスト内容を間単にいってしまうと、CrystalDiskMarkのRandom 4KB(QD=32)のリード/ライト計測を同時に実施した時の性能を検証するということである。
結果は以下のグラフのとおりで、SSD 730が840 EVO対比で289%もの数値を示した。
SSD 730は、読み込みと書き込みが混在して、かつランダムに行われる環境で使用すると強みが発揮されるといえそうだ。
ランダムアクセスに強みを持つSSD 730にとって、不規則にデータの読み書きが行われるゲームで使用することが最適な用途の1つといえるだろう。
そこで、PlayStation 4(以下、PS4)に搭載されているハードディスクをSSD 730に換装することでどの程度の性能向上を見込めるか検証してみた。
今回のテストにおいても、比較対象にSamsung SSD 840 EVO 250GBモデルを用いている。
では、標準搭載されているHDDをSSDに換装する作業から始めよう。
■SSDへの換装作業は簡単
PS4はストレージの換装を前提とした作りになっているので、換装作業は非常に簡単だ。
まずは、PS4の本体からカバーを外す。
艶のある部分を外側に引っ張ると本体から外すことができる。
ネジを1本外し、ケージからHDDを引き出す。
トレイごとスライドさせれば簡単に引き抜くことができる。
HDDをトレイに固定している4本のネジを外し、SSDに換装する。
SSDを固定したトレイをケージに戻して、ネジで固定する。
次にPS4のシステムソウトウェアをSSDにインストールする作業を行う。
パソコンを使って、PS4の公式サイトからシステムソウトウェアをダウンロードして、USBメモリに保存しておく。
そのUSBメモリをPS4のUSB端子に差し込み、7秒間程度電源ボタンを長押しする。
そうすると、セーフモードで起動するので、後は画面に表示される手順に沿ってソフトウェアをインストールすれば良い。
以上でSSDへの換装作業は終了だ。
ちなみに、標準搭載されているHDDは、Samsung製の500GBのものであった。
型番(ST500LM012)から検索してみると、Serial ATA 3.0Gbpsの製品とのことなので、SSDへの換装後はパフォーマンスの向上が期待できそうである。
■SSD換装によるパフォーマンス向上は見込めるが・・・
では、ここからはテストに移ろう。
標準HDDとSSD 730、840 EVOの3種類のストレージにおいて、PS4本体とゲームソフトの起動に要する時間を計測してみた。
次のグラフは、計測結果を取りまとめたものである。
・PS4の起動時間を撮影した比較動画
・WARFRAMEの起動時間を撮影した比較動画
PS4本体の起動時間は、SSD 730、840 EVOともに標準HDDよりも約6秒間速くなった。
では、ゲームソフトの起動時間はどうかというと、WARFRAME以外は三者間で目立った違いが見られない。
これは、WARFRAMEは起動時のデータロードに長い時間を要するが、その他のソフトにはデータロード時間がほとんどないことに起因しているのだろう。
WARFRAMEにおいては、SSD 730が49.33秒に対して、840 EVOが54.10秒と5秒近く差が出ている。
しかし、PS4の起動時間においては、ともに15秒弱と双方に差は見られない。
SSD 730と840 EVOでパフォーマンスに違いがあるのだろうか。
そこで、WARFRAMEの起動時動画を分析して、どのタイミングでタイム差が生じているのをか確認してみたところ、データ更新チェック時にタイム差が生じていたことが分かった。
WARFRAMEでは、起動直後にオンライン上のデータベースにアクセスして、プログラムが最新であるかどうかチェックが行われる。
これは、インターネット回線の混雑状況によって、データ更新チェックに要する時間に差が生じる可能性があるということである。
実際に動画で確認してみたところ、約5秒間のタイム差のうち、約4秒間がデータ更新チェック時に生じていた。
そこで、データ更新チェックの部分を除き、起動時間を計測してみたところ、ほぼ同タイムであった。
以上のことから、WARFRAMEの起動時においては、SSD 730と840 EVOでは起動時間に差は見られないと結論付けてもいいだろう。
しかし、その点を考慮した上でも、標準HDDと840 EVOでは、約24秒間もの差がある。
また、PS4の起動時間に生じたタイム差も踏まえると、HDDからSDDに換装することでパフォーマンスの向上が期待できるといえるだろう。
特にデータロードが頻繁に行われるゲーム、例えば、ゾーン移動が多いFINAL FANTASY XIVのようなMMOタイトルにおいては、SSD換装による恩恵を受けられるのではないかと推測される。
一方で、SSD 730と840 EVOにおいては、パフォーマンスの差は見られなかった。
というのも、PS4のSerial ATAは、内部でUSB3.0経由で接続されているようで、USB 3.0(5Gbps)は、Serial ATA 6GbpsはおろかネイティブのSerial ATA 3Gbps程の性能も期待できない可能性があるということを指摘されている。
現在販売されているSSDであれば、どの製品に換装してもパフォーマンスの向上が見込まれるだろう。
しかし、USB3.0でブリッジ接続されていることを考慮すると、転送速度が頭打ちになってしまうことから、SSD同士においては、体感できるレベルではパフォーマンスに差が生じない可能性が高い。
では、PS4でSSD 730を使用することに利点はないのかというと、必ずしもそうとはいい切れない。
PS4にはプレイ動画をFacebookなどのSNSに投稿する“シェア”という新機能が搭載されている。
このシェアという機能によって、PS4では常にゲームプレイ中の動画がバックグラウンドで自動録画されており、15分毎に古い動画が上書きされる仕様になっている。
この自動録画機能によるSSDの劣化リスクを心配するプレイヤーにとっては、書き換え寿命の長いSSD 730を選択することにメリットを見出せるだろう。
いくつかのテストで見えてきたSSD 730の特徴は、シーケンシャルアクセス性能は特別に速いとまではいえないが、500MB/sというシーケンシャルライト/リードの転送速度を確保しつつも、4K時のアクセス性能に秀でている点にある。
ランダムアクセスが頻発するようなゲームなどの実使用において高い性能を発揮することを追求したモデルといえる。
また、高い耐久性を持っていることから、大きいサイズのデータを頻繁に読み書きするような用途、例えば、高画質の写真やグラフィックス編集用のストレージとして用いることにも向いているかもしれない。
現時点では、480GBモデルの実売価格が55,000円程度と他社製品と比較するとコストパフォーマンスという点では劣っている。
しかし、価格ではなく高い性能を求めるハイエンドユーザーや、安定感や信頼性が求められるプロユースとして訴求力があるだろう。
そのような点において、Intelらしさを感じさせてくれる製品といえるだろう。
りーちゃんさん
2014/04/06
3台のSSDの比較で、すごくわかりやすかったです!
値段は高いのですが、信頼性やパフォーマンスなど考えると、
やっぱりインテルが安心できるのかなぁって思いました。
yachさん
2014/04/06
コメントありがとうございます。
データセンター製品のチューニング版、しかもIntel製となれば、
それだけで安心感がありますよね。
きりん太さん
2014/04/13
インテルのSSDは、信頼性と性能がやっぱり違いますね。
ゲームとかで使ってみたいSSDですね。
まあ、若干値段が高いけれど、安心を買ったと思えば安いかもしれませんね。
yachさん
2014/04/13
コメントありがとうございます。
ストレージに求めるものは、転送速度よりもまずは安心感・信頼性ですね。
地味に高性能な所がインテルらしさを感じさせてくれます。