レビューメディア「ジグソー」

魔法少女(たち)の物語。ちょっとユリユリw...そして4巻限定版のボイスドラマは秀逸な出来

本の蟲。
実は結構読書家で、特に若い頃は乱読しました。
ジャンル的にはSF~ファンタジー~ミステリなどからコミックまでイロイロ。
3桁では収まらない蔵書の中からトピックをご紹介していきます。

 

ラノベは設定で半分決まる(持論。

基本荒唐無稽な設定が多いラノベ、SF系やファンタジー系でなくとも、主人公達の関係が突飛だったり、置かれた立場が特殊だったりする中で、それをスパイスに恋愛や成長などを描いていくものが多い。

 

この「メルヘン・メドヘン」はそういう意味ではある意味王道?。原作者である松智洋はラノベ作家であり、ゲームの原案やドラマCDの脚本を手がけた人物。その松がずっと暖めていたプロットが「メルヘン・メドヘン」。アニメやコミックスなども含むメディアミックス作品として企画され、プロットを松が代表を務める創作集団StoryWorksなどと協議していた。しかし、松はこのプロジェクトのさなか、本作の執筆前に亡くなってしまう。その遺志を継いだStoryWorksが松の遺稿に手を加える形で完成させたのが本作。

 

とても緻密な世界構成(設定)で読ませる。

 

この現実世界に在りながら、隠されている魔法学園に学ぶ少女達(メドヘン)が、各地・各国に伝わる物語の力を宿した本=「原書」の力を使って、「シミ」と呼ばれる人々の心の不安を煽り、「原書」を滅ぼそうとする存在と戦う。「シミ」は「原書」を喰らって力を付けると「魔法獣(フレック)」と呼ばれる存在となり、それは人の負の感情をエネルギーとするため、争いや戦争を引き起こす。その「シミ」を引き寄せて浄化するため、各国の「原書」とそれを操る魔法使い=「原書使い」がトーナメント形式で戦う「ヘクセンナハト」と呼ばれる行事が毎年行われ、そこでぶつかり合った精鋭たちの魔法が「シミ」を消滅させるという。そしてその「ヘクセンナハト」に勝てば、勝者は「たった一度だけ、どんな願いも叶える魔法」を得られると伝えられている。

 

そんな魔法使いの少女たちによる戦いが、世の中では繰り広げられている...とはつゆ知らない、「こちら側の世界」。

 

本が病的に好きな高校生鍵村葉月は、妄想癖があって、ひととの付き合い方が下手な女の子。亡き母に言われた「葉月、自分の『物語』を見つけなさい」という言葉を自分なりに解釈して、たくさんの本を読み、物語の世界に想いを馳せる葉月は、ぼっちで、父が再婚したキャリアウーマンの継母やリア充な義姉との関係も上手く行っていない。追いつめられてパニックになりそうになると、本を読むことに没頭し、自分の気持ちを物語の世界に飛ばすことで、心の平静を得ているような「本中毒」な女の子。

 

そんな葉月が、ハンバーガーショップで亡母の遺品のドレスと共にあった見慣れない「本」を読もうとしていたとき、頭からローブをかぶった人物を見つける。ハンバーガーを購入したその人物、周りの人には見えてないようなケハイ。いつもの妄想癖を発揮し、「あの人は魔法使いかも!」とそのあとをつけるも、逆にばれ、自分にかかわることをやめるよう言われる。その人物が忘れた紙袋を届けようと、ホウキに乗って飛び去ったその人物を追いかけてたどり着いたのは、見慣れない図書館。近くの町に、自分のような本中毒が知らない図書館があることに驚きながらも、図書館の奥に向かうその人物を追う葉月。..と、その人物は奥の書棚の前で何やら呪文をつぶやくと、書架の間にできた隙間に入っていった。

 

葉月はその書架の前までいくも何も起こらない。あきらめて帰ろうとしたとき、母のドレスとともにあったあの「本」が、カバンの中で発光し始め、扉があいて葉月を吸い込んでいった!

 

たどり着いたのは日本に重なるように存在している魔法学園の世界。そこで、魔法使いの素養のある少女は、「原書」と契約して魔法使いを目指すが、その成長を援ける魔法使い養成学校の「日本校」が、この「クズノハ女子魔法学園」。

 

そこでローブの人物と再会した葉月。その人物、土御門静は間もなく行われる「ヘクセンナハト」に出場する日本校のリーダー。実は日本校には負傷者が出ていて、ヘクセンナハトを戦うルール「1チーム3名以上」を満たせそうになくなったため、お告げに従い「外の世界」で候補生を探していたのだ。彼女の契約する「原書」は日本最古の物語であり現存する最古の原書でもある「かぐや姫」。亡き母から引き継いだその「かぐや姫」でヘクセンナハトに出場し、その母が命を落とした7年前に起きた魔法獣との戦闘で多くの原書を失った責任を取らされる格好になっている母の名誉回復や、それが原因で魔法使いの最高意志決定機関「十三人委員会」を外された日本の地位の復権も狙っている。

 

物語は多くの人々に読み継がれることで、力を持ち、魔法を宿す。その力を引き出すことができるのが、「原書」と契約した少女。より歴史があり、人々の思いが詰まった物語は強大な力を持ち、魔法の力も強くなる。葉月の母のドレスと一緒にあったのは、原書「シンデレラ」。長く喪われていたこの原書が、なぜ魔法使いでない葉月のもとへあらわれたのかはわからないままだったが、葉月は静やその幼なじみで土御門家の分家筋の加澄有子らに鍛えられつつ魔法使いを目指す。

 

途中、友達いない歴=年齢の葉月にはじめてできた親しい人=静が、ヘクセンナハトに定員を満たして出場するために葉月を誘い、強力な原書である「シンデレラ」の力を使って勝ちたいがために指導していると言われてショックをうけた上に、「シンデレラ」を狙って葉月が襲われたときに、葉月を気遣った静から「ここは、あなたのいるべきところではありません。わたくしは、あなたの友達ではないのだから」と突き放され、葉月は「シンデレラ」との契約を解除して、魔法の世界の事も忘れることにした。しかし、何とかメンバーをかき集めて出場したヘクセンナハトで苦戦する静を助けるために、ヘクセンナハトの闘技場に飛び込んだ葉月は、もう一度「シンデレラ」と契約することを選ぶ。

 

その時、継母や義姉と理解し合えるようになっていた葉月は、意地悪な継母が出てくる「シンデレラ」の結末が気に入らないと、原書の内容を書き換えてしまう。その原書「シンデレラは振り向かない」を使って新しい魔法「ガラスの心」を生み出した葉月達は、からくもワイルドな女剣士“酒呑童子”ユーミリア・カザンの率いる諸国連合チームを破り、本戦出場を果たす(第1巻)。

 

特訓してなんとか半人前の魔法使い見習い(メドヘン)になった葉月は、ヘクセンナハトの本戦初戦に向かうが、その対戦相手であるロシア校のメンバーが原書の破損で人事不省に陥るのを見る。優勝校に与えられるという「どんな願いも叶える魔法」でそのメンバーを救うべく、メンバーが一人欠けても死にものぐるいで立ち向かってくるロシア校に、自分の魔法を使ってそのメンバーを蘇らせる葉月。臆病なくせに目の前の困っている人を放っておけない葉月を心配する静。

 

その葉月の前に狸のような生物がうろつくようになる。その生物は「シミ」にとりつかれていたのを葉月が助けたものだが、原書「分福茶釜」の想いが生み出した疑似生物だった。元の原書に戻そうという「十三人委員会」の決定を履行しようとする静と、どうしてもブンちゃん(疑似生物)の想いを大切にしたいという葉月は対決することになる。力及ばずブンちゃんを失ったかのように見せかけて、そのカケラと原書「分福茶釜」でブンちゃんを生き返らせようとする葉月。

 

互いに「かぐや姫」と「シンデレラ」を呼び出し、護るべきもののために戦う二人。ついに砂浜で葉月を組み伏せながら静は思いの丈を語った。「どうしてあなたはいつも無茶ばかりするんですか」「会えなければ寂しい。なのに一緒にいると心配で胸が張り裂けそうになる・・・・・・・わたくしはもうどうしたらいいか分かりません・・・・・・」和解した二人はブンちゃんの想いを過去に届けた(第2巻)。

 

ヘクセンナハトは進み、第二夜(準決勝)はアメリカ校との戦い。負傷して戦線を離れていたメンバーも戻り、意気が揚がる日本校だが、まださほどに力のない歴史の浅い原書を様々なメディアを使って露出を高め、むりやり認知度を上げて力を付けさせる複合原書(メディアミックス)という手法、一見ぶりっ子...実は腹黒のアメリカ校リーダーのリンが駆使する魔法の試合中に手榴弾を使用するようなダーティな手法、さらに「十三人委員会」にまで喰い込んだ政治力まで使う手法と、どんな手を使っても勝つというアメリカ校に苦戦させられる。特に静の亡き母に、母が亡くなった戦いの責任を負わせ、「かぐや姫」を取り上げようとする査問が行われ、静がヘクセンナハトに出られないのが一番影響が大きかった。そんな中、残るメンバーで途中まで優勢に進めた戦いが、リンの実火器まで併用するなりふり構わない戦法に逆転されたときに、静が復帰し「かぐや姫」に新たな物語を付け加えることで導き出した新しい魔法で、日本校は辛くも勝利する(第3巻)。

 

最終戦は最強の呼び名も高い常勝ドイツ校。圧倒的な力を持つリーダー、アガーテが率いるドイツ校は、第二夜でイギリス校と対戦するが、アガーテ達を追い詰めながら、イギリス校のリーダー、アーサー・ペンドラゴンは棄権を宣言してしまう。曰く、「ヘクセンナハトに興味はない」と。曲がりなりにも勝ち残ったドイツ校と日本校の決勝のさなか、アメリカ校のリンが会場を訪れる。日本校との対戦で「汚い手」を使ったアメリカ校は取り調べを受けていたはずでは...?その時彼女は、ガラスケースに入った「なにか」に「待っててね、パパ・・・・・いま、出してあげるから」と声を掛け、それを地面に叩きつけた!

 

黒いアメーバのような物体があらわれ、触手を伸ばして人々を飲み込みはじめた。アメリカ校のリンの姉が喰われ、アガーテも呑み込まれた。アーサーはこのことを予見し、強大な魔術が使える自分と静で、このアメーバ=暴食(グラー)を取り込まれた人々もろとも浄化しようとするが...

 

一方、葉月は「シンデレラ」の疑似人格と出逢い、こう言われる。「『ガラスの心(葉月の最強の魔法)』を使ってはいけません」と。「『ガラスの心』が本当の意味ではあなたの魔法ではないからです」と。それは原書「シンデレラ」に隠された白紙のページで、それに書かれたことが実現する効果があるものだと。つまり「白紙のページ」を使い切ると、葉月は魔法使いではなくなってしまうらしい。そればかりでなく、「あなたはきっと壊れてしまう。ガラスのように」と。

 

この時葉月が下した決断は...静たちメドヘンは暴食(グラー)を退けることができるのだろうか...?(第4巻)

 

全体を通すと、「原書」と契約した魔法使いの見習い(メドヘン)が戦うスポ根ストーリー+魔法使い見習いが互いに交流する日常系のお話に、各校の事情によるサブストーリーを組み合わせた...葉月と静のイチャラブストーリーである←台無しな紹介w

 

あと小説版挿絵のカントク画伯のキャラがエr...ネ申

 

この作品は松が存命中からメディアミックス作品として企画されたが、小説のほかにコミックスとTVアニメ、アニメの声優によるラジオが展開された...が、一番一般的な訴求力が高いと思われるTVアニメが作画崩壊と制作遅延でコケ、全12話予定が10話で打ち切り(...というか、作画が間に合わず2話分が放送できなかった←その2話分の放送枠は過去回の再放送でお茶を濁した)、そのあおりを受ける形で?コミックスの方も(一応決着はついているものの)全2巻で小説の最初の部分しか描かれておらず、尻切れトンボ感はぬぐえない。メディアミックスとしては失敗の方に分類されるかも。ただ、アニメも企画自体はしっかりしており、キャラデザも悪くなかったし、なにより声優陣は素晴らしかった。

オーディオドラマの台本が付いている4巻は表紙も違う(通常版はアガーテ)
オーディオドラマの脚本が付いている4巻は表紙も違う(通常版はアガーテ)

 

それがうかがえるのが、第4巻に用意された「オーディオドラマダウンロードシリアルコード付き限定版」。これは、アニメの声優陣の配役で、オリジナルのサイドストーリーをダウンロードできるシリアルコードがついたもの。配役は、以下の通り。

 

    鍵村葉月(日本校):楠木ともり
    土御門静(日本校):末柄里恵
    加澄有子(日本校):本渡楓
    ユーミリア・カザン(諸国連合):Lynn
    リン・デイヴス(アメリカ校):日高里菜
    マリヤ・ラスプーチン(ロシア校):大津愛理
    アーサー・ペンドラゴン(イギリス校):上田麗奈

 

彼女たちが、魔法学園で繰り広げる日常?がコメディタッチに描かれている。EP1は葉月が魔法学校の一日を紹介するものだが、なぜか途中から静と有子の対決に?EP2は各校のリーダー達が理事長室に呼ばれ、理事長を待つ間に諍いが起き...EP3は原書「惚れ薬」を発現させた葉月が各校のリーダー、その他wから惚れられ、追いかけ回されるという話。いずれも本編にはないようなコミカル要素満載の台本で、声優陣も若手中心だが芸達者な人たちなので、とても現実感がある。単行本挿絵のカントク画伯の描く彼女たちが目の前で動き出すような錯覚まで覚える感じで、自分としてはなまじ画があるより良かったかな。ヘタに画があるより、耳からだけの刺激の方が想像力・創造力がアップすることもあるので...

 

後書きでは、この舞台を使った続編がある可能性を残していたが、少なくとも葉月達を主人公としたものはこの4巻で完結らしい。結構きちんと終われているので、彼女たちの「その後」は想像で想いを馳せた方が良いような気がする。

有償特典のメタルカバーにも手を出していたらとんでもないことに...ウーム肌色成分多めだな...
有償特典のメタルカバーにも手を出していたらとんでもないことに...肌色成分多めだな。

 

第4巻の「オーディオドラマダウンロードシリアルコード付き限定版」は既に市場流通在庫だけなので、味わいたい人は急げ?特にEP3が爆裂的にオススメですw

 

【第4巻「オーディオドラマダウンロードシリアルコード付き限定版」内容】

EP1:魔法学園の一日
EP2:一触即発
EP3:惚れ薬
ボーナストラック:メドヘン放課後大反省会(キャスト・フリートーク)

更新: 2018/09/25
百合度

直接的なものではなく、プラトニック系だが結構高い。

本中毒で妄想癖のある葉月と、ちょっとずれたお嬢様..というかお姫様の静。ぼっちな葉月と孤高な静。一般的な意味での「友達」がいない、ある意味似た者同士の二人が、手探り状態で惹き合うのは尊い。

  • 購入金額

    6,408円

  • 購入日

    不明

  • 購入場所

    メロンブックス

11人がこのレビューをCOOLしました!

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