レビューメディア「ジグソー」

既知なる姿、未知なる美

株式会社青幻舎様、zigsow様、関係者の皆様、
この度は、ENCYCLOPEDIA OF FLOWERS「植物図鑑」のレビュアーに選出いただきどうも有り難うございます。いたらぬところが多々あるとは思いますが、どうぞよろしくお願いします。

フラワーアーティストの東信氏が生けた植物たちを、椎木俊介氏が撮影した写真集である。
200点を超える写真と、1600種以上の植物が収録され、巻末には、掲載植物すべての学名・和名を記した索引を付されている。

紙は軽いものの質の良い物が使用されており、印刷も写真集に相応しい仕上がりである。
25×17×4cmの大型本で、重さも十分にあり片手では持ちにくい。
野山への携帯は、多分、難しい…


1)写真集としての印象

第一印象は「面白い」であった。
私達が通常見る生け花に、死の影を見るのは難しい。
しかし、生け花は、序章で東氏が記したように「その根から絶ち、枝葉を切り落とし、まったく別の花々と束ねる」とあるように、植物の命と引き替えに得られる。

普通、生け花の飾り付けには、その色や形がハッキリと分かるような背景(おそらく大抵の場合は淡い色だろう)が選ばれることが多いと思う。しかし、この写真集の大半は、黒=闇が背景になっている。しかも、その闇に沈むように植物の輪郭のはっきりしない作品が多い。
HIBRIDの章だけが、例外だ。

闇に消え入りそうになりながらも、色鮮やかで不思議な形状を見せる植物達。
東氏が、序章で記した「殺して生かす」という宿命を、表しているのだろうか。

そう考えると、背景の闇が、さらに意味深に見える。

とはいえ、個人的な感想を言わせてもらうなら、死の陰を感じる程ではない、というのが正直なところである。
この写真集を見ていて連想した美術品というのが、写真ではないが、エミール・ガレの晩年期の作品である。具体的には、松(1903)、大黄の葉(1903)、海馬文化瓶(1903)あたりである。
これらは、ガラスの盛りとその形状、そして鮮やかさと暗さが同居した色使いが印象的な作品である。何れも、死の影と生(というより作品作り)へのこだわりが感じられ、グロテスクではあるが、とても心動かされる作品である。

これら作品のような、死の影が残念ながら感じられない。その為、相対的に生へのこだわりが薄くなっている。よって、非常に綺麗で印象的な写真作品、で止まっていると感じた。
おそらく、「毒」の部分が少ないのだと思う。

但し、この「毒」の多少は、非常に個人的な感覚である。
だからこの作品に、生と死のメッセージや感動を感じ取れる人がいることは、全くおかしなことではないと考える。


2)植物図鑑としての使い勝手

図鑑:図や写真を中心にして事物を系統的に解説(物事の内容・背景・影響などをわかりやすいように説明すること。また、その説明。)した書物(大辞林第三版)。

…という定義に従えば、この本は「図鑑」とは言えない。
被写体の植物に対する系統的な説明は、全く無い。何より、図鑑として大抵の場合期待される「正確さ」が、ほぼ無いと言って良い。おそらく、野生の状態で見る場合は形も色も異なっており、この写真集から同じ植物を探し出すのは、難しいだろう。

この為、私としては、植物図鑑としては他の書物を検討することを、お勧めする。
あくまで、人工的な束に宿る美をすくい取った写真集と考えた方が、よいだろう。


3)特に印象に残ったページや花

「生と死」というキーワードにこだわるならば、P339 APPEARANCE 01 ツノゴマとバラである。
闇の中、あでやかに咲き誇る深紅の薔薇一輪に、絡みつくツノゴマ。

まるで、その後の散る宿命からは、決して逃れることができないことを示すかのように、ツノゴマが薔薇の花を縛っている。
べたな表現かも知れないが、ものすごく分かりやすくて印象に残る。

個人的な好みでは、HYBRID全体が良かった。
このHYBRIDだけは、背景がほぼ白で色も明るい。束になっている植物の種類も、2-3種と少ない。その為、植物の形そのものが楽しめる。
特に印象的だったのは、

P219 HYBRID 03 ガーベラとストレリチア、

P257 HYBRID 22 カラーとオニソテツ、

P273 HYBRID 30 アリストロキア・ギガンティアとカラー、
である。
何れも、植物の形状と画面の空白部分とのバランスが面白くて印象に残ったのだと思う。


4)一冊を通して感じたこと

生け花の写真集としては、「死の影」を意識させる、面白い切り口の作品集になっていると思う。
残念ながら、私には「死の影」を感じることはできなかったが、綺麗な植物達の写真集として、仕事等に疲れた時に目を楽しませてくれるだろう。

また、束になっていることで、知っているはずの植物達のまた違った面が見つかるかも知れない。
一枚一枚、丹念に見るも良し。パラパラ気ままに、ページをめくるも良し。巻末の植物名リストと索引から遡るも良し。
どういう読み方をしても、植物達の今まで知らなかった美を見つけることができるだろう。

花束は何故美しいのか、疑問に思っている方々へ、お勧めする。

詳細データ:
形態:ソフトカバー、大型本
総ページ: 512ページ
出版社:青幻舎
発売日:2012/7/31

30人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (4)

  • mickeyさん

    2013/01/20

    レビューを拝見しまして、植物図鑑かと思って
    いたのですが写真集のいろが濃いのですね。

    1600種以上の植物が収録された植物の
    写真集と考えると面白いかなと思ったり
    しました。普段見慣れた植物が、どのように
    写っているのか興味が湧いたりします(^^)

    レビュー、お疲れさまでした。
  • yookano794さん

    2013/01/20

    mickeyさま、コメントどうも有り難うございます。

    私も「図鑑」の部分とのバランスには興味があったのですが、写真集と考えていただいた方が、納得できるかと思います。

    それとは別に、束になった植物は、被写体として中々存在感がありました。
  • vingt-et-unさん

    2013/01/24

    これは手にとって眺めたい図鑑のようですね!
    私も欲しい!!
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