以前第一世代となる3.5インチサイズの1TBモデル、WD10EFRXについてもレビューさせていただいたことがありますが、今回は2.5インチ9mm厚で1TBという容量を持つ、WD10JFCXをレビューさせていただくことになります。
まずは両者を比較してみました。見た目はもちろん違いますが、気になった違いは「NASware」という表記についてです。WD10EFRXでは単に「NASware」と書かれているのですが、WD10JFCXでは「NASware 2.0」と書かれていて、世代が進化していることが伺えます。具体的にどう変わったのかは判りませんが…。
本来はメーカーが「NASに最適化」と称している以上、NASに組み込んで使うのが正しいと思うのですが、今回は敢えてWebサーバーのシステムドライブとして利用してみました。現在私が利用中のWebサーバーは、Atom D525を搭載するIntel D525MWに、Seagate製の2.5インチ500GB HDD、ST9500420ASを組み合わせ、Microsoft Windows Server 2003のIISとApache HTTP Serverを両方動かすという構成となっています。
まず、この環境で利用する際には気をつけなければいけないのですが、Windows Server 2003はデスクトップOSでいえばWindows XPに相当する世代であり、WD10JFCXのようなAdvanced Formatを採用するモデルではパフォーマンスが著しく低下します。WesternDigitalでは公式にはサポートしていませんが、一応調整ツールである「WD Align」は使用可能ですので必要に応じて使った方が良いかもしれません。ただ、耐久性に影響を及ぼす可能性は否定出来ませんので、512Byte/sectorを要求するOSではそもそも使わない方が無難でしょう。今回のテストは、その意味ではWD Redに対してかなり不利な条件が揃っているといえます。これ以降に掲載するWD10JFCXのベンチマーク測定値は、全て「WD Align」によるアライメント調整後の状態で測定していますので、予めご了承下さい。
この後速度性能について記述しますが、お読みいただく上で注意が必要なのは、OSの性質上標準状態でHDDの書き込みキャッシュが無効となっているため、通常のベンチマーク結果と比較すると特に書き込み時の速度が大幅に劣っているということです。システムの異常などではなく、キャッシュが無効の状態であればこの程度になってしまうということをご理解いただければと思います。
比較対象となるSeagate Momentus 7200.4 ST9500420ASは同じ2.5インチHDDではあるものの、512Byte/sectorで7,200rpmという製品であり、省電力性能よりは速度を重視した製品となっています。世代は古いものの、速度性能ではWD10JFCXを上回る可能性が高いと予想されます。
まずは全く同じWindows環境をWD10JFCXとST9500420ASに書き込み、そこから起動してベンチマークを測定してみました。この状態ではデフォルトで起動ドライブの書き込みキャッシュがOFFとなります。
接続先のマザーボードがIntel D525MWですから、ある程度速いHDDを接続しても100MB/sを超えた辺りで速度の伸びが落ち込むことから、読込に関しては概ね問題ない速度です。ただ、書き込みに関してはキャッシュを利用出来ないため猛烈に落ち込みます。
そしてWD Redでは読込までが大きく落ち込みました。これは正直理由がわかりません。ただ、ベンチマーク上の問題だけなのか、Windowsの動作についてはそれほど体感出来るような差は付きませんでした。
Webサーバーとしての利用ということで、どのような方法でパフォーマンス差を証明してみるかと考えたのですが、実用性能のサンプルとしてこのサーバーで公開しているブログの再構築時間を測定してみることにしました。Movable Type Pro version 4.27-jaで、ブログ記事は1,116件あります。
何と、ベンチマークでは大きく劣っていたはずのWD10JFCXの方が、大幅に早く終わるという結果となりました。ベンチマークではともかく、実使用環境では同等以上のパフォーマンスを確認することが出来たということになります。
もっとも、この処理時間自体はどちらも決して褒められたものではなく、本来はサーバーOSを動かすためのHDDではないといえるでしょう。
私がAtom搭載のPCをサーバー用途に使うようになったのは、東日本大震災の後からです。それまではPentium4 (Prescott)を搭載する、DELL PowerEdge SC420を使っていたのですが、エネルギー効率の観点からこのサーバーを廃止し、Atom PCにHDD1台という最低限の構成にするようにしたのです。
それだけに、このサーバーにおいて重視しているのは、パフォーマンスよりも省電力性能の方です。今回WD Redのレビューに応募させていただいたのも、2.5インチHDD同士の入れ替えでより省電力化を達成出来るかという点に興味があったことが最大の理由となっています。そこで、HDDを交換した際の消費電力について調べてみました。
ワットチェッカーとしては、こちらを利用しています。
どちらも最大負荷時の画像を掲載します。
最大値で2Wの差が付いていますし、Webサーバーなので完全なアイドル状態とはなりにくいのですが、通常稼働中の消費電力は目視でST9500420ASでは25~27W、WD10JFCXでは23~25W程度でした。常時WD10JFCXの方が2W程度低かったようです。WD10JFCXはそれほど省電力性能をアピールしている製品ではありませんが、前世代の7,200rpmモデルと比較すれば明らかな低消費電力といえます。
ついでに動作温度についても調べてみました。連続稼働用途ですから、少しでも温度が低いに越したことはありません。
筐体内の設置場所などによる誤差を避けるために、どちらも筐体の外に引っ張り出した状態で計測しています。前述のMovableTypeによる再構築を1時間程度行った時点での温度です。どちらもこの辺りがピーク温度でした。消費電力の差が温度差にそのまま表れているという印象です。
ここまでの結論としては、省電力性能や発熱という要素を重視するのであれば、WD Red WD10JFCXは非常に優秀であるということです。ただ、高スループットを要求される用途で使うべきものではなく、あくまで家庭内やSOHOレベルでのファイルサーバーなどに対して最適化されている製品であるといえます。私の場合はアクセス数の少ない個人設置のWebサーバーですから、性能面でも許容範囲ではありますが、一定レベル以上の負荷がかかるWebサーバーには適しているとはいえません。その意味で、WesternDigitalでも「サーバー用」ではなく「NAS用」と銘打っているのでしょう。
最後にST9500420ASでWindowsを起動し、WD10JFCXをデータドライブとすることで、キャッシュを有効にした上でファイルサーバー的に使った場合の性能も測定しておきましょう。
今度はファイルサーバーとして使う分には申し分ない速度性能を発揮してくれました。WD Alignを利用することで、512Byte/sector環境下でもこれだけの速度を発揮してくれます。
システムドライブとして使うという今回の趣旨では物足りなく思えたパフォーマンスも、本来の用途であれば十分すぎるほどのものです。
連続稼働に適したWD Redシリーズで2.5インチ9.5mm厚の1TB製品が出てきたということは、今まではファイルサーバーなどを構築する際に、連続稼働に対応させるために3.5インチHDDの高耐久性モデルを選ぶ必要があったものを、省スペース・省エネルギーの2.5インチHDDを選択肢に入れることができるようになったわけで、その意義は非常に大きいものがあります。私の場合はサーバー用途のPCをMini-ITXで組むようにしていますので、特に歓迎すべきであると思っています。
今回のWD Redシリーズの新製品により、高耐久性かつ比較的安価なHDDの選択肢が、容量・サイズ共に格段に増えたわけで、NASだけではなく稼働時間の長いPCのデータドライブとしても有力な選択肢となり得るものとなったといえるでしょう。
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