本の蟲。
実は結構読書家で、特に若い頃は乱読しました。
ジャンル的にはSF~ファンタジー~ミステリなどからコミックまでイロイロ。
3桁では収まらない蔵書の中からトピックをご紹介していきます。
白状します。
ジャケ(カバー絵)買いでした。
体操座りした黒髪少女が宇宙(そら)を見上げている。描いたのは珈琲貴族先生。
とても好きな絵師さんなので、すごく気に入ったその表紙の本、気にかけていた。
でも、店舗特典がある購入店に行く時間が出来るまで待てた、というのが、まだ内容よりも、画に注目していた証拠。
ちょうど近々長距離の列車に乗る予定があったので、その時にでも読もうかと。乗り換えなどで読書時間が細切れになる可能性があるので、こういうときには「入り」も「出」もラクなラノベが良いかな、と。
...と思っていたのだが。
2時間足らずの乗車時間があっという間に感じるほど惹き込まれ、一気に読み切った。
そして、とても懐かしく、「あの頃」を想い出した。
平野大地、いわゆるフリーターですらなく、バイトの採用面接にも落ち続け、今はゴミをあさりながら惰性で生きている。
あの瞬間から。
世界同時多発テロ。
全ての国の人工衛星のコントロールが奪われ、地球に落下させられた事件。
2022年12月11日。
各国の衛星は一つ残らず、流星の尾を引いて空を流れ、燃え尽きた、「世界一美しいテロ」。
そのため、これほど大規模なテロのわりには、人的被害は少なかった。
- ただ一人、宇宙ステーションに滞在中だった女性宇宙飛行士を除いては。 -
この「大流星群」事件で犠牲になった、そのたった一人の人物、天野川星乃は大地にとって大切な人物だった。
出逢いはサイアク。
天才エンジニアで宇宙飛行士の弥彦流一と、同じく宇宙飛行士で優秀な医学者だった天野川詩緖梨が宇宙で結ばれ授かった娘、星乃は、生まれたときから衆目に晒され、「スペースベイビー」と祀り上げられた後、父弥彦の事故死と母の植物人間化(その後死亡)で、手がけていた研究が天才の舵取りを失い頓挫したこともあり、今度は「税金泥棒」呼ばわりされる。さらに亡父の不倫疑惑もこれに追い打ちをかける。遺された幼い少女に浴びせられる容赦ない「好奇の」視線と、亡き両親をこき下ろす「悪意ある」世論。世間のおめでたさも、冷たさも識った彼女は、今では重度の人間不信で引きこもり。そんな彼女を気にかけているのが、死んだ彼女の両親の友人にしてJAXA(宇宙航空研究開発機構)の職員でもある惑井真理亜。知人である真理亜に頼み込まれた大地は、不登校の彼女に学校のプリントを届けるべく、アパートに向かう。プリントを手渡そうとしたが、出てこない彼女に業を煮やし、ドアの取っ手にプリントを入れた袋をかけて帰ろうとしたら、出てきた星乃にプリントをぶちまけられ、BB弾入りのモデルガンで撃退された。そんな、出逢い。
そんな引きこもりだった彼女が、大地との関わりで徐々に世界に心を開き、憧れで誇りでもある父と母の遺志を継ぎ、世界で一番なるのが難しい職業である宇宙飛行士になり、宇宙に初フライトしていたとき、その事件は起きた。
その時から、大地は壊れた。
「僕の中で、あいつが、死なないんだ....」
あの日から、酒に溺れ、不摂生をし、惰性で生きていた大地。高校の時の仲が良かったクラスメイトで、金髪でヤンキーっぽいふるまいだった盛田伊万里と、チャラ男でテストのヤマかけを大地に頼っていた山科涼介が、それぞれファションデザイナーと医者になり、結婚するという成長を見せる中、自分の時は止まったまま。幼馴染の大地を兄のように、そして男性としても慕う真理亜の娘=葉月にも心配されながらも彼が立ち直ることはなかった。
そんなとき、真理亜から入った連絡。
「星乃の遺言が見つかった」
それは3年の時を経て届けられた切れ切れの音声。
それを聴いてまだ血を流し続けている傷をえぐられた大地が立ち寄ったのは、かつて通い詰めた星乃のアパート。そこに入り込んだ大地は、輝いていたあの頃と、いまの悲惨な境遇を比べて自嘲しながらもいつしか眠りにつく。そして目覚めたときにスマホに着信音。そこに表示されたのは、
「天野川星乃」
メールには短く「パソコンを起動して」と。
そこで時を超えて彼女が届けたメッセージが伝えられる。3年の時を超越して、「あのとき」と「今」をつなげ、最期に大地と話したかった星乃。崩壊する宇宙ステーションで、燃え尽き行くなか、大地との思い出を語り、大地のことを心配し、大地への感謝を伝え、....そして大地の目の前で再び逝った彼女。
...でも大地には聞こえた。最期に星乃が放った言葉が。
「た す け て」と。
そして、パソコンのデータには続きがあった。「スペースライター」。
それは星乃が遺したタイムマシン。
◆◆◆◆◆◆
大地は要領が良い生き方をしてきた。
口癖の「コスパ」で仕事も決めようとしていた。
「就職するためには大卒のほうがいいだろ。高卒は生涯賃金でコスパ悪いんだから」
「だいたい、『夢』ってなんだよ、『夢』って」
「は?ぷろやきゅう?あいどる?」
「小学生じゃあるまいし、そんなもん目指してたら将来確実に食いっぱぐれるぞ。夢なんてものは九十九パーセントが叶わないんだからな?」
そんな大地に星乃はよく言っていた。
「大地くんには夢が足りない」
星乃が、崩れゆくISSの中から届けた最期のメッセージ。
そして大地に遺してくれたタイムマシン。
慕ってくれる葉月を選べば、安定した幸せな将来が目に浮かぶ。予想できる未来。
でもそれらを捨てて大地は過去に跳んだ...
-取り戻そうと思った。星乃を。あいつの命を、夢を、未来を。-
◆◆◆◆◆◆
跳んだ先は8年前の世界。
星乃と大地が出逢った時。
その瞬間から大地は「二周目」を生きることになる。「一周目」の知識を持って。
でもなにか違っていく。良かれと思ってしたことが、少しずつ未来を変えてしまっていく。
「一周目」では足に大けがを負い、杖が手離せなくなる伊万里を事故から救い...でもその事故がきっかけで付き合うことになった伊万里と涼介は付き合うことはなく...「一周目」では星乃との重要な接点となるISS展を、星乃が死んだ場所というその忌まわしき思い出から避けてしまい、星乃との友好関係は全然育っていない。
最初は、簡単なことに思えた星乃の死を防ぐこと。自分には「一周目」の知識がある。それを使えば「二周目」は上手くいく...。そんなつもりだったのに、どこかで歯車が狂っていく。
しかしこの「二周目」でも星乃を狙う「悪意」はいた。
JAXAで真理亜が講演しているさなか、星乃は会場で亡父との不倫疑惑を糾弾する。
そこに乱入する襲撃者。
ナイフで斬りかかってきた襲撃者から、星乃を身を以て護る真理亜。
しかし、襲撃者は銃まで用意していた。
二人を護るように立つ大地....
助けてみせる、この命と引き換えに。
ラノベとして表層だけなぞって読むと、タイムトラベルと転生系を絡めたライトSF。しかしその奥に作者の強いメッセージが光る。
途中ファッションデザイナーを目指す伊万里と大地が「夢」について語り合うくだりがある。ファッションデザイナーとして成功しているのはごく一部、大多数はそうなれず、人生を棒に振ると、
①夢を叶えた人生>②普通に就職した人生>③夢が叶わなかった人生
こう書いた大地は、伊万里が①と②しか見ていないが、実際には③が大多数だと諭す。これはコスパが悪すぎだと。そこに異を唱える伊万里。これは「結果」しか書いていないと。そしてこう書き直す。
①夢を追う人生>②夢を諦める人生
全力でやってみて駄目なら仕方ないけど、やらずに諦めたら一仕様悔いが残ると思う、と伊万里。
それでも夢は99%叶わない、という大地に、伊万里はこう書き足す。
①夢を追う人生(99%後悔)>②夢を諦める人生(100%後悔)
「現実にファッションデザイナーをやっている人たちが存在するってことは、この地球上で誰かしらは必ず夢を叶えているってことでしょ?だからそれは絶対にゼロじゃない」「すべての夢は、誰かにとっての現実なんだよ」
自分も大地ほど「コスパ」「コスパ」と連呼はしないが、どちらかといえば要領が良く、仕事にせよなんにせよ「ここまでやれば合格」ラインを少しだけ超えてみせるような芸当ができるタイプ。周りが、顧客が80点を期待しているなら85点を、満点を期待しているなら満点+αを。でもそこで「(期待ラインを大きく超える)200点とっても仕方ないじゃん」という冷めた自分もいて、「がむしゃら」という言葉とは縁遠い人生を送ってきたかも。
「大人になる」ことは妥協かもしれない。みんながプロ野球選手やアイドルになれるわけではない。でも自分のやりたいことを、自分の納得いくまでやってからでも遅くはないんだよ。人生は一度きり。現実には「二周目」はないんだから。
そんな強いメッセージを感じた作品。
#君死に
特にこれから将来の進路を決める人に、もしくは人生において夢を諦めかけている人にぜひ読んでほしい、そう感じる作品でした。
なんだかんだ言って珈琲貴族先生の設定資料つきの店舗特典同梱版を入手しているわけですがw
まだ心が柔らかかった時代を懐かしく想い出したよ。
みんな、アツい。
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購入金額
702円
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購入日
2018年06月23日
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購入場所
メロンブックス
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