平安時代をテーマにした少女の物語というと、まず巨匠、氷室冴子さんの「なんて素敵にジャパネスク」を思い出す。
ジャパネスクは、今の時代感覚を持った(とは書かれていないが、平安時代にはありえない性格の)瑠璃姫が、「物の怪憑き」と言われながらも、自分の思う所のまま、救いたい人を救おうと平安京を駆け回る……そんな話。
この『暁花薬殿物語』もまた、平安宮廷ファンタジーと公式が銘打っているため、基本はその時代を踏まえている……と理解してよいと思う。姫君、牛車、後宮、内裏、帝、大臣などなど。大内裏が存在しているようなので、平安中期以前をモデルとしたファンタジー作品であろう。
主人公「千古姫」は、瑠璃姫とはまた違う意味で、その時代にはそぐわない型破りな姫君である。瑠璃が思ったらすぐ身体を動かしてしまう脳筋タイプだとしたら、千古は知能派。薬師志望の鄙育ちの姫で、荒事が全くないわけではないが、知識の中から答えを導きだし、それから動くタイプ。……まあ、結局は動くんだけれども。
ただ、瑠璃姫のように「こうしたい!」がはっきり言葉にされず、千古が最終的に行動した後で、ああ、これはこういう意味だったのか……と、読者はそのストーリーと千古の思いを知ることになるため、結論が出るまでの途中で、「良くわからない……」と置いてけぼりの気分になる人も多いかもしれない。
薬師志望ということで、毒薬・薬・薬草等も出てくるので、日向夏さんによる『薬屋のひとりごと』を思い出す人もいるかもしれないが、あちらはミステリー色が強く(と私が勝手に思っているだけだが)事件→原因→解決 という ”過程を楽しむ” 物語だ。しかしこちらはそうではなく、千古を形作る知識の根底が「薬」であるという感じ。事件を解決するに至る手段として薬を使う部分もあるが、「解決する」という部分にカタルシスは置いていないので、ミステリーではなく、一段落はするが、これが原因です、そうか、じゃあ解決だ!的な感じはとくにない。
「暁上」「暁下」「宵上」「宵下」四家の入内というイメージは、阿部智里さんの八咫烏シリーズ第1作『烏に単は似合わない』にもぶれる。(あちらは「東」「西」「南」「北」だが)
帝を中央として、四つの舎があり、そちらに一人ずつ姫を入れる……という構図は分かりやすく使いやすい設定なのかもしれない。実際の平安京は、七殿五舎であり、四殿どころでなく姫を収納(?)可能だったのだけれど、平安”ファンタジー”なので、そこは四殿でも特に問題はないと思う。
少女の成長の物語。それが私が6巻まで読んできた感想だ。
第1巻で自分を犠牲にしかけ、第2巻では救おうと思った人を犠牲にしかけ、第3巻では掛け替えのない片割れを犠牲にしかけ、第4巻では、自分を救おうとした人が犠牲になり、第5巻では自問自答をし、そして恋を自覚する。第6巻は、そして一歩あゆみ始めた……。
それぞれで事件があり、千古は自分の心を自答しながら進んでゆく。時には、傷だらけになりながら。……そんな物語である。
↑お試しもあるので気になったらどうぞー
サカノ景子さんの描く可憐な骨太女子の表紙
表紙表
発売:2021年9月15日
p240 文庫本サイズ 660円(本体600円+税)
ISBN978-4-04-074233-5
カバー外したらこんな感じ
表紙はサカノ景子さんの美麗イラスト。
富士見L文庫はいつもそうなのだが、中にはイラストは無し。
サカノさんの漫画に出てくる女の子は、『封神しない演義』のサキちゃんにしろ、『鬼の花嫁は喰べられたい』の真白ちゃんにしろ、見た目は可憐なのだけれど実は芯がしっかりしている(そして強い)……という骨太な印象。『暁花薬殿物語』の千古もまた、芯がつよつよ女子なので、サカノさんの絵を見た時点でそこは予想したいところ。
可憐さに惹かれて読んでしまったとしても、確実にドーンと常識を覆されるため、この表紙を見て「可愛い女の子が後宮に入内して頑張る物語かな♪♪」という予想をしてしまったとしたら、半分は合っているけれども半分しか合っていないと声を大にしたい。
そういう意味でも、サカノさんを『暁花薬殿物語』に起用した方は、よくこの物語を理解しておられると思う。
カバー裏面
あらすじ。
あらすじの「その名は――!?」は表紙とカバーでねたバレちゃっています。
第6巻は、物語の転換点
第6巻は、明子姫を主軸とした疫病(疱瘡)の話。死んだはずの幼馴染「秋長」にクリソツな(今クリソツとか言わないか)チャラ男「秋光」と、鬼たちを交えての展開話。
各四家の姫君たちをめぐりつつ、少しずつ進んできた物語が、ようやく転機だろうかとそんな感じです。終着点がまだまだ見えないので、とりあえず続き!!!!
となってしまいます。
しかし、明子姫に救いがあってよかった。
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購入金額
660円
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購入日
2021年09月15日
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購入場所
楽天ブックス
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