レビューメディア「ジグソー」

「重低音シリーズ」という言葉のイメージよりも低域は「活きた」弾む低音。ハイブリッドな金属筐体で締まった腰のある低音が魅力のインナーイヤータイプヘッドホン「SE-CL722T」

世の中低音スキーな方々が多いのか、日本のどのイヤホンメーカーもカナルタイプのイヤホンには「低音推し」を謳ったシリーズがある。それも5000円以下の「DAPやスマホの標準添付イヤホンからのステップアップ」として最初のターゲットとなる価格帯に多く投入されている。それだけ、多くの人が標準添付イヤホンにおいて不満に思うポイント、ということなのだろうけれど、これだけたくさん種類があるとなかなか選択に迷う。

また音楽において基礎をなす低音域は確かに重要だが、中域が聴こえないと主旋律を追えないし、高域がないと広がりがなくて窒息しそうな音になるため、バランスも大切。

そんな玉石混交の激戦区に、パイオニアが「重低音シリーズ」として投入しているヘッドホンとイヤホンがある(同社ではそれぞれヘッドバンドタイプヘッドホン、インナーイヤータイプヘッドホンと呼称)。そのうちインナーイヤータイプの2016年11月現在の最上級モデルがSE-CL722Tだ。金属のメタリックなハウジングがCOOLな小型イヤホン。カラーはメタリックなレッドとブルー、カッパーのような質感のブラウン、クロームのハウジングに白いケーブルとイヤーピースのホワイト、そしてガンメタリックなハウジングに黒いケーブルとイヤーピースのブラックの5色展開。

cybercatが選択したのは当然?ブラック。パイオニアが2005年から使う全世界共通コーポレートロゴが白抜きで入る。左右の刻印はケーブル付け根内側に彫り込まれているだけなので、パッと見判別しづらいが、このイヤホンにはマイク付きリモコンが装備されており、それが左右分岐点から左側ユニットへの配線の途中にあるのでまず迷わない(実は左右刻印の部分に左(L)側だけ突起もある)。

このマイク/リモコン部は左側のケーブル途中にある
このマイク/リモコン部は左側のケーブル途中にある。プラグはL字ではない。

カタログ上の重さは9gとなっているがそれは「コード含まず」であり、実際は20gとそこそこの重量がある。

イヤホン全体の重量は実測20g
イヤホン全体の重量は実測20g

ケーブルが「きしめん」タイプでやや太く、マイク付きリモコンがあるからでもあるのだが、ハウジング自体が結構重量感がある。プレスリリースによるとハウジングが亜鉛合金、ユニットが装着されているベース部分がアルミニウムと2種類の金属が組み合わされている造り。従ってハウジングのメタリックな輝きはメッキ調塗装...ではなくホンモノの金属。特にブラックは少し燻したようなメタル感が強い色合いで、このイヤホンの音色傾向とも合致している。

他の内容物はイヤーピースのみで装着済みのものと合わせて4種類の大きさのモノが用意される。普通この価格帯であれば3種類程度が多いが、より自分の耳にフィットするモノが選べるため、低音のヌケを防ぐ効果があるだろう。

イヤーチップは4種(1種装着済み)、多言語の説明文
イヤーチップは4種(1種装着済み)、多言語の説明文

ちなみにこのイヤホンは全世界で販売されているらしく、外箱には4カ国語が記され、中の説明書は日本語の1枚に加え、16カ国語で書かれている。

本体とイヤーチップのほかは多言語説明書
本体とイヤーチップのほかは多言語説明書

装着感としては小型であることもあり悪くはない。ただきしめんケーブルの手触りがわりとゴムっぽい抵抗が大きいモノだからかタッチノイズは大きめ。また比較的ケーブル自体の反発力があり、クセがつきづらいこともあり、いわゆる「Shure掛け」は難しいと思う。なお、マイク/リモコンユニットが分岐後にあることから絡み防止スライダーは備えない。

開封直後軽く聴いてみたが、「重低音シリーズ」とは思えないカルい音だったので、ミクウォークマン

に繋いで足かけ6日間、断続的に100時間以上のエージングを行った後音質評価をした。

この時の環境はあえて?高音寄りのDAP、Astell&Kern AK120BM+直刺し。

比較対象としてはcybercat家で一番低音寄りのサウンドキャラクターのイヤホン、SE-CL722Tとほぼ当価格帯のPHILIPS SHE9000/98

と、2クラスほど上のクラスになるが、やはりガッツのある低音が特徴のSHURE SE215 Special Edition(SE215SPE-A)

を使用した。

最近はSE215SPE-Aには別売のイヤーピース「SpinFit(SPFT RD-02M)」を使っていることが多いのだが、全製品購入時付属品での対決とするため付属品に戻した。SHE9000/98もSE215SPE-Aも複数の種類のイヤーピースを付属するが、相手が「重低音シリーズ」のSE-CL722Tとなるため、SHE9000/98はのcomplyフォームイヤーピース、SE215SPE-Aもウレタン製の「ソフト・フォーム・イヤパッド」と密閉性が高く低音増強効果がある柔らかい系のイヤーピースを選択して対抗した。

対抗はすべて純正フォーム系イヤーチップを装着
対抗はすべて純正フォーム系イヤーチップを装着


その結果は別項に纏めてあるが、SE-CL722Tは高域はさほどに伸びないものの、低域の締まりとかすかな響きが躍動的な音楽を聴かせるイヤホンだった。
SE-CL722T の“音質”徹底レビュー

なお、ステム径最大6.3mm(実測)と結構極太の本品はイヤーチップが付け替えしづらいため、キチンとはまっているかどうかの確認は重要。ここがきちんとしていないと、当然ながら肝心の低音がヌケてしまうので。

ステム径は結構太い
ステム径は結構太い

最後に、説明書には「着信/終話ボタンは、着信/終話機能のみ対応しています。ボイスレコーダー機能やその他コントロール機能については、保証の対象外となります。」との記載があったワンボタンリモコンの動作検証を行った。cybercatはAndroidスマホは持たないので、iOSが9.3.5のiPhone6 Plusでの検証。

iOSではワンボタン系リモコンでできる操作はすべて行えた
iOSではワンボタン系リモコンでできる操作はすべて行えた

結果、着信/終話はモチロン、音楽の再生/停止や早送り/巻き戻し、Siri起動などワンボタンで可能なコントロールは一通りできたことを報告しておく。

今回二種類の金属筐体の使用で、引き締まった中低域再生を実現したという「重低音シリーズ」インナーイヤータイプヘッドホン「SE-CL722T」をレビューした。

このイヤホンは
○ダイナミックで芯と響きがある低音域が曲を支える。だらしなく広がった量だけある低域ではないので、中域の邪魔にはならず、しっかりと曲のボトムを支える。
○中域は力強さがありギターやピアノの響きやスネアのビートが心地よい。
○比較的重めの金属筐体だが、耳への収まりは良い。
○金属筐体の質感は同価格帯ではぬきんでている。
○マイク付きリモコンはiOSにおいては一通りの操作ができる
●高域は閉塞感まではないが低域に比べると大きな特徴はなく、広がりも薄い。
●音場は広くなく比較的全てのが楽器・音が中央から聞こえる
●きしめんケーブルは絡みづらくはあるが、クセがつきづらく身体に沿わせづらい。タッチノイズも大きめ。
というような特徴。

やはり金属筐体が音質にも外見的にも特徴となっていて、締まりがありつつ量がある低音が最大のウリ。打ち込みの低音マシマシの曲は予想通りだったが、意外にも古い録音のスタンダードロックやジャズトリオなども良かったので、守備範囲は広そう。

芯がある低音がガツンと聴きたいときに!

【仕様】
形式:密閉型ダイナミック
再生周波数帯域:5 Hz~22,000 Hz
インピーダンス:16 Ω
最大入力(JEITA):100 mW
出力音圧レベル:100 dB
ユニット口径:φ 8 mm
接続コード:1.2 m
プラグ:φ3.5 mm 4極ステレオミニプラグ/I型
質量:9 g(コード含まず)
付属品:イヤホンチップ(シリコン)XS/S/M/L

メーカー製品紹介ページ

更新: 2016/11/21
SE-CL722T の徹底レビュー PREMIUM REVIEW

複合金属ボディのSE-CL722Tの音=締まりと響きがある腰の強い低音が魅力

自分にとっての基準曲、宇多田ヒカルの「First Love」を“Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.1+2 HD”(PCM24bit/96kHz)

から。この曲エージング前にSE-CL722Tで一度軽く聴いたのだけれど、それとは全然印象が異なる。開封後すぐの音はギターの方が目立っていたと思うが、エージング後はピアノの響きが優勢になり、ギターは少し引っ込んだ。ヒカルのヴォーカルの残響が良く響くので部屋の「大きさ感」が良く伝わる。慣らし前は「重低音シリーズ」という割には重心高いなーと感じたこの曲も、エージング後はベースがグッと前に出てくる。1コーラス終わりの「入り」の所はさほどの存在感ではないが、2ndコーラスの下で支える低音は重量感があってイイナ。ただ上の方はシンバルなどは広がりが少ない。部屋は上が狭い感じの鳴り。

PHILIPS SHE9000/98はさすがに「Deep Bass」を謳うイヤホンらしく、特に低音のバランス傾向は割に似ている。しかし音色の方向性が全く違う。ギターの音は意外に「立って」いる。ピアノはボディの鳴りがなく後ろに引っ込んでいる。ベース音は量はあるがやや腰高。シンバルの広がりはやはりないが、その下の「中高音域」が意外にあって歌は聴きやすい。レンジはSE-CL722Tより狭いが、低音の演出が上手く、音圧もある。これがSHURE SE215 Special Edition(SE215SPE-A)となるとさすがに価格の差があるので、上も良く出る。一気に天井が開いたほどの上の伸びがある。シンバルも良く広がるようになるし、ラストコーラスのドラムスの残響も大きい。ただその分ベースの支えはやや少なく、アタックメインでずっと鳴っている、と言う感じではない。もともと打ち込みのベースでさほどにアタックとディケイの音量の差があるとは感じていなかったが意外。

 



オーケストラ系楽曲は「艦これ」オーケストラアレンジの“艦隊フィルハーモニー交響楽団”

から「鉄底海峡の死闘」(交響アクティブNEETs)。実は今回比較の3種のイヤホンではSE-CL722Tが一番能率が低い。ただその分ダイナミクス溢れるこの曲の静と動は良く出る気がする。弦の低音がヴンヴンと絶えず響いているのが他の楽器の盛り上がりでもかき消されない。これはかなり良い。

SHE9000/98は低音域の迫力はあるのだが、ティンパニのアタックや弦楽の低次倍音が充実しているという感じ。その分華はあるがチョット音が飽和気味か。SE215SPE-ASHE9000/98と傾向が似ていて、それに高音域のストリングスやトライアングルの響きを付け加えた感じ。上が開けているので閉塞感はないが音自体はやや飽和気味だ。

 



なかなか「美味しい」聴き方が難しい音飽和気味のドラマチック楽曲、女性声優あやちゃんこと洲崎綾のデレマスでの最初の熱唱「ヴィーナスシンドローム」。

これはSE-CL722T得意!バスドラもアタックだけでなくて響きもきちんと来るし、ほとんどがバスドラと同じタイミングで鳴るため目立たないベースもきちんと分離する。あやちゃんの声はきちんと中央に来るし。ただシュワシュワと言うような左右を行き来するSEやストリングス音の広がりはない。でもビートは一番ノッてる。バスドラの音に飽和感がなく一番ノリが良い。

SHE9000/98は4つ打ちのバスドラが硬くやや腰高な上に、絶えず鳴ってるシーケンスパターンが結構出張っていて、あやちゃんの声が少し沈む。上が元々あまりない曲だが中央でゴチャッとなっていて、あんまり美味しくない。さすがSE215SPE-Aは上級クラスだけはあって、SE-CL722Tとは違う聴かせ方。あやちゃんの声は一番しっかりと前に出ているのと、シーケンスパターンなどがきちんと左右に散らされて、声とは分離している。ただリズム的にはハイハット優勢でバスドラはさほどに来ない。この3種の中でヴォーカル重視で味わうならこれかも。

 



もはや教科書レベルの古典ロック、Eaglesの「Hotel California

は、自分の持つのはCDかなり初期のミックスなので録音レベルが低く、SE-CL722Tではかなり音量を上げる必要がある(AK120BM+では最大75.0中72.0くらい)。そのせいなのかこの頃の左右いっぱいを使うミックスのせいなのか、中低域中心にかなり横に広い印象で他曲とはイメージが違う。スネアの音やギターの響きが心地よい。もともとあまり上に伸びた録音でもないのでちょうどマッチングが良い感じ。

ヴォリュームが69.0/75.0で同じくらいの音量メージとなるSHE9000/98はスネアの音が違う。ボトムよりトップが鳴っている感じで少しチューニングが低く感じる。ベースラインが一番「来る」のはこれ。ただ上がチョット足りないかなー。68.0/75.0でほぼ同音量イメージのSE215SPE-Aは出だしの12弦ギターは一番美しい。右端のハイハットと左端のギロも広い。ギターソロはピッキングが良く判る。

 



良く聴き込んでいるジャパニーズフュージョン、T-SQUAREの「RADIO STAR」はオリジナルの方ではなくラップもこなすベーシスト=日野'JINO'賢二をゲストに迎えたセルフカバーアルバム“虹曲~T-SQUARE plays T&THE SQUARE SPECIAL~”から。

この曲、SE-CL722Tに合っている。ベース、気持ちいい!この曲、スラップのプルとプッシュが両方気持ちよいイヤホンなかなかないのだけれど、見事に気持ちよい。ベース聴くならこれ。

今まであまりふるわなかったSHE9000/98は意外な魅力を魅せた。「Deep Bass」という割には「重」低音ではなく、その上のあたりがピークなのでベースも小さめだし、上もあまり開けていないが、ちょうど中低域のピークが上手くハマったらしく途中のピアノソロとそのバックで鳴るギターのミュートかカッィングが「立って」意外な好バランス。これは美味しい。SE215SPE-AはシンバルやイントロのドーンというSEの広がりや、デッドなバスドラのキレは良いけれど、ちょっとベースが弱いかなぁ。プレイヤーのテクニックを「分析」するならこれかもしれない。


 

ラストはジャズトリオの優秀録音盤、吉田賢一ピアノトリオの"STARDUST"(PCM24bit/96kHz)

から「Never Let Me Go(わたしを離さないで)」。この曲も聴きあきるほど聴いているが、SE-CL722Tのバランスが好きなバランス。ウッベの沈み込みとピアノの響きが優勢で「近い」。ただ音場はあまり広くなく、ハコでステージに一番近い最前列で聴いているような間接音より直接音の方が聴こえているような直截さ。

「Deep Bass」SHE9000/98はピアノメインに響いてくる。もともと上があまり伸びていないのでシンバルがガンガン広がることはないだろうと思っていたが、意外にベースが沈まない。ピアノとスネアのリムショット中心で、中域中心のメロディ明確な?演奏。さすがにベースソロの時はグッと重心が下がるが。SE215SPE-Aはピアノの響きとシンバルの響きが美しい。リムショットの時のスティックの鳴りもきちんときこえる...が重心高っ。ベースに芯がなくちょっとノレない。

 



全体通して言うとSE215SPE-Aはさすがに倍以上価格が違うだけあって音場の広さや上へのヌケは別次元。ただ、自分の持つイヤホンでは低音寄りのこのイヤホンが低音でSE-CL722Tに負けてしまうことが多いのが意外。SE-CL722Tの低音はボワ付いていない芯がある低音なので質も良いし。

ほぼ同価格帯のSHE9000/98はメーカーの謳い文句も同じ「低音推し」なのでもっと僅差かと思ったが、傾向が違う。低域でも「中低域」ぐらいが「推し」であり、上もあまり伸びていないことから全体的にこぢんまりとしている。一部の曲ではそれがハマる事もあるけれど、だいたいにおいてもっと下の方に響きがあるSE-CL722Tの方が美味しいことが多い。

SE-CL722Tは複合素材の金属ボディというのが効いているのか、低域の締まりとかすかな響きが躍動的なイヤホン。上はさほどに伸びないのとサウンドステージも広くはないので全ての音が「近く」、曲によってはスケールが小さくなる感じになってしまうのは残念なところ。ただ「芯」のある中域が低音が大きめの曲ではない曲でも美味しく聴かせることもあり、意外に守備範囲が広いのが印象的だった。

SE-CL722Tは低音の締りと弾力があった
SE-CL722Tは低音の締りと弾力があった
更新: 2016/11/19
高音

伸びていく感じはあまりない←低域が強い曲だと特に

低域がガッツリある割に(もしくは低域がガッツリあるが故に?)高域は薄い。特に左右に広がりがない事が余計に伸びを感じさせないのか。

更新: 2016/11/19
中域

ソースによるが中域のリアルさがすごく良い場合がある

一部の音/声は非常にガッツのある鳴りかたをする。響きよりも基音中心で攻めてくるような「近さ」と「リアルさ」を感じる音

更新: 2016/11/19
低音

低域は量より質!芯がある弾む低音が曲をガッチリ支える

「低音推し」イヤホン/ヘッドホンの一部にあるような量だけの音ではない(むしろ「低音推し」系の中では絶対量は少なめ?)。しっかりと芯があってかすかな響きがある弾む低音が曲のボトムを形成する

更新: 2016/11/19
音像

やや狭い。特に上に行くほど狭い感じで開放感は希薄

中域まではソコソコ広さ感があるが高域の広がりが希薄なため、サウンドステージは両耳の間に位置する

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