レビューメディア「ジグソー」

サーバー向けハイエンドCPUを用いた動画編集という贅沢

《1. 諸言》
これまで筆者の使用してきたデスクトップPC向けCPUは全てLGA775ソケット対応のもので、Pentium 4 516Pentium 4 661Core2Duo E8400Core2Quad Q9650であった。
いずれも3GHz前後のクロック数で、それぞれ1コア1スレッド、1コア2スレッド、2コア2スレッド、4コア4スレッドで動作する。
Pentium 4 661やCore2Duo E8400などはワードやエクセル、パワーポイントを使用したりする場面や、余程重い動画の再生でもやらない限りはインターネットの閲覧などのシーンでも殆ど不満が無い。
Core2Quad Q9650に至ってはちょっとした画像・動画編集の際にも4コアの処理能力を遺憾なく発揮してくれる。
そういう意味では、現在市場から姿を消しつつあるLGA775対応CPUも通常の事務仕事などの用途ではまだまだ現役であると考えてよいだろう。

しかしながら、SandyBridgeという新規格のCPUの出現とともにLGA775はもはや3世代前のソケットとなり、動画編集の分野、殊更エンコード力となると、SandyBridgeに明らかなアドバンテージがある旨の記述が散見される。
特に、SandyBridgeの新機能「Intel Quick Sync Video(QSV)」によりエンコードが高速化されており、LGA775ソケットの最高クラスの性能を持つQ9650を用いた場合でも、Core-i7 2600(あるいはK定格)などのミドルエンドCPUはもちろんCore-i5-2400Sなどの省電力モデルにも差をつけられているという結果が出ている(但し、Xeon1290はQSV使用不可:後述3‐4.)。

http://www11.plala.or.jp/hikaku/pc/parts-d/cpu.html
(現在、このリンク先はCore-i7-3960Xを含むデータに更新されており、Core-i7 990XやCore2Duo Q9650等の旧世代のCPUのデータは削除されている)

このような実力を持つSandyBridgeで、しかも定格3.6GHz、Turbo Boost時には4GHzに到達している4コア8スレッドの本CPU、Xeon E3-1290ではどれほどのパフォーマンスを示してくれるのか、というのが本レビューの着想点である。

左がQ9650、右がE3-1290
左がQ9650、右がE3-1290


新旧2CPUを並べて見ても、両者に大きさの違いは見られない。
それでも、Xeonはクロック数で上回り、Turbo Boost、HyperThreadingに対応している。
更に、ECCメモリにも対応し、TDPは両者で変わらない。
Q9650は発売から約三年経つが、これほどの(性能的に)上位互換CPUを手にすると得も言われぬ気持ちになる。



《2. 実験》
2-1. PCの構成
今回用いたパソコンの構成は以下の通り。


CPU: 当該製品 仕様表
CPUクーラー: 峰2 SCMN-2000
M/B: P8Z68-V LE
OS: Windows 7 Enterprise(64bit)
メモリ: JM1600KLN-8GK ×2(DDR3-1600 4GB ×4)
起動用ドライブ: CT256M4SSD2
グラフィック: HD6850 1G GDDR5 PCI-E
サウンド: Sound Blaster X-Fi Xtreme Gamer
オプティカルドライブ: パイオニア RoHS対応S-ATA内蔵DVD-Sマルチドライブ ブラック DVR-S17J-BK
電源: KEIAN ATX電源「BULL-MAX」 600W 80PLUS BRONZE KT-F600-12A
ケース: サイズ RAIDMAX ATXミドルタワーゲーミングケース ALTAS(アルタス)


また、比較のために用いたCore2Quadのパソコンの構成も以下に記す。

CPU: Intel Core 2 Quad Q9650 3.00GHz 12MB 45nm 95W

CPUクーラー: 峰2 SCMN-2000(Xeon機に同じ)
M/B: ASROCK マザーボード P5B-DE
OS: Windows 7 Enterprise(64bit) (Xeon機に同じ)
メモリ: Buffalo PC2-6400 2G×4
起動用ドライブ: インテル SSD 320 120GB
データ保管用: HGST HTS725050A9A364 500GB 7200rpm
グラフィック: HD6850 1G GDDR5 PCI-E (Xeon機に同じ)
サウンド: Sound Blaster X-Fi Xtreme Gamer(Xeon機に同じ)
オプティカルドライブ: パイオニア RoHS対応S-ATA内蔵DVD-Sマルチドライブ ブラック DVR-S17J-BK (Xeon機に同じ)
電源: KEIAN ATX電源「BULL-MAX」 600W 80PLUS BRONZE KT-F600-12A (Xeon機に同じ)
ケース: サイズ RAIDMAX ATXミドルタワーゲーミングケース ALTAS(アルタス) ALTAS (Xeon機に同じ)



2-2. 実験内容、並びに用いたソフトウェアについて
実験内容は

I. 2-1.で示した構成で当該CPUが動作するか

II. 当該CPUの動画編集・エンコード能力に関するテスト

である。まず I. について、今回のPCの組み立てでは動作保障の無いチップセットZ68を用いたP8Z68-V LEを用いる。
このチップセット、このマザーボードで動くかどうかが最初の障壁となる。
次に II. についてであるが、ここではフリーのソフトウェア
・Windows Live Movie Maker(WLMM)
・TMPGEnc Video MasteringWorks 5(体験版;TMPGEnc5)
を用いて変換速度をチェックする。
用いる動画は筆者が以前にニコニコ動画に投稿した

の未編集のもので、近くに再編集してYouTubeにアップロードの予定である。
変換速度をチェックする際は無編集のまま形式のみを変換する。
なお、未編集の段階で動画の各パラメータは


容量: 946 MB
長さ: 27:40
フレーム: 720x480
データ速度: 9571 kbps
総ビットレート: 9827 kbps
フレーム率: 29 fps


となっており、WLMMで変換(推奨設定で保存)後は


形式: .wmv
容量: 1200 MB
長さ: 27:40
フレーム: 640x480
データ速度: 7000 kbps
総ビットレート: 7128 kbps
フレーム率: 29 fps


となるように、またTMPGEnc5では


形式: .mp4
容量: 794 MB
長さ: 27:40
フレーム: 720x480
データ速度: 3883 kbps
総ビットレート: 4011 kbps
フレーム率: 29 fps


となっている。



《3. 結果・考察》
3-1. PCの組み立てについて(2-2-I)
今回Xeon E3-1290のレビューのために、CPUを除き以下のパーツを新たに用意した。
・P8Z68-V LE

・JM1600KLN-8GK ×2

・CT256M4SSD2

特に、マザーボードについては動作保証がないが、それ以外については無難なパーツ選びであると考えている。
使用感については、それぞれの項目で言及する。
まず、マザーボードとCPU・メモリをセットした。

CPUとメモリをインストールしたところ。やや両者の距離が小さく感じる
CPUとメモリをインストールしたところ。やや両者の距離が小さく感じる


ここでちょっと問題になったのがクーラーの取り付けで、今回使用した峰2 SCMN-2000は1156ソケットへの対応こそ明記されているが、1155への対応は未確認であった。
もちろん、1156に対応していれば原理的には取り付け可能であるが、バックプレート干渉の問題が存在する。
この物理干渉のために特殊なリテンションキットの購入の必要に駆られる場合もあるのだが、幸いにして峰2 SCMN-2000に付属していたバックプレートは1155ソケットに干渉しない作りになっていた。
これは筆者が未確認であっただけで、メーカーの方で既に確認されていた模様。

CPUクーラーと一部のLGA1155マザーとのバックプレート干渉について(現在リンク切れ)
峰2 製品詳細 (現在では販売終了)

その他は概ね問題無く、パーツの取り付けは一通り終わった。

組み立てを一通り終えた様子
組み立てを一通り終えた様子


この際、ケースファンファンコントローラーフロントI/Oパネル
を増設したが、それぞれの内容はそれらのアイテムの項目で述べることにする。

そしてスイッチを入れると、問題なく動作しマザーボード、OSともにXeonE3-1290を認識していた。

マザーボード、Xeon E3-1290を認識
マザーボード、Xeon E3-1290を認識

 

OS、Xeon E3-1290を認識
OS、Xeon E3-1290を認識



CPU名、クロック数、スレッド数いずれも問題なく、ASUS製のZ68マザーボードP8Z68-V LEでも当該CPUにより起動可能なことが分かった。
また、Windows7ExperienceIndexを以下に示す。

エクスペリエンスインデックス
エクスペリエンスインデックス


このCPUでも最高値7.9に届いていないが、現時点('11/9/20)で最高のパフォーマンスを誇るインテルCPU、Corei7EE 990Xでもスコアが7.8に留まるという報告もあるので、妥当な値であるともいえる。


3-2. 動画のエンコード能力について(2-2-II)
まず、WLMMを用いて動画を変換にかかった時間を記す。

 Q9650 7 min. 1 sec.
 E3-1290 3 min. 58 sec.

エンコード時間に顕著な差がみられている。
これは時間の比率に直すと、

 (Q9650) / (E3-1290) = 1.77

となっている。はっきりとE3-1290にアドバンテージがある。
もし動画変換が作業が主なPCの用途である場合には、Q9650からE3-1290への乗り換えは十分意義があるように見える。
もっとも、コストパフォーマンスを考えればCorei7 2600辺りがベストであろうが。

一方で、TMPGEnc5についても速度測定を行った。
本ソフトウェアはIntel QSVに対応(後述3‐4.)しているため、更なる速度比の期待できる。
そしてその結果は

 Q9650 19 min. 55 sec.
 E3-1290 10 min. 38 sec.

となった。
やはり両者のエンコード時間にはっきり差が現れた。
しかしながら、こちらもWLMMと同様に時間の比率を求めると、

 (Q9650) / (E3-1290) = 1.81

となり、WLMMと比較したときに速度向上を認めるのは難しい。

この結果は筆者としては大変不思議なもので、速度測定中の挙動と一致していない。
と、いうのは、E3-1290をもちいてWLMMによりエンコードした際のCPU使用率は平均して50パーセント強であった。(Q9650で70~80%程度)

右上がCPU使用率
右上がCPU使用率



一方で、TMPGEnc5を用いた変換の際には両CPUともに100%近い使用率となっており、ここからはWLMMと比較して劇的な速度変化を期待した。

同じく右上にCPU使用率
同じく右上にCPU使用率



しかし、結果としては両者に差はなく、Intel Quick Sync Videoの威力を感じ取ることができなかった(後述3‐4.)。

また、上でも紹介した

http://www11.plala.or.jp/hikaku/pc/parts-d/cpu.html

のページのエンコード速度のスコアは

 Corei7 980X EE 99
 Corei7 2600K 102
 Core2 Quad Q9650 161

となっている。これは数字が小さいほど高速度で、もしこれがエンコードに要した時間に直線的に比例すると仮定すると、ここからも (Q9650) / (E3-1290) と同様な速度比の算出が可能になる。
速度比を求めると、Core i7 980X EE、Corei7 2600K両者とも1.6程度になっている。
これとXeonの値(≒1.8)を比較すると、上記仮説が正しいとすれば、これら二つののCPU(980X、2600K)に対して1~2割程度のエンコード速度の上昇を認めてもよいと思われる。


3-3. 本CPUを使用してみて
本CPUを用いて動画作成ならびにYouTubeへの動画投稿を行ってみたが、従来の4コアCPUとは比較にならない快適さであった。


これは動画編集・エンコードともに随分力を発揮してくれるであろう。
一方で心配になったのが、消費電力についてである。
現在、600W電源を使用しているが、動画編集など高負荷な操作を連続して行ってゆくときに電源の容量が十分かどうかは未確認である。
この先RAIDやCROSSFIREなど試してみたい技術は多々あるが、現状では電源的に楽観視できないと考えられる(特にCROSSFIRE)。
また、ECCメモリやサーバー向けOSを使用したときの動画編集能力等にも大いに興味が有り、将来的には是非試してみたいと考えている。


3-4. QSVについて
筆者自身に錯覚していたのだが、本CPUはQSV技術が使用できない。
内臓GPUがないことは知っていたが、内臓GPU無し=QSV使用不可は指摘されるまで知らなかった。
そういう意味では、3-2にてQSVの威力を~などと述べたがQSV対応ソフトウェアと非対応ソフトウェアで性能に差が出ないのはごく自然なことで、むしろQSVに頼らぬ性能差を綺麗に反映した結果と言える。
動画編集機として使用するために、何らかの工夫を模索しなければならない。


3-5. Turbo Boostについて
本CPUは高負荷時にクロック数が4.0 GHzまでアップする性能を持っており、そのクロックの達成を見ることも本CPUを使用する一つの楽しみであった。
そこで、3-2と同様に動画編集ソフトを使用したり、ウインドウズエクスペリエンスインデックスの評価を行わせたり、ビットレートの高い動画を再生してみたりといった方法でCPUに負荷をかけ、CPU-Zによりそのクロック数をモニタした。
ところが、上記のような負荷がかかった状態では最高でも倍率が39倍止まりで、あとほんの少しであるが4.0 GHzに届かない。
それだけではなく、通常は

  1.6 GHz(アイドル時)→3.6 GHz(通常時)→4.0 GHz(高負荷時)

という挙動が期待されるところであるが、筆者の環境であると、

  1.6 GHz(アイドル時)→3.7~3.9 GHz(通常時・高負荷時)

という変化を示す。
BIOSでは間違いなく通常時とTurbo Boost時のクロック数をそれぞれ3.6 GHzと4.0 GHzとして設定しているものの、CPU-Zによりクロック数を観察している限りにおいては、いずれのクロック数も見られていない。
BIOS、OSやCPU-Zには間違いなくXeon E3-1290として認識されているのに加え、動作に全く不安定さは見られないのでこの辺りの挙動は使用するうえで一切支障は無いが、もしかするとXeonの動作を保障しないZ68チップセットを用いた際の唯一といってよい弊害であるのかもしれない。

何故かCoreTempにはCore i7 2700として認識されている。
何故かCoreTempにはCore i7 2700として認識されている。





《4. 結論》
・当該CPUはASUS製のZ68チップセットマザーボードP8Z68-V LEでほぼ問題なく使用可能である。
・エンコード速度はQ9650の約1.8倍程度になった。
・本CPUの公称クロック数は通常時3.6 GHz、TB時4.0 GHzであるが、筆者の使用環境では3.7 GHzから3.9 GHzの間を推移している。原因は不明であるが、動作保証のないチップセットにて稼働させていることに起因している可能性が高いと考えられる。



《5. 謝辞》
本レビューはインテル株式会社ならびにzigsow株式会社よりCPU、Xeon E3-1290の提供を受け行われました。
この場を借りて厚く御礼申し上げます。

コメント (18)

  • bibirikotetuさん

    2011/09/18

    レビューお疲れ様でした。
    トム様らしいレビュー楽しく興味深く読ませていただきました。
    追加検証期待して待ってます。
  • トム様さん

    2011/09/18

    >>bibirikotetuさん

    有難うございます。
    上記のとおり電源周辺は追加検証しないと怖いところで、定格4GHzを見るのを楽しみにしてたのにTurbo Boostだとシステムが危ないなんてことになったら元も子もないですよね。
  • M.T.オーエンさん

    2011/09/18

    1290はGPUが使えませんが、QSVは使えるのでしょうか?
    QSVはGPGPUの一種だと思っていたのですが…。
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