日本において"crucial"といえば、真っ先に連想するのはSSDだったりするのだが、その実はMicronの小売向けブランド名(レキサー・メディアと統合後、ブランド名のみ存続)なので、当たり前ではあるが、Micronの主要製品であるメモリも販売されている。
私が購入するメモリは、その大半がMicron製だ。
これには一応の理由がある。元々AMD系のユーザー歴が長いので『過去にAMD系で相性問題を引き起こし、それを見事に掴まされて涙目』という経緯のあるSK hynixには良い印象が無かったこと、Samsungのメモリは周囲で故障事例を山ほど見てきたせいで、信頼性に対する印象が非常に悪かったことが挙げられる。
なお、ELPIDA、Qimonda、NANYAは既に購入出来ないということで挙げなかったが、実は日本製ということで人気のあったELPIDAも、相性問題以降は一時的に避けていた。
私が余りヒートシンク付のメモリを好まないのも、チップの指名買いが出来るSANMAX製を好むのも、結局はこの辺に理由があったりする。
単体パッケージで到着した、Crucial CT8G4DF8213。四本組だ。
閑話休題。
そんなわけで、実際に我が家のPCに搭載されているメモリのほぼ全てが、Micron製品である。
故に、今回のSecret・Reviewにおいて提供されるメモリがcrucialという情報が届いたとき、思わずガッツポーズするほどに喜んでいた。
PC2133ということで、DDR4としては最も低い(というか一般的)な速度で動作するモデルだとしても、今までのDDR3と比較すれば相当に速い。
そして、実際にその性能は十分に満足出来るものだ。
Micronによるチップ・モジュール製造という、純正仕様の安定感も素晴らしい。
メモリのReviewとなると、正直書くことが余り無いのも確かだが、調べたりテストしてみて、その片鱗を見ることは出来た。
久々のメモリ規格更新となるDDR4、今回は技術背景を含めてReviewしてみたく思う。
DDR4は、DDR3の倍速という触れ込みだが、その理由は帯域幅の違いにある。
クロックあたりの帯域幅がDDR3比で2倍あるので、理論上の速度は倍速というわけだ。
ただ、実際の動作周波数はPC2133で"動作クロック133MHz"・"バスクロック533MHz"と、結構低い。DDR3で同一のクロックとなると、PC1066が該当する。
ただし、クロックあたりの帯域幅は2倍なので、PC1066の2倍となるPC2133が適用される。
ちなみに、データ転送レートはDDR3-2133の"17.067GB/s"とほぼ同じ"17.056GB/s"あたりで、要するにDDR4は、DDR3より低クロックで高速動作するメモリという事になる。
つまり、実際にはPC2400や2666のDDR3より高速というわけではないのだ。
こちらが、製品の写真となる。
参考としてDDR3メモリをだいたい同じ縮尺で並べてみたが、切り欠き位置が変更されたほか、ピン数も増えているのが判る。
なお、ピン数はDDR3が240本であるのに対し、DDR4では284本。
これは、帯域幅増強のための措置で、DDR3が通信ピン2本に対して1本のGNDだったのに対し、DDR4では1本ごとにGNDを持つからだ。
増えたピンは全て、データ転送の安定を得る為のものなのである。
また、同じ幅であるにも関わらず少しだけ高さが高いのも、このピン数増大が理由のひとつ。
配線密度が増大した関係から、それをモジュール内に収めるスペースを確保する目的で、規格上の高さ制限が1mm程度だが緩和されたことによる。
あと、面白いと思ったのは「メモリのエッジを斜め」にすることを規格に盛り込んだ点だ。
これはメモリ取付の際の怪我防止と挿入時の引っ掛かり防止が目的で、そのほかDDR4はメモリ挿入時に必要とされる力もDDR3より軽めにするよう義務付けられているという。
業務でメモリの付け外しをする際、初中手を擦り剥く私としては、この改良は素直に有り難い。
・・・というか、何で今までそういう工夫を規格に盛り込まなかったんだろうな、JEDECは。
概略に続き、次は性能チェックだ。
いくつか取得したベンチマーク・テストから、DDR4搭載の利点や傾向を探ってみる。
まずは、CPUのレビューでも利用した、SIS Softwareの"Sandra"によるメモリ速度テスト。
速度の伸びは順当で、3930Kで搭載したDDR3-1600との速度差はほぼスペック通りだ。
整数でのテスト時に差が縮む傾向が見て取れるが、誤差の範疇でしかない。
実はDDR3とDDR4、メモリ・レイテンシはほぼ同じだ。
送り込むデータの帯域幅は倍だが、動作クロック数などは殆ど同じであることの証左といえる。
次に、メモリの速度を利用するひとつの手段として提示したいのが、ストレージの高速化だ。
Samsungの"SSD840"シリーズは、EvoとProにて"RapidMode"というストレージ高速化技術が利用出来るが、これはメモリの一部をSSDのキャッシュとして利用するため、メモリの速度がそのまま高速化に反映される。
こちらが、DDR3-1600x4 と DDR4-2133x4 の双方で取得した、RapidModeでのCDM結果。
シーケンシャル速度こそ落ちているが、4k周りのReadは50%以上も高速化している。
DDR4は帯域が向上しているため、連続した細かいデータの読み出し速度やIOPSは、メモリの速度差以上に高速化出来る。
ただし、書込は全体的に落ち込んでおり、高速なメモリが得意とするはずの4K Writeのような細かいデータの書込も、むしろ大きく落ち込む傾向が見られる。
この奇妙な傾向の原因は、次のベンチマーク結果で見られる傾向と関係があるかもしれない。
こちらは、CPUとメモリをオーバークロックした状態で取得したベンチマーク結果だ。
CPUは全てのコアを3.9GHzへ、メモリは全てPC2400へオーバークロックしている。
このように、メモリ帯域そのものの速度結果は良好だ。
オーバークロックでも問題無くベンチマークの取得に耐え、安定した動作を見せる。
しかし、レイテンシを計測すると奇妙な結果が浮かび上がった。
順番が入れ替わっているが、Sandraはソート順序が自由に出来ないため、グラフの色で判別してほしい。なお、念のため一番下がオーバークロック状態で取得した結果だ。
理由は定かでないが、オーバークロック状態におけるレイテンシは、ご覧のように大きく悪化する傾向を示した。
OC前との比較で3倍以上も悪化しており、正しくベンチマークが取得出来ていないという可能性もあるが、OCが原因でメモリのデータ同期が困難な状態に陥っている可能性がある。
帯域幅向上のために非常にシビアな精度での動作を要求されるため、DDR4はOCに不向きなのではないかという話があったが、実際にその通りなのかもしれない。
最も、これほどのレイテンシ遅延でも普通に動いてしまうあたり、このメモリの安定性は極めて高いと言えなくも無いのだが。
流石はMicron、とでも言うべき出来だ。
モジュールも緑一色、装飾は一切なく、性能もStandard。
だが、それで十分だ。
安定していること。
メモリにとっては、それが最も重要なことだ。
オーバークロック状態でも、重さには定評のあるSandraを飄々と通し切る。
それも、OCには不向きな精度要求のDDR4、QuadChannelにおいてやってのけた時点で、安定性と信頼性は十分であることを見せつけてくれた。
今後、メインストリームへの採用も進むDDR4。
初期生産品で、これだけの品質を出してくるMicron/Crucialは、安心して購入出来る選択肢として十分にお勧め出来る。
今のところ、DDR4はエンスー向けということで高クロック商品が売れ線のようだが、多くの人にとって必要とされるのはこうした定番メモリであり、それが最初から高い完成度で出てきたということは、多くの人にとっての朗報と言えよう。
・・・まあ、あれだ。
最初に言った通り、Micronチップ買っとけば『取り敢えずハズレはない』のですよ。
とっぷりんさん
2014/09/09