更新履歴:
2017/03/20 ファーストインプレッション公開。試聴記掲載はaudio-technica ATH-CKR10
AKG K702, SENNHEISER IE60の3機種
2017/03/21 徹底試聴にSONY MDR-1RBT MK2を追加(計4機種掲載)
2017/03/22 徹底試聴にUltimateEars UE900を追加(計5機種掲載)
2017/03/23 徹底試聴にFOSTEX T50RP mk3nを追加(計6機種掲載)
2017/03/24 徹底試聴にAurisonics FORTE-REDを追加(計7機種掲載)
2017/03/25 「X-DAP Linkを使ってみよう」を新規掲載
2017/03/26 VPN接続について追記と検証動画を追加
2017/03/28 BTL駆動とACG駆動についてセクションを追加
徹底試聴にONKYO IE-HF300を追加(計8機種掲載)
2017/03/29 徹底試聴にaudio-technica ATH-IM02を追加(計9機種掲載)
2017/03/30 徹底試聴にSENNHEISER HD650を追加(計10機種掲載)
2017/03/31 徹底試聴にPHILIPS Fidelio L1を追加(計11機種掲載)
2017/04/01 徹底試聴にJH Audio Michelleを追加(計12機種掲載)
2017/04/02 徹底試聴にPioneer SE-MHR5を追加(計13機種掲載)
一言形式で徹底試聴にSONY XBA-A2、FOSTEX TE-03、PHILIPS SHE9730、
JAPAEAR JE-333、MASTER&DYNAMIC ME03、ELECOM EHP-BA100を追加
ここまでで期限内の更新は終了。今後は修正及び小変更となります。
元々私はモバイルガジェット好きかつオーディオ好きという人間です。
カセット型のヘッドフォンステレオから始まりポータブルCDやポータブルDATなども使ってきましたが、PDAを使うようになってからはSONY CLIEシリーズを通勤・通学時のオーディオプレイヤーとして使っていた時期もありました。
ところがそんな私も、何故かスマートフォンが普及してからはスマートフォンで音楽再生という発想はなく、複数台のスマートフォンと同時に別途オーディオプレイヤーを持ち歩くという、端から見れば効率の悪い行為を続けていたのです。
勿論その理由は色々あります。ポータブルDATを使っていたことからも判るように、外出時でも出来れば高音質で音楽を聴きたいと思っていたということもあれば、初期のスマートフォンでは音楽を聴きつつデータ通信を使っていてはハードウェアの性能もバッテリーの持続時間も実用的とはいえなかったことなど、オーディオプレイヤーを別に持ちたくなる理由は多くあったのです。
しかし、ここ数年でのスマートフォンの進化は凄まじいものがありました。中には高音質オーディオ再生を謳う機種も登場しています。私は元々一般的なスマートフォンユーザーの感覚とは違い、何でも1台にまとまっているということにさほど魅力は感じません。スマートフォンを複数台使いつつも、通話専用のフィーチャーフォンも別途使い続けているほどですので、持ち歩く機器の台数が増えることに抵抗はないのです。
ですから当初このGRANBEAT DP-CMX1が発表されたときにも、本音で言えば「別にDAPとスマートフォンを1台にまとめなくても…」程度にしか思っていませんでした。しかし、冷静になって考えると「スマートフォンとしてもDAPとしても満足度が高い製品に仕上がっているのであれば、別に1台にまとまっていることは悪いことではない。むしろ便利なのでは?」と思うようになり、スマートフォン・オーディオプレイヤーそれぞれの視点から妥協なく評価して、その完成度と魅力を検証してみようと、このレビューの機会をいただきました。
そのため、当レビューでは
・スマートフォンとして
・オーディオプレイヤーとして
・その2つが1つにまとまっていることで得られるもの
というそれぞれの視点から、GRANBEAT DP-CMX1の魅力を検証していきたいと思います。
スマートフォンのデザインとDAPの演出
まずは外箱の状態から。
割合シンプルなデザインであり、高級DAPのような演出はあまり見られません。このあたりはスマートフォンの感覚といえるでしょう。個人的にはDAPのパッケージの演出はどうでも良いと思っているのですが、ある程度高価な機械であれば演出があった方が説得力は増すのかも知れません。
電源投入前に正面からの図を1枚。本体側面に「HIGH RESOLUTION AUDIO」と刻印されています。これが無ければ、正面から見る限りはただのスマートフォンにしか見えないでしょう。
裏面からも1枚。写真左側が本体の上部に当たりますが、端子が2つ用意されていることが判ります。これは通常の3.5mmステレオミニプラグに加え、2.5mm4極バランス端子が用意されているためです。
この2.5mm4極のバランス端子は、同社製DP-X1/X1Aや、その兄弟モデルであるPioneer XDP-300Rだけではなく、Astell&Kernをはじめとする他社製の高級DAPでも広く使われている仕様のものです。他にもバランス接続に対応する端子形状は数種類あり、仕様が乱立している状態なのですが、その中では最もシェアが大きいのがこの形状であり、対応するケーブル等も多く用意されているというメリットがあります。
ちなみに重量234gということで、スマートフォンとして考えれば重量級といえるものです。ただ、高級DAPにはこれよりも遙かに重いものも多くありますし、単体のDAPとしてごく標準的な重量感といえそうです。私の場合はそもそもスマートフォン複数台+DAP程度は日常的に持ち歩く程度のものですから、これが重いという感覚は全くありません。
そして変な曲面が無いシンプルなボディデザインと、表面の仕上げが相まって手に持ったときの感触は非常に良いものです。同社製のPioneer XDP-100Rよりも手に持つと収まりがしっくりときます。
さて、電源を投入する前に、スマートフォンとして利用するために欠かせない通信カード(SIM)を装着してしまいましょう。今回用意したのはNTTドコモの通信網を利用するMVNOである、IIJmio 高速モバイル/Dのnano SIM(SMS付き、ファミリーシェアプラン)です。
本体右側面のSIMトレイを、付属のイジェクトピンを利用して取り出してみます。
SIMトレイはオーディオ操作ボタンの下に配置されています。
本機はDSDS(Dual SIM Dual Standby)に対応しているため、SIMが2枚装着可能となっています。今回利用するIIJmio 高速モバイル/DのSIMはLTE対応であるため、SIMスロット1に装着する必要があります。例えばデータ通信専用のLTE対応SIMと、音声通話用のFOMAカード(3G SIM)などを同時に装着するのであれば、音声通話用の3G SIMをSIMスロット2の方に装着します。今回は音声通話SIMを用意していませんので、SIMスロット2の方は空けたままにしておきます。
よく見るとトレイの隅の方に番号が書かれていますので、それぞれ対応するSIMをここに載せて本体に収納しましょう。
なお、DP-CMX1はmicroSD形状のメモリーカードにより、データ保存領域を拡張することが出来ます。本体のストレージ容量も128GBと極めて大きいのですが、microSDXCメモリーカードとして現在最大容量となる256GBのものも動作確認が取れているため、最大384GBものデータ保存領域が確保できるということになります。
microSDカードスロットはSIMスロットの横にあり、SIMトレイを引き出した状態でなければメモリーカードの着脱は出来ません。折角SIMトレイを取り出していますので、そのついでにメモリーカードも装着してしまうと楽で良いでしょう。
SIMカードとmicroSDメモリーカードの装着が終わりましたら、電源を投入してみます。
SIMが装着されると、SIMの情報が表示されこのSIMを使うか尋ねられます。当然このSIMを使うために装着していますので、SETを選択しましょう。初回起動時はこの後環境のセットアップが始まるのですが、これは他のAndroidスマートフォンと特に変わる部分はありませんので、詳細説明は省略します。
セットアップが完了したら、SIMの接続情報(APN)を設定します。DP-CMX1は出荷時点で代表的なMVNO各ブランド(イオンモバイル、DMMモバイル、IIJmio、OCN モバイル ONE、U-Mobile(PREMIUM含む)、mineo(ドコモプラン)、楽天モバイル)のAPNがプリセットされています。今後のソフトウェアのバージョンアップにより変動する可能性もありますので、あくまで現時点の情報ですが。
今回はIIJmioのSIMを利用するため、プリセットされたAPNから「IIJmio」を選択するだけでインターネット接続が開始されます。ここにAPNが用意されていないSIMを利用する場合には、手動でAPNの情報を入力します。
これでスマートフォンとして利用するための準備は整いました。早速利用感を検証してみましょう。
スマートフォンとしてはミドルハイクラスというべきか
今回比較対象として利用するスマートフォンの性能を一覧にまとめてみました。
各機種の拙レビューは以下よりご覧いただけます。但し、FREETEL MIYABIについては現時点でレビュー未執筆となります。
DP-CMX1はスマートフォンとしての性能だけで判断すれば、ミドル~ミドルハイクラスの端末と考えられます。isai FLやXPERIA Z1はかつてのハイエンドモデルですが、現行モデルと比較すればせいぜいミドルクラスという性能となります。MIYABIは一応現行モデルですが、実質的には少し古くなっているミドルロークラスのハードウェアです。
そしてiPhoneとして2世代前の製品となるiPhone 6ですが、こうしてまとめてみるとハードウェアとしてはお世辞にも高性能とはいえないものであることに気付きます。これが十分に快適な水準で使えるのは、iOSやその用途に最適化されているAppleのデバイスならではということでしょう。
例えばWebの閲覧など、基本的な操作感でいえばどの端末にも大きな不満はありません。強いていえばかつてのハイエンドだったはずのXPERIA Z1はメモリーの空き容量が少なく、いくつかのアプリケーションを立ち上げた後でブラウザーのタブを複数開いたりした場合に操作が引っかかることがあります。液晶解像度が高くハードウェア性能が要求されると思われるisai FLが意外と軽快なのも、このメモリーの空き容量という部分が影響しているのかも知れません。
私はスマートフォンでゲームをプレイすることは殆どなく、Webやドキュメントの閲覧、写真やビデオの撮影、動作の再生が快適であれば用が足りるという使い方です。ビューアーとしての使い方が多いため、ディスプレイが高解像度で画質や視認性が良ければ文句なしという考えです。
そのため一見すればハードウェア性能への要求は低く見えるのですが、メモリーの使用量がかなり多くなるらしく、使用可能なメモリー量が快適性に影響しているということでしょう。
私自身はあまりこだわりは無いのですが、この文章がレビューであることを考えれば客観的な快適性の指標が何かしら欲しいということは間違いないところでしょう。そこでベンチマークテストとWi-Fi接続時の速度測定を実施してみました。
まずはベンチマークテストの結果を見てみましょう。代表的なベンチマークテストとして、以下の2つを利用しました。
・AnTuTu Benchmark v6.2.7(Androidの場合)
・Geekbench 4.0.4
・ONKYO DP-CMX1
このDP-CMX1の値を基準として、他の端末を見ていくことにしましょう。
・LG isai FL LGL24
AnTuTuでは、ほぼ全体的にDP-CMX1を下回ります。isai FLはかつてLG電子製スマートフォンのフラッグシップモデルであったLG G3のau専用日本ローカライズモデルであり、当時はかなり高性能といわれた端末なのですが…。もっとも、実際の使用感は今なお十分に快適な部類です。
Geekbenchでは、CPUを全コア活用した場合にはほぼ互角というところですが、シングルスレッド時の結果には意外と差が付きます。これはDP-CMX1が搭載するSnapdragon 650が高性能な2コアと省電力の4コアという構成のCPUであり、シングルスレッド時には高性能コアの方が動作しているためと考えられます。
いずれにしても前世代のハイエンドクラスであるSnapdragon 801が劣っているというあたりには素直に驚かされます。Qualcommのラインナップ上はミドルクラスのSnapdragon 650ですが、性能的にはそれを意識させることの無い高性能ぶりです。
・SONY XPERIA Z1 SO-01F
この端末はAndroidの更新が終了していて、Android 4.4系までにしかアップデートできませんので、Geekbench 4系は実行できません。そのためAnTuTuのみの結果となります。
CPUはisai FL搭載のSnapdragon 801のマイナーチェンジ前の製品となるSnapdragon 800で、それほど性能差は無いはずなのですが、値は大きく違っています。項目別に見るとUX(User Experience)だけが極端に落ちていて、これが性能の割に体感速度が遅いということの裏付けとなっていそうです。
・FREETEL MIYABI
さすがに格安端末の一角であるMIYABIだけに、性能は他の端末からは大きく後れを取ります。実際に使っていて極端に遅いとまでは感じないのですが、ハードウェアの性能が要求される使い方では、どうしても価格なりの満足度となってしまいそうです。
・Apple iPhone 6
iOS版のGeekbenchは有償のアプリケーションであり、今回は利用しませんでした。よってAnTuTu Benchmarkの結果のみ掲載します。
ハードウェアとしては決して恵まれているように見えないiPhone 6ですが、AnTuTu Benchmarkの結果は素晴らしいものでした。Android勢で最高の値を叩き出していたDP-CMX1と互角かやや上回るものです。
確かにiPhone 6は2世代前のハードウェアであるにも関わらず操作感は非常に軽快で良好なのですが、それがこの値からも裏付けられているということになります。
Android端末同士で比較すると、DP-CMX1は大体の項目で優秀な値を記録しています。オンキヨー・パイオニア・イノベーションズはオーディオメーカーですが、スマートフォン部分の開発には富士通コネクテッドテクノロジーズ(富士通ブランドのスマートフォン等を手掛ける企業)が協力していて、携帯電話分野での豊富なノウハウを持つ会社らしい仕上がりを見せています。
続いてWi-Fi接続時の通信速度を見てみましょう。自宅など無線LAN環境下で使う場合に、ハイレゾオーディオのファイルなど大容量データをやりとりする場合の快適性に直結する要素です。
自宅のインターネット接続環境を利用して測定していますが、この環境は
・回線:NTT東日本 フレッツ・ネクスト ハイスピード
・プロバイダー:ぷらら
・ブロードバンドルーター:MicroResearch Netgenesis MR-GL2000
・無線アクセスポイント:BUFFALO WSR-2533DHP-CB
というもの(ルーターとアクセスポイントの間にGigabitスイッチ、アライドテレシス GS924XLが挟まれる)となっています。スピード測定アプリはRBB TODAY SpeedTestを利用しました。
それでは、それぞれの結果を並べてみましょう。
まず、5GHz帯のIEEE802.11acに対応していない、MIYABIはどうしても速度は伸びません。2.4GHz帯のIEEE802.11nまでと考えれば割合良好な値ともいえますが、他と比べてしまうと見劣りしてしまいますね。
他の端末は全てIEEE802.11ac対応ですが、その中でisai FLだけが明らかに劣っています。MIYABIと比べても遅いという残念な結果となってしまいました。なお、少し時間をおいて再測定してみましたが、結果は大きく変わることはありませんでした。
残ったDP-CMX1、XPERIA Z1、iPhone 6はいずれもIEEE802.11ac対応らしいところを見せ、ダウンロード速度は安定して150Mbpsを超えるという素晴らしい結果です。これだけの速度があれば、オーディオやビデオを直接ダウンロード再生してもビットレート不足の心配はまず無いでしょう。
こうして各端末の性能を比較してみると、安定して高い水準にまとまっているのはDP-CMX1でした。私が用意した端末は少し前のハイエンドモデルでありまだまだ十分な性能と思っていましたが、ハードウェアとしては現行世代のミドルクラスである筈のDP-CMX1に及ばないということが判ってしまうと、その考えは改めざるを得ないようです。
・DP-CMX1でプロ野球中継を楽しむ
さて、3月31日から今年もプロ野球シーズンが開幕しました。
普段自宅にいるときであれば、普通にTVで野球中継を見れば良いのですが、私の贔屓がパ・リーグであり外出時にワンセグ中継があることなどは殆どありません。
そこでパ・リーグ主催の全試合をインターネット配信するサービス「パ・リーグTV」に加入して、比較的通信が安定している場所では動画中継を見ますし、それが難しいときにはアプリの「SportsNavi プロ野球速報」でテキスト情報を見ます。
現在DP-CMX1で使っているのは速度が出にくくなっているIIJmio 高速モバイル/Dのもので、スピード測定でも2~3Mbpsしか出ないという動画閲覧には向かないものです。
現在パ・リーグTVのスマートフォン・タブレット向け中継はHLS(HTTP Live Streaming)で、この程度の速度で動画中継が実用的なのか試してみることにしました。
読み込みは多少遅いのですが、一度再生を開始してしまえば動画は十分に滑らかでした。インターネット中継にしては画質も良好です。以前Flash Video形式のみだった頃は、最高のビットレートでも結構画質の劣化が激しかったのですが…。
ちなみに以前iPhone 4Sを使っていた頃は、このような画質での動画視聴はまず不可能で、選手の顔が判別できない程度の画質になってしまうことが殆どでした。ハードウェアの性能が高いためか動画が今までに無くスムーズに見えますし、格安SIMとの組み合わせでこれほどの品質を楽しめるようになったという点には素直に驚かされます。
ずば抜けたものではないが、判りやすい写真を撮影できる
多くの人がスマートフォンに求める要素の中に含まれるのがカメラ性能でしょう。私自身、普段はバッグにコンパクトカメラ(FUJIFILM XQ2)を常備していますが、メモ程度の撮影にはiPhone 6のカメラを常用することが多くなっています。
スマートフォンのカメラは写真としての美しさよりは、何が写っているかをわかりやすく示してくれることが重要ではないかと思いますので、その意味でiPhoneのカメラはなかなか優秀なのです。
そこで今回はスマートフォンを何台か用意して、同じ対象物を撮影した場合にどのように写るか実験してみました。用意したスマートフォンは以下の端末です。なお、写真はクリックで拡大可能です。
・Apple iPhone 6 (MG492J/A)
2枚目の方は手前の花にフォーカスを合わせたはずなのですが、最短撮影距離を割り込んでいたのか、上手くピントが合いませんでした。
ある程度光が差し込んでいる場所で撮影したものです。右側のスマートフォン(ASUS ZenFone 2 ZE551ML)の方に露出が寄っているため、左側のカメラのレンズが暗く沈んでいます。ただ、公称性能の割には解像感などは決して悪くはありません。
・SONY XPERIA Z1 SO-01F
こちらは最も手前の花に最初からピントが合わなかったため、iPhone 6よりも引いて撮影する形となっています。発色自体はなかなか良いのですが、露出の制御があまり上手くないあたりはSONY製のカメラ全般に通じる傾向です。
バランスはiPhone 6とほぼ同等でしょうか。ZenFone 2の方に露出が引っ張られていますが、Exmor RS採用の強みか暗所も辛うじて潰れきらず写っています。
・LG isai FL LGL24
標準設定では他とアスペクト比が全く違っているため、かなりフレーミングが違って見えます。
実はそこそこ長く使っているisai FLですが、この製品のカメラは個人的に操作性が全く合わず、思った通りの写真が撮れずに困るのです。ただ、意外とバランスは良いですね。
比較的暗所が綺麗だと思ったのですが、勝手にHDRが入っていました。それを考慮すればごく普通の仕上がりでしょうか。
・FREETEL MIYABI
いわゆる格安端末であるMIYABIですが、一昔前の格安品と比べると随分まとまった画であることに感心させられます。近接撮影の時に完全に対象物だけに露出を合わせていますが、このような割り切りも悪くはありません。
カラーバランスは赤っぽさを感じさせますが、思ったよりはきちんと撮れます。本体価格を考えれば大健闘ではないでしょうか。露出の割り切り方が上手いのかも知れません。
・ONKYO GRANBEAT DP-CMX1
それでは、ここで注目のDP-CMX1です。
結構暗く見えていた場所ですが、思い切って露出を上げています。あくまでも対象物の視認性の方を優先するという考えでしょうか。
こちらは中心被写体の花に上手く露出が合っています。作品として撮影する写真であればもう少し暗所も再現するべきかも知れませんが、メモ的な撮影としてはこれくらいのバランスが自然に見えますね。
他の端末と比べると露出は暗所の方にも配慮したようなバランスです。ただ、ZenFone 2の方が完全に露出オーバーで白飛びしているあたりはどう判断するべきか迷うところです。カメラのレンズがある程度陰にならずに写っているあたりは評価できます。
追記:この露出バランスは、DP-CMX1のカメラでは露出モードの標準設定が焦点重視測光となっていることが原因のようです。スポット測光やフレーム全体での測光も設定可能ですので、他のカメラのような挙動にしたければフレーム測光を選択すれば良いでしょう。
比較用として同じような条件の写真をCanon EOS M3+EF17-40mm F4L USMでも撮影しています。なお、EOS M3の写真はファイルサイズが大きいため、縦横共に50%に縮小しています。
3枚目の被写体は自分自身だったため、代わりにDP-CMX1を置きました。さすがに本職のカメラはダイナミックレンジが広く暗所がきちんと写ります。スマートフォンのカメラをこれと比較するのはさすがに間違っているでしょう。
スマートフォンのカメラとしては、XPERIA Z1とDP-CMX1という、光学素子にSONY製裏面照射型CMOS「Exmor RS」を搭載している2機種が、暗所性能の強さを見せています。当時のフラッグシップモデルで自社製のデバイスを惜しみなく使えたXEPRIA Z1は世代を考えれば素晴らしい画質ですし、それと同系統の光学素子を使うDP-CMX1も特性としては近いものを持っています。
それにしても、全体的にスマートフォンのカメラは進歩したと思います。これではコンパクトカメラの出番が無くなるのも無理はありませんね。
使えるSIMはどれか
さて、このDP-CMX1はスマートフォンとしてみたときにはAndroid採用のSIMフリー端末ということになります。
公表されている情報をまとめると、本機で使えるSIMはNTTドコモおよびドコモ網を利用するMVNO、またはソフトバンク/ワイモバイルのSIMフリー端末向け契約をしたSIMとされています。
逆に使えないと明言されているのはauおよびau網を利用するMVNOとなっています。
そして私が現在使っているスマートフォン向けSIMのうち、DP-CMX1が対応するnano SIMで提供されているものを並べてみると以下のようになります。
・IIJmio 高速モバイル/D(ドコモ網MVNO)
・mineo Dプラン(ドコモ網MVNO)
・mineo Aプラン(au網MVNO)
・au LTEプラン(iPhone6向け契約)
・Softbank スマ放題(iPhone6向け契約)
他のSIMはmicroSIMなどサイズの大きいものとなりますので、DP-CMX1には物理的に装着できません。
先にプリセット済みのAPNを挙げておきましたが、実は今回のIIJmioのSIMは挿して起動した時点でIIJmioのAPNが選択された状態でした。他のMVNOでどうなるかはわかりませんが、これであれば「買ってきてただ挿すだけ」で使えるようになるという便利さです。思わずWindows95の頃にはやった「Plug & Play」という言葉(PCの周辺機器や拡張ボードを難しい設定なしに装着だけで使えるようにする仕組み)を思い出します。
追記)
この後mineo ドコモプランのSIMを挿して起動したところ、APN未選択で起動していました。APN選択の挙動については一概に言えないものとご理解ください。
一方で、残ったSIMの中でau網を使うmineo Aプランやau iPhone6向けはまず使える可能性はありません。一応周波数帯自体は使える部分もあるはずということで、一応APN情報を手動で作成して確認してみましたが…。
結論から言うとやはり動作しません。一瞬電波を掴むように見えるのですが、KDDI(au)のネットワーク認証をしようとする際にに失敗してしまいます。mineoの方も挙動は全く同じでした。なお、どちらのSIMもVoLTE対応SIMではありませんので、VoLTE対応であれば挙動は変わる可能性もあります。ただ、どのみち使えないと考えて良いでしょう。
注)SIMフリー端末で日本国内の技適を取得しているものであっても、ドコモ・ソフトバンク向けとなっているものでau回線のSIMを利用することは、場合によって電波法に抵触する恐れがあります。DP-CMX1についてはau回線での通信は出来ませんでしたが、au回線利用に必要な技適は取得していることを確認しております。(参考:総務省「相互承認(MRA)による工事設計認証に関する詳細情報」DP-CMX1)
そして、通信方式がドコモと同じであり、SIMフリー向けの契約であれば使えるはずのSoftbankのSIMについてです。私の契約はプラン名末尾に(i)と付く、iPhone向けのプランとなります。
実はSoftbankの場合、Android端末向けに契約したSIMは、自社発売分の端末以外では動作しないよう、いわゆるIMEI制限がかかっているためSIMフリー端末で使うことはできません。一方でiPhone向けのSIMには、このIMEI制限はないのだそうです。ただし、このSIMに対する接続情報等が現在は開示されていないため、APN設定を作ることができず使えないというのが実情です。
しかし、一時期SIMフリーiPhone向けにこの情報が開示されていたことがあり、その情報を応用してAndroid端末にAPN設定を書いてやれば、通信は可能となります。詳細をここで述べることはキャリアの意向にそぐわないと思いますので記載しませんが、結論から言えば無事に通信可能ということ確認できました。
以下は実際にそれぞれのSIMでスピードテストを実行した結果となります。
やはり大手キャリア契約であるiPhoneのSIMが圧倒的な速度をたたき出します。MVNOのSIMを使った場合には時間帯による速度差が大きいのですが、かつては高速だったIIJmioが契約数の増加によりひどい速度低下を起こしていることがわかります。
Webの閲覧など、一般的な使い方であればMVNOのSIMで出ている速度でも問題ないと思いますが、後述する用途の場合はある程度速度が安定している必要があり、MVNOのSIMでは厳しいものとなるかもしれないことは考慮しておく必要があるでしょう。
X-DAP Linkを使ってみよう
AppleのiPodやiPhoneにはiTunes、SONY WALKMANにはMedia GoやX-Applicationがそれぞれ用意されているように、ONKYOやPioneerブランドのDAPには「X-DAP Link」という楽曲管理ソフトが用意されています。
もっとも、これは必ずしも使わなければいけないものではなく、例えばmicroSDメモリーカードの中に、適当に楽曲ファイルをコピーしておくだけでも再生は可能です。今回のレビューでも、DP-CMX1には元々Astell&Kern製のプレイヤー向けにデータをコピーしておいたメモリーカードをそのまま転用したのですが、楽曲はきちんと認識され、再生も可能となっています。
とはいえ、折角用意されているのだからということで、X-DAP Linkも使ってみることにしたのです。
X-DAP Linkは、これを利用するONKYO、Pioneer両ブランドのサポートサイトに用意されています。どちらであっても中身は変わらないようで、今回はDP-CMX1用にオンキヨー側からダウンロードしたのですが、Pioneer XDP-100Rとの組み合わせでも問題なく動作しています。勿論、敢えて違うブランドのものを使う意味もありませんので、通常は利用する製品に合わせてダウンロードしてください。両ブランドの製品を同時に使う場合には、どちらか一方のものを導入すれば良いというだけの話です。
▲同じX-DAP LinkでXDP-100Rも認識して使うことが出来る
インストール直後は以下のような状態で起動します。
ライブラリーに何も無い状態ですので、ここに楽曲を登録する必要があります。私の場合はMP3ファイルはiTunesで管理して、WAVまたはハイレゾのファイルについては別途自分で専用フォルダーを用意しています。
X-DAP Linkのライブラリーに既存の音楽ファイルを登録する方法はいくつかありますが、既存の音楽専用フォルダーが存在しているのであれば、フォルダー指定で取り込むのが最も簡単でしょう。
これがライブラリーに楽曲が登録された状態です。なお、画面下部の3色の円は転送先となるドライブ又はカードスロットの状態を示していて、これを手がかりに何処に転送するべきかを決定します。
使い方自体は直感的です。曲名の左にある丸印(計3色)のいずれかをクリックすると、そのファイルが転送対象となります。そしてその丸印の色に応じて転送先が決定されます。上のスクリーンショットの例では、青丸を付けて選択していますので、青に設定した転送先であるDP-CMX1のSDカードに転送されることになります。
ただ、今までのX-DAP Linkでは出来る作業はこれだけでした。単にPCからDAPに楽曲を転送するだけであり、PCから直接ファイルを転送しても大して変わらないというのが本音です。
しかし、本レビューの執筆期間中である3月17日にVersion 1.2.0がリリースされ、ようやく楽曲のタグ情報の編集機能を含む、「プロパティ」表示が追加されました。
▲ファイル情報やタグ、歌詞、アートワークの表示や編集が可能となった
これまでと比べれば、この1つの機能追加だけでも大きな進歩といえます。ようやく転送以外の作業が出来るようになったということですので。とはいえ、日常的にiTunesやX-Application、Media Goを使っている方から見れば、機能はまだまだ乏しいと感じるのでは無いでしょうか。
メモリーカードの扱い方など条件が異なるので仕方ない面はあると思うのですが、せめてPC上でプレイリストの編集が出来るようにならないでしょうか。私はスマホ世代では無くPC世代ですので、スマートフォンの操作体系で数百曲程度のプレイリストを編集するのがどうしても苦痛なのです。今までSONY製WALKMANでごく普通に出来ていた作業であるだけに、どうしても不便に感じられます。
なお、本機への楽曲転送自体はWindowsのエクスプローラーでも問題なく可能ですし、microSDメモリーカードにファイルを置いておくだけでもきちんと再生されます。iTunesのように利用を強いられているアプリケーションではありませんので、必要が無いと感じれば使わないという選択肢もあります。ただ、出来れば「使いたくなる魅力」を持つアプリケーションであって欲しいと願います。
(2017/12/08追記)
先日発表された新バージョン、X-DAP Link 1.30で私がここで要望していたプレイリスト機能が実装されました。少々時間はかかりましたが、ユーザーの要望をきちんと取り入れたバージョンアップが実施される辺りは、メーカーの姿勢として高く評価するべきと思います。
e-onkyo musicで外出先からも高音質楽曲データを追加できる
本機DP-CMX1はオンキヨー・パイオニア・イノベーションズの製品ですが、同じオンキヨー・パイオニア・イノベーションズによって運営されている、ハイレゾ音源の配信サイトとしては最大規模となるものが、e-onkyo musicです。
私自身普段はアナログ盤で音楽を入手することが多いのですが、興味のあるハイレゾ音源の配信がある場合など、たまに利用していました。例えば以前掲載したこちらなどですね。
そのため、最初からユーザーアカウントなどは存在してますので、既にe-onkyo musicを利用していることを前提に、以下の文を書き進めていきます。
▲e-onkyo music トップページ。既にログイン済みとなっています
上でトップページをPCのブラウザーで開いています。当然PCで楽曲の購入やダウンロードは可能なのですが、スマートフォン向けサイトも用意されていますので、DP-CMX1単独で利用することも出来ます。そこで今回は両方で楽曲の購入を試してみましょう。
まずはPCでの購入です。対象となる楽曲を、アーティスト名などで検索して探してみましょう。今回は「Wallflower / Diana Krall」(flac 48kHz/24bit、アルバム「Wallflower」収録)を購入してみます。
アルバム全体を入手する場合には一括購入した方が割安です。今回は目的とするのが1曲だけですから、割高にはなりますが1曲だけの購入とします。
購入した楽曲のダウンロードは10回まで可能ですが、期限が切れると回数期限内でもダウンロードは不可能となります。まあ、PCの場合にはどこかにバックアップしておけば回数を気にする必要はないと思いますが…。
続いてDP-CMX1単体での購入も試してみましょう。今度は「きみからみたわたし / 南條愛乃」(WAV 48kHz/24bit、アルバム「Nのハコ」収録)を購入してみます。プレイヤー右上部のメニューをタップして「e-onkyoサイトへのリンク」を選択します。
Webブラウザーが起動して、e-onkyo musicサイトが表示されます。
手順自体はPCサイトと全く変わりませんので、目的の楽曲を検索して購入ページを開きます。取り敢えずアルバム名で検索して見ましょう。
購入する楽曲の「購入」ボタンを押し、購入手続きを進めます。手順自体はこれもPCサイトと全く同じですから、経過は省略します。
購入手続きが完了すると、このようにダウンロードへのリンクが表示されます。購入曲数が少なければさほど手間はかかりませんので、このままダウンロードしてしまっても構いません。ある程度多くの楽曲を購入した場合には、用意されているダウンローダを利用した方が便利かも知れません。ダウンローダにはPCで購入した楽曲も表示されています。PCでダウンロードしてX-DAP Link等のソフトでDP-CMX1に転送することも可能ですが、こちらで一括ダウンロードするとより手軽に扱えます。
▲ダウンローダ。一括ダウンロードも可能なので、楽曲数が多い場合などに便利
ダウンロードされた楽曲は、曲名やアーティスト名などで既に分類された状態で登録されていますが、ファイルの実体が何処にあるのかも一応確認してみましょう。
ダウンロード先として設定されているのは「本体ストレージ」ー「Download」となっているようです。
当然問題なく再生されますね。FLAC形式で購入した場合には、このようにジャケット写真やIDタグ情報がきちんと表示されています。WAVの場合はファイル名のみの表示です。
2つのバランス接続~BTL駆動とACG駆動
DP-CMX1は通常のステレオ(シングルエンド)出力の他に2.5mm4極プラグによるバランス接続に対応しているということは既に述べましたが、単にバランス出力対応というだけではなく、2つの駆動方式を選択することが出来ます。
一般的にバランス出力というと、BTL(Balanced Transformer Less)駆動のことを表します。これはドライバーユニットを駆動する際、片方の極を正位相、もう片方を逆位相で駆動するものです。これによるメリットは、高級オーディオメーカーとして知られるラックスマンの解説文から引用しましょう。
回路のグラウンドに出力の信号電流が流れないことによる、アンプの帰還ラインの混変調歪の低減と、出力電流による電源の変動が±で逆相に発生することで、それらが完全に打ち消しあい、変動が全く無い理想的な電源とみなせる、などのメリットがあります。
(以上、「よくある質問 BTL(ブリッジ)接続とはどういう意味ですか?」より)
この説明はスピーカーを駆動するアンプの話ではありますが、理論的にはヘッドフォンの場合でも同様です。
私の経験上はDAPとヘッドフォン・イヤフォンとの組み合わせにおいて、バランス出力が音質上のデメリットを生じたことはなく、利用出来る環境があるのであれば積極的に利用するべきといえるでしょう。
さて、前述のDP-CMX1における2つの駆動方式ですが、上記BTL接続の他にACG(Active Control GND)駆動というものが用意されています。ACG駆動の特徴とメリットについては、この駆動方式を初めて採用したONKYO DP-X1の商品説明から引用しましょう。
「ACG駆動」は、バランス駆動の特殊な方式で、COLD側アンプの増幅能力を使ってGNDをアクティブにドライブし、揺らぎのない理想的なGNDをキープすることに特化します。通常のアンバランス駆動に対して、高いセパレーション性だけでなくバランス駆動で得られるパワーアップ分を、“安定性”強化に使うことにより、非常にクリアで実在感のあるサウンドが得られます。
(以上、ONKYO DP-X1商品説明より)
特徴を理解した上で問題となるのは、これら2つの駆動方式が音質の差を生じさせるのか、そしてさせるとすればどのような違いとなるのかということでしょう。そこで、バランス接続環境を用意して実際に比較してみましょう。比較に用いるのはJH Audio製のAstell&Kernコラボモデル、The Siren Series Michelleと、その純正バランスケーブルの組み合わせです。まだあまり使用時間が長くないため、完全に実力を発揮する段階では無いかもしれませんが、違いを体感するための性能は十分発揮出来ているでしょう。
まず、BTL駆動ですが、低域・高域共にアンバランス接続と比較して解像度が増し、音場の見通しが良くなります。ただ、録音の質が悪い楽曲などは、その質の悪さが露骨に表現されてしまうという側面もあり、良くも悪くも再生するソースの持ち味がより直接的に表現されるといえるでしょう。
それでは、これをACG駆動にするとどうなるでしょうか。ACG駆動に切り替える手順ですが、画面上部からのスワイプで表示されるクイック設定内から「BAL」と書かれたアイコン(ACG駆動中はこのアイコンは「ACG」と表示されています)をタップすることで、切り替えメニューが表示されます。
一聴してBTL駆動時(上記メニューでは「Balanced」)とは音質が変化することがわかります。BTL駆動時よりも音場の明瞭度がさらに増し、ヴォーカルや楽器の一つ一つがより明確な音像で表現されます。コントラストがよりはっきりとするというべきでしょうか。
ただ、BTL駆動の時にも触れた通り、この変化が全ての楽曲に対してポジティブな変化になるとは限りません。一つ一つの楽器がはっきりと存在感を持っている方が良く聞こえる楽曲もあれば、逆に突出しないで埋もれていた方が似合う楽曲もあるでしょう。オーディオ的にはACG駆動の方が純粋にクオリティーは高いのですが、音楽的には好みに応じて選択するのが適切な差ではないかと考えます。
この後から始まる試聴記においては、バランス接続時には原則的にACG駆動を優先して使っています。
用意できる限りのヘッドフォン・イヤフォンと組み合わせて徹底試聴
今回本機のレビューをさせていただくにあたり、試聴用のヘッドフォンとしてPioneer SE-MHR5を提供していただいています。こちらのヘッドフォンについては、DP-CMX1との組み合わせでは無く、この製品単体としての評価を別途レビューにまとめています。
SE-MHR5は2万円以下の価格帯でありながら、3.5mmステレオミニ、2.5mm4極と2本の接続用ケーブルを同梱していて、バランス出力に対応するDP-CMX1の試聴用として適していますし、ヘッドフォン自体の基礎能力も高いので音質差を体感することも容易です。
とはいえ、DP-CMX1をこれから使いたいと思う方の中には、他のヘッドフォンと組み合わせてみたいと思う方も大勢いらっしゃるでしょう。そこで多少なりとも参考になればということで、私が所有するヘッドフォン・イヤフォンの中から一定水準以上の実力を持つものを集め、SE-MHR5も含めそれぞれとの組み合わせによる音質を徹底的にレビューしていこうと思います。
ここからの音質評価については、まずDP-CMX1と対象のヘッドフォン・イヤフォンを組み合わせて音質を評価して、その後比較対象機種で当該ヘッドフォン・イヤフォンを試聴してDP-CMX1との差異などをコメントする形で行います。DP-CMX1は高機能なイコライザーを備えていますが、今回はあくまで本格的なオーディオ機器として評価するため、これらの音質調整機能は一切使っていません。さらに、本体のメニュー内の音質調整も、試聴の結果最もしっくりときた
DSP機能:無効
ロックレンジアジャスト:NormalからNarrow側に1段階
デジタルフィルター:SLOW
アップサンプリング:44.1kHz倍数の音源ではOFF、それ以外は192kHz
という設定を利用します。
ここまでの簡単な試用のレベルでDP-CMX1は普及価格帯のDAPとは一線を画す実力を持っていることは十分に理解できますので、かなりシビアな評価をしていきます。欠点を辛辣に指摘することもありますが、それはDP-CMX1が評価に値する実力を持っていると認めているからこそのものとご理解ください。
まず、比較対象機種としては以下の3台を用意しました。
予め記しておきますが、DP-CMX1は比較的よく出来たSIMフリースマートフォンを内蔵していて約9万円という製品です。他のDAPやポータブルアンプと比べれば、DAPとしては安めの製品であり、直接比較して同等以上に渡り合うのはなかなか難しいことになります。よって、他の製品の方が良かったという結論が出ていても、DP-CMX1の出来が悪いという意味ではありません。「他の製品が上回る」という評価が「価格相応」の意味であり、「一長一短」や「肩を並べる」という評価はDP-CMX1がクラスを超える健闘ぶりを示したという意味となります。
プレイヤーとヘッドフォン・イヤフォンの組み合わせを考えると膨大な数になりかねませんので、効率化のために試聴ソースも予め決めておきます。
e-onkyo music購入分
・I Can't Stop Thinking About You / Sting (アルバム「57TH & 9TH」収録)
・きみからみたわたし / 南條愛乃 (アルバム「Nのハコ」収録)
・Babylon Sisters / Steely Dan (アルバム「Gaucho」収録)
その他購入分
・Now / Chicago (アルバム「Chicago XXXVI "NOW"」収録、公式サイト直販24bit/96KHz WAV)
自作ハイレゾファイル
・Dangerous / David Garrett (アルバム「Explosive」収録)
・Wallflower / Diana Krall (アルバム「Wallflower」収録)
・Englishman In New York / Sting (アルバム「Best of 25 Years」収録)
自作ハイレゾファイルは、いずれもLP盤をKENWOOD KP-9010+ZYX R50 Bloomまたはaudio-technica AT33R+ALPINE/LUXMAN LE-109で再生したものを、Windows PCに装着したオーディオインターフェース echo digital audio LAYLA 24/96で24bit/88.2KHzのWAVにデータ化したものです。
・audio-technica ATH-CKR10
オーディオテクニカの主力ダイナミック型イヤフォンである、ATH-CKRシリーズの先代トップモデルです。当時はそれなりの金額でありながらリケーブルに対応しないなど弱点もありましたが、ダイナミック型を徹底して使いこなした良さを持った製品です。
まずはDP-CMX1で聴いてみましょう。
この製品はDP-CMX1と抜群の相性を示します。低域が適度な量でありながらしっかりと深い音が出るので、「Englishman In New York / Sting」や「Babylon Sisters / Steely Dan」などの空気感は見事ですし、「I Can't Stop Thinking About You / Sting」もしっかりと重厚なロックとして鳴ってくれました。ヴォーカルの子音の辺りが少し強調される感じがありますので、そこに軽いピークはあるのでしょうが、あまり突出した部分が無くどのソースも満遍なく水準以上に鳴っていると感じます。
強いていえばATH-CKR10自体の性格が大きいのですが、若干淡泊さを感じる部分はあります。「Dangerous / David Garrett」ではヴァイオリンの音がやや硬く、「きみからみたわたし / 南條愛乃」が若干ハスキーさを伴ったヴォーカルに感じられます。もっとも、それも微々たるものですのでDP-CMX1だけを聴いていれば気になるほどではないでしょう。ATH-CKR10との組み合わせは安心してお薦めできるものの一つです。
続いてプレイヤーをAK100IIに替えてみます。
まず、「Englishman In New York / Sting」のサックスの音色はDP-CMX1以上のものですが、ベースラインが腰高になり、空間の奥行きが乏しく感じられます。この曲の音場に浸っていられるのはDP-CMX1の方です。「Babylon Sisters / Steely Dan」も傾向は似ているのですが、残響音の部分はDP-CMX1よりもよく再現されていて、この曲についてはどちらもそれなりに魅力はあり一長一短程度です。
「I Can't Stop Thinking About You / Sting」ではStingのヴォーカルは良いのですが、ベースに力がなくスネアドラムのアタックも弱いため、歯切れの悪い音になってしまいます。この曲はDP-CMX1に分があるでしょう。「Now / Chicago」はスネアドラムの歯切れは悪いのですがホーンの音色は良好で、特徴的ですが悪くはありません。「きみからみたわたし / 南條愛乃」はヴォーカルの質はDP-CMX1よりも良いのですが、バックの低域に厚みがなく曲本来の重厚感に乏しいところがあります。「Wallflower / Diana Krall」はヴォーカルの生々しさが良く、この曲に限ってはDP-CMX1以上といえます。
今度はXDP-100Rを使ってみましょう。
まず気になるのはDP-CMX1と比べるとATH-CKR10がドンシャリ傾向、それも特に低域方向の強いを強調感を示すということです。ベースの帯域が大きく持ち上がるため、音場の見通しが悪くなったように感じられます。「Dangerous / David Garrett」のヴァイオリンの音色はなかなか良いのですが、バックの演奏の中からベースとバスドラムだけが突出して出てしまい、演奏のバランスが崩れてしまうのです。この傾向は「Englishman In New York / Sting」でも同様です。
意外なことにベースが極端に目立ちそうな「I Can't Stop Thinking About You / Sting」では、スネアドラムの帯域が持ち上がるためかバランスの崩れは気にならず、活きの良いロックとして再生されます。「Babylon Sisters / Steely Dan」も似た傾向で悪くはありません。それでも、全体的に見ればDP-CMX1と比べると低域の強調感で得意な楽曲の幅を狭めているように感じられてしまいました。
最後にDAC-HA300です。
さすがにポータブルアンプであり、価格帯こそ近いもののヘッドフォン・イヤフォンを駆動することに特化している機材ですから、DAPと比べれば音質は一歩抜け出しています。「Babylon Sisters / Steely Dan」を数秒聴いただけで空間表現が違うということに気付かされます。Donald Fagenのヴォーカルもぐっと自然に感じられます。ただ、求められる音の傾向が近い「Englishman In New York / Sting」ではDP-CMX1よりも低域の解像度がやや落ちます。
「きみからみたわたし / 南條愛乃」はヴォーカルの質感は格段に良くなりますが、低域方向の解像度の甘さはここでも顔を出します。それでも音質でどれか1台を選ぶのならやはりDAC-HA300になりそうですが。不思議なことに「I Can't Stop Thinking About You / Sting」を聴いている限りは他の曲で弱点となっているベースラインも悪くはないのです。高域の緻密さやヴォーカルの質感など、やはりDAC-HA300優位は動きません。強いていえば「Dangerous / David Garrett」のヴァイオリンの音色が思った程良くないので、この曲に限ってはさほど優位性がありませんでした。
ATH-CKR10との組み合わせで評価すると、
DAC-HA300 > DP-CMX1 >= AK100II > XDP-100R
となりました。同じメーカーで開発され、中身のグレードも近いXDP-100Rと大きな差が付いたことは少々意外です。オンキヨー・パイオニア・イノベーションズとなってからはPioneerブランドはどうしてもクラブミュージックやEDM向けの性格付けをされていることが多く、オンキヨーブランド製品の方が万能型に仕上がっていることがこの結果に繋がったのかも知れません。
・AKG K702
3~4万円クラスの製品として、K702やその兄弟モデルは定番商品の一つとなっています。私自身はライバル製品のSENNHEISER HD650を常用していますが、K702の音も高域方向のクリアさや繊細さなど、魅力のあるものです。ただ、組み合わせるアンプの能力はかなり要求しますので、DAPではなかなか鳴らしにくい製品の一つでもあります。
最初にDP-CMX1で試聴します。
まず全体的なバランスとしてはやや高域寄りです。K702自体は低域の重量感や力感が控えめなのですが、駆動力のあるアンプとの組み合わせでは程々に整います。ところがDP-CMX1ではK702のやや薄口の低域~中低域を補うほどの力は無く、特に抜群の音場を持つ「Englishman In New York / Sting」や「Babylon Sisters / Steely Dan」がかなり淡泊な鳴り方となってしまいます。「I Can't Stop Thinking About You / Sting」は本来乾いた骨太の音なのですが、これがソフトタッチに感じられます。
その一方で「Dangerous / David Garrett」ではヴァイオリンの倍音が気持ち良く出ていて、やや派手目ではありますが悪くはありません。「Now / Chicago」ではホーンの音が重なったときの音が薄く、シカゴの持ち味があまり出てくれません。ただ、ギターやピアノ(キーボード)の音には存在感があり、この辺りはいかにもK702の音です。
では、ここでプレイヤーをAK100IIに交換してみましょう。
第一印象としては重心が下がるが音場が狭くなるということでしょうか。K702の神経質さが強調されていたDP-CMX1に対して、AK100IIでは全体的に音が落ち着くのですが、その代わりに響きの成分が随分後退する印象を受けます。「Dangerous / David Garrett」でその傾向が顕著でした。「Babylon Sisters / Steely Dan」では低域の重心がぐっと下がるため雰囲気は良くなるのですが、何故かDonald Fagenのヴォーカルが遠くで歌っているような印象を受けてしまいます。「きみからみたわたし / 南條愛乃」はDP-CMX1で気になっていたヴォーカルのハスキーさが緩和され、声の力が出てきて説得力を感じられるようになります。「Wallflower / Diana Krall」ではヴォーカルの質感は良くなるのですがヴァイオリンが安っぽくなるという、ちょっと惜しい音です。「I Can't Stop Thinking About You / Sting」はアタックの鋭さが出てきてこの曲らしさが感じられるようになります。ただ、Stingのヴォーカルがちょっと無機質すぎる感じがするのが惜しいところです。
続いてXDP-100Rを使ってみましょう。
先に聴いた2モデルと比べると低域の厚みや力感は上です。「Babylon Sisters / Steely Dan」の冒頭の雰囲気も低域の表現が良くなった分良好です。ただ、Donald Fagenのヴォーカルが入ってくると、声の質感がもう一歩という印象です。
「Dangerous / David Garrett」ではバックの重量感はよく出ているのですが、主役となるDavid Garrettのヴァイオリンの響きが出ません。「Englishman In New York / Sting」もベースラインは素晴らしいのですが、名手Branford Marsalisのサックスの音色が作り物のように感じられ、ピアノの音もかなり痩せてしまいます。ここまでの傾向から主役となる楽器やヴォーカルの音色に難があるのかと思えば、「きみからみたわたし / 南條愛乃」のヴォーカルは決して悪くないのです。「Now / Chicago」のホーンセクションの音色もAK100IIよりは良好です。「Wallflower / Diana Krall」は演奏・ヴォーカル共に良好です。XDP-100Rの得意分野とAK100IIのそれとはまるっきり正反対なのかもしれないと感じさせられます。
そして最後に比較対象機種の中で唯一DAPではない、区分としてはポータブルアンプとなるDAC-HA300を聴いてみましょう。
「きみからみたわたし / 南條愛乃」「Dangerous / David Garrett」の2曲を連続して聴いた時点で、他の機種との格の違いを感じます。低域の深みが他よりも感じられますし、南條愛乃のヴォーカル、David Garrettのヴァイオリン共に質感が大幅に勝っています。「I Can't Stop Thinking About You / Sting」も本来の骨太ロックの音になりました。若干キレは鈍いのですが、ヴォーカルと他の楽器の質感は大体近いレベルにあるため聴いていて不自然さが無いのです。
強いていえば「Englishman In New York / Sting」のサックスの音色はもう一歩ですが、それでもヴォーカルはかなり自然です。「Wallflower / Diana Krall」ではヴォーカルの合間のブレスの音が生々しさを伴っていて、他では味わえなかった雰囲気が出てきます。
AKG K702との組み合わせでは
DAC-HA300 > XDP-100R ≒ AK100II >= DP-CMX1
という印象を受けました。インナーイヤーのATH-CKR10比でK702ではDP-CMX1が劣った感じがするのは、他と比べるとアンプの駆動力がやや弱いということなのかも知れません。
・SENNHEISER IE60
先に取り上げたATH-CKR10よりは安い価格帯の製品ですが、根強いファンがいることで知られるロングセラーモデルです。
まずDP-CMX1で聴いてみます。
さすがに高域方向は解像度、質感共にATH-CKR10よりは明らかに落ちます。ただ「Dangerous / David Garrett」のヴァイオリンがメインのソロだけではなくバックの方も含めてなかなか良い音で鳴っています。「Englishman In New York / Sting」はベースラインが突出しすぎていてバランスは悪いのですが、Stingのヴォーカルやサックスは良好な部類です。「きみからみたわたし / 南條愛乃」も低域が厚すぎるきらいはあるものの、ヴォーカルの質も良好で曲の雰囲気は良く出ています。
全体的にはっきりとしたローブーストの音であり、「Now / Chicago」をはじめバランスを欠いてしまい楽しめない楽曲が多くあります。これはIE60の性格によるものですからDP-CMX1のせいという訳ではありません。上手く鳴らせる楽曲であれば価格帯を感じさせない魅力のある音がIE60の持ち味ですから、無理にいろいろなジャンルに合わせようとするのではなく、得意分野で使ってあげると良さそうです。
続いてXDP-100Rで使ってみます。
低域の強調感が強いもの同士の組み合わせですから、極端なバランスになってしまうのではないかと思ったのですが、楽曲によっては確かに気になるものの意外と気にならない場合もありました。「Babylon Sisters / Steely Dan」などは低域の押し出しが高域方向の粗さを上手くカバーしてて面白い音になりますし、「きみからみたわたし / 南條愛乃」も重厚感が心地良く感じられます。
とはいえやはり低域過多が気になる楽曲もあり、「Englishman In New York / Sting」「Dangerous / David Garrett」などはベースが強すぎて他が引っ込んでしまうという印象です。DP-CMX1以上に聴く曲を選ぶ組み合わせといえそうです。常用するには厳しい組み合わせでしょう。
次はAK100IIと組み合わせてみましょう。
IE60はAK100IIと相性の良さを発揮します。AK100IIはどうしても低域の力感がなく厚みにも乏しいのですが、IE60の分厚い低音が上手くその弱点を補うのです。「Babylon Sisters / Steely Dan」は他のDAPよりも数段魅力的な音になりますし、「I Can't Stop Thinking About You / Sting」も勢いよくロックサウンドを楽しませてくれます。「きみからみたわたし / 南條愛乃」も程々の重厚感であり、ヴォーカルの質も予想以上に良好です。「Wallflower / Diana Krall」は価格帯を感じさせない素晴らしさです。
「Englishman In New York / Sting」や「Now / Chicago」はやはりベースが出過ぎますし、「Dangerous / David Garrett」もバランスはともかくヴァイオリンの音色がもう一つでさほど楽しめません。とはいえ、他の機種との組み合わせよりも楽しめる楽曲の幅は広く、好相性と評して差し支えはないでしょう。
そして最後にDAC-HA300との組み合わせです。
全体的に低域が分厚いという傾向は変わらないのですが、AK100IIと比べてもそれが不快に感じられなくなります。「Babylon Sisters / Steely Dan」「きみからみたわたし / 南條愛乃」「Wallflower / Diana Krall」はじっくりと浸れるだけの音場を作り上げますし、「I Can't Stop Thinking About You / Sting」も力強さがあって悪くありません。
「Dangerous / David Garrett」ではどうしてもヴァイオリンの音色が綺麗に鳴らないこと、「Now / Chicago」「Englishman In New York / Sting」では低域の分厚さがどうしても気になってしまうということは弱点ですが、SENNHEISERらしく上手くはまったときの音は魅力的でした。
SENNHEISER IE60との組み合わせでは
DAC-HA300 >= AK100II > DP-CMX1 ≒ XDP-100R
となりました。
・SONY MDR-1RBT MK2 (有線接続時)
2万円前後クラスでヒット作となったSONY MDR-1Rのシリーズモデルで、Bluetooth接続に対応したヘッドセットという扱いの製品です。初代の標準モデルであるMDR-1Rもあるのですが、MDR-1RBT MK2の方が低域方向の深さがあり、傾向としては気に入っていますので試聴にはこちらを使います。ちなみに同じMDR-1Rシリーズのノイズキャンセリング対応モデルMDR-1RNCも持っていますが、これはMDR-1Rとは全く別の音質傾向を示します。MDR-1RとMDR-1RBT MK2は細部の違いというべき差であり、MDR-1Rで試聴しても大きな違いはないものと思います。
MDR-1R系は高域方向のクリアさや緻密さは素晴らしいものがありますし、量こそ控えめながら低域もかなり深い音は出るのですが、ドンシャリが主流のこの分野では珍しくややカマボコ型(低域・高域より中域が多めに出るバランス)の音という特徴があります。また、性格的にはリスニングよりもモニター向けであり、情感豊かに歌っているような曲をサラリと聴かせるタイプのヘッドフォンです。
DP-CMX1では良くも悪くもこのMDR-1R系の傾向がそのまま表れます。高域は緻密かつクリアですし、「Babylon Sisters / Steely Dan」や「Englishman In New York / Sting」などの低域が土台となって音場を作り上げる曲では、それほど目立たないものの深い低音はきちんと出ています。
その素直なキャラクターはMDR-1RBT MK2の弱点ものそのまま表現してしまい、例えば「Dangerous / David Garrett」ではヴァイオリンのソロの音が中域の張り出しの影響で籠もってしまいますし、「きみからみたわたし / 南條愛乃」ではヴォーカルがやや鼻声に聞こえてしまいます。「Wallflower / Diana Krall」はまずまず綺麗にまとまっているのですが、Diana Krallのヴォーカルの情感が感じられず、流して歌っているような印象です。
DP-CMX1はあまり明確な個性を持つ音ではないだけに、良くも悪くもMDR-1RBT MK2の性格がそのまま表現されたように思います。
続いてXDP-100Rで試聴します。
「Englishman In New York / Sting」の冒頭を聴いただけでこの組み合わせの特徴がはっきりと表れます。カマボコ型のMDR-1RBT MK2に対してドンシャリ傾向のXDP-100Rですから丁度良い組み合わせかと思ったのですが、スタジオ録音の楽曲がまるで小規模なホールでライブ収録したかのように、エコーがかかったような音に聞こえてしまうのです。確かに低音の量感は丁度良い程度に出るようになりますし、高域もクリアなのですが曲の印象が変わって聞こえるほどの味付けは、ちょっと過ぎるのではないかという気がします。「Wallflower / Diana Krall」では冒頭のヴァイオリンが妙に安っぽい音に感じられるのに、ヴォーカルは存在感があって魅力的というちぐはぐさです。
「きみからみたわたし / 南條愛乃」のヴォーカルの質は力感がやや欠けるもののまずまずですし、低域もDP-CMX1より存在感があるため雰囲気は悪くありません。ただ、余計なホールエコーのような音がついて回るのはやはり気になります。「Dangerous / David Garrett」も思ったよりはヴァイオリンの音色が損なわれず好印象です。そしてこの色づけがプラスに作用する楽曲もあり、「I Can't Stop Thinking About You / Sting」などは適度なライブ感が出て楽しめます。
XDP-100RはDP-CMX1よりもはっきりとDAP側の性格が出てくる音に表れます。相性の良い楽曲では実に魅力的な音を奏でるのですが、そうでないと妙にわざとらしい音となってしまいます。
では、今度はAK100IIで聴いてみましょう。
Astell&Kernのプレイヤーはどちらかというと積極的にキャラクター付けをするイメージがあり、淡々としたモニターサウンドとなったDP-CMX1との組み合わせよりはヴォーカルも楽器も積極的に存在を主張してきます。「Babylon Sisters / Steely Dan」ではDonald Fagenのヴォーカルがいつになく主張してきますし、「きみからみたわたし / 南條愛乃」ではヴォーカルの力感が綺麗に消え去り囁くような歌い方に感じられます。原音忠実性という意味では論外ですが、出てくる楽曲には意外と魅力があるというのが判断を難しくします。
「I Can't Stop Thinking About You / Sting」ではベースの主張が殆どない代わりにStingのヴォーカルは前にぐっと出てきますし、「Dangerous / David Garrett」ではDP-CMX1の時に気になった籠もりがあまり不快な音に感じられない辺りに、音作りのうまさは感じます。MDR-1R系の製品との組み合わせでは、今までにないほどこの製品の色づけを強く意識させられました。
最後にDAC-HA300で聴いてみましょう。
他のDAPでは薄口だった低域が一気に色濃く出てくるのが印象的です。「Englishman In New York / Sting」では、これが本当に同じヘッドフォンなのかと疑問に思うほど低域がしっかりと力強く出てきます。「きみからみたわたし / 南條愛乃」でも低域がどっしりと落ち着き声の力感も出てくるため、曲本来の重厚感が戻ってきました。「Babylon Sisters / Steely Dan」ではDonald Fagenのヴォーカルがやや奥で歌っているような印象を受けますが、音場の表現は良好です。「I Can't Stop Thinking About You / Sting」も勢いのあるロックの音になっています。「Now / Chicago」はベースラインがもう少ししっかりしてくれればより良いのですが、他よりはホーンの音色やヴォーカルの質感が高いので不満は出にくい音です。
強いていえば「Dangerous / David Garrett」ではヴァイオリンにやはり固有の付帯音がついて回る辺りは気になりますし、「Wallflower / Diana Krall」では冒頭のヴァイオリンの安っぽさがやや気になります。
SONY MDR-1RBT MK2との組み合わせでは
DAC-HA300 > XDP-100R ≒ DP-CMX1 ≒ AK100II
となりました。
実は普段FOSTEX HP-A8で聴いているときにはもっと良く聞こえていたMDR-1RBT MK2が、DAPとの組み合わせでは「こんな音しか出なかったか?」と感じられていました。DAC-HA300との組み合わせでようやくいつものイメージに近い音が出てきたといえます。後継のMDR-1AシリーズはDAPでももう少し上手く鳴ってくれるのですが…。
・UltimateEars UE900
私の手持ちのイヤフォンの中では数少ない、MMCX端子によるリケーブル対応品です。普段はダイナミックドライバー搭載の製品を主に使っているのですが、たまにはBAユニットを複数使い分けているイヤフォンを使ってみようと思い入手した品です。もっとも、本機は3ウェイ4ドライバーという、多BAとしては割合大人しい構成です。
この製品はリケーブル対応ですので、対応するDAP(DP-CMX1とAK100II)ではアンバランス・バランスの双方で試聴します。組み合わせるケーブルは、アンバランスが
バランスが
となります。
早速DP-CMX1(アンバランス)で使ってみましょう。
UE900はカマボコ型のように聞こえるのですが、それぞれのBAユニットの中心周波数帯が強調されているというのが正解なのかも知れません。どうしてもユニット間の繋がりには難を感じる部分がありますが、DP-CMX1ではその特徴が素直に出て来ます。「Babylon Sisters / Steely Dan」では意外と低域方向の量もあり悪くないのですが、「Englishman In New York / Sting」のベースは明らかに薄く、中域が張り出していることがわかります。「きみからみたわたし / 南條愛乃」は音場はダイナミック型ではなかなか見られない、耳の外まで広がっていくような広さがあるのですが、低域の力が無いので重厚感は出ません。「Dangerous / David Garrett」はバックの演奏が小編成に聞こえる印象があり、ヴァイオリンの音色にも独特の癖が付きます。
「Now / Chicago」や「I Can't Stop Thinking About You / Sting」はカラッとしたロック系の音色が出て欲しいところなのですが、ふわりとした柔らかい空間を作ってしまいます。UE900の持つ性格がそのまま色濃く反映された音です。
続いてXDP-100Rです。
ドンシャリ基調のこのプレイヤーは、UE900との相性は良好です。「Englishman In New York / Sting」でも、他とは違い低域方向の不足をさほど感じないのです。ふわりと広がるBAらしい音場も健在ですので、独特のトーンにはなりますが純粋に楽しめる音になりました。「きみからみたわたし / 南條愛乃」はもう少し低域に重量感は欲しいところですが、他よりは密度感が出ていてこれも悪くありません。ヴォーカルの質も良好です。「I Can't Stop Thinking About You / Sting」でも、ようやくベースの躍動感が出ました。キレはあまり感じませんが、比較的バランスは良好でしょう。「Babylon Sisters / Steely Dan」は低域の厚みこそもう一歩ですが、エコーの成分が綺麗で印象的な音になります。「Now / Chicago」ではDP-CMX1よりも音場が明るく広がっている感覚であり、あまりロックの切れ味こそ出ていないものの悪くはない音です。
「Wallflower / Diana Krall」ではヴァイオリンの弦のこすれる感じが控えめになってしまうものの、ヴォーカルの力強さは割合よく出ています。そして「Dangerous / David Garrett」は意外なほど良いのです。XDP-100Rは他との組み合わせではこの曲をあまり得意にしていない印象を受けるのですが、UE900ではバックの楽器の音色がやや線の細さを感じさせるものの、David Garrettが弾くヴァイオリンの音は良好です。
この組み合わせはお互いの弱点を上手く補い合い、結果的にバランスの取れた音が出ることがあるという好例でしょう。
今度はAK100IIです。
中高域の辺りに独特の華やかさが加わるためか、上の方の帯域ではユニット感の繋がりの悪さは感じられません。但しDP-CMX1よりも明らかに低域が質・量共に落ちます。「Babylon Sisters / Steely Dan」ですら低域方向の厚みが不足して聞こえるほどです。ただ、ベースこそ厚みがないものの、それ以外の楽器の個々の音色はかなり良好です。「Englishman In New York / Sting」はこれだけ聴いていれば面白い音ですが、他と比べるとあってはいけないような響きが加わっています。演出がちょっと作為的に感じるのです。「I Can't Stop Thinking About You / Sting」は演奏がとてもソフトに感じられます。
「きみからみたわたし / 南條愛乃」はヴォーカルの雰囲気は非常に良いものの低域方向の不足が大きく音場の密度が薄く感じられます。「Wallflower / Diana Krall」はイントロのヴァイオリンの音色にかなり癖が乗りますが、Diana Krallのヴォーカルは好印象です。
AK100IIは割合低域方向が薄めですが、UE900も低域の量が出る製品ではなく、双方の特徴が引き出された結果かなり低域方向に薄さを感じるものとなります。
それではDAC-HA300で聴いてみましょう。
今までどのヘッドフォン・イヤフォンを聴いてもそつなく高い次元で鳴らしてくれていたDAC-HA300ですが、この組み合わせではあまりぱっとしません。
「Now / Chicago」では全ての楽器がソフトな鳴り方をしてしまい、ロックの歯切れの良さは全くありません。「Babylon Systers / Steely Dan」も低域の薄さが気になり、他の部分の音色の良さが活きません。「I Can't Stop Thinking About You / Sting」では低域方向は割合良好なのですが、スネアドラムの歯切れが悪く、少しちぐはぐ感があります。「きみからみたわたし / 南條愛乃」も音場の密度の低さが気になり、ヴォーカルも少し人工的な響きを伴います。
ただ、「Englishman In New York / Sting」と「Dangerous / David Garrett」、「Wallflower / Diana Krall」ではさすがというべきか、音場の広さと質感の高さで印象的な音となります。
ここでバランス接続を試してみましょう。試聴に使っている中でバランス接続に対応しているのはDP-CMX1とAK100IIのみですので、この2機種に絞った試聴となります。
まずDP-CMX1です。
アンバランスではどこか冷淡でモニター的だったのですが、「I Can't Stop Thinking About You / Sting」がきちんと骨太なロックになりました。「Babylon Systers / Steely Dan」ではアンバランスが何だったのかというほど音場が広くクリアで、低域の重心も下がりますし微細な音もきちんと拾います。少しDonald Fagenのヴォーカルに独特の癖は乗りますが、この程度であれば個性で済む程度です。「きみからみたわたし / 南條愛乃」はもう少し重厚感は欲しいところですが、ヴォーカルの力強さがまるで違ってきます。「Dangerous / David Garrett」もアンバランスで感じた小編成というイメージはすっかり消えます。
はっきり言ってしまうとアンバランスでは面白みに欠ける音だったDP-CMX1とUE900の組み合わせでしたが、バランスではかなり高水準で楽しめる音へと劇的に変化します。
AK100IIでは、バランス接続によって明らかに向上するのは高域方向のキレと透明度でしょう。アンバランスでは全くキレがなかった「Now / Chicago」のハイハットの質が大幅に良くなります。微細な部分の表現も格段に進歩して、「Wallflower / Diana Krall」ではブレスの音など細かい部分のリアリティーが全く別物です。
Englishman In New York / Sting」ではベースの質感が向上しますし、キレが良くなった分「I Can't Stop Thinking About You / Sting」のロックらしさもよく出てきます。アンバランス比で劣る部分はこれといってなく、これもバランスの恩恵はきちんと受けられています。ただ、DP-CMX1のような劇的な変化と言うほどではないかも知れません。
UltimateEars UE900 との組み合わせでは
XDP-100R ≒ DP-CMX1(バランス) >= DAC-HA300 > AK100II(バランス)> DP-CMX1(アンバランス) ≒ AK100II(アンバランス)
となりました。バランス接続のメリットを見せつけられた感じですね。
・FOSTEX T50RP mk3n
標準価格約2万円という比較的手ごろな価格であるにもかかわらず、RP(Regular Phase=全面駆動型)平面振動板という、通常であればかなり高価なシステムでしか利用されない方式のドライバーを搭載していることが最大の特徴となる製品です。確かにこの価格帯としては圧倒的に細部の再現性に優れ、スタジオモニターとしての性能の高さを実感できます。
まず、DP-CMX1で聴いてみましょう。
持ち味の高域方向の微細な表現はこの組み合わせでもしっかりと維持されていて、LP盤から起こしたソースの僅かな高域方向の歪みやノイズも見逃してくれないほどの再現性を見せます。バランスとしては中高域辺りに少し独特の派手さがあり、どのソースも割合明るめの音で鳴らします。
この傾向はロック系の楽曲ではプラスに作用するようで、「I Can't Stop Thinking About You / Sting」や「Now / Chicago」はロック系の勢いが上手く表現されます。その反面「Englishman In New York / Sting」や「Wallflower / Diana Krall」ではこの明るめの音が悪い方向に表れ、どちらもイントロから曲のイメージが変わってしまうような明るい音色で鳴り始めてしまいます。「Dangerous / David Garrett」では全体的な雰囲気は良いのですが、メインのヴァイオリンに固有の音色が付いてきてしまう印象です。
続いてXDP-100Rで聴いてみましょう。
T50RP mk3nの性格はここでも色濃く出るのですが、「Englishman In New York / Sting」のベースが妙に力強く、ゴリゴリ迫ってきます。音場もDP-CMX1よりは狭く感じられます。「Now / Chicago」ではハイハットとベースが強く主張してくるドンシャリパターンですが、ヴォーカルは悪くありません。ただ、ホーンは細身です。「きみからみたわたし / 南條愛乃」はヴォーカルはまずまずながら音場が狭くなりこの曲の良さが出てくれません。
ただ、意外なことに「Wallflower / Diana Krall」はややイメージよりも明るく聞こえるものの悪くはありませんし、「Dangerous / David Garrett」も音色は明るいものの弦の震える感覚などはよく出ます。「I Can't Stop Thinking About You / Sting」は派手なロックサウンドで心地良いなど、上手く方向性が合えば魅力的な音になります。
次はAK100IIです。
AK100IIはこのヘッドフォンとの相性があまり良くありません。AK100IIの控えめな低域と、やや丸みのある高域が必要以上に強調される傾向があるのです。例えば「Now / Chicago」では他のプレイヤーで聴くよりもベースが奥に引っ込んでしまいますし、「Wallflower / Diana Krall」ではヴォーカルが細身に感じられてしまいます。
「Babylon Systers / Steely Dan」を聴くと低域が腰高ということ以上に、音場が広がらないという事が気になります。「Dangerous / David Garrett」でもバックのオーケストラの人数が減ったかのようなスケール感ですし、ヴァイオリンの音も痩せてしまいます。「I Can't Stop Thinking About You / Sting」ではベースが軽いだけではなく解像感も不足していて、骨太さがありません。「きみからみたわたし / 南條愛乃」でも低域が薄く、音場が縦方向に狭いような印象を受けてしまいます。端的に言ってしまうと、AK100IIではこのヘッドフォンを鳴らし切れていないということでしょう。
そしてDAC-HA300です。
「Babylon Systers / Steely Dan」でまず一聴して明らかなのは音場の広さの違いです。AK100IIは極端としても、他の2機種もやはり広がりという意味ではもう一歩という印象を受けたのですが、DAC-HA300では本来の広さを取り戻します。DP-CMX1と同じく中高域の明るさが少し曲のイメージを損ないますが、音場の広さの分DAC-HA300が上回ります。「Dangerous / David Garrett」でもヴァイオリンの音色は少し明るすぎるかなと思うのですが、低域がしっかりと重心も低めに出ていて、全体的にはこれが最もまとまっています。
「Englishman In New York / Sting」では冒頭のサックスの音色が人工的な響きに感じられるのが残念ですが、ベースの沈み込みは表現出来ていますし、ヴォーカルもまずまず自然です。「I Can't Stop Thinking About You / Sting」は勢いのあるロックとなってくれます。ただ、「きみからみたわたし / 南條愛乃」のヴォーカルが硬質な響きとなる辺りは弱点ですし、「Now / Chicago」でもホーンの音色が妙に細身に感じられる面もあります。
FOSTEX T50RP mk3nとの組み合わせでは
DAC-HA300 > DP-CMX1 ≒ XDP-100R > AK100II
となりました。
・Aurisonics BRAVO-Series FORTE-RED
今日は別のモデルの試聴記事を掲載するつもりだったのですが、なかなか面白いイヤフォンを借りることが出来たので、これをいつも通りの方法で比較試聴してみましょう。
Aurisonics製のダイナミック+1BA ハイブリッド型イヤフォン、FORTE-REDです。この分野に明るい方でなければ聞いたことがないブランドかも知れませんが、実は昨年楽器メーカーのFenderに買収され、Fenderブランドのイヤフォン製品群をリリースするようになった会社です。Fenderから発売された新シリーズはこのAurisonicsのBRAVOシリーズをベースとしていて、本機FORTE-REDはFender FXA6のベースモデルとなっているものと思われます。
本機はMMCX端子によるリケーブルに対応していますが、今回は借り物であるため標準添付のアンバランスケーブルでのみ試聴しました。
まずはDP-CMX1で聴いてみましょう。
第一印象としては音場が濃密かつ広いということです。「I Can't Stop Thinking About You / Sting」はスネアドラムは少し地味になるものの、ベースラインがうねるような弾力性があります。「きみからみたわたし / 南條愛乃」は、濃密な空間とヴォーカルのリアリティが同居していて、なかなか聴き応えがあります。「Englishman In New York / Sting」ではベースがグイグイ出てくるものの、他の楽器が埋もれる訳でもなく、質感も良質です。
もっとも、明らかに苦手とするソースも多く、「Babylon Sisters / Steely Dan」は個々の楽器の音色こそ素晴らしいものの、肝心のDonald Fagenのヴォーカルに妙な癖が乗ってしまい、全体的な印象はもう一つです。「Dangerous / David Garrett」はメインのヴァイオリンが奥に引っ込み、バックの演奏が主役よりも前に出てきてしまいます。「Wallflower / Diana Krall」はヴァイオリンの音色にやや籠もりがあり、全体的な印象もパッとしません。Diana Krallのヴォーカルは素晴らしいだけに惜しいところです。「Now / Chicago」は個々の楽器の音色は心地良いものの、ヴォーカルが随分奥に引っ込んでしまい、ハイハットの解像感も低めです。
続いてXDP-100Rで聴いてみましょう。
DP-CMX1での印象から、低域が強め同士なので極端なローブーストになってしまうのではないかと懸念していたのですが、意外にもバランスはDP-CMX1よりも良好でした。
「Englishman In New York」は少しベースがやや他に対して勝ってしまっているものの、ヴォーカルの質が良く、楽器の質感も素晴らしいものとなります。「きみからみたわたし / 南條愛乃」は、DP-CMX1では無かった、音場の奥行きのようなものが感じられるようになりました。ヴォーカルも生々しさが感じられます。「Now / Chicago」はホーン部隊の音色が良く、Chicagoの楽曲らしいイメージが出てきました。「I Can't Stop Thinking About You / Sting」は、やはりベースはある程度主張するもののギターの音色も素晴らしく、ドラムの勢いも感じられるのでロックらしい音として楽しめるものとなります。「Wallflower / Diana Krall」はヴァイオリンの音色はまずまずという程度なのですが、ヴォーカルはぐっと良くなります。「Babylon Sisters / Steely Dan」は音場の密度が濃く、微細な音もきちんと描き出すような緻密さもあります。
強いていえば「Dangerous / David Garrett」ではどうしてもヴァイオリンの音色にしっくりこないものがあるのですが、気になった点はそれくらいという相性の良さでした。
次にAK100IIで聴いてみましょう。
こちらは低域がやや薄めのAK100IIと低域が強めのFORTE-REDという組み合わせであり、理屈通りに補い合うという結果でした。
「Now / Chicago」のヴォーカルがきちんと中心に存在感を持って表れるようになります。そしてホーンの音色もハッとするような質感が感じられます。「Babylon Sisters / Steely Dan」も音場が濃密で、個々の音にはなまめかしさすら感じますし、Donald FagenのヴォーカルもDP-CMX1のような癖は感じられず、極めて自然です。「Wallflower / Diana Krall」のヴァイオリンも籠もりがとれ、質感も良好ですしヴォーカルにも力強さがあります。「きみからみたわたし / 南條愛乃」は重心が低いながらも見通しの良い音場で、空間表現が非常に魅力的ですし、ヴォーカルの質感も見事なものです。「I Can't Stop Thinking About You / Sting」は、DP-CMX1と比較して低域の極端な張り出しが目立たず、骨太なロックというよりはややウォーム系のサウンドではありますが、Stingのヴォーカルは素晴らしいです。
「Dangerous / David Garrett」ではメインのヴァイオリンがやや地味に感じられるきらいはあるものの、バックの演奏の質はかなり良質です。「Englishman In New York / Sting」は冒頭のサックスで少しエコーが強調される感はあるものの、やはり音場が広く濃密で、楽器やヴォーカルの質感も良好です。
そしてDAC-HA300でも聴いてみます。
意外なことにDAC-HA300の音はDP-CMX1と同系統となり、決して相性は良くありません。
「Babylon Sisters / Steely Dan」は音場の密度こそ最も濃いものの、妙に空間の見通しが悪いのが気になりますし、Donald Fagenのヴォーカルにも癖が付いてしまいイマイチ。「Dangerous / David Garrett」もメインのヴァイオリンがやや籠もります。「Englishman In New York / Sting」は冒頭のサックスの音色は良いものの、全体的に見れば良いがベースが勝ちすぎてバランスが崩れます。ヴォーカルもやや力なく感じられます。「Now / Chicago」もドラムが随分奥に下がってしまい、ベースだけが前にせり出してきて演奏しているイメージです。
もっとも「きみからみたわたし / 南條愛乃」は音場の見通しは悪いものの重厚感はあり、ヴォーカルは良好で全体的に見ればまずまずです。「I Can't Stop Thinking About You / Sting」は全体的にどの音もキレは悪いのですが、バランスは意外とまとまっていて悪くはありません。「Wallflower / Diana Krall」は意外なことにヴァイオリンも悪くはなく、ヴォーカルは力があり素晴らしいものです。
Aurisonics FORTE-REDとの組み合わせでは
AK100II > XDP-100R > DAC-HA300 > DP-CMX1
となりました。こうしてみるとONKYOブランドが付いた製品との相性が悪いのでしょうか…。
・ONKYO IE-HF300
前回試したAurisonics FORTE-REDがONKYOブランドの製品と相性が悪いという結果となってしまいましたので、今度は手持ちのヘッドフォン・イヤフォンの中で唯一のONKYOブランド製品を使ってみましょう。
DP-CMX1にはONKYOブランドのヘッドフォン・イヤフォンに対してプリセットされた最適化モードがありますので、その効果についても合わせて確認してみましょう。
まずは通常通り、ヘッドフォン選択を「other」(他社製品は全てこれを選択します)にして試聴します。
基本的にはIE-HF300のレビューで書いた印象から大きく変わるものではありません。やや解像感は甘いものの、どのソースも程々に鳴らしてくれます。但し、本当に深い低音が出る訳では無く、高域方向も伸びきっているという感じではありません。どうしてもクラス相応と感じてしまうのは低域方向で、厚みはあるのですが解像感が無いのです。ベースの音色がどのソースを聴いても変わらないような印象を受けてしまいます。
これを「ONKYO IE-HF300 / CTU300」に変更してみましょう。するといきなり驚くのですが、「Babylon Sisters / Steely Dan」の低域方向の余裕がまるで別物で、いきなり2ランク増したような深みを持ちます。「きみからみたわたし / 南條愛乃」も、ヴォーカルはやや淡泊ですが、音場の濃さが増すので、そこそこ重厚感が出ます。ただ、低域方向がややわざとらしいほどに演出されるのに対して、高域方向は大人しめという印象を受けます。そこでIE-HF300の添付ケーブルを廉価版としたモデル、IE-FC300のプリセットを選んでみました。すると低域方向と同じくらい高域に演出が入り、「I Can't Stop Thinking About You / Sting」などが乾いたロックの音により近づきます。曲によってはわざとらしさがつきまといますが、これはこれで面白い音です。強いていえば「Dangerous / David Garrett」のヴァイオリンの質感はそれほど良くなる訳ではなく、本質的な音が変わるほどでは無いようです。
個人的にこのような補正機能はあまり好みでは無いのですが、DP-CMX1の場合はそれほど極端な味付けでは無いため、たまに使っても良いかな、と思える程度の満足感はありました。IE-HF300との組み合わせでは、ワンランク以上上の価格帯の製品と替えたような改善効果はあります。
続いてXDP-100Rです。
DP-CMX1と比べれば派手な音が持ち味のXDP-100Rですが、低域も高域も強調感はあるものの解像度が低く、全ての音がなにかベタついたような妙な印象を受けます。
特に極端なのは「I Can't Stop Thinking About You / Sting」で、ベースの厚みもありハイハットもやや強調されるのですが、あまりにもキレが悪く乾いたロックの音など全く出てきません。「Babylon Sisters / Steely Dan」は低域の厚みはあるのですが音場が平面的で、深みが感じられません。「きみからみたわたし / 南條愛乃」も同様で、やはり重厚感が全く出ません。「Wallflower / Diana Krall」では、冒頭のヴァイオリンが何か不自然で、とても生っぽい音色が出る打ち込みの音と言われたらしっくりきそうです。
どの曲を聴いてもあまりしっくりとくるものはなく、この組み合わせの相性が良くないと考えて差し支えなさそうです。
次にAK100IIで聴いてみましょう。
この組み合わせもキレの悪さはXDP-100Rと同様なのですが、こちらの方が強調感が無いためそれほどのちぐはぐさは感じません。
「Now / Chicago」などは妙に元気の無い音ではあるのですが、XDP-100Rでは質感の低いベースが張り出して不快だったところを、こちらはバランス的には整っているため特に不快感はありません。とはいえ、「Babylon Sisters / Steely Dan」ではやはり音場の奥行きが無く、また広さもありません。「I Can't Stop Thinking About You / Sting」ではベースもハイハットも大人しいのですが、スネアドラムが意外と主張するという、個性的な音となります。
「Dangerous / David Garrett」でいえばヴァイオリン、「きみからみたわたし / 南條愛乃」ではヴォーカルといった主役であるべき筈の音が妙に遠くに位置してしまう辺りはAK100IIの性格なのかも知れませんが、この組み合わせで特に目立つ弱点といえます。
そして最後は、これもONKYOブランド同士となるDAC-HA300との組み合わせです。
楽器やヴォーカルの質感は他よりも良いのですが、これもAK100IIとの組み合わせで見られた「主役となる音が妙に遠目に定位する」という癖が見られます。「Babylon Sisters / Steely Dan」ではDonald Fagenの声量が落ちたかのような印象すら受けた程です。「I Can't Stop Thinking About You / Sting」では他の組み合わせよりも高域方向の解像度が良くなるため、ハイハットの質感が出てきますがベースラインは相変わらず不明瞭でした。「Englishman In New York / Sting」音場自体は今までの組み合わせの中では最も良いのですが、冒頭のサックスの音色が全くダメです。
どうしても厳しいのは「Now / Chicago」で、ホーンの音色がやはり安っぽくなってしまうこと、ベースラインが不明瞭でありながら出しゃばってくる、ヴォーカルが遠目に定位するなど、マイナス要素がまとめて集まってしまうのです。
ONKYO IE-HF300との組み合わせでは
DP-CMX1(IE-HF300選択)> DAC-HA300 ≒ DP-CMX1(other選択)> AK100II > XDP-100R
となりました。さすがに同一ブランド同士の相性の良さが光りますね。
徹底試聴の続き
どうやらセクションの字数上限に達したらしく、途中で文章が切れてしまっていたので、セクションを分割します。ATH-IM02の文章は欠けてしまっていて、原稿も残っていませんので、詳細はやや簡略化した形で再度記述します。
・audio-technica ATH-IM02
最初に取り上げたATH-CKR10と同じオーディオテクニカ製ですが、こちらはBAの2ウェイでリケーブル対応と、全く違った特徴を持つ製品です。こちらは中古購入品でイヤーピースは欠品していたため、刺激が強いといわれる本機の傾向を考慮して、やや大人しめの音になるものを組み合わせています。また、ケーブルもNOBUNAGA Labs TR-IM3に交換済みとなります。なお、本機はリケーブル対応ではあるのですが、純正・サードパーティーを含めて2.5mm4極バランス接続対応のケーブルが販売されていないようですので、仕方なく自作しました。このケーブルについてはこちらで説明しています。
DP-CMX1(アンバランス接続)では、まず低域の厚みと力感がはっきりと不足しています。「Babylon Systers / Steely Dan」や「Englishman In New York / Sting」、「きみからみたわたし / 南條愛乃」は低域の厚みで音場の重厚感が出てくるタイプの楽曲ですので、どうしても曲全体の印象が薄いものとなってしまいます。「Now / Chicago」や「I Can't Stop Thinking About You / Sting」は、もう少しベースラインがきちんと出て欲しい部分はあるものの、スネアドラムのアタックはかなり鋭く出ますし、高域方向のキレもやは刺さる感があるほどですから、なかなか勢いの良い音となり好印象です。ただ、意外と「Dangerous / David Garrett」ではヴァイオリンの音色が作り物のように感じられしまいました。ヴォーカルの質はどの楽曲もなかなか高いものがあります。
そしてこれをバランス接続にすると、低域方向に不足していた要素が大幅に改善されます。さすがに低域の重量感までは出ないものの、ベースラインがきちんと弾いているという感覚が得られる程度には表現されますし、音場も一回り広がります。高域方向はキレを保っているのですが、付帯音が減りクリアになるためか、刺さりがやや目立たなくなります。
AK100IIでは、とにかく低域が不足します。元々低域の量が少なめであるAK100IIとの組み合わせは特に難しい結果となってしまいます。「Dangerous / David Garrett」のヴァイオリンの音色など、光る部分も無いわけではないのですが、「I Can't Stop Thinking About You / Sting」などは薄っぺらい楽曲に感じられてしまいますし、「きみからみたわたし / 南條愛乃」も軽い印象しか受けません。
「Babylon Systers / Steely Dan」や「Englishman In New York / Sting」は個々の楽器の音色が意外と良いのですが、ベースがあまりにも力不足で妙に安っぽさを感じさせる音になってしまいました。
ところがこれをバランス接続にすることで、低域の力感が改善することから、量が薄く感じるのは相変わらずながらも楽曲の聞こえ方は随分改善します。楽器の質感も向上し音場も広がることから、DP-CMX1のバランス接続ほどではないもののかなり聴ける音へと変化しました。
XDP-100Rは低域を持ち上げているタイプのプレイヤーであり、低域が不足しがちなATH-IM02との相性は良いのではないかと思ったのですが、結果はむしろ相性は悪い方となりました。XDP-100Rが持ち上げている帯域とATH-IM02で不足しがちな部分が上手く合致しないのか、とにかく不自然さが目立ちます。「Now / Chicago」などはベースの厚みは充分出ますが、バスドラムの力感や解像感が良くないため、低域一つ取ってもちぐはぐな音となってしまいます。
また本来は音場が広めであるATH-IM02を使っているにもかかわらず、音場がさほど広がらないというのも気になるところです。もっとも、それでも低域が「スカスカ」となってしまうAK100II(アンバランス接続時)よりは、部分的であっても出ている分マシに聞こえる楽曲が多いのも事実です。
そしてDAC-HA300ですが、音場は広く低域もある程度は出てくるものの、妙にスネアドラムやハイハットのキレが悪いことが気になります。「I Can't Stop Thinking About You / Sting」ではドラムはかなり派手に叩いている感じは出るのですが、音がベタベタ歯切れ悪く鳴っているような印象を受けてしまうのです。「Wallflower / Diana Krall」や「きみからみたわたし / 南條愛乃」のようなヴォーカルで聴かせるタイプの楽曲は高水準ですが、全域にわたって何か切れが悪いという印象はつきまといました。それでも音場の広さなど、さすがの面はありますので、XDP-100Rよりはずっと楽しめる楽曲が多かったのも事実です。
audio-technica ATH-IM02との組み合わせでは
DP-CMX1(バランス)> AK100II(バランス) > DAC-HA300 ≒ DP-CMX1(アンバランス)> = XDP-100R > AK100II(アンバランス)
となりました。これもバランス接続が明確にアンバランス接続を上回りました。使っているTR-IE3の品質がさほど高くないということなのかもしれませんが、バランス接続することでATH-IM02自体が1ランク以上グレードアップしたかのような印象を受けます。さすがのDAC-HA300でもこの差をひっくり返すには至りませんでした。
・SENNHEISER HD650
私が現時点でメインとして使っているのが、このHD650となります。以前はLUXMAN DA-100を同軸デジタルから入力してDAC兼ヘッドフォンアンプという形で使っていたのですが、現在はFOSTEX HP-A8との組み合わせで、メインPCと接続して使っています。
部分的にHD650を上回る製品は数多くあると思うのですが、結局音楽の全体像をみたときに、このヘッドフォンを完全に超えるものには出会えていないのです。上位のHD700などを聴いてみても、これを完全に超えたとは思えませんでしたし、むしろHD650の音質の方に安心感があるのです。
HD650は添付ケーブルが6.3mmフォーンプラグのものですので、この試聴用に2.5mm4極バランスケーブルと3.5mmステレオミニプラグケーブルを、全く同じ線材を使って自作しました。DP-CMX1とAK100IIではバランス・アンバランスの双方を試します。
まずはDP-CMX1のアンバランス接続です。
HD650はアンプが非力なプレイヤーではそもそも音にならないヘッドフォンなのですが、その水準は軽々とクリアしています。その上で評価すると「Dangerous / David Garrett」では少しヴァイオリンの音が平坦に感じられます。「Babylon Systers / Steely Dan」なども悪くはないのですが、やや音場が狭まる傾向があります。これは低域の密度感がやや不足していることの影響ではないでしょうか。「きみからみたわたし / 南條愛乃」も、バランスはまとまっているのですが、音場が狭くまとまっています。
「Wallflower / Diana Krall」では整っているのですが、Diana Krallのヴォーカルの表情がやや乏しく感じられます。ここまで感じられた傾向が最も強く出るのが「Englishman In New York / Sting」で、ベースが腰高で音場に奥行きが感じられません。「Now / Chicago」はホーンの音色は良いのですが、ベースに厚みが感じられなくなります。
これをバランス接続に変更してみましょう。
すると一気にどこか奥まっていた演奏が前に出てくるイメージとなります。特にDavid Garrettのヴァイオリンの質感は大幅に向上します。「Englishman In New York / Sting」などの音場も、先程まであまり感じなかった奥行きが出てくるようになります。やはりバランス接続によってワンランク以上向上する印象です。
今度はAK100IIで聴いてみましょう。アンバランス接続から。
まず明らかに出る傾向は、エネルギーバランスが高域に寄るということです。「Now / Chicago」ではベースの存在感が希薄になり、ハイハットやホーンの音色が前面に出て来ます。「Wallflower / Diana Krall」でもヴァイオリンにもヴォーカルにも厚みが感じられません。「Dangerous / David Garrett」のヴァイオリンはなかなか良いのですが、バックのスケール感が乏しくなります。
「Englishman In New York / Sting」では意外とベースの量は意外と稼げているのですが、どうしても音が腰高ですし、奥行きは全くなく横方向のみに音場が広がっている印象です。「I Can't Stop Thinking About You / Sting」でも、スネアドラムの勢いは良いのですがバスドラムやベースがどうしても不足気味です。「Babylon Systers / Steely Dan」も音場に奥行きが全くなく、横方向だけにエコーが響いていく印象で、どうにも不自然です。
これもバランス接続にしてみましょう。但し、このテストの途中でケーブルが破損したので一部のみでの感想です。
こちらもアンバランス時よりは力感も向上しますし、音場も広がるのですが、DP-CMX1と比べると、その向上幅はやや少なめという印象です。どうしても力強い低音などはあまり出てこずに、サラリと鳴らす傾向があります。
続いてXDP-100Rで聴いてみます。仕様上アンバランスのみとなります。
割合低域にパンチがあるプレイヤーであるだけに、他のDAPよりは低域の厚みや力感があります。「Englishman In New York / Sting」では奥行きが出ると言うほどではないのですが、ベースラインは鮮やかですし厚みもそこそこ感じられます。「Dangerous / David Garrett」ではヴァイオリンの音色はやや落ちるのですが、スケール感は出ています。「Now / Chicago」は歯切れが良く、ホーンの音色もシャープで小気味よく鳴ってくれます。「I Can't Stop Thinking About You / Sting」はまさに骨太なロックそのものという鳴り方で、かなり高水準と言って良いでしょう。
もっとも、音場は広さこそあるものの奥行きは出ておらず、「Babylon Systers / Steely Dan」では全ての音が最前列で演奏されているかのような印象です。「きみからみたわたし / 南條愛乃」も同じような印象です。ヴォーカルの質感は良好なのですが…。
とはいえ、土台となる低域が割合しっかりしているためか、音場こそもう一歩だったものの比較的良いバランスで大体の楽曲を鳴らすことは出来ていたと思います。
それではDAC-HA300です。こちらも仕様上アンバランス接続のみです。
「Wallflower / Diana Krall」でいきなり他のアンバランス接続との差がはっきりします。冒頭のヴァイオリンの音がきちんと分解するため、何本で演奏されているかが把握出来るようになるのです。「Babylon Systers / Steely Dan」でも、FOSTEX HP-A8程ではないものの、ようやく音場に奥行きが出てくるようになります。「Englishman In New York / Sting」でも、ベースラインが鮮やかに描き出されるようになりますし、他の楽器の音色も良質です。
「Dangerous / David Garrett」ではヴァイオリンの質感が、普段HP-A8で聴いているものに近くなりました。「Now / Chicago」ではややスネアドラムの音が大人しくなりますが、それ以外の音色は良質です。「I Can't Stop Thinking About You / Sting」は低域の解像度と分解能が明らかにワンランク上で、XDP-100R以上に豪快さが出て来ます。「きみからみたわたし / 南條愛乃」もヴォーカルの質が明らかに変わり、きちんと中心で歌っているという印象を受けます。
さすがにポータブルアンプであるDAC-HA300は、HD650のようにDAPではやや非力感が出るようなヘッドフォンで、その真価を発揮してきます。
SENNHEISER HD650との組み合わせでは
DP-CMX1(バランス)≒ DAC-HA300 > AK100II(バランス)≒ XDP-100R > DP-CMX1(アンバランス)> AK100II(アンバランス)
となりました。これもバランス接続が明確にアンバランス接続を上回りますが、地力で勝るDAC-HA300はアンバランスながら高水準でした。
・PHILIPS Fidelio L1
PHILIPS Fidelioシリーズといえば、PHILIPS社内の「ゴールデン・イヤー」と呼ばれる、厳しい審査基準をクリアした社内の優秀な耳を持つ技術者が音質決定することで知られる製品群ですが、その割に極めて尖った個性を持つ製品が多いシリーズでもあります。
このFidelio L1については、とにかく低域の厚みが特徴です。ただ、私は元来低域が無駄に多い音は苦手にしていて、聴いていて不快感すら覚える場合もあるのですが、この製品の低音はそれほど苦にならないのです。DAPのように低域の力がどうしても不足しがちな相手と組み合わせるのであればアリかと思い、テストに加えました。
それでは、DP-CMX1で聴いてみます。
やはり低域の厚みは目立つのですが、普段HP-A8と組み合わせているときよりは割合普通に近いバランスです。低域が張り出しても音場はむしろ開放的というのがなかなか不思議なのですが、Fidelio L1らしくたっぷりとした低域と意外と質感の良い中高域で「I Can't Stop Thinking About You / Sting」などはかなり好印象です。「Babylon Sisters / Steely Dan」でも、どっしりとした低域に支えられ、落ち着いた空気感が良く出ます。「Wallflower / Diana Krall」などは演奏の一つ一つにどっしりとした存在感があり、独特ながら魅力的な音です。
ただ、大きく張り出す低域に負けないように所々にアクセントが付くのがこの製品の特徴であり、「きみからみたわたし / 南條愛乃」などはヴォーカルがかなりハスキーに感じられます。また「Dangerous / David Garrett」ではメインのDavid Garrettの音以上にバックの演奏が派手に主張してくるというちぐはぐさが出てしまいます。「Englishman In New York / Sting」ではベースの音はどっしりと存在感があって良いのですが、サックスの音が妙に安っぽくなってしまいます。「Now / Chicago」もホーンの音が少し細身で貧相に感じられるのは弱点です。ただ、ドラムやヴォーカルなどは活き活きとして決して悪くはありません。弱点も多いながら、魅力が十分にある音といえます。
次にXDP-100Rで聴いてみましょう。
この組み合わせでは派手な音同士であり、低域の量が明らかに多すぎます。DP-CMX1では不快なほどでは無かったのですが、XDP-100Rでは少々不快です。「Englishman In New York / Sting」ではベースばかりが目立つと同時に音場の狭さが気になります。「Dangerous / David Garrett」では意外なことにDP-CMX1よりは低域は目立たないのですが、ヴァイオリンの音が痩せてしまいます。「Now / Chicago」ではドラムが派手でロックの音としては正しいのですが、音場が異様に狭くなります。「I Can't Stop Thinking About You / Sting」は音場が狭いという点は変わりませんが、楽器やヴォーカルは魅力的な音になります。
「Babylon Sisters / Steely Dan」では雰囲気はなかなか良いのですが、全ての演奏が最前列という印象を受けるほど、個々の楽器の主張が強くなります。ところが逆に「きみからみたわたし / 南條愛乃」では、ヴォーカル以外は奥の部屋で演奏しているのではないかと思うほど、妙に奥まって聞こえる部分があります。
続いてAK100IIで聴いてみます。
まず、「Now / Chicago」で気になるのはホーンだけが妙に手前に定位して、しかも音色が安っぽいということです。その一方で「Wallflower / Diana Krall」は冒頭のヴァイオリンから引き込まれるような素晴らしさで、少しだけヴォーカルに淡泊さが残るものの、なかなか見事な音質となるのです。「Babylon Sisters / Steely Dan」も少し演出過剰な感じはありますが雰囲気は良好です。「きみからみたわたし / 南條愛乃」は少し音場が狭まりますが、ヴォーカルは良好で重厚感も出ていますので総合的には良質といえます。
恐らくこれはヴァイオリンなど特定の音色が妙にリアリティーを感じさせるというAK100IIの性格と、Fidelio L1特有の強調感が上手くマッチしたときに素晴らしいバランスとなり、そうでないと極端に崩れてしまうということではないかと思います。「Englishman In New York / Sting」などは、殆どの音に妙な強調感が付いてしまい、お世辞にも良いとはいえません。「I Can't Stop Thinking About You / Sting」はバランス的には悪くないのですが、ベースラインの解像度が落ちるので何かキレの無い音になってしまいます。「Now / Chicago」はホーンの派手さが悪い方向に出て少し耳障りです。
そして最後にDAC-HA300で聴きます。
まず、「Babylon Sisters / Steely Dan」の冒頭から他と明らかに違いが出てきます。音場の広さが明らかに上なのです。ヴォーカルが少し引っ込んでしまう傾向はあるのですが、広さや奥行きは他のDAPではここまで出ませんでした。「Dangerous / David Garrett」でもヴァイオリンの音色といい音場の広がりといい、明らかにDAC-HA300が抜きん出ています。
「Englishman In New York / Sting」では少しベースラインが出すぎていて、他の楽器よりも出しゃばってしまいますが、ヴォーカルや個々の楽器の質はこれが最も良くなります。同じStingの「I Can't Stop Thinking About You」ではベースもそれほど極端には出てこないため、若干高域方向のキレは甘めですが最も整っています。「Now / Chicago」ではやはりベースが少し出過ぎですが、ホーン部隊の音色が生っぽく出ているのはやはりこちらです。「きみからみたわたし / 南條愛乃」でも、ようやく音場の広さが本来のものとなった気がします。ヴォーカルの質も明らかにこれがワンランク以上上でしょう。これは正直言ってポタアン(ポータブルアンプ)ならではの強さですね。
PHILIPS Fidelio L1との組み合わせでは
DAC-HA300 > DP-CMX1 >= AK100II ≒ XDP-100R
となりました。DAP3機種の実力差はそれほど大きくは無いのですが、強いていえば最も極端な苦手を感じさせなかったDP-CMX1に分があるという判断です。
・JH Audio × Astell&Kern The Siren Series Michelle
JH AudioとAstell&Kernのコラボモデルで構成されるThe Siren SeriesのローエンドモデルとなるのがMichelleです。JH AudioはBAユニットを多数搭載したハイエンドモデルを得意としていますが、このMichelleは3ウェイ3ドライバーという、マルチBA型としては極めてオーソドックスな構成が特徴となります。一応このシリーズの製品を一通り試聴した結果として、最も個性が弱く汎用性が高いというところを評価して購入したという経緯があります。
この製品はAstell&KernのDAPに最適化されているため、標準添付のケーブルも通常の3.5mmステレオミニプラグのもの以外に、DP-CMX1で利用可能な2.5mm4極プラグケーブルが用意されているのも今回の試聴向きと考えたのです。
それでは、まずDP-CMX1に3.5mmステレオミニケーブルで接続して試聴してみましょう。
Astell&Kernのプレイヤーに最適化されているはずのMichelleですが、DP-CMX1との相性はなかなか良好です。「I Can't Stop Thinking About You / Sting」は少しベースの解像度が甘いものの、迫力は充分にありますし、ドラムの音がかなり生っぽさをを伴って出て来ます。「Babylon Systers / Steely Dan」では、この曲らしい音場がきちんと構築されますし、低域の重心が低く濃密さが出ます。「きみからみたわたし / 南條愛乃」では、今まで多くのイヤフォンでヴォーカルがハスキーだったり鼻声だったりということがあったのですが、この環境ではそのような変な癖はなく素直に声が出ている印象です。「Dangerous / David Garrett」では、これも多くの組み合わせでなかなか出てこなかった、本物らしいヴァイオリンの音がきちんと出ています。若干低域の解像感が不足しますが、スケール感もあり、この曲本来のイメージがきちんと伝わります。
「Wallflower / Diana Krall」では、少しヴォーカルの音像が大きすぎる感はあるのですが、バックの楽器も含めて質感の高さが印象に残ります。「Englishman In New York / Sting」は少しサックスの音色が細身になりますが、これはまだMichelleの使用時間が10時間程度しかないことも影響しているのかも知れません。それ以外の楽器の音色は良好ですし、音場も広さや奥行きが充分にあります。「Now / Chicago」は少しベースラインが大人しくなりますが、ヴォーカルやホーン部隊の質感は良く、充分に楽曲の世界観は伝わってくる音質を保っていると評することができます。
では、これをバランス接続に変えてみましょう。
まず低域の力感が向上すること、高域の透明度が向上することがバランス接続時の変化といえます。音場がクリアになり、余計な付帯音がスッキリと取れるというイメージです。音場も一回り広がります。「Babylon Systers / Steely Dan」「きみからみたわたし / 南條愛乃」などはかなり良い雰囲気で聴くことが出来ます。ただ、角が取れて少し大人しい音になるという面もあり、「I Can't Stop Thinking About You / Sting」や「Now / Chicago」などはもう少し刺激があっても良いかなと思う部分もありました。「Englishman In New York / Sting」はベースに厚みと力が出て、解像度も向上するのでアンバランスの数段上といえます。
続いてAK100IIで聴いてみましょう。まずはアンバランス接続です。
さすがにAstell&kernコラボモデルだけあり、普段のAK100IIとはひと味違う音が出て来ます。「Now / Chicago」では、いつになくホーン部隊の音色がシャープですし、普段のようなドラムのキレの悪さも感じられません。音場もDP-CMX1との組み合わせより広くなります。ただ、手放しで褒められない部分もあり、低域はどうしても腰高で、音場も広さはあるものの密度はやや薄めとなります。「Wallflower / Diana Krall」でも、冒頭のヴァイオリンの音色が細身になる辺りが少々気になります。ヴォーカルの細かな気遣いまでがきちんとリアルに再現されている辺りは素晴らしいところです。
少し意外なのは「Dangerous / David Garrett」で、ヴァイオリンの音が少し痩せてしまうということです。低域の解像度が甘く、迫力にもやや欠けます。「Englishman In New York / Sting」ではサックスの音色はDP-CMX1と似た傾向を示しますが、ベースの音はこちらの方がやや軽い代わりに明瞭になります。「I Can't Stop Thinking About You / Sting」は少しベースが大人しく、スネアドラムのアタックも控えめとなるため、豪快さに欠けます。「Babylon Systers / Steely Dan」も少し低域の密度が薄く、悪くはないのですがDP-CMX1よりは音場のイメージが妙に明るくなってしまう傾向が出ました。「きみからみたわたし / 南條愛乃」では、ヴォーカルがほんの少しハスキーになり、低域の厚みが不足して、音場の広さはあるものの密度が薄く感じられるという弱点がありました。
それでは、これもバランス接続に変えてみましょう。
高域方向はよりクリアになり、音場も広がるのですが、基本的な傾向はアンバランスとそれほど変わりません。ベースラインは相変わらず腰高で力感も不足しています。「Wallflower / Diana Krall」のような曲は本当に素晴らしいのですが、「Now / Chicago」や「I Can't Stop Thinking About You / Sting」ではもう少しベースラインやバスドラムの音を頑張って欲しいと感じます。「Dangerous / David Garrett」はヴァイオリンの質感が上がり、スケール感も向上して本当に良くなります。
今度はXDP-100Rで聴いてみましょう。XDP-100Rではアンバランス接続のみとなります。
まず「Englishman In New York / Sting」では、やや音場が狭くなる事が気になります。また、ベースは音域によって極端に膨らむ部分があり、少々不自然さがあります。「Dangerous / David Garrett」はDavid Garrettのヴァイオリンよりも他の演奏が前にしゃしゃり出てくるというイメージで、これも適正なバランスを欠いています。ヴァイオリンの音色自体は良好ですが…。
「Now / Chicago」は個々の楽器の音はなかなか良いのですが、これも音場が狭めで、皆で中央に集まって演奏しているような印象を受けてしまいます。「I Can't Stop Thinking About You / Sting」は元々広い音場が欲しい楽曲ではありませんので、悪くはない鳴り方です。ベースの重量感は出ていますし、Stingのヴォーカルの質は素晴らしいものがあります。「Babylon Systers / Steely Dan」も音場は狭まる分密度は濃く、なかなか魅力的な音に仕上がります。「きみからみたわたし / 南條愛乃」のヴォーカルはDP-CMX1に近いものですが、声がやや太く感じられます。「Wallflower / Diana Krall」のイントロは素晴らしいものがあり、ヴォーカルも質感は良いのですが、ヴォーカルの音像は大きすぎます。
そしてDAC-HA300での試聴です。
まず「Babylon Systers / Steely Dan」の冒頭ではっきりと判るのは、他の機種よりも音場が明らかに広くなり、奥行きもはっきりと出ているということです。バックの演奏も複雑に入り込むギターの一本一本がきちんと分解されていて、演奏の全容がはっきりと認識出来るようになります。「Dangerous / David Garrett」ではヴァイオリンの質感に格の違いがあり、SENNHEISER HD650にすら迫るほどの音色を奏でてくれます。「Englishman In New York / Sting」でも、イヤフォンで聴いていることを忘れさせるかのような音場の広さと質感です。
「I Can't Stop Thinking About You / Sting」はDAC-HA300の特徴であるスネアドラムのキレの悪さはやや残るものの、他のイヤフォンほどそれも気にならない程度ですし、Stingのヴォーカルが実に生々しく迫ってきます。「Now / Chicago」はややベースラインが弱く感じられますが、解像度は高く他の楽器も含めて音色自体は見事です。「きみからみたわたし / 南條愛乃」は、ヴォーカルの質感がDP-CMX1よりも更に上がります。音場の広さも充分にあります。「Wallflower / Diana Krall」も冒頭からヴァイオリンの質感の高さに感心させられます。ヴォーカルの厚みはXDP-100Rよりは無いのですが、歌の説得力は明らかに増します。
JH Audio Michelleとの組み合わせでは
DAC-HA300 ≒ DP-CMX1(バランス) > AK100II(バランス)> DP-CMX1(アンバランス) >= AK100II(アンバランス)> XDP-100R
となりました。ただ、明らかに相性の悪さを見せたXDP-100Rを除けば概ね高水準な音でしたので、どれを聴いても一定以上の満足感は得られるものと思います。
・Pioneer SE-MHR5
このレビューの執筆に当たりご提供いただいていたヘッドフォンです。既にFOSTEX HP-A8とAK100IIを使ってこのヘッドフォンについてレビューを書いていますが、実売価格1万円台後半という、各社の実力機が顔を揃える中でもかなり良く出来た製品として高く評価出来るものでした。
単に使っていても充分に価格以上の音を出す製品なのですが、2.5mm4極のバランス接続用ケーブルも同梱されているため、バランス接続の入門用に最適な存在といえます。このヘッドフォンを使っていて、より上の音を目指したくなったとすれば、それは既にオーディオ沼に填まってしまっている状態であることは間違いありません。
既にAK100IIではかなり使い込んだのですが、改めてDP-CMX1を起点に試聴してみたいと思います。まずはアンバランス接続から。
基本的な傾向は弱めのドンシャリです。密閉型であるだけに音場は両ドライバーの間に濃い密度で形成されるタイプといえます。「I Can't Stop Thinking About You / Sting」、「Now / Chicago」などは丁度ベースとハイハットが強調される感覚であり、気持ちよく力強いロックを奏でます。「Babylon Systers / Steely Dan」は奥行きこそあまり感じられないものの、低域に力があるので音場の表現は悪くありません。「Wallflower / Diana Krall」はイントロのヴァイオリンの音がちょっと軽いかと思う部分はありますが、ヴォーカルが入ってくると意外なほどヴォーカルに生々しさがあり、かなり聴かせる音になります。「Englishman In New York / Sting」は音場がやや狭くなるものの、ベースラインは明瞭で他の楽器の音色も良好です。
「きみからみたわたし / 南條愛乃」ではこの製品の弱点が顔を覗かせます。ヴォーカルの子音部分が強調される傾向があるためか、ヴォーカルの定位が発音などによって揺らいでしまうことがあるのです。また、低域も本当に低い辺りは出きっていないのか、「Dangerous / David Garrett」を聴いたときに妙に低域が軽く感じられる部分が出て来ます。ヴァイオリンの音色自体は悪くはありません。
それではここでバランス接続に変えてみましょう。
出てくる音はお約束のように「薄くかかったベールが剥がされたような…」という表現が似合いそうなもので、特にヴォーカルが周囲に埋もれない辺りが大きな進歩です。これだけ聴いていれば他のヘッドフォンが要らないのではないかと感じられる音になります。音場も明らかに変化して、アンバランスではまるで感じられなかった奥行きが出てくるようになります。この組み合わせではバランス接続でワンランク以上は間違いなく進歩しますので、バランス接続を積極的に使っていくべきといえそうです。
次にAK100IIです。これは既にレビューで書いている内容ですので、簡単に済ませます。
まずアンバランス接続では、DP-CMX1の時と同様パワー感とキレがあるものとなります。音場はDP-CMX1より広がりますが、それでも大きく広がるというほどではありません。どちらかというと、音場の広さよりは密度感が薄くなってしまう辺りが気になります。低域もDP-CMX1と比べると質感が結構落ちていることがわかります。ホーンやギターの音色など光る部分もありますが、低域は鳴らし切れていない部分がありそうです。
「I Can't Stop Thinking About You / Sting」などは低域を鳴らし切れていないという感触ですが、「Wallflower / Diana Krall」はヴォーカルがなかなか素晴らしいものでしたし、「Dangerous / David Garrett」のヴァイオリンの音色も悪くありません。
これをバランス接続にしてみると、やはり音場全体が明瞭になり、一音ごとの把握が容易になります。低域もアンバランス接続時よりは改善されますし、高域方向のクリアさはかなりの水準となります。ただ、それでもDP-CMX1よりも低域に力がない分、曲によって音の軽さが強調されてしまう部分があります。それでも折角使えるのであれば使わないと損だという程度の品質は保たれています。
今度はXDP-100Rで使います。ONKYOブランド同士は抜群の相性を示しましたが、Pioneerブランド同士であればどうなるでしょうか。
まず「Englishman In New York / Sting」で軽い驚きがあるのですが、DP-CMX1よりも音場が広がります。奥行きがあるタイプではありませんが、二次元的には優れたバランスといえるでしょう。「Dangerous / David Garrett」ではヴァイオリンの音がやや演出過剰ではあるものの、なかなか良好といえます。「Now / Chicago」はホーン部隊の音が細身なのは気になりますが、ベースラインは明瞭ですし高域方向もまずまずクリアです。
「I Can't Stop Thinking About You / Sting」はどちらかというとベースが全体を引っ張っているというイメージで、少しスネアドラムが大人しいかなという印象は受けます。「Babylon Systers / Steely Dan」はコーラスが主張してくる感じはあるものの、概ね良好でした。「きみからみたわたし / 南條愛乃」は、XDP-100Rらしくヴォーカルの厚みが減ってしまう部分があります。
それなりに弱点はありますが、それでも総合的に見ればこのクラスとして充分な実力を持ったヘッドフォンであることを再認識させられました。
そしてDAC-HA300です。
やはりドライブ能力がDAPより高いのでしょう。低域方向に余裕が出て来ます。「I Can't Stop Thinking About You / Sting」のバスドラムは厚みが出ていますし、ベースラインも明瞭です。「Babylon Systers / Steely Dan」では音場の奥行きが出て、DAPとはやはりひと味違うところを見せつけます。「Dangerous / David Garrett」のヴァイオリンの音色も良好です。
強いていえば「きみからみたわたし / 南條愛乃」でヴォーカルがややハスキーがかった印象を受けますが、概ね大体の曲を上手く聴かせる音といえそうです。
Pioneer SE-MHR5との組み合わせでは
DAC-HA300 >= DP-CMX1(バランス) > AK100II(バランス)>=XDP-100R > DP-CMX1(アンバランス) > AK100II(アンバランス)
となりました。
この形式での試聴レポートはここまでとしますが、レビュー締め切り後も数日はDP-CMX1を使わせていただけるとのことですので、ここに未掲載のヘッドフォン・イヤフォンを使った場合には以下に簡単なコメントを追加していきます。
・SONY XBA-A2
低音側にダイナミック型ドライバー、高域側にBAドライバーを搭載したハイブリッド型です。メーカーの仕様には書かれていないもののMMCX形状の端子を採用していて、他社製のケーブルが使える場合もあります。今回はonso iect_01_bl2m_b_120と組み合わせてバランス接続で使っています。
基本的に低音を盛りすぎている感はあるのですが、中~高域の質は良く、ハイブリッドドライバーモデルらしい音質傾向です。低音分厚めがお好みの方は意外とこれが趣味に合うかも知れません。課題は低音側のダイナミックドライバーで、こちらの方の質感や解像度が中域以上について行っていません。
・FOSTEX TE-03
主にスマートフォンと組み合わせて使うことを想定した、コストパフォーマンス重視の製品です。昨年で生産完了となりましたが、当時の価格は8千円とのことです。簡易リモコンや通話用のマイクも備えています。
低域の量を増やそうとしたのでしょうが、少し盛っている周波数が高すぎて籠もりのように感じられてしまうのが気になります。ただ、中高域の質は意外と良く、イコライザーで上手く調整すれば実用範囲かも知れません。少なくともXDP-100Rで使ったときよりはずっと好印象です。
・PHILIPS SHE9730
低価格帯のベストセラー製品であるSHE9700シリーズの最新モデルで、ドライバーの改良によりハイレゾ対応を名乗るようになりました。
これはDP-CMX1との相性が良く、弱ドンシャリで大体のソースを無難に鳴らすことが出来るタイプです。実売価格5千円前後ながら、ロック系の楽曲はさほど不満無く聴いていられる程度の実力はありそうです。ただ、David GarrettやDiana Krallの楽曲ではさすがにヴァイオリンやヴォーカルに安っぽさが出てしまいます。以前も書きましたが、ここで納得して完結できるかどうかが、オーディオ沼に深く浸かってしまうかどうかの分岐点といえるのではないでしょうか。
・JAPAEAR JE-333
AK100IIやXDP-100Rと組み合わせて使った結果、あまりに刺激が強すぎる高域にうんざりして全く使わなくなってしまった製品です。イヤーピースに一工夫を入れて何とか使えるかという音になっていましたが…。
確かに高域の刺激は強いのですが、意外とヴォーカルや楽器の質は悪くないということに気付かされます。この辺りは強い強調感が無いDP-CMX1だからこそ引き出される良さといえるかも知れません。今までJE-333を使ったDAPの中では、DP-CMX1との相性が最も良好でした。「Englishman In New York / Sting」がきちんと聴ける音になっています。David Garrettのヴァイオリンはそれでも刺さりますが…。
・MASTER&DYNAMIC ME03
実は私が外出時に意外と使うことが多いのが、このME03です。若干高域がきつめなのですが、下位のME01とは異なり個性で済む程度で収まっていますし、少し乾いた陽性なサウンドはロック系の楽曲が気持ち良く鳴るタイプのものです。
実はJE-333と同じくfinal製のEタイプイヤーピースとの組み合わせで音が落ち着く傾向がありますので、今回はこの組み合わせで聴いています。この状態では弱ドンシャリで、ややドライ感が落ち着く印象があります。実は結構万能ですし、David Garrettのヴァイオリンも美しいまでは行かないものの悪くは無く、大体のソースが水準以上に楽しめます。Chicagoのホーンはむしろ気持ち良く鳴ってくれます。イヤーピースを交換するという前提があれば、これも抜群の好相性といえそうです。
・ELECOM EHP-BA100
発売当初は割高感から人気が無かった製品ですが、実売価格が下がったことで密かなお買い得モデルとなっていた、シングルBAドライバー搭載モデルです。このBAドライバーはKnowles製で、多くのBAドライバー採用の名機にも使われているものだそうです。個人的には「David Garrett特化型イヤフォン」と呼んでいる製品です。ロック系の曲では低域の反応が悪くパッとしないのですが、弦楽器やヴォーカルものはとても5千円クラスとは思えない素晴らしい音になるのです。
DP-CMX1との組み合わせではカバーできる範囲が広がり、Steely DanやDiana Krallでも意外と良質な音が出てきます。ウェット系の音ですから乾いたロックは全くダメですが、南條愛乃のヴォーカルもかなり聴かせるなど、この製品の底力は再認識できました。少し個性的なイヤフォンが欲しい方にはお薦めといえる音質です。
結論:お薦めは?
今まで高音質を謳うDAPの多くは、どちらかというと積極的に音作りをしてくるものが多く、その分得意なソースと苦手なソースがはっきりと分かれるものが多くなっていました。その点、DP-CMX1は極めてオーソドックスな音で、あまり特徴的な部分を感じられません。平均的に質が高い音と評するべきでしょうか。
ただ、スマートフォンである以上バッテリー持続時間に対する要求はDAPよりもシビアになりますから、電流を大量消費してまで強力なアンプに仕立てるわけにもいかず、そこで一部駆動しきれていないと感じるヘッドフォンが出てしまったのでしょう。正直言って、AKG K702とSENNHEISER HD650はちょっと鳴らし切れていなかったなと感じます。
そこでお薦めとなる製品はどちらかというとイヤフォンであり、ヘッドフォンであればあまり大掛かりではないドライバーを搭載したものとなります。
まず、自分が特に気にっているという理由が大きいのですが、JH Audio MichelleはDP-CMX1の平均的に質が高い音とうまくマッチして、万能型の高音質という仕上がりになります。もっとも、Michelleは今回のテストでもXDP-100R以外との組み合わせではどれも質の高い音となりましたが。
そして相性の良さが光ったのはaudio-technica ATH-CKR10です。濃厚なMichelleと比べればやや淡白に感じられるかもしれませんが、これも大体のソースを平均以上の水準でこなしてくれる組み合わせとなります。現在では店頭の実売価格も当初の半値ぐらいに下がっていますので、コストパフォーマンスも良好です。
その他には、一工夫加えるという前提条件があればMASTER&DYNAMIC ME03との相性の良さが光ります。実売価格はATH-CKR10よりも安く、セール特価を探せば1万円前後ですから、コストパフォーマンスは良好です。
ヘッドフォンでは、今回ご提供いただいたSE-MHR5が好相性を見せました。別にいただいたからというわけではなく、実売価格1万円台のヘッドフォンとしては質の高い製品に仕上がっていて、DP-CMX1のニュートラルさとのマッチングも良好なのです。やや押し出しが強い派手目の音ではありますが、はっきりと明瞭な音であり心地良さがあるでしょう。強いて言えば装着感がさほど良くないので、長時間使い続けると疲れるかもしれませんが。
なお、ヘッドフォン・イヤフォンは個人によって聴こえ方が極端に異なる機材です。私が相性が悪いと言っている組み合わせも、他の方が聴けば良いと感じることもあるでしょう。最近ではヘッドフォン・イヤフォンを視聴可能な販売店も増えていますので、気になる製品を自分のプレイヤー持参で一通り試聴されて選ばれると、製品選びが楽しくなるでしょう。
外出先から自宅の高音質ファイルを楽しむ
私自身たまにある話なのですが、LPから取り込んだファイルや新たに楽曲を入手した後に、外出時に持ち歩くオーディオプレイヤーに転送しておくことを忘れていて、楽しみにしていた曲を聴くことが出来なかったりすることがあります。
私の場合オーディオファイルの管理は自宅のメインPCで行っているのですが、それとほぼ同じ内容をDLNA機能を持たせたファイルサーバーにコピーしておき、ここからネットワーク上の他のPCやDLNA対応機器で読み出して利用する形としています。そしてこのファイルサーバーをVPN(仮想プライベートネットワーク。外部のネットワークからの接続をLAN内部からの接続であるかのように扱う)サーバーとしても動作させていますので、VPNが利用できれば外出先でも目的のファイルを直接再生したり、ダウンロードして保存しておくことが出来るのです。
今までは外出時のDAPとして主にAstell&Kern AK100IIやSONY NW-A16を使っていたため、モバイルルーター等が無ければインターネットに接続できませんし、そもそもVPNにも対応できません。しかし、完全なスマートフォンとしての機能を持つDP-CMX1であれば当然VPNにも対応しますので、自宅のDLNAサーバーからコンテンツを取得することも出来る筈です。
そこでDP-CMX1を使ってモバイルネットワーク(LTE通信)経由で、自宅DLNAサーバーに接続する実験をしてみましょう。
まず、自宅のファイルサーバーのVPNサーバー機能は、SoftEther VPN 4.0で構築しています。
このバージョンのSoftEther VPNはL2TP/IPsecによる接続にも対応していますので、専用クライアントソフトウェアが無いAndroid等でも接続が可能となっています。
ここではSoftEther VPNの詳細については説明しませんので、興味のある方は調べていただければと思います。
SoftEther VPNのサーバーが用意できたら、ブロードバンドルーターの設定を外部からのVPN接続が可能となるよう変更します。恐らく殆どのルーターでIPマスカレードテーブルを細かく設定する必要があるでしょう。これも機種ごとに手順が大きく異なりますので、お使いの環境に合わせてお調べください。
自宅側の環境構築が全て終わりましたら、今度はDP-CMX1でVPNの接続情報を入力します。
ここで全ての環境設定が成功していれば、接続が成功するはずです。
一般的な家庭では固定IPアドレスは利用していないため、接続先のアドレスは変化してしまうと思いますが、SoftEther VPNではソフトイーサ社が提供するダイナミックDNSサービスを無償で利用可能ですので、これを利用するのが手軽で良いでしょう。
無事に接続できていれば、上図のようにVPN接続名の下に「接続されました」と文字が現れ、上部の通知領域に鍵のアイコン(L2TP接続など、暗号化された通信の場合)も表示されます。
Android向けには無償のDLNAクライアントがいくつか用意されていますが、UPnPに対応したものであればVPN経由でのDLNAサーバー接続に対応できます。ここでは「UPnPlay」というアプリを使います。
VPN接続を有効にしてこのアプリを起動すると、VPNで接続したネットワーク内に存在するDLNAサーバーが一覧表示されます。
この中のサーバーから、自分でLPレコードから起こした24bit/88.2KHzのWAVファイルを再生してみましょう。
UPnPlayでは再生したいファイルをプレイリストに加える形で選び、それを再生することになります。実際に試してみましょう。
試したところ、一応再生はされました。
ただ、前述の通りこのファイルは24bit/88.2KHz WAV形式であり、ビットレートは4233Kbps、つまり1秒間に4,233byte(約530KB/s)のデータが流れます。ところがIIJmioのSIMは最近速度低下が激しくなっていて、この帯域を安定して確保することが出来ず、音が途切れてしまうのです。MP3など、低ビットレートのデータでは何とかなりそうなのですが…。
IIJmio 高速モバイル/Dの通信速度が問題であるとするならば、もう少し速度が出るSIMを試してみようということで、Softbank iPhone用のSIMを使ってみました。既に述べていますが、iPhone以外でこのSIMを使うことはキャリア側では想定していませんので、推奨される使い方では無いことをご理解ください。
これについては、実際に動作を動画で見ていただきましょう。
というわけで、意外と実用的な水準で再生可能でした。ちなみに、実験の実施時点で通信速度はこの程度出ています。
もっとも、ハイレゾWAVファイルはかなりファイルサイズが大きくなりますので、この方法を多用するとパケット代がかさんでしまいます。MP3などであれば実用レベルのデータ量に収まると思いますが…。
通信速度さえあれば何とかなることが判りましたので、同じドコモ回線のMVNOでも自宅付近では案外速度が出るmineo ドコモプランのSIMもついでに試してみました。
これも意外と実用的な水準で使えています。これもこの時点での速度を計測してみました。
先ほどのSoftbankとほぼ同等の速度でした。これなら実用的であることにも納得がいきます。何度か試した限りでは、速度測定で安定して25Mbps以上出ているような通信環境であれば、24bit/96kHz WAV辺りまでは十分に実用的に扱うことが出来そうだという感触を得ました。
ところで、こちらの動画では長押しでメニューを呼び出して再生していますが、この項目の中には「Download」も含まれていることがおわかりいただけるでしょうか。つまり、DLNAサーバーからスマートフォンへコンテンツファイルをダウンロードすることも出来るのです。
ダウンロードについてはデータ量を節約するためにMP3ファイルで実験しました。
きちんと本体ストレージに保存されていました。なお、具体的な場所は「本体ストレージ」-「Music」-「(ダウンロード元フォルダー名)」の下でした。但し、AACなどの形式で対象ファイルの拡張子が.mp4の場合には「Music」ではなく「Movies」フォルダーにダウンロードされてしまうようですので注意が必要です。
というわけで、通信速度さえ確保できていればVPN接続による自宅内からのハイレゾファイル再生も十分可能ということが判りました。最初に記したような「転送しておくのを忘れていた」という事例であれば、ダウンロードして楽しむ方が実用的といえるかも知れません。VPN環境の構築には多少細かい知識は必要となりますが、得られる利便性を考えれば検討に値するのではないでしょうか。
ただ、DP-CMX1固有の問題なのか、他の端末もこのようなものなのかは何ともいえないのですが、VPN接続時、特に回線速度が追いついていない場合などに突然本体が再起動してしまうということが何度かありました。
これが無ければより安心してVPN接続を使うことが出来るだけに、何処に原因があるのかは判りませんが、改善されてくれればうれしいところです。
Bluetoothを活用してみよう
さて、今まで多くのDAPを使ってきて、なかなか満足いくものが少なかったのがBluetooth接続時の使い勝手でした。
単純に音質が良くないものもあれば、接続性が悪くカーオーディオではまともに使えないものもあり、使えても動作が不安定というものもあります。率直に言えばカーオーディオにBluetoothで接続して使うという前提であれば、iPhoneが最も無難といえるほどです。
しかし、オンキヨー・パイオニア・イノベーションズ発足後初となるDAPの1台である、XDP-100RはBluetooth接続時の音質と使い勝手が割合高次元で両立していました。そうなると同じメーカー製で、しかもより後発のDP-CMX1にはより期待が持てるということで、Bluetooth接続時の満足度を検証してみました。比較用に他のDAPも数機種用意しています。
・SONY NW-F806
実は私が普段使っている車はBluetooth接続に対応したオーディオは搭載されていません。そこで家族所有の車に搭載されているメーカー純正のHDD搭載AVナビで実験をしてみました。この車で普段使われているのがNW-F806であり、私の所有品ではないのでレビューはありません。なお、この車のAVナビはBluetooth接続時のコーデックはSBCとなりますので、それほどの高音質は期待できないことを念頭に置く必要があります。
普段使われているだけあり、動作の方は基本的には安定しています。強いていえばたまに認識不能となったり、再生/停止や曲送りの制御が出来なくなり、NW-F806本体側を再起動しなければいけない場合はありますが、それほどの頻度ではなく問題視するほどではありません。
ただ、NW-F806はBluetooth接続時の音質に難があります。高域方向が常に歪んだ感じになってしまい、情報量もかなり乏しさを感じさせるのです。使う勝手だけであれば及第点ですが、音質の方はDAPを使う意味に乏しいものでした。
・Astell&Kern AK Jr
実はAstell&Kern製品としては初代となるAK100は以前試したことがあったのですが、このAVナビにはそもそも接続が出来ませんでした。後発とはいえ、そのAK100をベースに作られているAK Jrでは接続できるようになったのか、期待して使ってみたのですが…。
AK Jrの本体にペアリング先が表示されますので、タップして接続してみます。
結論から言えばAK100同様、接続が確立せず使うことが出来ませんでした。一瞬接続したかに見えたのですが、すぐにAK Jr側の表示が「ペアリング可能」に戻ってしまうのです。プロファイルが不足しているなどということはなく、何故接続すら出来ないのか不明ですが、この環境での使用は諦めざるを得ません。
・Astell&Kern AK100II
AK Jrと同じAstell&Kern製品ですが、OSが違う(AK JrはLinuxベースの独自、AK100IIはAndroidの独自カスタマイズ)こともあり挙動にも違いが見られる可能性がありますので、試してみました。
するとAK Jrとは異なりAVナビの方できちんと認識しますし、音楽の再生も可能でした。音質もNW-F806よりは解像感が増していてこれなら使えると思ったのですが、一度車の電源が全て落ちて再接続しに行った際に問題が生じました。エンジン停止などにより接続が切られた場合、AK100IIは再接続が全く出来ないのです。
このように接続状態なのですが、音が出てきませんしAVナビ側からの操作も一切受け付けてくれません。AK100IIは取り敢えず使えるものの、実用性に難ありとまとめることが出来るでしょう。
この他にはSONY NW-ZX1やNW-A16などは接続の実績がありますが、NW-ZX1は挙動、音質共にNW-F806と大差はなく、強いていえば多少歪みが緩和されたり解像感が上がるという程度です。NW-A16は音質面ではまずまず良好なのですが、ウォークマン本体が自動電源OFFに入った後は手動以外で再接続できないということで、使い勝手に悪さがあることが難点といえます。
では、ここでDP-CMX1を使ってみましょう。まあ、NW-F806の写真で既にプロファイルが写ってしまっていますので、結論はおわかりと思いますが。
接続はスムーズに完了します。
AVナビ側からの操作もきちんと受け付けてくれますし、音も当然問題なく出てきます。このあたりは同社製のPioneer XDP-100Rに近い挙動でした。
そして感心したのがXDP-100Rと比べても音質が若干進歩しているという点です。高域方向の解像度と透明度が向上しているように感じられます。さすがにSBCコーデックですからハイレゾ等高音質ソースの空気感が伝わるという次元の音ではありませんが、ナビ本体内蔵のFMラジオの放送を聴くよりは音質的には上回っているでしょう。
ただ、長時間使っていると突然音が一瞬途切れたりするということが何度かありました。Androidスマートフォンですからプッシュ通知等を頻繁に受け取ることが影響しているのかも知れませんが、XDP-100Rと比べてその頻度が多めだったことが少し気になりました。
・Bluetooth接続時の音質は?
DP-CMX1はBluetooth接続時のコーデックとして、一般的なSBCの他、高音質と言われるaptX及びその改良版となるaptX HDに対応しています。aptX HDはまだ搭載製品が昨年辺りから発売され始めたばかりであり、私の手持ちにはありません。他にもSONY製品を中心に採用されているLDACというコーデックもありますが、いずれもまだ広く普及しているという段階ではありません。
現状では高音質を謳う製品も、多くはaptXまでであることも少なくはありませんし、高性能ノイズキャンセリングヘッドフォンであるBOSE QuiteComfort 35に至ってはSBC/AACのみ(直営店でスタッフの方に確認済み)という状況です。
今回はBluetooth接続時の音質についても検証してみますが、利用するのはaptXまでの対応となるSONY MDR-1RBT MK2です。この製品の優先接続時の音質については、別途徹底試聴の方に掲載しています。
DP-CMX1とMDR-1RBT MK2をBluetooth接続すると、DP-CMX1の画面上にaptXで接続していることを示すロゴが表示されます。
さて、高音質といわれるaptXではありますが、転送できる上限のデータ量は48KHz/16bitまでとなり、さすがにハイレゾフォーマットのファイルをそのままの情報量で転送することは出来ません。
そのためどうしても有線接続に対して情報量が落ち、特に音場の密度が薄くなっていることははっきりとわかります。その反面DP-CMX1のアンプを介して再生する訳では無いため、有線接続時に感じられた「駆動しきれていない」ような印象はありません。
そのため一音ごとの音質、特に質感などは有線接続時に及ぶものではないのですが、意外なほどフラットでバランスの良い音になります。実はBluetooth接続で使っている限りは、MDR-1RBT MK2のカマボコ型バランスが気にならなくなるのです。
aptXとはいえ、間違いなく劣化ははっきりとあるのですが、その中でできる限りきちんとした音質を実現しようとDP-CMX1、MDR-1RBT MK2双方の作り手が努力していることははっきりと感じ取れます。外出時にある程度の騒音の中(電車の中など)で聴くのであれば十分満足できる程度には仕上がっているのではないでしょうか。
その他一言雑感など
・下位モデルを聴いてみた
実はレビュー期間中に、オンキヨー・パイオニア・イノベーションズ製のDAPが2機種新たに発売されています。いずれもハイレゾ、バランス接続に対応していながら、手の届きやすい価格を実現した
・ONKYO rubato DP-S1
・Pioneer private XDP-30R
の両モデルです。いずれもモデル名をクリックすることで、公式の製品情報を閲覧できます。
この両モデルは基本構造は共通で、外装デザインや音質のチューニングが異なるということです。
発売日の翌日に量販店で開催されていた、両機種の試聴イベントに足を運んで、簡単ではありますが試聴してきました。その場にオンキヨーの営業の方もいらっしゃいましたので、雑談を交えながら数曲聴いた程度です。主に持参した2.5mm4極バランス接続のイヤフォンで試聴しています。
結論から言ってしまいますが、この両機種よりはDP-CMX1の方がオーディオプレイヤーとして、明らかに格上です。まず、XDP-30Rの方はどうしてもEDMやクラブサウンドという辺りを意識した極端なドンシャリサウンドで、音場が狭くハイレゾらしい素直な高域方向の伸びも感じられませんでした。一方のDP-S1はそれと比べるとオーソドックスなHi-Fiサウンドという印象です。大体のジャンルをそつなくこなすだろうと思われるのですが、DP-CMX1ほどの音場は構築しませんし、奥行きのような三次元的な広がりは感じられませんでした。営業の方にも指摘したのですが、この両機種は今まで高音質DAPを使っていなかった、主にスマートフォンで音楽をそのまま聴いていた層に、DAPはひと味違うというところを見せることがコンセプトなのではないかという気がします。アンバランスよりはバランスの方がはっきりとHi-Fi傾向になることから、「バランス接続するとこんなに良いんだよ」という作り手のメッセージを強く感じました。ただ、DP-CMX1はスマートフォン機能を抜いたとしてもこの両機種よりは高価になるであろう内容であり、やはりそこには越えがたい壁を感じました。
・意外と傷が付きにくいディスプレイ部
普段私はスマートフォンを入手したら、持ち歩き始める前に必ず画面保護フィルムを貼ります。ガラスの傷は付いてしまうと後悔しかしませんが、フィルムが傷む分には買い換えれば済む話ですから。先日バッテリー不良から復旧したASUS ZenFone2などは、復旧を確認するまでアクセサリーを買わずに持ち歩いていたのですが、結果的にこれが失敗で、薄くではありますがディスプレイに傷が入ってしまいました。
しかし、このDP-CMX1はあくまで借用品であるため、フィルム等を貼って良いか判りませんので、ケースや保護フィルムを一切使わず、上着の内ポケットに突っ込む形で持ち歩いています。3週間も使ったら傷が付きそうだと心配していたのですが、現時点まで目立った傷は付いていないのです。
前述のZenFone2もGorilla Glass採用で傷は付きにくいはずなのですが、それ以上に優秀というのはある意味驚きです。
・バッテリー持続時間は良好
先日車で出かけた際に、Bluetoothでカーオーディオと接続して音楽を流し続けていたのですが、車から降りた後はごく普通にスマートフォンとしてWebの検索・閲覧などに使うなど、私にとって標準的な負荷をかけつつ半日行動しました。
その結果、夜充電しようとバッテリー残量を見ると残量が72%でした。いわゆるスマホゲームを長時間プレイする方や、四六時中LINEなどに使っているという方であればわかりませんが、ごく普通にスマートフォン+DAPとして1日使っていても、バッテリーは十分耐えられそうです。これだけきちんと持続時間が確保されているのであれば、1台にまとめても実用的といえるでしょう。実は個人的に「1台にまとめる意味はあるのか?」と疑問に思っていた理由の一つが、バッテリーが丸1日は持続しないだろうと思っていたからですので。
・ディスプレイの輝度は結構上げられる
晴天時の屋外では、輝度が低いスマートフォンでは表示内容の視認が難しいことがあるのですが、DP-CMX1は意外と輝度が上がるのか、見づらいと感じることはありませんでした。もっとも、現在は夏場と比べれば日差しは弱い時期ですので、夏の直射日光下で使ってみなければどこまで対応出来るかはわかりませんが…。
ちなみに国内メーカー製のスマートフォンでは当たり前となっている明るさの自動調整ですが、実は比較対象機の1台であるisai FLにはそもそも存在しない機能であったりします。当時のハイエンド機ながら、このような面ではお粗末な実装でした。
性能面でも使い勝手でも、そして品質感でも今まで国内メーカー製のSIMフリー端末ではなかなか得られなかった水準ではないでしょうか。出来ればこれはスマートフォン部分の開発を行ったとされる富士通さんのSIMフリー端末でも、この水準の性能を持つ端末を投入していただきたいと感じるほどでした。
まとめ:結論と改善して欲しい点
今日まで約3週間、GRANBEAT DP-CMX1と付き合ってきた訳ですが、予想以上に満足度は高いものがありました。もちろんSIMフリースマートフォンとしての高い完成度もさることながら、やはりDAPとして高い水準の音質を実現していたというのが最大の理由です。
率直に言って価格を考えれば、先代シリーズに当たるXDP-100Rが手持ちにありますが、これを音質で超えることは難しいのでは無いかと考えていたのです。しかし、実際に徹底試聴のところをお読みいただければ判ると思うのですが、多くの組み合わせでXDP-100Rを凌ぐだけの音質を実現していました。丁度レビュー期間中に発売された廉価シリーズのPioneer XDP-30R、ONKYO DP-S1とも聞き比べてみましたが、これらとも格の違いを感じる実力です。
DP-CMX1の音質で特に高く評価したい点は、狙ってか偶然かは私には判断できないのですが、高音質を標榜するDAPにありがちな「明確なキャラクター」があまり感じられず、正統派の高音質だったということです。さすがに価格的な制約もあればバッテリー持続時間との兼ね合いもあるであろうことから、AKG K702などではアンプの駆動力に限界が見えてしまうこともありましたが、イヤフォンの類は殆どの組み合わせで高音質といえるものでした。
スマートフォン側の視点では重すぎると言われることもある本機の重量も、個人的な好みからいえばこれくらいの方が持ちやすいとすら感じる程度で、特に気になりません。借用品ということで保護フィルムもケースも装着しないまま使ってきましたが、機械としての質感も良く、ケースなしの方がむしろ良さが解るのでは無いかと感じました。
外出中にDAPとしてもスマートフォンとしてもある程度使っても、十分に耐えうるバッテリーの持続時間もありますし、スマートフォンとして1台持っていて良いなと思っています。
ただ、単に絶賛するだけではレビューとしての価値が半減するでしょう。こうあって欲しいと思った点や改善して欲しい点など、いくつか述べておきたいと思います。
・au網のSIMにも対応して欲しい
今回最も強く感じたのが、実はこれでした。私は普段からドコモ網、au網双方のMVNO SIMを使っていますが、率直に言って速度面ではau網の方が安定しているのです。DP-CMX1がau
網に対応していたとすれば、私は期間中にau網のMVNO SIMを1枚買い足していたと思います。
・NFCを搭載して欲しい
私はおサイフケータイなどには特に興味がありません。ただ、DAPとしてのDP-CMX1はBluetooth接続時の音質や動作が良く出来ていて、これも積極的に活用したいところです。そこでSONY WALKMANシリーズで既に導入されている機能ですが、NFCにタッチすることでワンタッチのペアリングが出来るようになればより使い勝手が向上すると思うのです。NFCのその他の用途は、出来る範囲の実装で構わないと思います。
・X-DAP Linkに魅力を出して欲しい
レビュー中で既に触れていますが、使っていて最も不満が大きかったのが転送ソフトウェア「X-DAP Link」でした。既にiTunesやX-Applicationを使っている立場からいえば、出来ることも少なければ使い勝手が良いともいえないX-DAP Linkに魅力は感じられません。操作性が改善できないとすれば、せめてPC上でプレイリストを編集できるようになってくれればと思います。
・オーディオプレイヤーの優先度を向上出来ないか
カーオーディオと接続して音楽を再生しているときに気になったのが、恐らくプッシュ通知のタイミングだと思うのですが、突然音が途切れたことが何回かあったということです。1秒にも満たない僅かなものではあるのですが、一瞬音が消えるので何があったのかと不安を覚えてしまうのです。恐らくプッシュ通知の方がAndroidの優先度が高いためにこうなっているのでは無いかと予想されますが、出来ればオーディオ再生に影響を与えないようにしていただければ、より高い満足度が得られそうです。
改めて述べておきますが、現状でも本機DP-CMX1の満足度は極めて高いものです。上記の課題がそのまま残っていたとしても、コストパフォーマンスは極めて優れています。あくまでこうなってくれればより完璧だと感じた内容を列記したに過ぎません。
本レビューの締め切り後も数日は使っていて良いとのことですので、もうしばらくの間じっくりとDP-CMX1を楽しみたいと思います。
末筆ではございますが、このような機会を与えてくださった各社の皆様に御礼申し上げます。
cybercatさん
2017/03/28
ちなみに第一世代OS Astell&Kern DAPのBluetooth接続の不安定さはデフォなんですねw
自分のAK120BM+
jive9821さん
2017/03/28
有難うございます。
VPN経由でのDLNA再生は、今までのAndroidスマートフォンでも不可能ではないのですが、大量のパケットを消費してまでハイレゾソースを再生する意義は乏しかったと思うのです。しかし、単体DAPとして高い水準にあるDP-CMX1であれば、本気で楽しめる音質になるのではと考え、今回実験してみました。
MVNO SIMの場合速度がネックになる場合はあるのですが、それさえクリアすれば十分本気で楽しめる音質は確保できましたので、これはやってみて良かったかなと思っています。MP3程度であれば普通にある程度の時間使っても大丈夫そうですし。
>第一世代AKのBluetooth
AK100で使い物にならなかったので、それ以降Bluetooth搭載DAPを買うたびに必ず試す癖がついてしまいました。第一世代はAK100、AK Jrともにダメでしたから、そのようなものと考えて諦めるしかないのでしょう。
第2世代AKは再接続さえ気にしなければ使えるのですが、再接続ができないとなかなか気軽には使えません。やはりこの辺りはソニーやオンキヨー・パイオニアのような国内メーカー製に分があるようです。