Westone(Westone Laboratories)はIEM(イン・イヤー・モニター)の老舗。設立はなんと1959年で、最初期からカスタムフィットイヤーピースの製作に関わっていたようだ。
その後、イヤーピース分野でのEtymotic Researchとの協業、IEM界の“神様”Jerry Harveyがかつて興したUltimate Earsとのコラボレーションによる開発製造請負、SHUREのIEM E1の開発など、現在のIEM界のそうそうたるビッグネームとのつながりがある。
上記のことだけ見れば、どちらかと言えば「裏方」のイメージがあるかも知れないが、様々なコラボ・協業によるノウハウ・技術の集積が凄まじく、自身も高品位で独自性の高いIEMを提供するメーカーでもある。また、Westoneの製品の最終の音決めをしているのはミュージシャンとしても活動するメンバーらしく、それが単なるリスナーよりもむしろミュージシャンやヴォーカリスト、音楽制作関係者など、いわゆる「プロ」に受けが良い製品が多いことにつながっているのかも知れない。
とにかくWestoneのIEMは独自性が高い。
同社はカスタムIEM(CIEM)も手がけるが、そのメインライン=ES系はその装着性の良さで支持が高い。一般的にCIEMは透明度が高いアクリルを使って造られるが、フィッティングには柔らかい素材であるシリコンが優れているのはオールシリコン製CIEM、Custom Art Harmony 8 Pro
のレビューでふれたとおり。
ただ、シリコン製のCIEMは取扱いに気を使う。柔らかいのでケーブルの抜き差しするとき等に、外力がかかって接合部を破損しやすいし、つるつるした素材ではないのでごみも吸着しやすい。そして透明度が高くはないので、どうしても「美しさ」ではアクリル製に譲る。理想を言えば、アクリル製の外観・強度で、シリコン製の密閉度・密着度を持つCIEMがあればよいのだが...そんな都合がよいCIEMは.....実はすでにWestoneが商品化している。
それが同社のESシリーズ。シェルの大部分はアクリルで作り、カナル部分(耳道に突っ込む部分)はフレックスカナルと呼ばれるWestone独自のシリコン製のハイブリッド構造。このシリコンが装着すると耳の温度によって柔らかくなるという優れもので、これによって密閉度・密着度を稼ぐという構造。
また本来ステージ道具であるCIEMは、ミュージシャンがステージ上の爆音の中から自分の音をモニタリングしつつ、難聴になる危険性を下げるための耳栓的役割も持つが、外界の音をシャットダウンするということは観客の声援なども届かないことになる。それを改善するため、CIEMに外界音を入れるフィルターを付けたEASシリーズも近年追加された。
そのほかにもオールアクリル製にしてコストを下げたACシリーズや、補聴器技術を転用してさらなるコストダウンを図ったSシリーズなどCIEMだけでも膨大な数のラインアップがある。
そんなWestoneはインプレッション(耳型)を取る必要がないユニバーサルIEM(UIEM)にも積極的だ。上は8ドライバーまでそろえるWシリーズが同社のUIEMのメインストリームだが、それとは別に名称に「Pro」とつくどちらかといえば玄人向け(いわゆるプロシューマ―向け)のシリーズがある。
それが「UM Pro」シリーズと、それにCIEMのEASシリーズ同様に外界音を取り入れるようにしたアンビエント型モニター、「AM Pro」シリーズ。
WシリーズとUM Proシリーズ、その違いは何だろうか(AM ProはUM Proの亜種なのでここでは省く)。よく世の評価でいわれていること、および、cybercat自身がイヤホン専門店などでの試聴で感じたことは、「Wはリスニング向け、UM Proはモニタリング向け」、「Wは音楽を楽しみ、UM Proは音を味わう」「Wは音を感じ、UM Proは音を識る」というような方向性の差。
このあたりからUM Proシリーズは、業務用、玄人好みという風に言われるのだろうが、(以前楽器演奏をしていたせいか)cybercatはいつもやや分析的に音楽を聴く傾向にある。「頭で聴く」タイプのリスナーにはむしろUM Proシリーズの方が合っているのでは?と試聴時に感じたのも事実。
今回UM Proシリーズのフラッグシップ、5BAの「UM Pro50」について、長期運用しその特性や魅力を探っていきたい。
このUM Proシリーズ、10年以上の歴史があるシリーズらしいが、現在の数値二桁型番の製品群になってからも2013年の発売(UM Pro50は翌年追加)から一度マイナーチェンジを受けている。それまで半透明のシェルであったが、2017年にクリアシェルになり、以前はリケーブル時にケーブルのコネクタ形状に制約が大きかったIEM側MMCX端子の取付角度を調整したモデルになっている。
今回レビューするのはもちろん、リデザイン後のタイプ。
比較的地味めのパッケージの透明部分からは本体が見える。
UM Pro50は有彩色のカラーが入っておらず、フラッグシップなのに本体も一番地味
このUM Proシリーズは、フォーカスが一般リスナーよりミュージシャンや音楽製作用途に向いているからか、クリアパーツとなったシェルに、Westoneの「W」と型番の「50」がエンボス風に浮き出しているが、よく見ないとわからないほど地味。さらに現行UM Proシリーズは、シリーズの中の機種をドライバユニットからステムに続く導音管のカバーを着色することで表しているが、UM Pro10がオレンジ、同20がブルー、同30がグリーンと原色系の色で、そこがデザイン上のアクセントにもなっているが、本機UM Pro50はブラックパーツであることもあり、実に地味。ただその分より「仕事道具」という雰囲気を醸し出している。
外装ケースから中身を取り出すと、オレンジ色のミニモニターヴォルトケースが鎮座。Westoneというとオレンジのイメージがあるので、これで一安心?...というのも2017年のリデザイン前はオレンジ以外にクリアとスモークの3色があり、それが購入時には解らないので、色によって一喜一憂したという話もあるからだ。現在もクリアとスモークのミニモニターヴォルトケースもあるのだろうか。
ミニモニターヴォルトケースのオレンジ色がWestoneらしい
さらに中身を引き出すと、イヤーチップが装着済みの本体とケースの他に、交換用イヤーチップ2種(シリコン4サイズとフォーム5サイズ)、クリーニングツールと説明書が封入されている。
イヤーチップは非常にサイズが豊富で、シリコン系のSTAR シリコン イヤーチップが背の高いタイプが3サイズ、背の低いタイプが2サイズ(このうち一方が本体に装着されている)に、フォーム系のTrue-Fit フォーム イヤーチップも同様に背の高いタイプが3サイズに背の低いタイプが2サイズの計5ペアも同梱されている。これだけあるとどれとどれがペアかというのが判別しにくくなるのが普通だが、Westoneはステム(ノズル)装着軸に、背の高いタイプは大きい方からオレンジ⇒レッド⇒ブルー、背の低い方は大きい方がブラック、小さい方がグリーンに着色されていて、一目でどれとどれがペアかが解るようになっている。
この着色法則はシリコンとフォーム共通で、環境や聴く音楽によってシリコンとフォームのイヤーチップを付け替えて使いたいような場合も、迷わず同サイズが選択できるようになっている(同サイズでも素材が違うとフィッティングが違うことがあるのは別の話)。
店では何度も装着したことがあったが、やはりじっくり見ても、そして何度見てもびっくりするのはそのハウジングの小ささだ。とても5ドライバーが入っているようには見えない。価格帯・グレード的には若干下になるが、他社の3ドラUIEM、Astell&Kern-JH Audio Michelle Limited
と比べるとサイドのいわゆるフェイスプレート部分は極端には違わないが、
厚さが全く異なる。ステム(ノズル)の部分の長さは計算に入れずに、いわゆる「本体」の部分だけで比較しても、どう見ても半分以下の「薄さ」。
さらにMichelle Limitedは、各音域の位相を合致させて定位をぴたりと合わせる「FreqPhase Waveguide」技術の影響か、導音管の入るステム部分が異様に長い。それに比べるとUM Pro50のステムは実に控えめ。太さも太めのMichelle Limitedに比べると、UM Pro50はいわゆるSHUREサイズ=細軸なので存在感も低い。
5ドライバーイヤホンとはとうてい思えないが、クリアなハウジングからは大型のバランスド・アーマチュア(BA)ドライバユニットにぶら下がる形で(装着時に下側)2段重ねに小さなBAユニットが見られる。この2段重ねのユニットは中央に境目があるので1段2ユニット相当で計5ドライバーとなる。ドライバーの正確な型番は非公開だし、いずれにせよWestoneのオリジナルチューニングが入っていると思われるが、「0905」の刻印のある小型ユニットが、ツイーター用途に使われるKnowlesのTWFKと呼ばれる小型デュアルBAユニットで、大型のが定番ウーファーユニットCI(おそらく22955)という情報もある。
装着時上になる方に大きなBAドライバーが、下に2段同じ大きさのドライバーがぶら下がる。
「0905」の刻印はTWFKの「Westone-Specific Code」という情報がある(下側から見たところ)
一方、上の大きなユニットには「0902」の刻印。たぶんCI-22955。
いずれにせよ、この小さな筐体に5ドライバーが詰め込まれているわけで、その技術の素晴らしさに驚嘆する。
その小ささによって実現された付け心地は非常に良い。
何度か書いているが、cybercatの耳道は下向き開口で細く屈曲が大きい。大きく重いイヤホン/IEMは工夫しないと徐々に浮いてきたり、ひどいのになると滑り落ちたりする。
それがUM Pro50ではバッチリ固定される。もちろん下向き耳道なので、後ろから見ると本体下側がより身体の中心側に「入った」多少不格好な形になっているだろうが、そのポイントでかなり強固に固定できる。これは標準ケーブルの耳かけ部分に入っているワイヤーの形状記憶と復元力も絶妙であることと、ケーブルとIEMの接続方法がMMCXのため、IEMが「傾いて」も接合部で「回す」ことが出来て、比較的身体に沿わせやすいということも一因。自分にとってはCIEMレベルの耳への密着度だった。
外音遮音性も、きちんと固定装着できることが良い方向に働き、かなり秀逸。特にTrue-Fit フォーム イヤーチップにすると、窒息感を感じるほどの外部遮音性。
では音質...となるが、他のイヤホン/IEMの評価でもやっているように、まずエージングを実施した。バッテリーライフが長いミクウォークマン
に繋ぎ、連続再生⇒バッテリー切れ⇒再充電⇒鳴らし込み再開といういつもの手法だが、今回はレビューまでの時間が短かったこともあり、バッテリー切れで再充電を行っているときは、他のDAPを用いてほぼ連続で鳴らし続け、計算上120時間程度エージングが出来た状態で音質評価した。この部分は今まで使っていたUIEM=Michelle Limitedとの比較として「UM Pro50 徹底レビュー」に記載した。なお、到着直後に聴いた時でも、「このユニットが動いていない」という感じがするほど落ち込んでいる帯域はなく、エージング後も「激変」という感じはしなかった。ただ下の膨らみが(丸く)大きくなった感じがするので、多少は効果があるのかも知れない。
今回プロ用~一般リスナーまで幅広く支持を得ているIEMメーカー、Westoneのプロシューマー向けUIEM、UM Pro50を徹底的に聴き込んだ。
○各楽器の分離が良く同時発音の同音域楽器も判別可
○小さな音や目立たない音も意識を集中すると「そこに在る」のが解る脚色のなさ
と、音を味わいながら音楽を聴くにはとても適しているUIEMだった。ただ、積極的に音に「色」を付けないので、刺激的なアピールは強烈ではなく、
●ステージでは広大という程広くなく、耳と耳の間に収まる狭さ●上下は若干甘めで、広いかまぼこ形の音質(わかりやすい広帯域感はない)
と、リスニングに徹するときに、音楽を愉しませる方向に「加工」しないのも確か。
また、その小さく薄いハウジングはとても5ドライバーが入っているとは思えないモノで、細く下向きのcybercatの耳道にも無理なくフィットした。そしてその「飛び出し感」のなさは、装着している違和感がほとんどなかった。つまり
○小さな筐体によるバツグンの装着しやすさ
○装着自由度が高いので、遮音性も高い
ということもこのIEMの特徴。これは永い間付けっぱなしで仕事をするプロの現場ではアピール度は地味ながら、一番大切なことではないだろうか。
UM Pro50はノズル(ステム)もSHUREと同じ径で特殊なものではなく、ケーブルも脱着式で端子形状はMMCXと、イヤーチップ交換/リケーブルで自分の好みに追い込んでいく楽しみもある。ただ、いろいろと試した後に、意外に純正チップ/純正ケーブルのオーソドックスさが、このモニター系UIEMに合っていたのが印象的だった。
Westoneのマニア向け?UIEM、UM Pro50。
音楽の細部を探求しながら聴くには最適なイヤホン。音の奥に隠された小さな音まで描き出すので、アーティストやプレイヤーの曲に込められた想いが「読める」ツール。
音楽の全てをしゃぶりつくしたいならば、ゼヒ!
【仕様】
形式:密閉型
ドライバ:バランスド・アーマチュア型シングルドライバ×5(低域×1、中域×2、高域×2)
3Wayパッシブクロスオーバー
再生周波数帯域:20~20,000Hz
入力感度:115dB SPL @ 1 mW
インピーダンス:45Ω
接続端子:3.5mmステレオ
ケーブル/コード長:EPIC脱着可能ケーブル(MMCX)/128cm(Y字型)
重量:12.7g
同梱品:STAR シリコン イヤーチップ(5サイズ)、True-Fit フォーム イヤーチップ(5サイズ)、
ミニモニターヴォルトケース、クリーニングツール
輸入元(テックウインド)商品紹介ページ:5BAイヤホン Westone UM Pro50
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2018/02/04 UM Pro50 徹底レビュー「イヤーチップによる音の変化」追記
2018/02/12 同「リケーブルによる音の変化」「バランス接続による音色の変化」追記
※special thanks to mkama, for your kindness.
刺さり皆無の優しい音、しかし伸びはよい
いくつかの「ハイレゾ」イヤホンにあるような、無理に伸ばしたキンキンした高音ではなく、中音域をそのまま伸ばしたような自然な音。量とか主張はないが、綺麗に伸びていて、生ギターのカッティングの美しさなどは格別。
ヴォーカル(ソロ楽器)が前に出る
とてもモニターしやすい。特にヴォーカルとソロ楽器が、頭の中心にひときわ前に出て「在る」。あまり脚色はなくクリア。これは定位センターの中音域音声/楽器が「大きく聴こえて」いるわけではなく、左右端で二人のソリストが掛け合いプレイをしているような曲や、多人数歌唱曲で複数ヴォーカリストの定位があるような曲でもそれらにスポットライトをあてる。まるで上手いPAエンジニアがフィーダー操作をしているよう。
量自体はあまりないが、楽器の分離が素晴らしい
頭蓋を揺らす低音といった迫力はないが、同時発音の近い音色の楽器の分離が良い。ティンパニと大太鼓が同時に鳴っても、バスドラとベースのアタックがぴったり合っていても、それぞれがそれぞれの音で判別できる。
意識をフォーカスすると「そこに楽器がある」
UM Pro50の一番の特色か。ややウォームめの音造りで、煌びやかな高音やねじ込むような低音と言った「わかりやすい解像度感」はないけれど、とにかく楽器やパートの分離が良く、いろんな音を丁寧に描き出す。他のイヤホンだと「華のある」音色や音域にかき消されて聴こえないパートやプレイが解る。音が小さい楽器でも意識を「そこ」に向けると「そこ」にある。音場自体は横には広くはないのだが(「縦」の広さはある)、各楽器に「滲み」がないのでそれぞれのパートが掴みやすい。今まで気づけなかった音が解る。
楽器や人声の様子が良く判る=まさに「モニター」
まず、このイヤホンが「どう聴こえる」のかをエージング後、いつもの曲で評価してみた。
環境は、DAPが素直な音のONKYO DP-X1A、
接続は直刺しでケーブルは標準添付ケーブル。従って接続方法は一般的なアンバランス接続。イヤーチップは、たまたま最初についていたモノ=背の低い方のイヤーチップの中では大きい方のシリコンチップ(識別色ブラック)が結構良いフィッティングだったので、それ固定。
対抗馬としては、以前Westoneと協業していたこともある“IEM界の神”ことJerry Harveyが関わったAstell&KernとのコラボUIEM、Astell&Kern-JH Audio THE SIREN SERIES IEM Michelle Limited。
Michelle Limitedのレビューでは、バランスケーブルも標準添付品として同梱されるため、最近多用しているバランス接続で評価したが、今回はUM Pro50の標準添付品が3.5mmアンバランスケーブルなので、Michelle Limitedもそのもう一方の標準添付ケーブルである3.5mmアンバランスケーブルを用いて、ともに「標準添付の3.5mmアンバランスケーブル」でのアンバランス接続での評価とした。
まず、音質評価ではいつも最初に聴く高音質ジャズ曲(24bit/96kHz/FLAC)、吉田賢一ピアノトリオの“STARDUST”
から「Never Let Me Go(わたしを離さないで)」は、普段聴いているMichelle Limitedから。上(高音)に行くほど「立つ」サウンドキャラクターで、ベースは「緩め」だが、途中のベースソロ部分ではとても「深い」。スネアのキレが良く、ベースソロバックのブラシプレイはヘッドのコーティングの粗さが解る感じ。シンバルは煌びやかでカップの高周波とエッジの震えが良く判る。これをUM Pro50に変えると、ピアノがぐっと、ぐっと立つ。この曲、(cybercatが以前ドラムをプレイしていたからかも知れないが)今までの高音質イヤホンで聴けば聴くほど右chのドラムスに注意を持っていかれていたが、左chのピアノ、特に左手のプレイが実に良く表現できている。中音域はスネアサイドのスナッピーの跳ねが良く判る。一方ベースに関しては量は(Michelle Limitedに比べると)かなり控えめ。ただアタックの部分はきちんとあるのでトレースに問題はない。
もう一つのハイレゾ定番曲(24bit/96kHz/WAV⇒FLAC変換)、宇多田ヒカルの「First Love」を“Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.1+2 HD”
から。まだ若いヒカルの震える声のリアリティと2ndコーラスからヴゥーーンとセンターに分け入ってくるベースの安定感がこの曲のポイントだが、Michelle Limitedでは透き通る高音が美しい。ベースは深く、バスドラのアタックとベースのアタックが完全合致したときには分離はやや悪いが渾然一体となって低音が攻めてくる。これをUM Pro50にすると、ベースの音がカドがとれて丸くなり、タイミングバッチリのバスドラとのシンクロが良く判る(ぴったり合っているのが分離してよく聴こえる)。そしてグッとヒカルの若くてやわらかな声が前に出る。ラストのタム回しの残響の深さが良く把握できる。
「ベースが聴き所」という点では、スラップベースがガッツリ入るT-SQUAREの「RADIO STAR」をセルフカバーアルバム“虹曲~T-SQUARE plays T&THE SQUARE SPECIAL~”
から。この曲はゲストプレイヤーのラップもこなすベーシスト、日野"JINO"賢二のプレイと、それに絡む技巧派ドラマー、坂東慧のプレイが注目ポイント。Michelle LimitedはさすがJH系?ベースが大きく、サウンドステージ中心にベースが居座るが、フロアタムの深い音と合わせて重心の低いグルーヴ。UM Pro50はベースの音色の深さは譲るが、スラップの表情が良く判る。そしてバスドラのキレが素晴らしい。中域の各楽器分離が上手く働き、右chのワウギターと左chのシンバルプレイの小技が良く判る。ピアノソロの部分はアタックが強くてスリリング!!
同じベースとバスドラの絡みでも、キレの良いスラップに絡む坂東クンの足技の「表情」が必要だった「RADIO STAR」に対して、シンベと打ち込みのバスドラによる過剰気味の低音がノイジィになったり、押しつけがましくなりがちな部分を上手く纏めて「曲」として聴かせるのが意外に難しいデレマス曲、「ヴィーナスシンドローム」。
この曲は洲崎綾(あやちゃん)が、女子大生アイドルの健康的な色気を表現するが、環境によっては低域にかき消されてしまう。ここはUM Pro50の音の分離が素晴らしく、16分音符で連打されるバスドラムと、同じタイミングで鳴るシンベがきちんと聴き取れる。左右に駆け回るエレピ音のSEも明解。あやちゃんの声は前に出て聴き取りやすいが、艶は薄めの生真面目さ。これがMichelle Limitedはになると、深く大人びた感じの声があやちゃんの(...と言うか新田美波のw)色気を感じさせる。ベースは大盛りでグングン迫ってくるが、イントロ終わりのバスドラ16分音符4つ打ちの所はチョイ歪みっぽいか。
同じあやちゃんの沁みる曲「空」は、彼女のファーストファンブック
から。これは両IEMで大きく方向性が異なる。Michelle Limitedは右サイドのアコギのピッキングが美しく、グルーヴィなベースに乗るあやちゃんの声が気持ちよい。対してUM Pro50はピアノとタンバリンが美しい!!あやちゃんの声は近くに迫り、表情がよく解るが色気は若干薄い。ベースもモニターはできるがやや薄め。驚いたのは結構聴き込んだ曲なのに左ch端で鳴るシーケンスパターンのような分散和音に初めて気がついたこと。
オーケストラ楽曲「鉄底海峡の死闘」は交響アクティブNEETsの“艦隊フィルハーモニー交響楽団”
から。下が充実しているMichelle Limitedは低音弦がヴゥンヴゥンと唸り、ティンパニの迫力が凄い。一方UM Pro50は低音弦の深さは譲るが、ティンパニと大太鼓がきちんと分離し、大所帯の楽団の「多人数感」が出る。
Eaglesの古典ロック、「Hotel California」
は、Michelle Limitedで聴くと左右に広いステージで複数あるギターの位置が良く判る。ティンバレスやタムの音量が大きく、力強い。UM Pro50では例によってヴォーカルが前に出る(女性ヴォーカル曲よりは出ていないけれど)。そしてギターのプレイが、本数が如実に解る。左右端で対旋律を奏でる2本のエレキ、右chで鳴るワウギター、左右でカッティングされる生ギター、センターのエレキのオブリとやや左に位置する12弦ギターとこれだけのギターがきちんとポジショニングされている。左右の広さはむしろやや狭いのに。
いずれの曲でも
・ヴォーカル/ソロ楽器が前に出てよく聴こえる
・各楽器の分離が良く、定位が同じ位置でも違う楽器ならば別々に聴こえる
・ややウォームで耳に優しい音
といえ、これがWestoneの考える「モニターライクな音」なのだろう。
UIEMにおいてはイヤーチップが重要だ。
自分の耳に合わせて造るCIEMと違って、汎用のカナル部分(ノズル/ステム)を持つUIEMはイヤーチップで耳道への密着性を得る必要がある。
イヤーチップは、耳道とUIEM/イヤホンの隙間を埋める単なる「緩衝材」としてだけの機能を持つものではない。
一部の形式のIEMを除くと、音は「イヤーチップ」に空いた穴の間を通って出てくる(下図で青の部分)。
そのため、この「穴」の部分の径や長さ、形状、材質によって音が大きく変わる。
さらに、音の直進性が高い高音域の減衰を防いで鼓膜に直接届けるためには、耳道の屈曲に合わせて適切な位置でIEM/イヤホンを固定できるかどうかが重要。これには、イヤーチップの最大径がどの位置にあるかや、チップの径と高さの比率などが関係する(耳の構造は千差万別なので全ての人に対して満点の回答になるイヤーチップはない)。さらにこの方向を推し進めて、イヤーチップの先端が曲がって鼓膜に正対出来るようにしたSpinFitのようなイヤーチップもある。
また「緩衝材」という点では、耳道に出来るだけ密着した方が良いのだが、その材質が吸音するモノかどうかで音の丸みが違ってくる。
イヤーチップの材質としては、シリコンとウレタンフォームが二大勢力だが
・シリコンは吸音性は低いので、高音が陰ることはないが、密閉性(静寂度)は劣る
・ウレタンフォームは密閉性が高く静寂度が高いが、吸音性があって高音が丸くなる
という特徴がある。
WestoneのUIEM、UM Pro50にはプロの現場(ステージやスタジオ)で装着感が悪くて注意が削がれたり、最悪耳から落下したりしないようにという配慮か、さすがたくさんのイヤーチップが付属している。材質としては2種(“STAR”シリコンと“True-Fit”フォーム)、そしてサイズは5種。ただ、サイズは他メーカーのように単純に大⇒小へと小さくなるときに、形状を変えないでそのまま小さくしていったものではなく、二つ異なる形状に分かれて小さくした感じ。GreenとBlackは径と高さの差があまりなく、スクエアな形状。一方BlueとRedは高さが高く長細い円筒形。手持ちのノギス
で測定すると以下の通り(材質的に真円ではないし、柔らかいので押さえると変形してしまうので、あくまで実測値の一例であって正確な設計寸法ではない)。
つまり一番大きなOrangeの高さをあまり変えずに、径だけ細くしていったのがRedとBlueで、縦横比をあまり変えずに小さくしていったのがBlackとGreenという感じ。従って径だけ見ればいわゆるMとSには二つの形状のイヤーチップがそれぞれの材質にある勘定。
cybercatには初期装着の「BlackのSTARシリコンチップ」が結構フィットしたので、Blackと近い径のRedを検証に使用した(Orangeは入らず、BlueとGreenは奥に入りすぎて、本体がつかえてしまう感じ)。
またこれらに加えて社外品のイヤーチップも検証した。
Westoneのノズル(ステム)径はSHUREと同じ3.3mmΦで、5mmΦ前後の他の多くのイヤホンとは異なり「細軸」と呼ばれる系統。
もともと市場に多くはないし、手持ちにも少ないので、先日ポータブルオーディオ系イベントで入手したSHUREのイヤーチップ類
と以前から持っていた「曲がるイヤーチップ」であるSpinFitの細軸を使用した。各イヤーチップの実寸値は以下の通り。
面白いのは、同じシリコン系でほぼ同寸のWestoneのSATRシリコンチップのBlackとSHUREのグレーソフトフレックスパッドのMを比較しても、穴の大きさも形状も全く異なること。WestoneのSATRシリコンチップの方が穴が大きく、しかも漏斗状に開いている。そして全体の形状はドーム型。一方SHUREのグレーソフトフレックスパッドの穴は 細く、横から見た形状は丸っこい。
このあたりは音にどんな影響を与えるのだろう。評価曲は吉田賢一ピアノトリオの「Never Let Me Go」
に固定して聴き比べてみた(明らかにサイズが合わないチップは試聴していない)。
まず当初装着品のWestoneのSATRシリコンチップのBlack。ウッドベースは低く響く。このセッションは「近い」録音で、IEM/イヤホンの性能が上がるにつれて、ドラムス優勢になってメロディ楽器であるピアノが弱くなる傾向にあるが、この組み合わせでは中域はバランスが良く、ピアノ左手の表現も良く響く。リムショットはリムの音よりシェル(胴)の音が大きい腰のある音。シンバルレガートはスティックのチップの音が硬い。
これを同じSATRシリコンチップながらより長細いRedにすると、かなり高音が伸びる。ベースはかなり引っ込み、右chのスネアとハイハットのフットクローズが出張る。音のリアリティ、という点ではドラムスの生々しさがモノ凄いが、リスニングバランスとしては破綻気味。
では純正のもう一方の材質、WestoneのTrue-FitフォームイヤーチップのBlackはグッと落ち着いた音になる。ベースは少しボケるが、量があり下を支える。シンバルの高音域は少し抑えられて、リムショットも金属的な響きはなくなり、スネアサイド(スネアドラムの裏皮)の響きが大きくなる。鮮明度は譲るがピアノが前に出て、しかも優しい響き。左手が強い感じ。
同じくTrue-Fitフォームイヤーチップの背高タイプ、Redは奥に入る分高域が伸びて同じTrue-FitフォームのBlackほどくすんだ感じはしない。ベースは相変わらず量があって下を支えるし、ピアノがまるめの音ながら前に出てきてテーマが明解。ステージが若干狭いことを除けば結構イイバランス。
ここから社外品に移り、まずSHUREのシリコン系、EASFX1-10 グレーソフトフレックスパッドのM。全体的に音が硬い。明らかに右chのドラムス優勢。音色的には(形状は全く異なるが)WestoneのチップだとシリコンのRedに近い。ステージはWestoneより広いがちょっと腰が高すぎるか。
同じSHUREのEABKF1 ブラックフォームイヤパッド(M)は、シリコンから静寂度のUPはあるが、さほどに音色傾向は変わらない。静寂度が寄与しているのか密着度の差かベースのボディは量感が上がるが、全体としては、なおシンバル優勢。
同じSHUREのフォーム系でもEAYLF1-10 イエローフォームパッドにすると、ピアノの大きさのバランスが良くなり、ベースよりもピアノの左手がよく聞こえる感じに。上はライドシンバルのアタックよりはボウのシズル音、スネアもリムショットの音が落ち着いた感じになってバランスが良い。特に途中のベースソロはアタックが強く出てグルーヴィ。ただ形状的に先が細くない円筒状なので、装着時にかなり絞らないと耳道に入らず、耐久性は低そう。また絞って挿入するため、形が復元して耳道に密着するまでかなり時間がかかってしまう(5秒以上)のが弱点。音だけの評価では、落ち着き気味だが結構マル。
SHURE最後はいわゆる「三段キノコ」のEATFL1-6 トリプルフランジパッド。これはcybercatの下向き細屈曲耳道には難しいイヤーチップだった。位置的スウィートスポットが極めて、極めて、狭く、少しケーブルに当たったり、首を振ったり口を開けたりして耳道の形が変わると音が変化する。上手く嵌まると「重」低音以外の全ての帯域が近く、主張する音になる。特に中~高音域の鮮度が高い感じ。ただそのスイートスポットを少しでも外れるととたんにスカスカな音になるし、耳道深く入るので装着していて痛みを感じやすいのは「耳の形に合わない」感じ。
いつも「決め手」として使うことの多い「首振りイヤーチップ」ことSpinFitのSPFT RD-02Mは、他のイヤホンに付けたときほどの「ファイナルアンサー」ぶりを見せない。若干高音が伸びて、ステージが広がるのは「首振り」の効果が出ているのかも知れないが、ベースが...全体的に腰高でバランスが悪い。
ここまでのチップ比較では、鮮明度でWestoneのSATRシリコンチップのBlack、バランス的には同じWestoneのTrue-FitフォームイヤーチップRedと共に標準添付品が好印象。欲を言えばSTARのキレとTrue-Fitのバランス(低域の充実)があると最強なのだが....ということでここで掟破り?の手段に。
序論で触れたように、WestoneはカスタムIEMも手がけていて、その耳道挿入部分は「フレックスカナル」と呼ばれるシリコン製。その技術を応用したものか、「汎用イヤホン用のカスタムイヤーチップ」としてUM56と呼ばれるシリコン製の「カスタムイヤーチップ」をラインアップしている。cybercatはこれを、なかなか上手くフィッティングしない極太短ステムイヤホン、OSTRY KC06
用にオーダーしたことがある
のでこれを使ってみようという試み。
ただ、この時は太いノズルのKC06に合わせて、6mm径用で造っている。3.3mmΦの細いWestoneのノズルでは固定できない。
「これより、オペを開始する」「メス!...もとい、カッター!」
「手術は成功です」「無事2つの変換アダプタが摘出出来ました」
そこで、イベントのSHUREブースで入手したイヤーチップのうち、cybercatの細い耳道では使うことがないこと確定の「EASFX1-10 グレーソフトフレックスパッドのLサイズ」を墓地に送って(犠牲にして)5mmΦ⇒3.3mmΦ変換アダプタを召喚!この自作変換アダプタを用いて装着してみた。
この「自作ノズル径変換アダプタ」をUM56に付けてみると見事に入る。
少し飛び出しが大きいけれど、これ以上切ると取り出せなくなるので
当然内径はもともとSHURE用なので3.3mm径。外からUM56で絞められるので少しキツめにはなるが、何とか挿入できて、無事「なんちゃってCIEM」化完了。
自作変換アダプタがかんでいるので、少しイヤーチップが浮いているけれども
この「なんちゃってCIEM」はもくろみにかなり近かい音だった。出口がシリコンなので、純正のSATRシリコンチップに近い高域を持ちながら(耳道に沿って屈曲しているせいか、より柔らかい材質であるからか、多少陰るが)凄く充実した低音。ベースソロは痺れる!中音域はピアノとドラムが釣り合っている感じで、どちらの主張もある。スネアのリムショットのボディ感が素晴らしい。
SATRシリコンチップとTrue-Fitフォームイヤーチップのネガを潰したというか、良いところ取りの感じで、音楽に没頭できる組み合わせ。ただ、UM56と「自作ノズル径変換アダプタ」のあわせはバッチリで、抜ける感じは皆無なんだけれど、二段重ねになったため、UM Pro56の本体が耳から飛び出す感じになったことと、CIEM並みに装着時間はかかる(ピタッと決まったところに落ち着けるのは)ので、やっぱり「なんちゃってCIEM」であり、UIEMの利便性は損なわれてしまったが。
UM Pro50のケーブルは脱着式で、その接続方法は一般的なMMCX方式を採る。WestoneのUM Pro50は2014年の前タイプ発売当時からMMCX方式だったが、当時はハウジングから生える端子の角度が急で、社外品に多いガッチリしたタイプのMMCX端子だと干渉して入らないことがあった。そのため、リケーブル用ケーブルの方も「MMCX for Westone」と言うように、WestoneのIEMに合致することを明確に謳って販売していたものが多かった。
それが、2017年のUM Proシリーズのマイナーチェンジで、このMMCX端子周りが大幅に改善され、多くのMMCX用イヤホンケーブルが適合可能となった。そのため、一般的にドライバ/ハウジング側より寿命が短いケーブルを交換することによりIEMの寿命を延ばす、という消極的な?リケーブルとは違って、ケーブルの材質や端子の造りを変更した社外のリケーブル用イヤホンケーブルを使用することで音質の変化を楽しみ、自分にとっての「ベストサウンド」の微調整を行う、ということが可能になった。
イヤホンのケーブルには一般的には銅線が使われるが、前述のようなリケーブル用イヤホンケーブルとしてわざわざ別売されているような商品はいろいろな工夫が凝らしてある。
代表的なケーブルの「高品質化」の手法は
・銅の純度を上げる
・銅をメッキでコーティングする
・より伝導率の高い銀線を使用する
・不純物の少ないハンダの使用
・線数の増加
と言ったようなあたりだろうか。
だいたいイヤホンケーブル単体で語られるような商品だと4N相当程度からの純度だが、上は8N-OFC程度まである。メッキは単純な防錆という意味ではなく、音に色を付ける目的で使われたりする。防錆という点では金メッキ線を使うケーブルもあるが、一般的なのは銀メッキ。銀は胴よりも電気抵抗が低く、音色的にも明確に異なるので、そのハイブリッド方式というわけ。その銀線は一般的に高音域が煌びやかで、華がある音。線数を増加させれば抵抗が減る...というような理論。
ただ、このあたりは「理論」であって、銅線でも結構上が伸びているものもあれば、細いケーブルでも良い音のものもある。
今回標準添付のイヤホンケーブルをリケーブルして効果を検証してみた。
標準添付のケーブルはMMCX⇔3.5mm(3極)アンバランス端子のケーブルなので、用意したのは、
●NICEHCK 銀メッキ6N銅線
●Effect Audio AresⅡ
HCKの方はその名の通り、6NのOFC(無酸素銅)に銀メッキを施したモノ。Effect Audioの方は7NのUPOCC純銅線。ともに分岐前が4本撚り、左右分岐後が2本撚りのイヤホンケーブル。
例によって吉田賢一ピアノトリオの「Never Let Me Go」
を評価曲とした。
この曲は左ch~中央にピアノ、センターにベース、右chにドラムスというジャズ系楽曲でときどきあるセンターにスネアなどが来ないタイプの定位。低音域はウッドベース、その上にバスドラ、ピアノの左手が来て、中音域をピアノの右手とブラシの音が分け合い、時々入るタムのフィルインが彩る。高音域はスネアのリムショット、クローズドハイハット⇒シンバルレガート、さらに上にシンバルのアタックが来る。つまり高音系は全て右のドラムス金物系で、結構高音だけキンキン伸びるイヤホンだと右側に引っぱられてしまう。
音のポイントとしては、下を支えるウッベの胴鳴りのふくよかさと指板に当たる弦の音を含むアタックのバランス、中低音域はピアノの左手が支えているか、中域はピアノとドラムスのバランスが崩れていないかがポイント。高音域はスネアのリムショットの残響あたりの中高音域とその上のシンバルレガートのボウのあたりの残響音のバランスがキモ。下に比べて、あまり上が伸びすぎるとシンバルばかりキンキンしたバランスの悪い曲になってしまう。
ちなみに、前項でイロイロ検証したイヤーチップは純正のSATRシリコンチップのBlackで固定。
まず純正だが、実にバランスが取れている。ヘタにリケーブルすると悪化しそうな感じ。低域はベースが少し丸めの音でキレはやや少ないが量はちょうど良く下を支える。ピアノは前に出ており主旋律が聴き取りやすい。リムショットは少しソリッドで残響が少ない感じだが、生っぽい。高域もリムショット>シンバルレガートでうるさくはない。
これをHCKの銀メッキ6N銅線に換えるとメチャクチャ高音厨寄り。低音はないわけではなく、ベースはアタックが硬くなってむしろ存在感は増すが、胴鳴り部分が少しボケ気味。中域のピアノの響きはとても美しいが、高域がリムショット<<シンバルレガートでメチャ右に引っぱられる。ベースソロの部分はアタック強めでグングン来るが、曲全体としては高音立ちすぎ。
「近い」録音のこの曲では右のドラムス、特にシンバルに引っぱられすぎ
高純度銅線のAresⅡは悪くないバランス。ベースは芯が出て、中域はドラムのタム回しの音がふくよか。高音域はリムショットが鋭く、シンバルレガートは標準品より広いがちょうど良い近さ。少しドンシャリ気味だけれど、明解な音で音楽に「対峙」するならアリ。
少なくともこの曲では、純正のバランスの良さかAresⅡの明確さかという感じで、HCKの銀メッキ銅線は「ない」。ただベースソロの部分はHCKの明瞭さが良い味出していたので、曲によれば変わる可能性も十分ある。
リケーブルの効果はさすがに一番出口に近い部分のアナログ信号なだけあって、影響は大きい。ただそれが「良い効果」となるかどうかは別の話というのが奥が深かった。
リケーブル出来るということでもう一つ試したいのがバランス接続化。今回検証に使っているDAPは一般的な3.5mmアンバランス接続の他に2.5mmバランス接続端子が備わる。一部の片出しヘッドホンを除けば、リケーブル対応のヘッドホン/イヤホン/IEMはケーブルを交換することで、バランス化できる。今回それによる変化を確認してみた。なおDP-X1AにはACG接続という特殊なバランス接続があるが今回は効果のわかりやすい通常のバランス接続で評価した。
使用したケーブルは以下の通り。
○onso(ひさご電材株式会社)の高純度無酸素銅線PCUHD iect_01_bl2m_b_120
○Beat Audioの高純度銀メッキ銅線 Silver Sonic MKV
前者は実にベーシックなリケーブル。使われている銅線は古河電工のPCUHDで4N相当。線単体で評価したときは実に素直な音だった。標準ケーブルがどの程度のグレードの線材か不明だが、それとあまり離れていなさそうな気がするもので、線材変更影響よりもバランス化の影響の方が多分大きい。後者はおものだちのmkamaさんからお借りしたモノで、人気リケーブルメーカーBeat Audioのベーシックグレード。ベーシックグレードと言ってもツボを押さえた高純度銀メッキ銅線で人気が高い。お借りしたモノは「for Westone」とつくMMCX端子が小型で旧型のUM Pro系でも干渉しないタイプ。元々はDAP側がIRIS4pin端子のものを2.5mm4極に改造してあるもの。
イヤーチップは、前項同様、純正のSATRシリコンチップのBlack。
それぞれの効果は以下の通り。
onsoのiect_01_bl2m_b_120は全ての音がグッと前に出る。ベースの音が大きく、ピアノの左手も深く、低音域が充実している。中高音域の鮮度が素晴らしく、リムショットの「立ち」とシンバルに当たる「スティックの」音がリアル。まさにバランス化の良いところが前面に出ている。
Beat Audio Silver Sonic MKVは鮮度が高くゴキゲン。どの組み合わせよりもピアノが一番前に出る。低音の量感がアップするのはバランスの効果だろうが、ベースソロになるとその胴の響きとブラシのキレがイイカンジ。高音域はonsoの01より上で、リムショット<レガートで凜と張った音なのだが、アタックが心地よくてスウィンギィ。
やはりバランス化は効果が高い。以前のWestoneの形状よりもリケーブルしやすくなった⇒バランス化しやすくなったことを喜ぶべきだろう。
aPieceOfSomethingさん
2018/01/29
楽しく読ませていただきました。
IEMの知識量も、聴感レビューの質・量ともに素晴らしいですね。
よくこの短期間でこれだけレビューできるものだと驚きました..。
cybercatさん
2018/01/29
先週日曜受け取りでその日の午後は会社、〆切の週末もともに半日ずつ潰れていると、時間は本当になかったので、評価していただき感謝です。
harmankardonさん
2018/02/04
STARシリコンチップは,UM Pro50として非常によく考えられている形状で,もう降参です.
あと1週間,頑張りましょう!
cybercatさん
2018/02/04
持っているUM56は細軸用ではないので、当初は使えないかな...と思ったんですが、もともと超太短軸のKC06用に製作したので、ひょっとして細軸用イヤーチップの接合部がまるまる入るのでは?と気づきまして...
比較試聴は結構時間がある日しかできないので、結局アップは日曜かな....