以前から着手しようと思いつつ、未だに実行できていないメインPCの入れ替え作業。
メインPCのストレージ環境はPCI Expressどころか、SATA 6Gbpsにすら対応していないのですが、新PCの準備だけは進めていて、部品レベルではとっくに一式(どころか2セット分以上)揃っているという状態です。
その新PCの最後の1ピースとして検討し続けていたのが、NVMe対応SSDでした。一応以前250GBのWestern Digital WD Black WDS250G2X0Cは購入していましたが、メインPCで使うとなると少々手狭ですし、そもそも放置している内に少々世代遅れとなってしまっていました。
ただ、AMDプラットフォームでは既にPCI Express 4.0対応が進んでいるとはいえ、Intelプラットフォームでは未だにPCI Expressは3.0までの対応となっていて、NVMe SSDも大手ベンダーの製品はまだPCI Express 3.0対応品が主流です。それでは、世代遅れであるはずのWDS250G2X0Cが現時点でどの程度の性能となるのか、PCI Express 3.0対応品としては最新世代となる Crucial P5 3D NAND NVMe™ M.2 SSD の500GBモデル(以下、製品型番のCT500P5SSD8JPと表記)を試用させていただくことで探ってみようと思います。また、従来のSATA HDDやSATA 6Gbps対応SSDとの比較も交えて進めていきます。
まずは今回試用させていただく、CT500P5SSD8JPを確認してみましょう。
外箱のイメージは、今までにも何台か使ってきた、SATAのCrucial MX500などと似ています。ただ、手に持つと本当に中身が入っているのか心配になるほどの軽さです。
高速モデルではありますが、ヒートシンク等は標準装着されておらず、自分で必要に応じて用意するというスタンスのようです。近年はマザーボードにM.2 SSD冷却機構が備わっている場合もあり、下手に標準装着しない方がむしろ利便性が高いのかもしれません。
今回は新PCの構築が間に合わなかったということで、検証用PCであるIntel Core i7-6700+Supermicro C7Z270-CGの環境(メインのPCよりは現代的な構成となります)に搭載してこの後の検証を行いました。なお、このPCの詳細な構成および各パーツのレビューへのリンクは、レビュー末尾に掲載しています。
まずはPCに搭載して、Crucial純正のSSDユーティリティ、Crucial Storage Executiveでデバイス情報を確認してみましょう。
Crucial製SSD用のユーティリティですが、他社製SSD/HDDでも情報自体は表示されます。但し、Crucial製SSDの場合のみファームウェアの更新チェックなどが機能するようになっています。
より詳細な情報が表示できるほかS.M.A.R.Tで取得できる情報等も参照可能です。ファームウェアのバージョンチェックを実施してくれるのはなかなか便利な機能だと思います。
また、S.M.A.R.Tの生の値はPC自作ユーザーお馴染みのCrystal Disk Infoでも参照できますので、こちらで確認しても良いでしょう。
書き込みの速さが強み
実アプリケーションにおける検証の前に、まずはベンチマークテストをいくつか実行して客観的な性能を確認しておきましょう。
HDD/SSDの定番ベンチマークソフトであるCrystal Disk MarkはVer.6系とVer.7を実行してみました。
・Crystal Disk Mark 7.0.0 (x64)
▲Western Digital WDS250G2X0C (NVMe SSD)
▲Crucial CT1000MX500SSD1JP (SATA SSD)
▲TOSHIBA MD05ACA600 (SATA HDD)
PCI Express 3.0環境のM.2スロットでは最大転送速度は理論値で約4GB/s(32Gbps)となりますが、ストレージデバイスの速度の上限は概ね3.5GB/s程度といわれています。
Crucial CT500P5SSD8JPの速度は、その上限に迫るほどの素晴らしいスピードです。他社製の高速モデルでも、読み出しで3,000MB/sを超えてくるものは多くあったのですが、書き込みで3,000MB/s超えをたたき出す製品は滅多にありません。
Western Digital WDS250G2X0Cも読み出しでは3,000MB/sを超えてきていて、高速モデルらしいところは見せているのですが、書き込み性能で極端に差が付いています。WDS250G2X0Cは250GBと小容量であることが不利に働いている部分もあるのですが、同シリーズの500GBや1TBのモデルであっても3,000MB/sには遠く及ばない程度の速度しか出ていなかったことを考えると、CT500P5SSD8JPの速度はやはり同クラスでも頭一つ抜けたものと評して良いでしょう。
SATA SSDのCT1000MX500SSD1JPやHDDのMD05ACA600も、それぞれのジャンルの中では十分優秀な速度性能を誇っている製品なのですが、NVMe SSDの高速モデルと比較してしまうと、さすがに分の悪い結果となってしまっています。
・Crystal Disk Mark 6.0.2
▲Western Digital WDS250G2X0C (NVMe SSD)
▲Crucial CT1000MX500SSD1JP (SATA SSD)
▲TOSHIBA MD05ACA600 (SATA HDD)
傾向はCrystal Disk Mark 7.0.0とほぼ同様ですが、WDS250G2X0Cのシーケンシャルライトが伸び悩んだ結果、CT500P5SSD8JPの優位性がより強調される結果となりました。逆に言えば、CT500P5SSD8JPの値が条件にかかわらず安定しているということになるでしょう。
・ATTO Disk Benchmark 4.00.0f2
▲Western Digital WDS250G2X0C (NVMe SSD)
▲Crucial CT1000MX500SSD1JP (SATA SSD)
▲TOSHIBA MD05ACA600 (SATA HDD)
Crystal Disk Markと比べるとピーク値はやや伸びませんが、CT500P5SSD8JPではRead 3.15GB/s、Write 2.8GB/s程度の値でまとまっていて、データサイズによる差もあまり生じていないという傾向が見られます。一方でWDS250G2X0CはRead側こそ2.85GB/s付近で安定するものの、Write側が800MB/s~1.0GB/s付近でかなり変動します。実使用環境を想定すると、値のばらつきが大きいと動作の引っかかりに感じられることが多く、CT500P5SSD8JPの安定度は体感速度にも良い影響を与えるものと思われます。SATA SSDやHDDについても、それぞれ優秀な値は出ているのですが、さすがにNVMe SSDと比べると平凡な値に止まってしまいます。
・HD Tune Pro 5.75 (Readのみ)
▲Western Digital WDS250G2X0C (NVMe SSD)
▲Crucial CT1000MX500SSD1JP (SATA SSD)
▲TOSHIBA MD05ACA600 (SATA HDD)
HD Tune ProはSSDの測定を行う際には、どちらかというと単純な速度よりもバラツキなどの傾向を見るのに適したテストとなります。
その観点では、CT500P5SSD8JPの速度の安定度とアクセス時間のバラツキの少なさは特筆に値します。速度を表す線グラフも、アクセス時間を表す黄色い点も、ほぼ直線上に並んでいて、しかもそれが高水準なのです。
Crystal Disk MarkなどではReadでCT500P5SSD8JPに肉薄したWDS250G2X0Cですが、HD Tune Proでは転送速度の線グラフに段ができていて、黄色い線も散らばっていることが見て取れます。
SATA SSDのCrucial CT1000MX500SSD1JPも絶対的な速度こそ違うもののグラフの形状はよく似ていて、Crucial製SSDの安定度の高さを示しているようです。HDDのMD05ACA600は、性質上どうしても内周に向かうに従って速度が落ちていくという、右肩下がりのグラフとなります。
これまでのベンチマークテストで、いろいろな角度から見てCT500P5SSD8JPの総合的な性能の高さが確認できたのではないかと思います。開始前に示したテーマである、旧世代の高速型SSDであるWDS250G2X0Cとの性能差は確実に実感できるものと結論づけて良いと思います。
ディスク性能の向上で快適性が増す
今回応募時に私が掲げたテーマは「Adobe Premiere Proの快適性が向上するか検証する」というものでした。
私が現時点でメイン級で使っているPCにWindows 10を動かしているPCが存在せず、今回の検証用PC(Windows 10 Pro)にAdobe Creative Cloudを導入することで、初めてPremiere Pro 2020という最新バージョンに触れることができました。
そのようなわけで若干手探り状態ながらも、Premiere Proで動画を制作して、その快適性の違いを確認してみようと思います。
▲すべてのドライブはこの状態で、フォルダ内のファイルも全く同一
▲Premiere Proの環境設定。すべてDドライブを利用する形
検証は、先にベンチマークテストを行った計4つのデバイスのすべてに、全く同じ内容を書き込んだ上で、テスト対象のドライブをDドライブに設定するという形で行いました。プロジェクトは書き出し寸前までの工程を終わらせておき、各種エフェクトを適用した上で動画ファイルを書き出す際にかかる時間を計測しました。
この動画のソースファイルは、動画についてはSONY α6000の1,920×1,080 60fpsで撮影したもの、音声については別途オーディオインターフェース(MOTU 1296)経由で、24bit/88.2kHzのWAVで録音したものを読み込んでいます。その他利用機材の詳細は、動画の最後の方で表示しています。
なお、このときに時間を計測するための動画は約4分のものでしたが、公開するに当たって動画の後ろの方を付け足したため、以下に掲載している完成版はそれよりも1分以上長いものとなっています。
そして、出力に要した時間は以下の通りとなりました。
わずか4分程度の動画でも、それぞれの性能に応じた有意な差が認められたことに驚きます。
今回は動画のソースも同一のドライブに置いたことで、読み書きの総合性能が問われたことも影響しているのでしょう。
それでも、今回のPCは今となってはお世辞にも高性能とはいえないCPU(Core i7-6700)を搭載していますので、ディスク性能に関係なくほぼ横並びになるものと予想していました。これが現行世代の高性能CPUのように、高クロックかつ多スレッドのCPUを搭載したPCであれば、よりディスク性能の差がはっきりと表れていた可能性もあります。
実際に何らかの動画を出力するのであれば、所要時間はこの10倍以上になることもあるでしょうから、この差がより優位なものとなって表れるかもしれません。
CT500P5SSD8JPは読み書き共に高速ですから、OS起動用にも適した製品だと思いますが、動画編集を主目的とするようなPCであれば、編集作業用に別途搭載しておくことで、所要時間の短縮や操作の快適性向上が見込めるものと思います。
実アプリケーションを想定してチェック
今回の主目的であるAdobe Premiere Proにおいては十分性能面の恩恵を感じ取れたわけですが、それ以外の用途であればどうなのか、もう少し検証してみましょう。
まずはゲームプレイについての検証ですが、私自身重量級のゲームを遊ぶことがまず無いので、率直に言って意味のある検証か判りませんが、Steam経由でプレイしている「英雄伝説 閃の軌跡III」を動かしてみましょう。
検証方法はPremiere Proの時と同じで、Steamのフォルダーを全ドライブにコピーしておき、ドライブレターを切り替えて差を確認するというものです。
結論から言えば、HDDとSSDの間には「Now Loading」の表示時間に差が付くなど、体感できる程度の差があったのですが、SSD3機種の間には有意な差は見いだせませんでした。手持ちのゲームの中では比較的重いとはいえ、最近のPCゲームと比べればかなり軽い方となるタイトルなので、この結果も仕方ないとは思います。
これだけでは物足りないので、同じくSteam経由で利用している「PCMark 10」(Futuremark)で、実アプリケーションに近い形のテストを行ってみましょう。
今回はプリセットされている「PCMark 10 Express」(所要時間約18分)の結果を掲載します。
総合結果ではわかりにくいので、「Essentials」内の「App Start-up Score」の部分に注目してください。
▲Western Digital WDS250G2X0C (NVMe SSD)
▲Crucial CT1000MX500SSD1JP (SATA SSD)
▲TOSHIBA MD05ACA600 (SATA HDD)
この「App Start-up Score」の値は実際のドライブの性能差とかなり近いという印象です。SSDとHDDの差はやや小さく感じられますが、SSD同士を比較すると順当な差が付いたように見えます。
ここまで使ってみて、少なくとも速度面において、CT500P5SSD8JPにはネガティブな要素は見られませんでした。このクラスとしては後発の製品ですが、それだけにじっくりと完成度を高めてリリースされたということが伺える結果となりました。
ヒートシンクは取り付けた方が良さそう
性能面では文句ない優秀さを見せたCT500P5SSD8JPですが、少しだけ気になる点がありました。
ストレージデバイスの全領域にアクセスするテストである、HD Tune Proを実行した後のことです。念のためにHWINFO64というツールで各デバイスの温度をロギングしていたのですが…。
CT500P5SSD8JPのあとでWDS250G2X0Cのテストを実行したわけで、何れのデバイスにも高負荷が連続してかかっていたことになります。そこでHWINFO64の「Maximum」の部分に注目してみましょう。
CT500P5SSD8JPには2つの温度センサーが用意されているのですが、そのうちのセンサー2の方で、最大82℃を記録しているのです。ちなみにこのテスト実行時の室温は27℃程度だったと思います。
テストの実行時間はさほど長くないので82℃で収まったのでしょうが、もう数分連続負荷がかかると、発熱の限界を超えていわゆる「サーマルスロットリング」(過熱状態を防ぐために強制的に動作速度を下げること)が発生してしまうでしょう。
本格的に速度を追求するのであれば、ファンを装備するなど放熱性能が高いSSDクーラーを装着するのが正解でしょうけど、今回はレビュー終了まで不可逆的な作業は行わないことにしていたため、単に貼付する形のヒートシンクを装着することにしました。
表面のカバーを除去した方が放熱性能は上がる筈ですが、前述の通り不可逆的作業は行わないという大前提があるということ、また若干破損のリスクが上がることからカバーの上にヒートシンクを装着しています。
このヒートシンクは熱伝導パッドがSSD上の各チップに触れるように、耐熱テープで固定するだけですので、取り付け難易度は極めて低いといえます。
このヒートシンクの取り付け後は、連続稼働しても最大71℃までで済んでいましたので、これだけでもそれなりの意義はあったといえます。半導体は動作温度を下げた方が耐久性も速度性能も上げられますので、可能であればより温度を下げる方策を立てるべきだとは思いますが。
PCI Express 3.0環境で性能を求めるのであれば、最有力の選択肢
実は、私は以前Western Digital製の現行製品であるWD Black SN750 WDS500G3XHCのレビューも書かせていただいたことがありますが、CT500P5SSD8JPは後発らしく先行する製品を性能面できちんと上回るように設計されていると感じました。
もっとも、WD Black SN750 WDS500G3XHCの方は速度では一歩譲るものの、標準装着のヒートシンクが極めて優秀で、高性能でありながらユーザーが発熱を気にする必要がほぼ無いというメリットがあり、この辺りは好みや状況に応じて選び分けるのが正解ではないかと思います。
現時点ではAMDプラットフォームでPCI Express 4.0をサポートしていて、一部メーカーがそれに合わせたPCI Express 4.0対応のSSDを発売していますが、それと比較してもPCI Express 3.0環境のCT500P5SSD8JPが書き込みではほぼ同等の速度を達成しているというのは驚きです。まだメインストリーム環境でPCI Express 4.0をサポートしていない、Intelプラットフォームのユーザーであれば十分に最速クラスの製品と言って良いでしょう。
ただ、Intelも次世代プラットフォームでは遂にPCI Express 4.0をサポートすると言われていて、そのときに恐らく各大手ベンダーも、SSDをPCI Express 4.0に対応させてくるでしょう。そうなった時に、SSDの性能争いはまた新たな局面を迎えることになるのではないかと思います。
とはいえ、次世代プラットフォームのリリースはまだしばらく先の話です。現時点においてはこのCT500P5SSD8JPを含むCrucial P5 3D NAND NVMe™ M.2 SSDは、ハイエンドクラスの性能達成した高性能モデルであることは間違いありません。速さを追求するのであれば、最有力の選択肢となり得るでしょう。
本レビューで利用した機材等一覧
今回利用したPCの構成は以下の通りとなります。
以下、各パーツのレビューへのリンクです。
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