人間は哀しい生き物で、超人でもなければ全ての出来事を覚えておくことは出来ない。
そこでモノに残す。
メモを取り、写真に写し、録音し、録画する。
...でも、モノは劣化する。
紙は日に焼け、写真は色あせる。
テープはヘッドと擦れてよれ、ビデオテープは湿気を含んで黴る。
でもなにより問題なのは「再生環境」だ。1980年ごろに始まった記録デバイスの進化と変遷はものすごく、録音機器も録画機器も数々の変遷を受けてきた。
録音分野としては(それ以前のオープンリールは置いておいても)コンパクトカセットテープ⇒DAT⇒MD⇒CD-R⇒シリコンオーディオなどへと変遷してきた。
録画分野としてもVHS(あるいはβ)ビデオ⇒(Hi)8ビデオ⇒ハードディスク⇒フラッシュメモリと変わった。
こうなると問題なのは再生環境。年につれて変遷する記録メディアの再生環境を完調のまま保つ、というのは多大なコストとスペースと努力を必要とする。しかし「忘れる」生き物である人間は過去のキロクをいつでも引き出せるようにとっておきたい。
かくして、昔のメディアから現行のメディアへのコンバートが必要になってくる。
ただそのコンバート作業、意外にメンドくさい。特に最近はデータをデジタル化して取っておくのが普通だから、PCに収めるのが普通。キャプチャボードの搭載、録画(録音)ソフトの選定、フォルダの設定....やること山盛り。
ただそうした複数の記録メディアを所持しているのは、永く生きてきた...すなわちオジサン・オバサン世代以上のことがほとんど...若かりし頃の大会での勇姿や結婚式の記録、我が子の誕生の瞬間...そういったものを残したくとも最新の録音・録画デバイスやPCの操作に疎いことも少なくない。
今回AVerMediaから発売された「キオクのひきだし AVT-C293」はそんな古いメディアをたくさん所持する世代にダイレクトにアピールする、PCレスでアナログメディアからデジタルデータ(mp4ファイル)を作ることができるデバイスだ。
おじいちゃんと孫とがキャッチボールをしているという設定なのであろう、とても「アナログデータデジタル化デバイス」が入っているとは思えないパッケージ。中身はDVDのトールボックスを2つ重ねたのとあまり変わらない大きさの本体とACアダプタ、ビデオ/音声入力ケーブル、HDMIケーブル、リモコン、取扱説明書、クイックガイドにUSBメモリ。本体はとてもシンプルで前面には電源ボタンとUSB端子の他は録画インジケータとリモコン受光部のみ。背面は付属のビデオ/音声入力ケーブルを接続する入力端子とHDMIとD端子+RCAステレオの2系統の出力端子、電源接続端子しかない。付属のビデオ/音声入力ケーブルは映像はコンポジットとSビデオ、音声はRCAステレオに枝分かれする。本体になにもついていない分、リモコンは色々なボタンがある。ただ、ボタンがとても大きい。カーソルキー様になっている部分の中央にある「決定」キーは少し小さいが、他のボタンはかなり大きい。また日本語の表示の他に一部のキーには記号や絵が描かれており、さらに色分けされているので一度覚えると間違えなさそうだ。
なお、キオクのひきだし AVT-C293には初期状態では記録媒体がセットされていない。付属のUSBメモリを前面のUSB端子に挿すか、そこにUSB接続のHDD、あるいはSSDなどの記録媒体を接続、もしくは2.5インチ内蔵HDD(SSD)を本体内に内蔵する必要がある。今回は手持ちの空いた2.5インチ内蔵HDDがなかったので、添付のUSBメモリ、もしくはUSB3.0/2.0対応2.5インチ外付ポータブルHDD
で検証した。
今回キロクをサルベージするのは
・“ダブルビデオ”ことSONY WV-ST1
・Pioneer DVDレコーダー DVR-510H-S
・miniDVビデオカメラ SONY DCR-TRV10
などかつてcybercat家でキオクをキロクしてきた機器。
接続方法はすべて同じでこんな感じ。気を付けなければならないのはUSB接続機器もファイルシステムはNTFSにする必要があること。一般には市販されているUSB接続機器はFAT系のフォーマットがほとんどなので、NTFSでリフォーマットする必要がある。
ただしご心配なく。新しい記憶媒体を「キオクのひきだし AVT-C293」に接続するとまずはフォーマット画面に移行するのでPCであらかじめフォーマットする必要はない。ただちょっと気になったのは「フォーマット」という言葉。PCを使ったことがある人にはなじみの言葉だが、テープtoテープのダビングしかしたことがない人にはどうなんだろう??
録画の手順はとても簡単。まず録画しようとすると毎回ガイダンス画面が現れる。次に録画対象機器を選択。最後にダビング時間の設定。再生側に対応した受け側のテープを入れるような要領か。しか~し!ここでちょっと違和感が。画面には「ダビングを開始する前にビデオ装置の再生ボタンを押してください」とあるが「次へ」で送って「ダビング開始タグ」に行ってしまうと録画スタンバイモードとなるが、そのとき映像入力がないと「再生信号なし」のエラーになってしまうのだ。実際には「録画開始ボタン」を押す動作があるのだが、ダビング開始タグに移動する=録画モードスタンバイの時点以前に、つまりこの「ダビング開始タグ」で再生機器をスタートさせる必要がある。ここがちょっと違和感。どうせ「録画開始ボタン」は押すので、「ダビング開始タグ」に移動してから再生開始タグを押す、あるいはこのままのつくりであれば「「次へ」のボタンを前にビデオ装置の再生ボタンを押してください。」の方がしっくりくるのだが。
一方再生側をスタートさせて「次へ」を押すと録画開始ボタンを好きなところで押せとの指示。この時点でF1キーを押すことで4種の色調補正を入れることができる。これらを実行したあと録画開始ボタンを押すことになる。
...ということは、目的の録画区間以前に充分余分の録画がある場合は問題ないが、頭から録画したい映像がはじまっている場合は
・再生機器を再生させる
・一時停止ボタンを押す
・頭まで巻き戻す
・「キオクのひきだし」を録画時間設定後「ダビング開始タグ」に移動する
・(必要なら)色調補正する
・再生機器側をスタートさせながら、直後に録画開始する
という手順が必要になる。
これってどこかで.....そうまさしくテープデッキを二つ接続して行うテープtoテープのダビングの要領。この感覚が理解できればPCに疎い人でもすぐに使うことができる。
そのあと保存するジャンルを選び名前をつけて保存してキロクのサルベージ完了!ジャンルごとに分類されたビデオから目的のファイルを選んでやれば!キオクが蘇る!
前述のように比較的簡単な操作でキロクのサルベージができる「キオクのひきだし AVT-C293」だがリモコンの名前の入力の操作性がイマイチだ。かな、英語、数字を選んで確定させるのだが、なんと「一文字ずつ確定」なのだ。また漢字変換機能などもなく、長い名称はわかりにくい。
そこで!
せっかくUSBというPCに親和性の接続方法の保存先を採るので、何とかならないか検証!
映像ファイルは保存先の「AVerMediaフォルダ」に「ジャンル」_「録画年月日」_「名称」.mp4という名称形式で保存される。この「名称」のところを漢字などに書き換えてやれば、「キオクのひきだし AVT-C293」側で観たときもきちんと反映される。
mp4ファイルを同フォルダ内でコピーし、一つを漢字交じりにリネームしてみた。PCレスで使う、というコンセプトとは反するが、圧倒的に見やすくなるので、活用したい機能だ。ただNTFS形式の外部ドライブだからか、PCに接続するとエラーメッセージが出てしまうのはビックリするが。
今回PCレスで簡単に所持する映像をデジタル化できるデバイス「キオクのひきだし AVT-C293」を使う機会を得た。
「テープtoテープダビング」の現代版ともいえるその作りは、特にPCを使うのに躊躇する世代にも対応できる仕上がりだった。
とても簡単に使える部分が多かったが、メニューの作りやリモコンの操作性では今一歩追い込んでもらいたい面もあった。メニュー・ガイダンスの表示方法などはファームウエアの更新で対応できる可能性が強いので、ぜひもう少しわかりやすい表現に改善して戴きたい。
そうすれば、お手軽簡単なキオクの再生装置になると感じた。
とても簡単に操作もできるので、自分のキオクのサルベージのみならず、キカイオンチ世代のおじいちゃん/おばあちゃんに孫の成長記録をUSBメモリに入れて郵送してみてもらう、などの使い方も可能。そういう意味ではキオクの引き出しは世代間のコミュニケーションツールになる可能性も秘めたデバイスだと感じた。
末筆とはなりましたが、今回このような機会を与えてくださった アバーメディア・テクノロジーズ株式会社様、zigsow事務局様に御礼申し上げます。またレビューアップまでの応援など常に支えとなってくれたおものだちの皆様はじめzigsowerの方々に感謝いたします。
ありがとうございました。
【AVT-C293仕様】
入力:映像=コンポジット/Sビデオ、音声=RCAステレオ
出力:HDMI/D端子D4/D5+RCAステレオ
対応ストレージ:
外付けストレージ:USB 2.0 HDD/フラッシュメモリー
内蔵ストレージ:2.5インチ型HDD (SATA接続 7/9.5mm厚)
録画形式:MP4(コーデック: H.264とAAC)最長連続録画8時間
静止画形式:JPG
対応解像度:NTSC (480i)
消費電力:4W (本体のみ)
寸法:幅190x奥行き152.5x高さ33.5mm
重量:425g
付属品:ビデオ/音声入力ケーブル、HDMIケーブル、リモコン、取扱説明書、クイックガイド
キオクの彼方のテープtoテープダビングのイメージ
「キオクのひきだし AVT-C293」を使うのは、キオクの彼方から懐かしいテープtoテープのダビングの要領を想い出すと簡単。
・再生側をスタートさせて
・頭出しをし
・一時停止させる
・「キオクのひきだし」に録画時間を設定し(必要な長さのテープ/ビデオテープを入れる感覚)
・録画側をスタートさせながら再生側の一時停止を解除する
これが「頭から」録音するための手順。
両手を使って一時停止解除ボタンと録音開始ボタンを押して頭から録音(録画)させる感覚はまさにテープtoテープのダビング。
ある世代より上の年齢なら、このことが理解できれば簡単に使用できる。
キオクのサルベージ、新人類にはちょっと敷居が高い??
miniDVのビデオカメラの接続から(最初から)やらせてみたが、接続は問題なくクリア。
グラフィカルな説明で全く迷わない。
所要時間は2分ほど。
ただ、ダビングには少し手間取った。
最初に分数を選ぶとか再生機器をスタンバイさせるとかの「手順」がしっくりこないようなのだ。
自分のPCも持ち、ファイルのコピーや移動などは独りでできる彼にとって、「再生機器をあらかじめ用意して」「再生しながらそれを取り込む」というのがちょっとしっくりこなかったらしい。
ただ、REGZAの録画中番組を後追い視聴してCMを飛ばしながら観ていると追いついて、同時に再生(リアルタイム視聴)しながら録画、と言うのを経験しているので、録画時間=再生時間というのは理解できたみたいだが。
先に再生させておいて録画をあとから追いかける、というのが慣れず、先に録画モードに入ってしまい、「信号がありません」となってしまうこと多々。
テープtoテープで「ダビング」したことがある世代の方が直感的にわかるかも。
某支配人@名古屋定住@イベント行きたいさん
2013/12/09
取り込んだ動画を持ち歩いて見られるのは楽でいいですよね^^
cybercatさん
2013/12/09
ただ操作性とか言葉の使い方にアンチPC世代への家電ライクな方向性と、PC使っている層への「この部分はわかってるでしょ?」的な「はしょり」が混在しているのが違和感がありますが。
KAOさん
2013/12/09
以前、TVのチューナーボードに外部入力端子があったので、
テープからダビングしたときがありますが、結構面倒でした。
その手間がだいぶ楽になるようですね~
cybercatさん
2013/12/10
>その手間がだいぶ楽になるようですね~
凝らなければね。
PC使ってる層は、結局取り込んだあとビデオ編集ソフトでカットしたりなんか手を加えそうですが。
白輝望さん
2013/12/14
>テープtoテープで「ダビング」したことがある世代の方が直感的にわかるかも。
頭出しが面倒なんですよねぇ・・・。
今の小学生はVHS知らないって人もいるのかなぁ。と思いますのでしょうがないですね。
こっちのレビューもやってみたかったです。
cybercatさん
2013/12/14
再生側を再生開始(直前)にしながら、録画側をスタートさせる、というのは。
ただ、テープtoテープの「ダビング」では再生側と録画側をともに一時停止させれば、どちらを先に用意しても良いんですが、これは入力信号検知機能があるので先に再生側をスターとさせねばならない、など制約がありますが。