レビューメディア「ジグソー」

待望の8コア搭載・Intelの新たなる最上位CPU


X79環境を所持しておいて何だが、私は普段使うPCにあまり極端な性能を求めない方だ。

現在のメインであるi7-3930Kにしても、かつてのメインであるFX-8150にしても、要はどんなものか試してみたい』という歪んだ欲求から組んだものであり、普段最も利用頻度が高いのは、我が家では最低性能であるAthlon5350環境だったりする。

 

今までに書いたレビューでも散々述べたことだが、要は快適にその場で使える環境なら、私にとって『道具の性能は限定的でも問題無い』のだ。


そんな私に対し、明らかに不相応な代物のレビューが打診されてきた。
今回レビューの機会を得た"i7-5960X"は、Intelが久々にコンシューマ市場へ投入した新型ハイエンド・プラットフォームにおける最上位CPUだ。

 

 

レビューを受けておいて、敢えて最初に言う。


『殆ど全ての人にとって、こいつの性能は過剰どころじゃないと。


だが、もしあなたが絵描きであったり、ニコ動やYoutubeにUpする人だったり、三次元CAD弄る人だったりする場合、i7-5960Xは『確実に買い』のCPUだ。

こうした用途において、こいつはX79環境や現行のHaswell-Refreshに対し、別次元の速度が期待出来る。

普段そういうことに手を出さない、どれくらい時間がかかるかとか、その手間を想像して躊躇する私にすら、その躊躇を吹き飛ばすくらいに凄い。

 

今回、私はその片鱗に触れた程度の事しか出来なかった。

正直言って、どれくらいの事をすれば、この性能を使い切る事が出来るのか。

 

この限界が見えない性能を、私なりに解説してみたいと思う。

 

まず、最初に製品の外観について。

こちらはパッケージの写真。4960Xのパッケージと外観はほぼ同じ。
かつてExtremeプロセッサーに使われていた、黒基調のパッケージは復活しないのだろうか?

背面の窓から覗くプロセッサーは・・・ズレてる。
開封して間違えて入れたわけでなく、最初からこうだった。

CPUの図体が大きいので、紙箱の窓位置が上手く合わないのだ。

CPU本体写真。
サーバー向けCPUを手がける、コスタリカ工場で生産されたモデルであることが判る。
なお、手元にあるi7-3930Kはマレーシア工場製だった。

ヒート・スプレッダの形状が変更されているが、この上下に延長された部分はソケットのリテンションで抑え込まれる部分にあたり、CPU基板の剛性を補うよう配されている。

大きな変更点はこのヒート・スプレッダーの形状変更くらいで、他は今までのLGA2011CPUと大きく変わる部分は無い。

なお、既にいくつかのサイトで言及されているが、5960Xのヒート・スプレッダーは従来のハイエンド製品と同様、ソルダリングによる接合が採用されている。

本製品において、殻剥きがどうのという心配は特に不用ということだ。
一応、剥いた方が良く冷えるらしいが、極冷でもしない限りは気にする必要もないだろう。

 

i7-5960X最大の特徴は、Intelのコンシューマ向け初の8コアCPUという点だろう。

無論、HyperThreadingにも対応しているため、OS上では『8コア16スレッド』で動作する。

SandyBridge-EからIvyBridge-Eへの更新では、更新された部分はコア内部のアーキテクチャのみに留まり、プラットフォームもX79を継承したが、今回はプラットフォームごと一新された。

 

メモリには、待望の新型DRAMであるDDR4を採用。
ベース・アーキテクチャも第三世代であるIvyBridgeから現行のHaswellとなり、大幅な性能向上が図られている。

 

とりあえず、判明している相違点を表にしてみた。

この表を見比べると判るのだが、実は5960Xは今までの4960Xと比較してコア・スレッド数とL3容量、メモリバンド幅以外のスペックはむしろ後退している。

製造プロセスに変更がない状態で、コア数を25%も増強してTDPの上昇を僅か10Wに抑え込むには、クロック低下は避けられないということだろう。

こちらは、5960Xのダイ写真。

8つのコアが左右に分割して並び、その中央に全コアが共通で利用するL3キャッシュがある。

この中央ブロックには、各コアを連結するリングバスが配されている。

リングバスはクロスバー方式のインターコネクトと比較し、実を言うと速度面では不利なのだが、コア数の増減というかインターコネクトのWey数増減に対して配線を追加する必要がなく、設計上の配線を単純化出来るという強みがある。(スイッチの設計次第では不利な点もある)

 

ただ、Intelは速度面での問題を、リングバスを二重化しつつ時計回りと反時計回りに通信をそれぞれ限定し、かつスイッチする回数が少なくて済む方向を自動的に選択することで、リングバスにおける速度ロスを1/2まで減らしている。(なお、4700番台以下のリングバスは一本)

 

ダイ下部に配されているのはメモリコントローラーで、この部分は改設計というかメモリの世代交代があった際に容易に入れ替えられるよう、固まって配されている。

ダイ上部の側はPCHとの通信バス。PCI-Expressのレーン数などもここで決まるため、レーン数が半減するi7-5820Kでは、このブロックに至る配線の一部が殺されている可能性がある。

 

製品概要の説明の次は、速度の検証を行う。
我が家にあるCPUの中で、最も高速かつ性格の近い"i7-3930K"との比較検証を実施してみた。


今までのメインPC用プロセッサーだった、i7-3930K。
二年ちょっと前の購入だが、現在でも結構早い部類のCPUである。

 

双方の製品概要は、先に提示した表を参照頂きたい。
まず最初に、CPUの各部性能を見るためSIS software製の"Sandra"にて計測を実施した。

 

こちらは、整数演算と浮動小数点演算の計測結果で、CPU・マザーボード・メモリの三点セット以外は全て同じパーツを使い、ドライバ以外は全て同じOS環境を利用して取得している。

結果としては、コア数の増加よりも若干だが大きな性能差が出る結果となった。
3930Kは5960Xより動作クロックでは0.2GHz速いのだが、それでも5960Xは整数・浮動小数点の双方で3割近く速いという結果を叩き出しており、IPC値も向上しているのが判る。

 

次に、プロセッサーのマルチメディア拡張機能(MMXとかSSEとかAVXとか)が影響するベンチマーク計測結果。

こちらは整数・浮動小数点共に、更に大きく差が出ているのが判る。
特に差が大きく出ているのが整数演算で、こちらは5960Xが40%以上もの差を叩き出す。

実のところ、この部分で差違が大きく出るのは半ば予想済みだった。

というのも、Haswellアーキテクチャを採用する5960XはAVX命令セットに第二世代のAVX2が実装されているためだ。
このAVX2の有無が原因で、一部のベンチでは3930KなどのSandyBridge-EやIvyBridge-E世代のCPUが、コア数で劣る4770Kにすら負ける傾向があった。 

AVX2命令を持つCPUは、持たないCPUとの比較で理論上2倍の速度差(AVX1は256bitを128bitづつ取り込んで処理するが、AVX2は256bitを一度に処理する)があり、これは一度に処理するデータ容量が増えれば増えるほど、大きな差になって返ってくる。

Intelは、IvyBridge-EのCPU比較でHaswell-Eは『4Kエンコードで39~70%高速」と謳っていたが、実際にそれくらいの差が出ると予想される結果となった。

 

 

次に、コア数とIPCと命令セットの実装数がモノを言う、MAXONの"CINEBENCH"を試す。

処理が分割されるほど良いスコアが出る傾向のテストなので、コア数の多いCPUが有利。

1.が5960X、4.が3930Kでのスコア結果。
なお、このグラフは数値を見易くするため、一部画像を改変加工している。

一応、元データのスクリーンショットも併せて載せておくので、参照してほしい。

               i7-5960X                      i7-3930K

さて、CINEBENCHでは、更に極端な差が出るという結果となった。

繰り返しとなるが、CINEBENCHはその性格上『コア数やスレッド数が多いほど有利』なテストではあるが、それとしても相当に極端な結果である。

AVX命令の有無や世代の違いで大きく差が出るテスト、という点もSandraと同様なので、傾向としては予想通りだったのだが、スコアの差は流石に予想外。


このように、i7-5960Xは動作クロックの低下などモノともしない、優れた性能を示した。
では、この性能差は実際の処理でも同じ傾向を示すのだろうか?

次に、実際にエンコード処理を行ってみて、その結果時間で処理性能を検証してみる。

 

今回、性能テストを行うにあたって、最も困ったのは『CPUの性能限界に達する処理がない』という、何とも贅沢な問題だった。

そのため、今回は無理矢理にCPUパワーを100%使わせる設定を用意した。
即ち、CPUのスレッドが全て埋まるよう、複数同時に映像のアップスケーリング・エンコードを実施するというものだ。

今回、エンコードするのはこちらの作品。

"スタートレック・ディープ・スペース・ナイン"の、DVDコレクターズ・ボックスだ。
なお、こちらのDVDは購入当初(2009年頃)に無劣化リッピングを実施済みで、今回わざわざ写真を改めて撮り直したのは、「違法なこと(コピー後売り飛ばすとか)は、して無いよ?」という証拠を残すため。

なお、現行の改正著作権法においてはリッピング行為そのものが違法だったりするんだが、こいつに関しては改正著作権法の施行以前にリッピング済み。

そのリッピング済みデータの保持と、改変となるアップスケール・エンコードするのは、特に現行法でも問題無いと確認済みだ。(当方でちゃんと知人の法律屋に確認取った)


そういうわけで、リッピングしたデータを元に、"640 x 480"のデータを"1440x1080"の大きさにアップスケールする実験を3930Kと5960Xの双方で実施した。

ただ、普通にアップスケールするだけだと画像の粗が目立つようになるので、今回はH264へのエンコードに足して、GOPレンジの変更、B-フレームの挿入、シャープ・フィルタとの追加、ソフト側のアップスケール補正を追加実施し、画質の向上も併せて実施している。

・・・んで、その補正とかの結果は、こんな感じ。

まあ、見れば判ると思うが、左がDVD右がアップスケール補正後
公平を期すべく、双方共に1440x1080の解像度で再生中の映像をキャプチャした。

この処理を、DVDBOX1&2の45話・46時間分を纏めて同時処理させてみた。
使用したソフトは、Arcsoft"MediaConverter7"だ。

こちらのソフト、一つのデータあたりで利用出来るコア数は最大4のようで、一本だけのエンコードでは5960Xどころか3930Kですらフルパワーで動かせないのだが、物理コア数が許す限り複数のデータを同時にエンコード出来るという、珍しい機能が載っている。

今回、コア数の限界まで同時処理する設定にし、45話分のデータを全てエンコードするまでの時間を計測してみた。

こちらは、8コア16スレッド稼働100%で、8本の動画を同時にエンコードする5960Xの図。
それでも比較的CPU温度は大人しいもので、簡易水冷を使っているとはいえ50℃を超えない。
TDP140Wというスペックの割に、発熱に関しては扱い易いCPUである。

こちらは、エンコード時間の計測結果。
なんと、4割以上もの時間短縮という恐ろしい結果が出た。

ソフトウェアが比較的古いため、AVX2命令などの影響がちゃんと出るのかどうか不明だったが、コア数だけの差で起こるような差違ではないので、エンコードにおいては多少古いソフトでも設定次第で大幅な処理速度向上が見込めると言って良いだろう。

何と言うか、化け物である。
正直、それ以外の言葉が出てこない代物だ。

ここ二週間ほど色々と試して分ったが、この凶悪な性能は『使い切るのは殆ど不可能』に近い。
使い切れる人はごく少数で、殆どの人にとっては持て余す性能だろう。

また、その性能を使い切る事が出来るアプリケーション自体が、それほど多くない。
ゲームなどの用途では、最新のタイトルですらコア全体を利用出来ないものが大半であり、動作クロックが物を言うタイトルなどでは、むしろ価格帯で半分以下のCPUに劣る場合も見受けられるため、正直あまりお勧め出来ない。

ただ、エンコードや画像・映像処理においては、文句無しにコンシューマ向け最強のCPUだ。
純粋にコア数が多いので、ミドルハイ環境で問題となる同時処理実行中のボトルネックが起こりにくく、またメモリの速度不足も一切無い。

また、CPU自体の性能もそうだが、新型のX99プラットフォームとDDR4メモリの採用により、X79で問題となったSATAやPCI-e周りの世代的な古さが解消され、最新の9シリーズ・チップセット採用PCに見劣りする部分は一切無くなっている。

X79環境において、クリエイティブな作業にPCを使ってきた人たちにとって、i7-5960Xは文句無しにお勧め出来るCPUだ。

まあ、私のようにそうでない人にとっても、このスピードは恩恵が大きい。
著作権的な問題で掲載を見送ったが、アップスケール処理の比較映像を"PowerDirector10"で作成していた際、余りの快適さに驚かされた。

製品の構成上、向き不向きがあるといっても、この性能で不満を感じるようなシーンは、まず滅多にあるものじゃない。
突っ込んだコストに見合うかどうかは目的に拠るが、少なくとも損をする事は無いだろう。

性能を使い切る事が困難なCPUで、不満を感じることなど、あり得ないのだから。

 

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