しかし、再生機器/記録機器がPC、もしくはPCと親和性が良い「データ」になったことで、新たなニーズが出てきた。
それは“ネットワーク上の音声ファイル/音楽ファイルを再生する”というニーズ。最近ではネットワークに参加する「音声ファイル/音楽ファイルを持つ機器」は必ずしもLANケーブルでつながっているとは限らない。いや、むしろワイヤレス機器の方が多い場合もあるだろう。そして自身もワイヤレス接続でネットワークに参加してネットワーク上の機器にある音声/音楽ファイルを再生できるようにしたのがワイヤレススピーカーシステムだ。ではその内容を見てみよう。梱包をあけるとズッシリとしたホンモノ感あふれるスピーカー本体と付属品類としては、説明書類と保証書、ACアダプタの他に、右スピーカー部に仕込まれているアンプ部からパッシブの左スピーカーへの接続ケーブルとアナログ入力用ケーブル(ステレオピンジャック⇔RCAピン)、スペーサー用に丸くカットされたコルクシールだ。
右スピーカーにはアンプとワイヤレスLAN用の機構があるため前面にはその調整用のつまみ類がそしてその裏面には接続用の端子類が並ぶ。特にアンテナなどがあるわけでもなく、前面のWi-Fiへの切り替えスイッチと裏面の無線LAN接続時に使う「CONNECT」ボタンを見なければ一見普通のアクティヴスピーカーだ。むしろそのがっちりと造られたエンクロージャーは一部のPCスピーカーに見られる軽薄さとは無縁で、オーディオコーナーで見かける力強さだ。
ではまず、素性が判っているファイルを再生してスピーカへとしての力量を見てみよう。高音質なオーディオファイルが再生できるマルチメディアプレイヤーiriver P8
から高音質な録音で知られる24bit96kHzサンプリングのFLAC音源、吉田賢一トリオの“STARDUST”
から6曲目「Take The A Train」をアナログ出力し、本機「GX-W100HV」にアナログ入力した。比較対象としては無線LAN機能はないもののPC周辺機器として販売されながらオーディオとしてのキアイが一本ビシっと通っているパワードスピーカー、クリプトンの「KS-1HQM」
を使った。音色的にはまず低域が豊かだ。ONKYOのミニコンポにも通じる、キンキンした硬さがなくふくよかで自然な音だ。ベースの山村隆一のウッドの響きがズンズンくる。高域も透き通っていて自然な耳触りのよい音だ。PC関連関連スピーカーとしては大型に属する12cmウーファーと2ウェイでツィーターを備えるという特徴が出ている。スピーカーとしての素性は非常に良い。
ではここで対照の「KS-1HQM」に切り替えてみる。6.35cm(2.5インチ)フルレンジ一発の二回り小型のスピーカー、全然勝負にならない...と思いきやさにあらず。定位感はKS-1HQMのシングルコーン一発の良さが出た。というかニアフィールドでは定位感がスゴイ。スピーカーから60cmくらいの近さできちんと定位が出る。対するGX-W100HVは同じ距離では良さが出ない。上下がでている分、逆にとっちらかっている感じだ。
ところが1m離れるとすばらしく良い。きちんと定位感が出ている。KS-1HQMに負けていないカタマリ感もあるしエネルギー感もある。これはサイズの問題か、2ウェイと一発の違いか。
そして意外に「KS-1HQM」の良さが出たのが低音。いや、量感は圧倒的に本機「GX-W100HV」。朗々とおおらかに鳴るボリュームは倍ほど違うスピーカー口径がダイレクトに効いている。しかし、ニュアンスの質感は「KS-1HQM」。細かいタッチが判る。吉田賢一のピアノ低音弦がこもらず、「立って」聴こえる。比べると机が鳴っているのか「GX-W100HV」はもわっとしている感じだ。せっかくの低音の量が効いていない。
これをクリアにすれば絶対にイイのに。大きいエンクロージャーが逆に机との密着感を増し、机の共振音が音を濁らせている感じだ。
そこで、「GX-W100HV」にオーディオテクニカのハイブリッドインシュレーターAT6099
を挟んでみた。
キタ!
明確で詳細がわかる低音域、モワっと感はほぼなくなった。ニアフィールドで良さが光る「KS-1HQM」に対して、一部屋ならしきる「GX-W100HV」の力感が感じられる。木村由起夫のバスドラのニュアンスが手に取るようだ。
本機「GX-W100HV」の実力を発揮させるには、設置の確実さが不可欠であるのが判った。
次は本機ならではの特徴、DLNAワイヤレススピーカーとしての機能を見てみよう。ルーターWN-G300DGR
の「WPS」を長押ししたあと、本機「GX-W100HV」の右スピーカーの右スピーカー裏面、「CONNECT」ボタンを押すだけでしばらくするとネットワークに本機が追加される。
その後wmaファイルなどを右クリックして「リモート再生」を選ぶと、スピーカーに直接ケーブルを繋いでないのにもかかわらず、スピーカーから音が出る。左右のスピーカーこそケーブルで繋がっているが、まったくソースと有線接続されていないスピーカーからきちんと音楽が奏でられるのはぞくぞくする経験だった。
これであれば外出時はスレートPC
やスマートフォンにある音楽ファイルをBluetoothヘッドセット
を経由して、家に帰れば本機を使って部屋いっぱいにならすことも可能だ。このシームレスな感覚は新しい感覚だった。
最後に接続法による音色の違いを検証しよう。試聴ソースとしてはNANIWA EXPRESSの活動停止前のラストアルバム、日野皓正をゲストに迎えた“SILENT SAVANNA”
から出だしの「THE LADY OF TOLEDO」を聴いた。まずスレートPC「ONKYO TW3A-A31C77H」からのヘッドホン出力からアナログ接続して見る。日野皓正のcornetがホット。ガッツがある前に出る音だ。インシュレーターを噛ますことでくっきりとした低音域が清水興のエネルギッシュなプレイを際立たせている。
次に内蔵のデジアナ変換を使わず、外部USB-DAC
で変換してみよう。なおこのときDACキットDVK-UDA01には標準の電解コンデンサではなく、初回特典のニチコンのオーディオ用小型アルミ電解コンデンサFW(UFW1A222MPD)を搭載している。これは!!スっと透き通った。美しい高音域、端正な中音域。清水興のアトランシアベースの良い再生環境でないとこもったように聞こえる音色が、きちんと弾(ハジ)けている!こうなるとガッツがある音に聞こえた先の内部デジアナ変換の音が少しノイジィに聞こえるから現金だ。
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今度はUSB-DACに増設した光デジタル端子
から両端角形光デジタルケーブル
を用いて、本機GX-W100HVのデジタル入力に接続して見よう。
本機のデジタル入力はサンプリング周波数が32、44.1、48、96kHzまでで24bit対応の高スペックなもの。スペックだけ見るとUSB-DAC(DVK-UDA01)をしのぐ。 今までのアナログ接続からUSB-DACの光デジタル出力⇒スピーカーと接続を換えた。ソース(TW3A-A31C77H)と出口(本機のスピーカー部)は同じながら、デジタル信号⇒アナログ信号の変換がUSB-DACなのか、本機なのかが違うわけだ。当初は一度停止させてつなぎ替えていたが、最後にはDACからは両方出力させて、本機の外部入力切り替えスイッチで切り替えて比較した。特徴としては、クリア。ハイハットのタッチやオープンのされ方が手に取るように判る。ベースのチョッパーの基音より倍音の方がガツンとくる。左右の広がりも広い。ただアナログ接続も、中~低域はイイ!日野のラッパの唸りがすばらしい。どちらかというと音質の好み、かもしれない。
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最後にこのスピーカーの特徴であるワイヤレス接続で聴いてみた。接続はケーブルもごちゃつかずきれい...だが音は。先ほどの各直接接続を聴かなければ、十分良い音。しかし、聴いてしまったからには...少し残念。やや粒子が粗い感じで、アナログ接続のパワー感もUSB-DACを使った透明感も薄膜の向こうという感じだ。また、再生開始までにかなり(十数秒)かかるのも、音楽の流れをスポイルする。ただ利便性は高く外から持ち込んだスレートPCをソースにケーブル接続なく再生できるカイカンは確かなものだった。今回ネットワーク社会の申し子とも言える無線LAN対応ワイヤレススピーカーシステム「ONKYO GX-W100HV」を使う機会を得た。
PCの付属品ではなく、完全にオーディオとして捉えて問題ない高いクオリティと、ネットワークオーディオ時代の申し子とも言える無線LAN対応スピーカーの利便性を感じることができた。
ただスピーカーの素性が良ければ良いほど、無線LAN動作時の音質・応答性・対応フォーマットの拡充などあと一歩のところがあったのも事実である。このあたりを次なる改良時には対応していただけると強力なPCオーディオ環境が手に入る時代が来るだろう。
末筆とはなりましたが、今回このような機会を与えてくださった日本マイクロソフト株式会社様及びオンキヨー株式会社様、zigsow事務局様に御礼申し上げます。またレビューアップまでの応援など常に支えとなってくれたおものだちの皆様はじめzigsowerの方々に感謝いたします。
ありがとうございました。
【GX-W100HV仕様】
形式:2ウェイ・バスレフ型
無線受信機能:IEEE802.11 n/g/b
無線再生対応フォーマット:mp3、wav、aac、m4a
実用最大出力:15W + 15W
定格周波数範囲:50Hz ~ 100kHz(-15dB)
デジタル入力サンプリング周波数:32、44.1、48、96kHz/24bit対応
スピーカー:ウーファー12cm A-OMFコーン型、ツィーター 3cm リング型
入力端子:光デジタル入力端子×1、RCAアナログ入力端子×1
出力端子;サブウーファー出力端子×1、ヘッドホン出力端子×1(φ3.5mm/ステレオ)
トーンコントロール BASS/TREBLE コントロール
消費電力 22W
外形寸法:140(幅)×260(高さ)×右194/左180(奥行き)mm
質量:右3.7kg、左3.3kg
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2012/05/09 リンク追加 & タイトルロゴ変更
2012/05/10 リンク追加
2012/05/16 USB-DAC⇒光デジタル出力検証追加
Satoshiさん
2012/05/07
レビュー大変参考になりました。
私はiriver B100のプレミアムレビューをして、
プレミアムイヤホンで聴くFLACの音の響きがすばらしく、所有している安物のアクティブスピーカーR1000TCNの音にガッカリしていました。
今、アクティブスピーカーで良い物は無いかと探していましたが、cybercatさんのレビューからONKYOのGX-100HD(B)が第一候補になりました。
X-100HD(B)とGX-W100HV(B)との違いはワイヤレス機能だけと思っているので、KS-1HQMはちょっと手が出しにくい価格なので、懐具合が良くなったらGX-100HD(B)を購入しようと思います。
オーディオテクニカのハイブリッドインシュレーターAT6099も試したいと思っています。
miraさん
2012/05/07
なるほど…便利な反面、再生までのラグと直つなぎとの音の差はやむを得ない感じなんですね。
Bluetoothだとプロファイルに因ってはmp3やm4aをロスレスで送っている様ですが、DLNAだとどうなんでしょう やっぱりビットレートが低ければロスレスで送れてるんでしょうか。
もっと帯域も広く安定して一般的なCDの1.4Mbps程度は楽に送受信出来る様になると、音に五月蝿い方も満足に聞けるネットワークスピーカーになりますね!
cybercatさん
2012/05/07
>cybercatさんのレビューからONKYOのGX-100HD(B)が第一候補になりました。
音に対する好みは千差万別なので、音色の嗜好観点では好みかどうかは判りませんが、価格対音色としての満足度は高いですね!
つか、きっちりと造ってあります。
PCの左右において使用しながら聴くという使い方だと近すぎる点(1~1.2mは離れた方が良い)やデスクサイドに置くには大きめのフォルムなどから、PC「用」スピーカーと言うよりはPC「と親和性の高いオーディオ」スピーカーと言えます。
その分しっかりした設置が必要で、AT6099が良いかどうかはともかく、しっかりしたオーディオボードやスピーカー台がないと真価はわからない、という感じです。
良いスピーカーに出会えれば良いですね!
cybercatさん
2012/05/07
>なるほど…便利な反面、再生までのラグと直つなぎとの音の差はやむを得ない感じなんですね。
そうですね。でもこれは直繋ぎの音が良いから気になるわけで、利便性よりも音の良さがバーターできないほどよい、という事でもあります。
ただアイデアとしてはとても良いので、
>もっと帯域も広く安定して一般的なCDの1.4Mbps程度は楽に送受信出来る様になると、音に五月蝿い方も満足に聞けるネットワークスピーカーになりますね!
直繋ぎと同じ程度の音質で、タイムラグも1~2秒程度というところまで来れば、配線不要という利便性の良さが光るものになりますね。