レビューメディア「ジグソー」

墨絵のようなモノトーンの世界から、「白い」世界へ

本の蟲。
実は結構読書家で、特に若い頃は乱読しました。
ジャンル的にはSF~ファンタジー~ミステリなどからコミックまでイロイロ。
3桁では収まらない蔵書の中からトピックをご紹介していきます。

 

2021年末に、「芋づる式洲崎綾」の一環として、弐瓶勉原作の「シドニアの騎士」の映像による結末、あやちゃんがヒロイン??を務めた「シドニアの騎士 あいつむぐほし」

をご紹介したが、原作漫画「シドニアの騎士」

はその映画公開の5年半前に終了していた。

 

その原作漫画「シドニアの騎士」終了から、映画「シドニアの騎士 あいつむぐほし」の総監修に入るまでに、弐瓶勉が何もしていなかったか...というと、そんなことはない。

 

弐瓶は、この間別の漫画を連載執筆していた。

 

それが、「人形の国」。

主人公(エスロー)側の人形3隊。タイターニア、ケーシャ、エスロー。
主人公(エスロー)側の人形3体。タイターニアケーシャエスロー

 

気の遠くなるほど永く対立する陣営、そして一方はかなり虐げられ力がない集団、その中から力を持つキャラクターが出現し、反対陣営の絶対強者に立ち向かっていく....というのは、「シドニアの騎士」(に限らず二瓶の他の作品にも)見られるプロット。そして、ヘイグス粒子胞衣(エナ)といった、二瓶ワールドでおなじみのワードがちりばめられたSF長編。

 

「シドニアの騎士」は(いわゆる一般的な形態ではなかったものの)長道とつむぎのラヴストーリーという、単なるSFとは違う軸があったが、本作は(臭わせ程度はあるもの)ラヴロマンス方向にはそこまで深入りせず、「世界を描く」という事に注力していると思う。

 

「シドニアの騎士」は、共存が出来ないほど異質な敵=ガウナを、「喰われた」元仲間との交戦や、実験的にヒトの要素と合体させた融合個体の振る舞いなどを元に推し量る事はできても、結局わかり合うことは出来ず、全面戦争になり、ガウナは敵として退けられ、人類はレム恒星系への入植を果たし、そこからさらに異なる恒星系へと乗り出していく。つまり、戦いの中暮らす人類が主であり、ガウナヘイグス粒子などの二瓶ワールドは舞台装置。

 

一方本作「人形の国」は、「人形」というロストテクノロジーを利用した「超人」を使った、3つの陣営の戦闘(というか競争)に多くのページが割かれているが、物語の世界のなりたちと、それに絡む3陣営の思惑などが物語の中心で、どちらかと言うと「世界」を描いている(つか、キャラクターの扱いに関しては冷厳で、結構重要キャラであってもあっけなくバンバン死ぬ)。

 

二瓶の画風は独特で、トーンをほとんど使わず、比較的細めの線と、ベタ塗りのツートーン調の画風が特徴だが、「BLAME!」の暴走した自動機械によって際限なく建築が続けられていく昏い階層都市や、壊滅した地球から遠く離れた深い宇宙での戦闘を描いた「シドニアの騎士」のような、かつての二瓶作品と比較すると、圧倒的に白い。描線も今までよりさらに細く、全体的に白い。

 

この白さは、極寒の地表を表しているのかもしれないが、この今までにない淡泊さを感じる絵で、どんな物語が紡がれたのだろうか...

 

■□■□■□■□■

 

巨大な人工天体「アポシムズ」。その地表は極寒の荒涼とした環境で、そこを巡回する自動機械から身を潜め、体が徐々に機械になっていく人形病におびえながら、地表の人類は細々と生きていた。

 

実は以前、地表人もアポシムズの地底に住んでいたのだが、50世紀前に地底との戦争に敗れ、地表に追放されたと伝えられている。

 

地底は、どんな武器も通じない超構造体殻で覆われ、地表人の侵入を拒んでいる。

 

地表の環境は劣悪で、低温以外にも有毒物質などもあり、人々はマスクや耐寒服をつけた重装備でないと生きていけない。また地表と地底の狭間にある遺跡層には、攻撃的な自動機械が徘徊しており、人類はそれにもおびえつつ生活している。ただ、そんな状態になっても人々の争いは絶えず、いくつかの勢力に分かれて争っている。

 

そのなかの最強勢力がリベドア帝国。頂点に皇帝スオウニチコをいただくリベドア帝国は、地底に何度も侵入を企みており、地底を護る超構造体殻を破壊することができる唯一の武器AMB弾の行方を追っている。

 

この世界には「人形病」と呼ばれる、人間の肉体が徐々に機械へと置き換わって行き自我が失われていく病気があるが、それとは別に人に「コード」という装置を使って、「正規人形」というものを作り出すことができる。正規人形となった人は、転生者と呼ばれている。正規人形となると、コードにら刻まれていた固有の特殊能力を得るとともに、外見も骨格に胞衣(エナ)を纏った形に変化する。胞衣はどのようにも変形させられるため、正規人形は普段はそれを使って人の形態をしており、普通の人間との差がわかりづらい。ただ、アポシムズの地表にあっても、防寒具やマスクなしに生存できるため、それらを地表で装備していなければ、人形とわかる。

 

一方、戦闘時など必要な時は、胞衣を変化させ装甲状態である鎧化形態をとり、体の一部を武器にしたり翼にしたりして変化する。ヘイグス粒子を消費しつつ人形化を保っており、ヘイグス粒子を使い切ると鎧化が解ける。人形も骨格がむき出しになった状態で、脳を損傷すると再生できず死亡する。死んだ正規人形(転生者)から胞衣を奪って吸収することにより、自身の胞衣を増強し、能力を強化することができる。なお、人形個々によって所持できる胞衣の上限容量は異なるようだ(人形化したときに強さの上限は決まっている)。

 

一方、ヒトとコードとの適合率は非常に低く、適合できないと死亡したり、障害を負ったりすることになる。またコードによって封印されている能力は異なり、強大な力を持つことになる転生者もいれば、一般人よりはもちろん強いものの、たいした力を得られず、下級転生者にとどまるものもいる。

 

そんなアポシムズの地表に張り付くようにして命を保っている地表人のグループ、白菱の梁の一族。彼らが遺跡層に戦闘訓練に行った際に事件は起こった。たまたま食料を見つけ、戦闘訓練が食糧確保になってしまったが、活動限界が近くなったため、拠点に戻ろうとする一行。それは教師のような役割を持つエスローに引率されたグループだった。その帰路で、エスローに引率されていた少年が、空を飛行するリベドア帝国小空機を発見した。何かを追っているようだ...と、スコープを覗くと少女が追われている(マスク無しで飛翔している時点で一般の地表人ではあり得ないわけだが)。小空機から放たれた攻撃に被弾し落下する少女...思わず、駆け寄った少年に、少女は「これが皇帝の手に入ったら世界が終わってしまう」とケースのようなものを渡す。少年もろとも、それを消そうとした小空機を狙撃して撃ち落としたエスローの目の前で少女は消え、少女が渡そうとしたケースの隣には、小さなトカゲのような形の機械が横たわったていた。

 

リドベア兵を殺害してしまったため、白菱の梁の一族は現在定住している地を捨て、移動しようとする。率いるのは白菱の梁の一族を300年間守ってきた正規人形ゼゾ。しかし、リベドア帝国の対応は迅速で、氷を操る上級転生者イーユ率いる部隊との戦闘になり、一族のほとんどは虐殺された。イーユは、少女が託したケースに入ったAMB弾の行方を確かめるため、対正規人形弾に打ち抜かれて上半身だけになったゼゾを尋問し、見せしめに一族の生き残りの少女を氷漬けにして拷問する。そのイーユエスローは狙撃するが、躱され、逆に氷のかけらを投擲され、右目から頭蓋に至る致命傷を受けるが、その死に至る一瞬の間に、飛んで逃げてきた少女が変化したトカゲのような機械=タイターニアから、成功率は低いがコードを使って人形化に賭けるかどうかの申し出を受け、受諾する。タイターニアの補助もあって、奇跡的に適合し正規人形転生したエスローイーユに一矢報い、退けることに成功する。

 

しかし人形転生したばかりのエスローも瀕死状態となり、地下遺跡層へと落下する。タイターニアにより、長期の治療を施されて何とかふたたび活動できるようになったエスローだが、動けるようになった後、白菱の梁の一族の住んでいたところに戻ると、虐殺された一族の遺体と、脳に損傷を受けて、直る見込みがないまま頭部だけ放置されたゼゾを見つける。エスローは一族を埋葬し、ゼゾに慈悲を与えるためにとどめを刺した。そして、イーユたち帝国に立ち向かう力をつけるため、帝国の下級転生者を狩り、胞衣を奪って強くなっていくことを決意し、タイターニアとともに旅立つ。

タイターニアとエスローの人形形態
タイターニアエスローの人形形態

 

その戦いのさなか、エスロータイターニアは、ケーシャという少女に会う。リドベア下級転生者人形病患者に対する扱いに憤慨して戦いに介入したケーシャは、実は地底信仰国の姫君であり、正規人形への転生者だった。タイターニアを見たケーシャは、地底からの使者と言われるタイターニアに信奉を寄せるようになる。彼女の属する地底信仰国イルフ・ニクには、古代機械工学がを受け継がれており、地底やその遣いを信奉する国だが、リベドア帝国の侵攻によって国を滅ぼされ、現在は地下遺跡層の一角に隠れ住み、ケーシャの兄カジワン王27世により治められている。カジワン王もかつて人形への転生を試みたが、失敗し現在は半身がない状態。残る部分も人形病に侵されていた。

 

かつては人民を思いやる良き王で、ケーシャに対して優しい兄だったが、転化に失敗し半身を失い、さらに残る部分も人形病に侵されつつあるためか、コードにうまく適合して正規人形転生したケーシャをうらやむ心、適合率が低かったのにタイターニアの力で転生を成功させたエスローをねたむ気持ちが出てきてしまった。そしてついに、カジワン王タイターニアの一部を奪って逃走する。その後奪ったタイターニアの腕と融合し、その修復機能で瘤を背負った蜘蛛のようなものに異形化するものの、行動の自由を得る。

 

その後カジワン王は、自分たちにとって聖なる地底への侵入を企てるリドベア帝国と戦うが、帝国正規人形に追いつめられる。イルフ・ニクは天候を制御する衛星をコントロールする場所を護る一族だったが、異形化し、体が機械にむしばまれ始めたカジワン王は正常な判断力を失い、最後の気象衛星をリドベア帝国に落とそうとする。しかし、この試みは自動機械を操る能力をもつ帝国上級転生者にコントロールを奪われ、逆に自国を滅ぼしてしまう。その衝突の際、爆風に巻き込まれて瀕死のカジワン王の瘤から、タイターニアの要素を受け継ぐ女性型の自動機械タイターニアの複製)が生まれ、その自動機械の補助を受けてカジワン王は手持ちのコードを使い、かつて失敗した正規人形への転生を成功させる。

 

そして、エスロータイターニアケーシャ(これにリベドア帝国に故郷を滅ぼされ、洗脳されて正規人形となったが、洗脳が解けたワサブという少年が後に行動を共にする)のリベドア帝国皇帝スオウニチコを倒すのが目的のグループ、リベドア帝国、そしてタイターニアの腕から生まれた自動機械を使って、人形病患者再生者に変えて自らの私兵としたカジワン王27世が興した真地底教会の三つ巴の戦いとなっていく(厳密に言うとリベドア帝国は一枚岩ではなく、皇帝の権力をカサに着て、一般人や皇帝に盲従しない転生者を容赦なく狩るイーユ転生者処刑隊の一派と、帝国には忠実ながら、民のことよりもエスローが所持するAMB弾に固執する皇帝に不安を抱く聖遺物捜索旅団の一派とに別れるが)。

タイターニアとエスローの人形形態と、ケーシャ、エスロー、ワサヴ
タイターニアエスローの人形形態と、ケーシャ、エスローワサブ

 

皇帝ニチコ以下帝国側
皇帝スオウニチコ以下リベドア帝国

 

真地底教会の再生者とそれを生み出すタイターニアの複製人形
真地底教会再生者とそれを生み出すタイターニアの複製人形

 

皇帝スオウニチコの特殊能力は未来を視る力。しかしそれは絶対ではなく、絶対的破壊力を持つAMB弾により、未来が変わってしまう。AMB弾により、皇帝の特殊能力を無効化し、皇帝を斃そうとするエスロー達。自分の特殊能力を揺らがせるAMB弾を取り上げ、そしてその破壊力で地底に攻め込もうとしている皇帝スオウニチコ。地底に攻め込もうとしているリベドア帝国を滅ぼすことによって、地底からの招待されることを夢想するカジワン王27世の率いる真地底教会。これら3者の思惑が絡み合いつつ物語は進む。

 

はたしてエスロー達は、元々7発しかなかったAMB弾が尽きる前に皇帝スオウニチコを斃せるのか、それとも物量と才能が集結している帝国が地底への侵入を果たすのか、そこに膨大な数の人形病患者再生者に変えて自分の手足としたカジワン王27世真地底教会がどう絡んでいくのか...

 

この3派のいずれかのグループが地底世界へ到達することが出来るのか、未来を予知できる皇帝スオウニチコを出し抜くことは出来るのか、そして地底人の、そしてアポシムズの真実とは...

 

■□■□■□■□■

 

絶対的に強大な大衆合船を撃破し、植民地(惑星セブン)へのガウナ汚染を阻止するために戦うのが、出自は撃墜王のクローンながら光合成機能も持っていない旧人類谷風長道であることと、絶対的に強い皇帝スオウニチコ地底世界に侵入するのを阻止し、自分たちの生存を護るために銃の扱いは優れていたものの元々コード適合率が低かったエスローが戦うという、「絶対者に立ち向かう弱者側の一点集中能力者」という物語の芯の芯は似ている部分はあるものの、播種船シドニアの乗組員達の戦いと日常、愛と葛藤、嫉妬や昇華を描き、登場人物にフォーカスがあたっていた「シドニアの騎士」に比べると、「世界を描く」ことにウエイトを置いた「人形の国」は、よりどっぷりと「弐瓶ワールド」に浸かることが出来る。

 

ただ本作は、最終2話の展開の速さと、そのあたりでの登場人物の退場(死亡)にかんして物語上の必然性が薄く、「打ち切りか??」と騒がれた問題作でもある。

 

しかし、人物を語る作品ではなく、世界を語る物語とすれば、(それでもたしかに最終2話は爆速だが)登場人物の死について、あまり時間を掛けてゆっくりと「語る」部分ではないのも確か。

 

弐瓶ワールドを味わうには、初期の作品ほど難解ではなく、でもしっかりと弐瓶テイストもあり、さらに絵柄も新しくもあり、それが半額で一括で揃えられたので、今企画はとても良いBOXセットだったかも。

※コミックス各巻刊行時に、いくつか出た付録付きの限定版をすでに持っていたりもするけれど(爆

登録品は全巻BOXセット。1巻700円以上のものが9巻入って3000円以下なので半額相当。
登録品は全巻BOXセット。1巻700円以上のものが9冊入って定価3,000円以下なので半額以下。

 

9巻がまとめられる収納BOXの他には特に特典はない。
9巻がまとめられる収納BOXの他には特に特典はないが。

更新: 2023/09/29
世界観

ちょっと語りつくせていない感じが....

物語では登場人物の死に意味を持たせる事が多いが、実際の世界では人生が突然意味なく絶たれる事故死も多い。そういう意味ではあっけなくポンポン人が死ぬのは(特に戦っているときに)リアリティがあるのだが、読者としては主要人物や、台詞が多かった人物が突然あっけなく逝くと感情のよりどころがなくなる。

 

時に最終巻は、かなり強引...ダイナミックに話が進むので、世界を語るために人が置いて行かれているというか....

 

その部分は別として、独特の弐瓶ワールドを味わうには、比較的設定世界の謎解きは詳細でわかりやすい(謎を謎のママ投げっぱなしにしている部分が少ない←無いとは言っていないw)。

※一部伏線が回収されていないのがあるのは、いつものお約束w

  • 購入金額

    2,750円

  • 購入日

    2022年04月23日

  • 購入場所

    TSUTAYA

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