レビューメディア「ジグソー」

これは植物図鑑と言う名のフラワーアレンジメント作品集である。

 本来的に図鑑と言うものは、モノの識別・分類のためにあるものである。あるいは、その特性であったり背景であったりを説明するものである。通常の図鑑はそのために”般化”の作業を伴う。環境などに寄る個体差であったり、印象による情報の偏りなどを避けるために高度な分類の必要に迫られるほど、写真よりも点描によるデッサン画を用いることが普通であり、子供向けのものでも情報を保持したまま(あるいは強調すべく)デフォルメされている。
植物図鑑
植物図鑑

 実は最近、子供向けの図鑑を見ていて気がついたのだが、3-40年前の図鑑に比べ今販売されている図鑑の類は圧倒的に写真により構成されていることに気がつく。むろん、そのことにより希少な動植物や極地、様々な情報の現実性というか実在性は高いように思われる。が反面、自身が写真を生業として活動しており出版・印刷に関わっていると、単純に写真を使った方が編集が楽であったり(画像の調達を含め)、結果としてコスト的に安くあがることの方が要因として多い気がしているのである。
 話は脱線してしまったが、本書をそのタイトルのままに(いわゆる)図鑑という目的で見てしまうと、多くの人は結果として不満や反発を持つであろう。だが、大前提として自然の草花を写したものとは異なるという点は作者のまえがきにも書いてある。本書で扱われている"植物"とは自然に発生したものではなく、季節や場所さえも関係なく流通するもの(商品)であり人為的に選択され、人為的に改良され、人為的に組み合わせ、人為的に展示される。つまり、作者の言うところの”消費"の中に生きている植物なのだ。それら植物の"生命”としてのバックボーンを削ぎとり、美の一点に向けてアレンジされた作品をさらに強調すべく撮影されている。つまりそれは"般化"作業などではなく、むしろ"特化"作業なのだから、一般的な図鑑という概念で本書を見ると違和感を覚えるのは必然であろう。もちろん、こうした取り組みや本作品について私自身"アリ"だと思うし、そこに対してまったく異論はない。つまり、これはアート作品集なのである。巻末の学名による索引を引き合いに出して"だから図鑑なのである"的なレビューも散見されるが、これはアート作品集の巻末にある、画材・素材などの表記と同じ扱いと考えるべきであろう。
WHOLE
WHOLE

 本書は大きく3部にわかれた構成となっている。(タイトル的には5つなのですが、1部が3つに分かれているという解釈をしました)はじめに"WHOLE"。意味としては「全体」とか「丸ごと」と言った意味合いであろうか。そこからCOEXISTENCE(同時に存在すること)-FLOCK(群れ・群生)と続くのであるが、組み合わされた花々を全体というか一歩引いた観点から撮影されているように思える。というか、アレンジメントされた作品そのものといった感がある。色、カタチの全体的な組み合わせを黒バックと硬めのライトの中でギリギリ無駄な要素をそぎ落としている。私自身が料理関係の撮影をメインに撮っているということもあり、いささかわかりにくいかもしれないが、料理写真で言うところの、テーブル上にセッティングされた複数の料理や花、食器などに至るまでを含めて撮影されたテーブルイメージ的な作品なのかもしれない。
HYBRID
HYBRID

 2番めは"HYBRID"いわゆる生物学的な雑種の意味合いではなくここでは「組み合わせ」と考えたほうがよさそうだ。前の部とはまったく異なり、全編白バックの中で極力シンプルに見せようという意図が汲み取れる。いわゆる写真で言うところの"スチルライフ"的なアプローチでムリに要素を絞ることなく、そのフォルムをきちっと見せている。こちらはアラカルト料理を皿の上の構成のみで見せている写真といった感じである。
APPEARANCE
APPEARANCE

 3番目にまたバックは黒に戻る。"APPEARANCE"外観などの意味合いもあるが、ここでは「現れる」見えてくるもの。と考えるべきだろうか。よりギリギリまで要素を排除し、さらに色とカタチあるいは質感そのものを強調しているように感じる。ライティングやアングルだけではなく、かなり被写体に寄っている撮り方である。また料理写真に例えてしまい申し訳ないが、料理と言うよりは料理素材のイメージ写真。ピンポイントにフォーカスすることによってよりイメージを想起させる写真とでも言おうか。そこから見えてくるのは美しさや不思議さとともに"自然"ではない何かであったり、(自然ではなくとも)植物の生物としての情念のようなもの、あるいは作者の植物に対する想いのようなものが浮かび上がってくるように見受けられた。美味しそうな写真が並んだ作品集ではなく、料理人(本書の場合アレンジした人)の想いや情念。撮りての素材への情念を込めた作品集。これは、ある意味日本よりも洋書の世界でよく見かけるアプローチだなという印象を持った。
 最後に、レビュー課題の中で植物図鑑としての使い勝手についてというのがあったのだが、この花はなあに?何の仲間?的な使い方は冒頭に述べたようにまったく向いていないと思う。だが、われわれが料理や人物やモノなどを撮影するときの背景、あるいは装飾としての植物を考えた時に、本書のイメージから名前を調べ「そうそうこういう花のイメージが欲しいよねぇ」(まさに色・カタチ)などとデザイナーやクライアントとイメージを共有するには非常に使い勝手が良いと思える。欲しい色、カタチから名を調べ素材として取り入れてゆくには非常に向いていると思える。と同時に、本来主役足りえるキミたちを今までゾンザイに扱っててごめんね。という思いがわずかながら芽生えた気がするのは作者の意図するところだろうか。
写真集というより作品集
写真集というより作品集

 と、何だか非常に堅苦しい書き方になってしまい本人も困惑していますがw 製品ではなく作品としてレビューするのに、ちょっと居住まいを正す感じになってしまいました。(キャプチャー撮ったり、タイムを測ったりするわけにも行かず…w)

 最後に今回のレビューの機会をいただきましたZigsowならびに株式会社青幻舎、関係者の方々にお礼を申し上げます。

33人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (6)

  • Nao-Rさん

    2013/01/18

    レビューお疲れ様でした
    「~フラワーアレンジメント作品集・・・」この一言、
    あ~なるほどね、やはりそう言ったモノなんだな~と・・・
  • tessueさん

    2013/01/19

    〉Nao-Rさん
    無駄に長い読書感想文になってしまいましたw
    まあ、人によって感じ方はいろいろだろうし…。
    確かに、詳細なデータは載ってます。
    だけど、モノが植物だけに図鑑がつくと思惑とのズレがある場合もあるかなと。
    たとえば、秋葉原人間図鑑ってタイトルの本があったら
    誰も図鑑とは思ってないだろうと……。
  • aoidiskさん

    2013/01/19

    『フラワーアレンジメント作品集』

    本当、図鑑というより、作品集という趣ですね。

    楽しめそうで良いですね。
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