今回レビューするのは、Palit Microsystemsの“Palit GeForce GTX 950 StormX Dual”である。
Palit Microsystemsは、台湾のグラフィックスカードベンダーであり、国内では同社の製品を取り扱う店舗が少ないことから馴染みの薄い方が多いかもしれないが、傘下にPalit、GALAX、Gainwardなど複数のブランドを持っており、グラフィックスカード市場においては、世界規模でシェアを持つ有力メーカーである。
Palitのグラフィックスカードを使うのは、“GeForce GTX 260 sonic 216 SP”以来、約6年ぶりのことになる。当時は、Palitといえば、カエルのイラストが入ったパッケージが特徴的であったが、現在は一見しただけでは他社製品と見分けがつかなくなった。
パッケージ裏面をみるとPalitの主要マーケットが欧州であることが分かる。国内ではドスパラ(サードウェーブ)が代理店として取り扱っている。
■GeForce GTX 950の特徴
“Palit GeForce GTX 950 StormX Dual”のレビューに移る前に、まずはGeForce GTX 950の特徴について触れておこう。GTX 950は、GeForce GTX 960の下位モデルとして登場したミドルクラスGPUであり、GTX 960と同じ第2世代MaxwellアーキテクチャのGPUコアを採用している。モデルナンバー的には、第1世代Maxwellアーキテクチャを採用するGTX 750/750Tiの後継にあたるが、NVIDIAはGTX 950を前世代アーキテクチャKeplerを採用するGTX 650の置き換えモデルとして位置付けており、GTX 650の3倍のパフォーマンスを発揮するとしている。
また、レンダリングの高速化と最適化によって、ボタンをクリックしてからゲーム画面に反映されるまでのレイテンシ(遅延)の短縮化が図られており、プレイヤーの入力に対するレスポンスが重要となる“MOBA”(Multiplayer online battle arena)系のジャンルに向いているという。
NVIDIAの製品ラインナップにおいては、GTX 960とGTX 750Tiの間という、ミドルクラスでもどちらかというとエントリー寄りのモデルである。
GTX 950のスペックは、GTX 960のストリーミングプロセッサ数を減少させ、動作クロックを下げ、TDPを90Wに落としたものとなっている。ビデオメモリはGDDR5 2GB、メモリインターフェースは128bitで、GTX 960と同等だが、メモリクロックは6,600GHz相当で、GTX 960の7,000GHz相当よりも約6%低くなっている。GPUコアは自動オーバークロック機能である“GPU Boost 2.0”をサポート。GTX 950はベースクロック1,024GHz、ブーストクロック1,188GHzで、GTX 960は順に1,127GHz、1,178GHzである。ベースクロックは100GHzも低いが、ブーストクロックは上回っている。
第1世代Maxwellを採用したGTX 750/750Tiとの違いとしては、対応するDirectXが11.2から12へ引き上げられたこと、DisplayPort 1.2、HDMI 2.0に対応するようになったこと、TDP増加に伴い、補助電源(6ピン×1)が必要になったことが挙げられる。
GeForce GTX 950スペック比較リスト
■Palit GeForce GTX 950 StormX Dualの特徴
ここからは、レビュー製品の“Palit GeForce GTX 950 StormX Dual”を見ていこう。
カード長は215mm。リファレンスカードよりは長いが、ミドルクラスのグラフィックスカードとしてはコンパクトなサイズといえるだろう。シンプルかつ洗練されたデザインで、ブルーのトップカバーが意匠的なアクセントになっている。
補助電源コネクタはリファレンスと同じ6ピン×1。他社製品でよく見かけるヒートパイプは使用されていない。
映像出力インタフェースは、Dual Link DVI-I×1、DVI-D×1、HDMI×1、DisplayPort×1。
オリジナルの冷却クーラー“StormX Dual”を搭載し、2基の80mmターボファンブレードにより、高い冷却性能を備えている。また、GPUの温度が60度以下になるとファンの動作を停止させ、ノイズを抑える“0-dBテクノロジー”を搭載している。
ターボジェット・エンジンの原理を基に設計されたターボファンブレード。波打つような独特な形状をしている。低速回転でGPUを効率的に冷却し、高速回転時においても低ノイズであるという。
ヒートパイプと放熱フィンではなく、大型のアルミ製ブロックと厚みのある放熱フィンからなるヒートシンクを用いることでコストダウンを狙っているようだ。これで十分な冷却力を得られるのか非常に興味深いところである。
“Palit GeForce GTX 950 StormX Dual”は、GPUの動作クロックをリファレンスのベース1,024MHz、ブースト1,188MHzから、ベース1,064MHz、ブースト1,241MHzへと引き上げたオーバークロックモデルである。
Palit GeForce GTX 950 StormX Dualのスペックリスト
■“Palit GeForce GTX 950 StormX Dual”の性能検証
ここからは、ベンチマークソフトなどを使い、“GeForce GTX 950 StormX Dual”の性能を検証していく。今回、比較対象としてGTX 670搭載カード“ASUSTek GTX670-DC20G-2GD5”、GTX 980搭載カード“EVGA GeForce GTX 980 Superclocked ACX 2.0”を用意した。
なお、検証環境は以下のとおりである。
【CPU】Intel Core i7-4790K
【M/B】MSI Z97I GAMING AC
【MEM】CORSAIR VENGEANCE PRO 8GB×2
【SSD】Intel SSD 730 480GB
【PSU】Thermaltake Evo Blue 750W
【OS】Windows 7 Professional 64bit
□グラフィックス性能
まずはグラフィックス性能の検証から始める。検証には以下のベンチマークソフト4本を使用した。
3DMark Anvanced Edition
ハイスペックなゲーミングPCを対象にした“Fire Strike”、WQHD環境(2560×1440ドット)におけるをゲームプレイを想定した“Fire Strike Extreme”、4K環境(3860×2160ドット)におけるをゲームプレイを想定した“Fire Strike Ultra”の3つのプリセットにてテストを行った。ExtremeプリセットまでがシングルGPU構成、Ultraプリセットは2way以上のマルチGPU構成を想定したテストになる。
テスト結果
GPUの動作クロックを確認したところ、1,290MHzまでブーストされていた。公式スペック上のブーストクロック1,241MHzからさらに約4%上昇していたことになる。
ロシアのデベロッパーUnigineが開発したDirectX 11ベンチマークソフト。同社のゲームエンジンUnigine Engineを使用しており、ダイナミックテッサレーション、コンピュートシェーダ、そしてシェーダモデル5.0により、非常に細かいディテールとリアリズムを備えた神秘的な雲間の空中に浮かぶ村を探検することができる。設定は、API:DirectX 11、Quality:Ultra、Tesselation:Extremeを選択した。
テスト結果
Unigineが新たに開発したグラフィックスエンジンを用いたベンチマークソフト。6,400万平方メートルにも及ぶ広大な自然の中を様々な視点で探検するこのベンチマークでは、植物や山のような地形、マテリアル表現に用いられるテクスチャなどの一部が、内蔵されたアルゴリズムによりプロシージャル生成されてレンダリングされており、非常に高い負荷をかけるテストを行うことができる。設定は、API:DirectX 11、Quality:Ultra、Tesselation:Extremeを選択した。
テスト結果
Unreal Engine 4 Elemental Tech Demo
アメリカのゲーム開発会社Epic Gamesが、ゲームエンジン“Unreal Engine 4”のデモ用に制作した3DCGアニメーション。Unreal Engine 4は、今までのゲームエンジンでは実現することが難しかった、グローバル・イルミネーションを表現できるようになっており、リアルな光表現を実現している。デフォルトの解像度は1600×900だが、1920x1080に設定変更した。また、ソフト自体にはベンチマーク機能はないので、Frapsを使ってFPSを計測した。
テスト結果
ファイナルファンタジーXIV : 蒼天のイシュガルド ベンチマーク
実際のマップとキャラクターを表示して、「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア」Windows版及び「ファイナルファンタジーXIV: 蒼天のイシュガルド」Windows版を動作させた場合の指標となるスコアを確認することができる。「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア ベンチマーク キャラクター編」のDirectX 9モードに加えて、新たにDirectX 11に対応したモードが提供されている。テストは、グラフィック設定プリセット「最高品質」、DirectX 11、解像度1920x1080で行った。
テスト結果
続いて、実際にゲームをプレイしてみた。“The Witcher 3:Wild Hunt”で画質設定を、最低/中/高/最高と変えてフレームレートを計測した。最低設定で40~45FPS。中設定では40FPS前後と最低設定からやや低下して、人物表示に遅延が見られるようになった。GTX 950では性能不足であり、中設定でプレイしようと思うと最低限もう1ランク上がほしいという印象である。
ー グラフィックス性能の検証結果 ー
ミドルクラスでもどちらかというとエントリー寄りのモデルとされるGTX 950だが、GTX 670搭載カード“ASUSTek GTX670-DC20G-2GD5”と性能比較してみると、想像以上に高性能であった。
GTX 670のグラフィックス性能からすると、GTX 600シリーズでは660Ti、GTX 700シリーズであれば760相当のグラフィックス性能があるのではないかと感じた。
□冷却性能
さて、次にオリジナル冷却クーラー“StormX Dual”の性能を検証を行った。計測では、3DMark Fire Strike実行時のGPU最高温度を高負荷時、起動後から30分間経過後のGPU最低温度をアイドル時として採用した。
テスト結果
アイドル時のGPU温度は41℃。この時点ではファンは無回転である。webページを見たり、動画視聴する程度のことであれば大きく温度が上昇することはないので、ファンが停止したままで駆動する。
高負荷時のGPU温度は75℃、回転数は40%の1127RPM。継続して負荷をかけ続けても80℃以内に収まっていた。
GPUの温度が60度以下になるとファンの動作をさせ、ノイズを抑えるという“0-dBテクノロジー”についても検証を行った。GPU温度が64℃に達するとファンが回転し始め、51℃まで低下すると停止した。同様のセミファンレス機能を持つ“EVGA GeForce GTX980 Superclocked ACX 2.0”においても検証したが、63℃で回転を始め、52℃で停止した。概ねGPU温度が65℃に達すると回り始め、50℃まで低下すると停止するというのが仕様のようである。
また、ファンの回転音を確認してみたが、CPUクーラーのノイズに紛れてしまい、至近距離まで耳を近づけてやっと聞き取れる程度の音であった。次の動画は、Fire Strike実行時の様子を撮影したものだが、GPUファンの回転音がほとんど聞き取れないことを確認していただけるはずである。
ー 冷却性能の検証結果 ー
80mm口径の小型ファンとヒートパイプを用いない冷却機構が採用されているということで、冷却力やファンノイズが気がかりであったが、高負荷時であっても静穏性を確保しつつ十分な冷却力を発揮してくれることが分かった。ヒートパイプと薄い放熱フィンで構成された冷却クーラーと同等の性能を確保できていると思われる。
□消費電力
最後に消費電力の計測を行って性能検証を終えよう。計測にはワットチェッカーを使用し、3DMark Fire Strike実行時の最高値を高負荷時、起動後から30分間経過後の最小値をアイドル時として採用した。
テスト結果
■オーバークロックツール“ThunderMaster”で手軽に性能アップ
Palitは、純正のオーバークロックツール“ThunderMaster”を公式サイトで提供している。GPUクロック速度、メモリクロック速度、ファン負荷サイクルや GPU温度といった重要な情報やオーバークロックに必要なアドバンスドユーザーモードの詳細情報も表示するツールで、とても分かりやすく、使いやすい。
主な機能は、以下の公式動画をご参照いただくとして、実際にオーバークロックの効果を検証してみた。
オーバークロックは、ツール上でGPUクロックとメモリクロックのスライダーを上下させるだけで簡単に行うことができる。最初からがっつりと上げるとハングアップしてしまうので、10~30MHz刻みで上げてはベンチマークを走らせるという作業を繰り返し、上限値を探っていった。安定した動作範囲を超過していれば、ベンチマーク中にツール側でクロックを定格値まで戻してくれるので、調整しやすい。
なお、オーバークロックはメーカー保証外行為となるので、自己責任において行っていただきたい。
オーバークロック後のベンチマーク結果
オーバークロックによりテスト項目によってはGTX 670に相当するスコアが得られた。GTX 670とGTX 960のグラフィックス性能はほぼ同等であることからすれば、GTX 960と同等の性能を得ることもできそうだ。テスト時におけるGPUの最高温度は77℃、回転数52%、1507RPMであった。定格稼動からやや温度は上昇したが、常用稼動も可能な範囲内ではなかろうかと感じた。
「存在感がない?あなたはこいつの底力を知らない。」
最後に“Palit GeForce GTX 950 StormX Dual”の総評とキャッチコピーを挙げて、本レビューを締めくくりたい。
GTX 950は比較的負荷が軽いMOBA系のゲームにフォーカスしたモデルであることから、重量級ゲームを高画質でプレーするには力不足だが、ファイナルファンタジーXIVなどの最新MMORPGを、フルHD解像度であれば快適にプレーできる性能は持っている。NVIDIAが推奨するように、GTX 650からの換装であれば、大幅なパフォーマンス向上が見込まれることから、Kepler以前のミドルロー製品からのアップグレード対象としては最適であろう。また、同じMaxwellコアを搭載するGTX 750/750Tiと比較してみても、消費電力は増加するものの、次世代API“DirectX 12”や4K解像度に対応する“HDMI 2.0”をサポートしていることから、換装するメリットは大きい。
ただ、GTX 950は発売直後であることから価格は高止まりしており、現在の価格帯である2万円台中盤から後半ではかなり割高感がある。上位モデルのGTX 960と価格帯が被っているため、現状ではGTX 950を積極的に選ぶ理由は乏しく、あと2,000円追加してGTX 960という選択肢もあるだろう。このクラスの製品は、価格次第というのが正直なところであり、2万円を割り込んでこればお買い得感が出てくるだろう。
Palitはその辺りのことを良く理解しているようで、“Palit GeForce GTX 950 StormX Dual”の販売価格は22,000円に設定されており、GTX 950を搭載したデュアルファンモデルでは最安値である。同モデルにおいては、手を出しやすい価格設定であり、これまでに触れたようにミドルクラスの製品として性能は申し分ない。グラフィックス性能、冷却力を十分に備えながらも、ヒートシンクに大型のアルミ製ブロックを用いるなどして上手くコストカットした良モデルである。
現状ではGTX 960の影になり、立ち居地が微妙といわれているGTX 950だが、実際に使ってみてこのカードは価格に見合うだけの性能があると感じさせてくれた。
以上のことを踏まえて、“Palit GeForce GTX 950 StormX Dual”のキャッチコピーを、
「存在感がない?あなたはこいつの底力を知らない。」としたい。GTX 650、GTX 750/750Tiから価格重視で性能アップを果たしたい人には最適なカードになるだろう。
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