パイオニアブランドのイヤホンSE-CL722Tのプレミアムレビューをお届けします.
イヤホンのSE-CL722Tは,ダイナミック(D)型のカナルタイプのイヤホンです.
イヤホンの形状は大きく分けて,インナーイヤー型とカナル型の2つあります.インナーイヤー型は昔からあるタイプで,円盤状の100均や付属のイヤホンとして普及していました.このインナーイヤー型は,耳の近くに置く(引っ掛ける)だけなので,耳への負担は少ないですが,その分音漏れが大きくなります(=音が劣化する).ただ,インナーイヤータイプは音が悪いお言うことではありません.高音質のインナーイヤーも存在します.
もう一つのカナル型は,カナル=耳栓なので,文字通り耳に中に入れて,耳栓のように使うタイプです.イヤーピースと呼ばれる部分で,耳と密着します.このため,音漏れもしにくく,高音質向きです.ただし,耳の奥まで入れるため,フィット感が悪いと,長時間のリスニングに耐えられなくなったり,イヤホン本来の音が得られなくなるため,選択が難しいです.特に,ハウジングと呼ばれる本体部分が大きくなったり,特殊な形状だったり,より耳の奥まで入れるタイプでは,フィッティングがとても重要になります.
イヤホンのドライバも大きく2種類に別れます.スピーカーと同じ原理のダイナミック(D)型とバランスドアーマチュア(BA)型の2つです.BA型は,アーマチュアと呼ばれる部分を振動させて振動板を駆動する方式で,非常に小型の振動子が作れます.このため,昔から補聴器に使用されていました.
もう一つ,D型とBA型のHybrid型もあります.両者のいいとこ取りを狙った構造です.
一般的に,D型は自然な音質で,低域が魅力,BA型は解像度が高く,高域が魅力です.しかし,技術進歩とマルチBA化(複数のBAを組み合わせて使う)で,今では一概には言えなくなっています.一方,Hybrid型は,低域のD型と高域のBA型のいいとこ取りですが,音質とバランスが非常に難しくなります.
なので,イヤホンは,店頭で自分にあった形状で,自分の好みの音質のものを選ばないと失敗します.ネット上で評価が高いものや高価なものが,自分にとって最適とは限りません.非常に選択が難しいオーディオ機器だと思います.
加えて,最近のイヤホンは非常に高価になりました.もちろん,3000円以下の普及価格帯も充実していますが,上を見るとキリがありません.少し前までは,5万円程度が高価格帯でしたが,それが,10万円になり,20万円になり,30万円になりと,際限がありません.昔も,カスタム品では高価格のものはありましたが,ユニバーサルタイプで30万円以上は,信じられない世界です.
オーソドックスな形状だが,非常にきれいな仕上がりで,高級感がある
今回のレビュー品であるSE-CL722Tは,カナル形状のD(ダイナミック)型で,一般的な方式です.そして,カナルタイプとして,形状的な特徴はありませんが,ハウジング(筐体)は金属(亜鉛合金)を使用しています.
この形状に特徴がないことが,より汎用性を持たせており,より多くの人に合うことを意味しています.また,耳に奥まで挿入しないタイプなので,フィッティングに伴う違和感が起きにくいというメリットもあります.
それでは,外観から.
価格以上に高級感があります.パッケージもとてもこの価格帯のものとは思えません.マグネット式の箱フタも使われています.
イヤホン自体も非常にきれいな仕上げで,筐体の金属的な高級感があります.
イヤーピースは,サイズ別で4種類用意されています.ケーブルは,絡みにくい素材のフラットタイプで,タッチノイズの影響も受けにくいと思います.ちょっと弾力性がありますが,ポータブルには好都合です.
また,ケーブルは固定式で,プラグは3.5mm4極タイプです.L/R/GND/Controlとなっているようです.スマホ用にリモコンもあるので,便利に感じる人もいると思います.リモコンは,個人的には不要ですが,L/Rの識別が容易なので,その点は便利です.
同じカナル形状ですが,BA型のパイオニア製SE-CLX7(左)と比較してみます.
外見では,D型とBA型を見分けることはできません.ただし,傾向として,ハウジングが太く丸く大きいものは,D型が多く,細長いものは,BA型が多いです.
その傾向でいくと,SE-CL722TがBA型で,SE-CLX7がD型に見えますが,実際には逆です.
重さは,普通だと思います.決して軽い方ではありませんが,重くもありません.これは,DN-1000に慣れているからかもしれませんが,重くて疲れそうとは落ちそうとかいう心配は不要です.
イヤホンのSE-CL722Tは,ハイレゾDAPのパイオニアブランド XDP-300RやFiiO X3 2ndでも聴きますが,非ハイレゾのiAUDIO9を中心に,SE-CLX7と同価格帯のフィリップス SHE9700(D型)と比較したいと思います.
XDP-300R:
X3 2nd:
iAUDIO9:
SE-CLX7:
SHE9700:
また,カナルタイプはイヤーピースで音質が大きく変化することから,一般的に販売されていて,入手しやすい(個人的な好みの)Victorのスパイラルドットに交換した印象も付記します.
低音強めの現代的な音質.ただし,4極プラグには注意!
SE-CL722Tは,まず,非ハイレゾDAPのiAUDIO9で聴いてみます.この中の楽曲は,MP3とflac(16/44)が中心です.
ここで,早速,躓きました.iAUDIO9に接続して音出しすると,音は出るのですが,スカスカな音しかしません.ん??? 一旦,プラグを抜こうとしたら,一瞬,正常に! そういうことかと,納得しました.犯人は,4極プラグです.iAUDIO9は4極プラグに対応していないので,こういう現象が起きたみたいです.
そこで,延長ケーブルを介在させることにしました.何かのイヤホン付属品です.3.5mmプラグとジャックの延長ケーブルです.この延長ケーブルを介在させることで,正常な音になりました.
エージングもしないで,いきなり音出しして,すぐに感じるので,低域の強さと全体的なすっきり感.ただ,ちょっと,アタック感が強くて,刺さる感じがあります.そこで,丸2日程度,エージングしました.iAUDIO9で,連続再生しただけです.
この4極プラグですが,タブレットのSH-06Fでは,再生/停止のリモコンとして使用できました.ターゲットしているプレーヤーは,DAPというよりスマホ系なんでしょう.
また,ケーブルですが,タッチノイズの影響を受けることなく,絡まりにくいです.ただ,その分,収納時はかさばります.
エージング後は,低域の力強さと中高域のスッキリした感じはそのままで,トゲトゲした感じはなくなりました.ドンシャリ傾向ですが,バランスは悪くなく,気軽に音楽を楽しむ用途に向いていると思います.
イヤーピースは,いつものMサイズでちょうど良く,一般的なサイズだと思います.イヤピースを入れる,中心(ノズル)部の大きさも一般的で,市販のイヤーピースも使えそうです.
同じ価格帯のSHE9700と聴き比べてみます.
D型のSHE9700は,この価格帯としては最強のイヤホン(だと個人的に思っています)で,再生機器を選ばない(安いDAPやスマホでもきちんと再生する)という特徴があります.
SHE9700は,いつもの音で,非常にバランスがいいです.低域は,SE-CL722Tのほうが出ています.中高域は,音質的な差はありますが,甲乙つけがたいです.
ドライブ能力のないタブレットやノートPCで聴いたときに感じたのですが,SHE9700は悪い環境でも粗が見立ちません.一方,SE-CL722Tは,やはり粗(ノイズ感や頭打ち感など)が感じられます.その分,解像度もあるということだと思いますが,DAPで聴くなら,SE-CL722Tのほうが良く,スマホならSHE9700のほうがいいです.
SE-CLX7と聴き比べてみます.
BA型のSE-CLX7は,非常に繊細でクリアです.解像度が非常に高い分,線が細いです.まさに,BA型の特徴そのままの音質です.ただ,BA型の金属的な響きがあまり感じられないので,非常に聴きやすくなっています.
価格が倍以上違いますので,比較するのは難しいですが,長時間聴くならSE-CL722Tです.SE-CLX7は,その解像度の高さから,1曲集中して聴くにはいいのですが,長時間聴いていると非常に疲れます.ポータブル用途にはSE-CL722Tがいいと思います.
SE-CL722Tは,低域が出て,クリアで,分離がよく,音離れの良い感じは,現代的な音づくりの傾向が反映されているようです.筐体が金属製であることも影響していると思いますが,変な付帯音もなく,きれいな音です.低域も沈み込むような迫力こそありませんが,しっかりと主張しているので,よほどのマニアでない限り,満足できると思います.
カナル型で,特殊な形状をしていないことから,装着感も良く,ポータブル用途の長時間のリスニングにも最適な,非常にコスパの良いカナル型イヤホンです.
スパイラルドットで化ける
SE-CL722Tのイヤーピースを,スパイラルドットに交換してみます.コンプライという選択肢もありますが,消耗品で,価格的にも不釣り合いですので,今回はパスしました.
ノズルの太さは標準的なので,スパイラルドットがそのまま使えました.ほぼ,ジャストサイズです.スパイラルドットは,SE-CL722T付属のイヤーピースより半サイズ小さいです.付属のイヤーピースで,MかSかで迷ったなら,スパイラルドットでは,Mサイズがジャストです.付属のイヤーピースでMサイズがジャストなら,スパイラルドットでは,LかMのどちらかになります.
スパイラルドットに交換することで,音の傾向は変わりませんが,より低域がしっかりして,バランスが更に良くなります.一旦,スパイラルドットにすると,もう付属のイヤーピースには戻れません.それくらい違います.
スパイラルドットはすごいとなるわけですが,でもすごいのはスパイラルドットではなく,イヤホン自体です.音を出しているのは,あくまでもイヤホン本体です.それを伝える役割をする一部が,イヤーピースになるだけです.付属のイヤーピースにコストをかけられないのは仕方ありませんが,きちんとしたイヤーピースを使うことで,化けるイヤホンがSE-CL722Tです.
こうなると,イヤーピースを色々と試してみたくなるのが性ですが,今回はレビュー時間が少なく,本命のXDP-300Rを仕上げなければなりませんので,これ以上の追求はやらないことにします.
でも,この価格帯で,イヤーピースの交換を試してみたくなる価値のあるイヤホンです.イヤーピースへの比較的小さな投資で,大きく音質が変化するので,非常に楽しめるイヤホンでもあります.
SE-CL722Tとスパイラルドットの組み合わせでも,5000円以下です.十分価格に見合うイヤホンだと思います.
DAPの違いもわかるすごいやつ
SE-CL722Tの実力が高いことがわかりましたので,ハイレゾDAPでも聴いてみます.ただ,再生周波数帯域がありませんので,ハイレゾ環境で,ハイレゾ音源を聴くという意味合いです.でも,再生周波数帯域がなくても,十分です.
※今回,すべて延長ケーブルを経由して聴いています.
まず,ハイレゾDAPのX3 2ndで聴いてみます.当たり前ですが,音の傾向は変わりません.ただ,DAPが違うこともあり,よりクリアで,より心地よく聴けます.
iAudio9は,COWONの特徴であるイコライザをフルに活用して,好みの音にしています.素の音ではありません.しかし,X3 2ndでは,イコライザ機能が弱いこともありますが,デフォルト(flat)で聴いています.それでも,低域の強さと中高域のクリアさは,iAUDIO9以上です.
次に,XDP-300Rでも聴いてみます.こちらも,イコライザーはOFFです.やはり,音の傾向はそのまま,DAPの差を感じます.より,スッキリ,クリアになります.
つまり,この価格帯のイヤホンでも,きちんとDAPの差を聞き分けることが可能なレベルの仕上がりになっています.X3 2ndあたりでは,きちんと釣り合っている感じも受けますが,さすがにXDP-300Rでは,本来のXDP-300Rの音質は引き出せていません.
コスパ最強の1台
エージング時間も必要なことやDAPのレビューもあるので,非常に短時間のレビューになりましたが,非常にコスパの良いイヤホンだと思います.形状もオーソドックスなカナル型なので,装着に違和感が出来くく,音質の偏りも起きにくいと思います.
○SE-CL722Tはこんな人におすすめ
・クリアでスッキリした癖のない音が好みの人
・ロック系ボーカルを聴く人
・低音番長ではないが,低域が必要な人
・5000円以下で,長時間リスニング用を探している人
・イヤーピースを変えて,音の変化を楽しみたい人
・今までカナルタイプを試して失敗していた人
△SE-CL722Tの注意点
・4極プラグに対応していない場合には,延長ケーブルを買いましょう.
・カナル(耳栓)タイプが苦手な人は,インナーイヤーイヤホンかポータブルヘッドホンを買いましょう.
・イヤーピースは最適なサイズを選びましょう.
・ケーブルが太く見えます.
・深み,艶,繊細な響きを求める人は,この価格帯のイヤホンを買っていはいけません.
・スマホでは,少し粗が感じられるかもしれません.
ポータブルDAP用にイヤホンを5000円以下で探している人は,後悔しない選択だと思います.是非,スパイラルドットとセットで聴いてみてください.決して後悔はしないと思います.
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