レビューメディア「ジグソー」

Core i7 870S、Intel 3420での動作検証


この度はレビュアーに選出していただき、誠にありがとうございます。
zigsow、Intel及び関係諸氏の皆様にこの場をお借りしてお礼申し上げます。

今回は「B. 自由課題」としまして、HP社のサーバー製品「ProLiant ML110 G6」への導入手順を中心に、いくつかのCPUとの性能差を省電力性に注目しながら比較検証して行きたいと考えております。

なにぶん初めてのプレミアムレビューとなります。
至らない点は多いかと思いますが、ご容赦の程お願い申し上げます。

Intel Core i7 870Sは、LGA1156に対応したIntel Core i7 870の省電力版CPUです。

あまりPCに詳しくない方もいらっしゃるかと思いますので、先ずはCore i7 870Sとはどのような製品なのかを簡単に説明させていただきます。

CPUとはコンピュータの中心的な処理装置で、人間で言えば脳(思考する部分)にあたります。
速いCPUを搭載したPCは、より速く多くの仕事(命令)を処理できる事になります。
ただし同じ世代では性能(コア数、動作周波数)を向上させるに従って消費電力、発熱量も増加します。

その為、用途に合わせて様々なCPUが販売されています。
2010年現在、Intelのデスクトップ向けCPUの主なラインナップは下記の様になります。

LGA1366
 Core i7 Extreme Edition(Gulftown/Bloomfield)
 Core i7 900 Series(Gulftown/Bloomfield)

LGA1156
 Core i7 800 Series(Lynnfield) <- 870Sはここに位置します。
 Core i5 700 Series(Lynnfield)
 Core i5 600 Series(Clarkdale)
 Core i3 500 Series(Clarkdale)

LGA775
 Pentium/Celeron(※一部LGA1156対応モデルあり)

LGA1156は現在のメインストリームであり、対応CPUが最も充実しています。
尚、LGA1156と1366、775はソケット、チップセット共に互換性はありません。
誤って対応しないCPU、M/Bを購入しない様ご注意下さい。


【Core i7 900 Series(上位モデル)との違い】
 ・LGA1156のP55系チップセットに対応。LGA 1366のX58系には対応しない。
 ・X58のIOHにあたる機能がCPUに内蔵されているため、ノースブリッジが存在しない。
 ・メモリ帯域が、3ch(DDR3 1066)から 2ch(DDR3 1333)に減少している。
 ・全体的に発熱、消費電力が低減している。

【Core i5 700 Series(下位モデル)との違い】
 ・Turbo Boost動作時の最大動作クロックが高めに設定されている。
 ・Hyper-Threading Technology (HTT)対応。4コアで最大8スレッド対応。

Core i7 800 Seriesは4つのコアを持ち、Hyper-Threading Technology (HTT)を利用する事で最大8つの命令を同時に処理可能です。
加えて高い動作周波数を誇り、写真やビデオの編集、3Dゲームなどの負荷の高い用途でも快適に楽しめます。
また、ビジネスソフト、インターネットやメールなどの比較的負荷の軽い用途であっても、複数の作業を同時にこなす事で更なる効率化を図れます。

その高い性能により、将来においても比較的長い間、現役として使い続ける事が可能でしょう。


Intel Core i7 870Sの製品仕様、特徴は下記の様になります。

【製品URL】
http://ark.intel.com/Product.aspx?id=48498

【基本仕様】
対応ソケット: LGA1156
Core数: 4
Thread数: 8
動作速度: 2.66GHz(Turbo Boost時:3.6GHz)
3次キャッシュ: 8MB
Bus/Core倍率: x20
DMI速度: 2.5GT/s
拡張命令セット: SSE4.2
製造プロセス: 45nm
最大TDP: 82W
VID電圧範囲: 0.6500V-1.4000V
対応メモリ:DDR3-1066/1333 Dual Channels動作(最大16GB)
最大メモリ帯域:21GB/s

サポート機能:
Intel® Turbo Boost Technology
Intel® Hyper-Threading Technology
Intel® Virtualization Technology (VT-x)
Intel® Virtualization Technology for Directed I/O (VT-d)
Intel® Trusted Execution Technology
Intel® 64
Idle States
Enhanced Intel® Speedstep Technology
Execute Disable Bit

拡張機能:
PCI Express 2.0 (1x16, 2x8)


【Intel Core i7 870(通常版)との違い】
使用可能な機能、キャッシュ容量、Turbo Boost動作時の最大動作周波数は同じですが
標準の動作周波数が870の2.93GHzに対して2.66GHzとなっており、それに伴って最大TDP(最大放熱量、消費電力の目安)も95W -> 82Wと下がっています。
またその省電力性能を付加価値として、販売価格は870Sの方が若干高めに設定されています。
2010年9月現在、870S:\33,000前後、870:\27,000前後の価格となっています。


まずは製品パッケージを確認。

今回の主な比較対象CPUであるCore i7-870と並べてみました。

一見、見分けが付きませんが、パッケージ右下の表示で区別が付きます。
「Low Power~」ってIggy Popの曲があったな。ってそれは「Raw Power」
「Low Power~」ってIggy Popの曲があったな。ってそれは「Raw Power」


開封してみました。

・リテールクーラー
・マニュアル + 「Intel CORE i7 inside」シール
が同梱されています。


CPU本体です。左が870S、右が870です。

ヒートスプレッダ表面に動作周波数等の仕様が書かれているので、どのCPUか判らなくなる様な事はないでしょう。


付属のリテールクーラーも一見すると全く同じ様に見えます。

裏返して、CPU接触面を確認すると一目瞭然です。
ヒートシンクが、870Sが総アルミ製なのに対し870は銅芯タイプになっています。

お恥ずかしい話ですが、実は写真撮影後にどちらが870S付属のリテールクーラーか判らなくなるという事態に陥りました。(和屋さん、その節はお世話になりました。)

と言うのも、870Sのリテールクーラーに付いているFANの方が消費電力が(僅かではあるが)大きかったのです。
左:870S 右:870
左:870S 右:870

「870S=省電力」のイメージから「リテールクーラーを取り違えた?」と一時混乱してしまいました。


Intel公式情報によると

 Core i7 TDP:82Wモデルには「E41997-002(DHA-B)」ヒートシンク
 Core i7 TDP:95Wモデルには「E41759-002(DHA-A)」ヒートシンク
 それぞれにNIDEC、DELTA、FOXCONNからいずれかのFAN

が付属するとの事です。

今回確認した870S、870のそれぞれのリテールクーラーは

 ・870S:E41997-002 + DELTA製 0.60A 品
 ・870: E41759-002 + FOXCONN製 0.17A 品

となっており、本来省消費電力を売りにしている870Sの方が消費電力の大きなFANが付属しているという結果でした。
これが、FAN製造メーカーによる違いだけなのか、ヒートシンクの放熱性能にあわせたものなのか、興味深い部分でもあります。

素人考えですが、870Sの方が標準時とTurbo Boost動作時の動作周波数の「幅」が大きいため、ヒートシンクは低負荷時の基準にあわせ、高負荷時の排熱にはFANの回転数を上げる事で対応しようという事かもしれませんね。


冒頭に述べました通り、今回は

へ導入します。
尚、ML110 G6に搭載されているIntel 3420は、本来サーバー/ワークステーション用途のチップセットで、厳密にはCore i7 800 Seriesへの対応は謳われておりません。
相当するCPUとして、Xeon 3400 Seriesが対応します。

 「Intel 3420でCore i7-870Sが問題なく動作するのか?」
 「動作する場合、選択肢としてどれだけの魅力があるのか?」

が本レビューの主題でもあります。

【HP Proliant ML110 G6でのCPU換装手順】
換装手順の詳細はこちらに記載します。



CPU換装後。
問題なく稼動している様です。アイドル状態なので、動作倍率が下がっています。



それではパフォーマンスを見てみましょう。
今回はCore i7 870Sの比較対象として次のCPUの検証も行いたいと思います。

 ・Core i7 870(通常モデルとの違い)
 ・Xeon L3426(同LGA1156対応CPUの省電力版Xeonとの違い)
 ・Pentium G6950(同LGA1156対応CPUのエントリークラスとの性能差)
 ・Core i7 920(上位となるLGA1366対応CPUの同クラスとの性能差)

【公式比較URL】
http://ark.intel.com/Compare.aspx?ids=48498,41315,43233,43230,37147,

システムの構成は下記の通りです。
BIOSでのCPU設定は定格動作(M/Bの自動認識)、Hyper-Threading有効、Turbo Boost有効、他はM/Bのデフォルト値のままです。

LGA1156環境についてはCPU以外の構成は全く同じです。

【LGA1156環境】
HP Proliant ML110 G6
Chipset: Intel 3420
Memory: 5GB DDR3-1333
Video: ASUSTek Geforce 210
Storage: 160GB HDD、DVD-ROM
OS: Microsoft Windows 7 Professional 64bit

LGA1366環境については出来る限り近い構成にしましたが、あくまで参考値と考えていただければ幸いです。

【LGA1366環境】
M/B: EVGA X58 SLI Classified
CPU Cooler: Noctua NH-U9B + LGA1366 Mounting kit + NF-B9*2
Chipset: Intel X58
Memory: 6GB DDR3-1066
Video: ASUSTek Geforce 210
Storage: 1TB HDD
OS: Microsoft Windows 7 Professional 64bit


各テストのスクリーンショットはこちらに記載します。



【Windows Experience Index】

CPUスコアは順当にコア数、動作クロックに比例しています。
CPUの違いによって、メモリスコア、グラフィックスのスコアにも影響が出ています。
標準動作クロックを考えるとXeon L3426が非常に優れたスコアになっています。
Core i7 920(LGA1366環境)ではCPUのスコアがやや低いにも関わらず他の項目が伸びています。


【CINEBENCH R11.5 64bit】

こちらもコア数、対応スレッド数、動作クロックが反映されたスコアになっています。
シングルコアのテストではローエンドながら動作クロックが高いPentium G6950が健闘しています。
Turbo Boostに制限があるため、標準動作クロックの低いXeon L3426がスコアも低くなっています。


【3DMark Vantage】

3DMark Vantageについては、使用したビデオカードがあまり高性能ではないため、CPU TEST1のみ実行しております。


【Turbo Boostについて】
本来ならば、TurboBoost有効状態で負荷が掛かった場合、最大TDPの範囲内で動作クロックが上昇、特にシングルスレッドであるならば使用していないコアを休ませてカタログ値まで上昇するはずです。

しかし、今回検証した環境では全てのCPUにおいてカタログ値のTuboBoost動作周波数まで達しないという不本意な結果となりました。

 Core i7-870S: 微動だにせず。アイドル状態のみクロック低下
 Core i7-870: 少しでも負荷が掛かると3.2GHzまで上昇。シングルタスクでもそれ以上は上昇しない。
 Xeon L3426: マルチタスクでは負荷をいくら懸けても定格動作、シングルタスクでは2.13GHzまで上昇。
 Core i7-920: 少しでも負荷が掛かると2.8GHzまで上昇。シングルタスクでもそれ以上は上昇しない。

その後、別M/B

にてテストしたところ、それぞれカタログ値のクロックまで上昇する事を確認しました。

またネット上で、ML110 G6と他のXeonの組み合わせでTurbo Boostがうまく働かないという情報も見つけました。
どうやら現状ML110 G6ではTurbo Boost動作に問題、もしくは制限があるようです。


上述の通り、今回の検証ではTurboBoost時の動作クロックに問題がありますが、アイドル時、CINEBENCH R11.5実行時の動作クロック、消費電力を次の表にまとめました。
尚、消費電力は

を使用して、システム全体を測りました。

続いてCINEBENCHのスコアとあわせてワットパフォーマンスを見てみます。

総合的にCore i7-870Sが優秀な結果となっています。
シングルコアにおいては動作クロックの高いPentium G6950が消費電力当たりの性能では優れていますね。


※Turbo Boostの効果を完全に発揮させる事が出来ませんでしたので、暫定的な評価となります。
【+評価】
・HP Proliant ML110 G6(Intel 3420)にて動作する
・同クロックではCore i7-870に比べて消費電力が低い。
・アイドル状態ではPentium G6950と同等の消費電力。

【-評価】
・ML110 G6のBIOS対応問題だと思われるが、Turbo Boostが動作しない。
・Core i7-870と比べて確かに消費電力は低いが、その効果に対して実勢価格約\6,000差の価値があるかは正直微妙。


今回の検証から最も強く感じたのが、LGA1156環境全体で性能/消費電力/コストと全ての面において非常に優れているという事実です。
大量のメモリを必要とする用途、フルレーンでのSLI/CFX動作、980Xなどで絶対性能を求めない限りはLGA1366環境を選択するメリットは薄いと感じました。


【HP Proliant ML110 G6のCPU換装候補として】
Intel 3420という正式にはCore i7シリーズに対応していないチップセットでの動作確認が取れた事は個人的には非常に有意義な結果でした。
サーバー/ワークステーション向けのLGA1156用CPUとしてはXeon X(L)3400 Seriesが用意されています。加えてデスクトップ用Core i7 870S/870が使用可能という事により、CPU選択の幅が広がると思います。

しかし、残念ながら「現時点ではML110 G6のCPU換装候補として、100%その性能を発揮出来ない870Sを選ぶメリットは少ない」という結論に至りました。

とにかくTurbo Boostが動作しないのが致命的です。
確かにCore i7-870に比べて、消費電力は低いです。
しかし、「普段は870に比べて低消費電力、高負荷時にはTurbo Boostにより870と同様のクロックまで上昇する。」という事が870Sの魅力であり、870に比べて価格設定が高い理由であると私は考えています。
そこに足枷がある以上、あえて870Sを選択する理由は少ないと感じました。

上記の結論はあくまで「ML110 G6のBIOS対応の問題」です。決して「870S自体の魅力がない」という意味ではありませんので、誤解しないで下さい。


【一般的なデスクトップ用途でのCPU候補として】
繰り返しになりますが、今回の検証ではTurbo Boostが有効に働かなかったため、Core i7 870Sの性能を100%発揮する事が出来ませんでした。
ここで870Sを評価する事は不公平だと思いますので、結論は避けたいと思います。
別M/Bではその性能も100%発揮出来ると思われますので、今後も検証を続けたいと思います。

コメント (6)

  • ひろひさるさん

    2010/10/18

    詳しい検証、お疲れ様でした。今回も大変、参考になりました。

    Intel 3420でも動作可能なケースもあるという検証は、とても貴重だと感じました(誰でも出来る検証じゃないですしね)

    確かにIntelもAMDも低電力版の価格設定や性能(消費電力)は疑問を感じますね。価格か消費電力のどちらかが、もう少し魅力的でないと、自分は買わないなぁ…と感じます。

    とは言え、新たに新規で組むのなら選択肢の一つに入るCPUだと感じました。
  • s3zm4rさん

    2010/10/18

    コメントありがとうございます!

    改めて自分の文章を読んで気付きましたが
    正式対応していないIntel 3420で試しておきながら、Turbo Boostの効果が見受けられないからと言って、870Sの価値を疑問視するのもやや見等違いですね。

    今後、追加検証を重ねて
     
     ・ML110 G6(Intel 3420)での選択肢のひとつとして
     ・純粋にP55系の選択肢のひとつとして

    の2通りで、評価し直したいと思います。

    >確かにIntelもAMDも低電力版の価格設定や性能(消費電力)は疑問を感じますね。

    実際に今回比べた中では870(非S)が抜きん出たパフォーマンスを持っていたので、余計に870Sの影が薄く感じてしまいました。
    EISTが有効ならば、アイドル時は同じクロックになりますし、極端な話、自己責任になりますが870をTurbo Boost無効、手動で低電圧動作させれば870Sと似たような省電力の結果になる可能性が高いです。
    また、870Sより安い価格で「875K」が存在する事も個人的には悩みどころですね。

    もっとも、「定格運用で低消費電力性能と高い処理能力が約束されている」事が870Sの最大の価値なのですが。
  • 4453さん

    2010/10/19

    レビューお疲れ様です!

    Intel 3420チップセット、しかもメーカー製サーバーで
    Core i7-870シリーズに換装出来るというのは、中々
    面白そうですね。

    サーバーを購入した後、運用していく中でスペックに
    不満が出てきた時はこういう対応もありかな?と考え
    させられますねw
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