最近ではPC向けの高速ストレージデバイスとしてはSSDが主流となり、ハードディスク(以下HDDと表記)は「(容量が)大きい/(価格が)安い」という、食べ物で言うところのファストフードのような製品が人気を博すようになっています。
実際に私自身、現在稼働している殆ど全てのPCで、起動デバイスをSSDとしてしまいましたし、データ用に搭載しているHDDも昔から使い続けているものか、容量単価が安いものをどんどん投入していくというスタイルとなっています。
しかし、よく考えればSSD以外のドライブにインストールするアプリケーションの実行速度や快適性は、当然そのインストール先のHDD性能に依存する訳で、必ずしも速度が二の次で良いという訳でもありません。
私が現在メイン級として使っているPCでは、一応性能はともかくとして耐久性・信頼性にはある程度配慮して、3台接続されているSATA HDDのうち、2台にWesternDigital製のWD2002FYPSを利用しています。
WD2002FYPSはシリーズ名をRE4-GPと称しています。これはすなわちRAID向けのGreenPower(省電力)モデルという意味であり、可変回転数技術のIntelliPowerを採用しているため絶対的な速度こそ劣るものの、デュアルプロセッサー搭載による処理の高速化や、RAID対応NAS向けの高耐久仕様など、コンシューマー向けモデルと比べると随所に強化が施された製品であり、今回取り上げるWD Black WD2003FZEXにも近いグレードの製品です。ちなみに同時期に販売されていたWD Blackの旧世代製品(WD Caviar Black WD1001FALS)よりは、こちらのWD2002FYPSの方が速度面でも優位に立っていたそうです。
ただ、いかに凝った製品であるとはいえ、WD2002FYPSは実に7年も前に発売された製品であり、現在のHDDと比べれば性能は明らかに劣るはずです。そこで今回は現行世代の高速モデルという位置づけであるWD2003FZEXがどの程度進化しているのか、WD2002FYPSとの比較で探っていきたいと思います。
コンシューマーモデルよりはずしりとした重さ
まずは化粧箱を含めた見た目について少し触れておきます。
少し前までは、WesternDigital製のリテールボックス品は、モデル名に準じた配色の外箱でした。つまり、WD Redであれば赤を基調とした外箱でしたし、Caviar Green / WD Green は明るい緑でした。
しかし、丁度WD Greenシリーズが廃止され、WD Blue ecoシリーズへと変更された辺りからだと思いますが、モデル名に関係なくWesternDigitalのコーポレートイメージカラーである青基調の外箱に統一され、表記のモデル名でのみ差を付けられるようになりました。外付けHDDでも、基本的に青基調の箱が使われるようになってきましたから、今後はWesternDigitalブランドは基本的にこの配色を用いるということでしょうか。ちなみにWesternDigitalに吸収されたフラッシュメモリー大手のSanDiskは特に青基調の外装は使っていませんので、その製品についているブランド名の問題だと思われます。
中身のHDDについては、これまでと特にデザイン上の違いは無く、WD2003FZEXのようなWD Blackであれば黒が配色されたラベルが貼付されていますし、WD Redであれば赤基調のラベルとなっています。
HDDの外装も他のモデルと大きな違いは感じられないのですが、手に持つとずしりとした重さを感じます。最初か気のせいかと思ったのですが、代理店の仕様表によると、同じ2TBモデルで比較して
・WD20EZRZ-RT (WD Blue):0.64kg
・WD20EFRX (WD Red):0.635kg
・WD20EURX (WD AV-GP):0.64kg
・WD20PURX (WD Purple):0.64kg
・WD2003FZEX (WD Black):0.75kg
というように、いずれもプラッター2枚の製品でありながら、明らかにWD Blackだけが重く出来ていることが判ります。なお、エンタープライズモデルであるWD SeシリーズのWD2000F9YZは、WD2003FZEXと同じ0.75kgであり、WD Blackはエンタープライズ向けモデルに近い物理設計であることを伺わせます。
年数分の進化は見られる
先ほどWD Black WD2003FZEXを「現行世代の高速モデル」と記述しましたが、実はWD2003FZEXは2013年発売ということで、現行世代のHDDではあるものの少々古くなってしまっている部分はあります。それでもWD2002FYPSとは登場時期に4年ほどの開きがありますので、その間の進歩は反映された仕様となっています。以下に比較表を掲載しておきましょう。
※WD2002FYPSの回転数は公式情報ではIntelliPowerとのみ発表されていますが、製品発表当時に販売店等が掲出していたデータによると、5,400~7,200rpmの間で回転数が可変するモデルだったようです。
まず、この両者の登場時期の差である4年の間にあったHDDに関する大きな変更点ですが、それは
・SATA 6Gbps化
・Advanced Format(4096bytes/セクター)化
の2点でしょう。
SATA 6Gbps化については、率直に言ってHDDの転送速度にそれほど大きな差がつくものではありませんが、インターフェースによるボトルネックが緩和されていて、これが後のSSDなどでは重要な変更点となっていきました。
そしてもう一つはセクター長の変更、すなわちAdvanced Formatへの対応です。これは主にHDDの大容量化に弾みを付ける変更点となりました。Advanced Formatについての技術的解説や長所・短所については、ライバルメーカーですがSeagate社に日本語の詳細な解説が用意されていますので、そちらも併せてお読みいただければと思います。
その他にここから読み取れる内容としては、まず同じ2TBのHDDではありますが、プラッター(HDDの中に入っているデータを記録するための円盤)1枚あたりの容量が500MB(WD2002FYPS)→1,000MB(WD2003FZEX)へと倍増しているということが挙げられます。つまり同じ2TBの容量を達成するために、WD2002FYPSではプラッターを4枚内蔵していたものが、WD2003FZEXでは2枚で済むようになったということです。
そしてこの記録密度の増加は、転送速度の高速化にも貢献します。表中の公称最大転送速度はメディア(プラッター)→ホスト間の公称速度ですが、110MB/s→165MB/sと1.5倍の高速化が図られていることになります。
但し注意が必要なのですが、この165MB/sという転送速度はWD2003FZEX発表当時は高速といえる部類だったのですが、2016年現在では200MB/sを超える製品も少なからず存在しています。例えば同じWD Blackでも、6TBモデルのWD6001FZWXでは218MB/sという値が公表されています。特に大容量モデルでは記録密度の向上などから、より高速な製品が増えているようです。
8割方埋まった状態でもある程度の速度は保たれる
それでは、実際にゲームを動かす前にベンチマークテストを実行してみましょう。ベンチマークテストおよび後述するゲームプレイでは、以下の構成のPCを利用します。
・OS:Windows7 Ultimate 64bit SP1
・CPU:Intel Xeon E5-2670
・マザーボード:ASUS P9X79
・メモリー:DDR3-1866 16GB
・ビデオカード:GALAX GeForce GTX 970 4GB GF PGTX970-OC/4D5 MINI
・起動SSD:SanDisk X300s 512GB SD7UB2Q-512G-1122
・オーディオ:emagic emi2|6
・電源:OCZ SILENCER Mk.III (Gold) 750W PPCMK3S750
・ケース:Antec SOLO II
まずは新品状態で、全くデータを保管していない状況での値を見ておきましょう。この状態ではプラッターの最外周が利用されるため、転送速度が最も速くなります。通常はデータを多量に保管するほど、プラッターの内周側しか利用できなくなるため、転送速度は落ち込むことになります。
注)初期のHDDでは外周でも内周でも同じ速度というものがありましたが、現在のHDDは使い始めとなる外周が最も高速で、内周に進むに従って速度が低下します。
まずは接続してフォーマットおよびパーティションの確保だけを行った状態での計測です。この状態でCrystal Disk Infoの情報も取得しておきました。
まずは、シーケンシャル速度ですが、公称値の165MB/sを若干上回ってきました。ランダム4Kもかなり優秀な部類です。シーケンシャル速度では200MB/sを超えるHDDも使っていますので、若干の物足りなさはありますが、ランダムの優秀さから体感速度はかなり良好なのではないかと推察されます。
それでは比較対象である、全容量の8割弱を使ってしまっているWD2002FYPSの値も見ておきましょう。新品当時の空の状態では、データは残っていませんが100MB/sは十分超えていました。
実は今回のテスト環境を構築したPCは、殆どテスト用途にしか使っていない(メイン用途としての環境を構築途中のため)ため、構成が古い割には稼働時間はかなり短くなっています。
シーケンシャル速度は読み書きともに殆ど85MB/sで揃っています。ランダム性能はさすがに世代の古さが感じられるものとなってしまいますね。現行世代のコンシューマーモデルと比較しても厳しい数字が並んでいます。まあ、空の状態であればもう少し良かったはずですが…。
ここで、WD2003FZEXに、このWD2002FYPSのデータを全部コピーして、ほぼ同じ条件にそろえてみましょう。先ほどのように外周部を使えませんので、値はかなり落ち込むはずです。なお、本来であればイメージコピーなどで両者の中身を完全にそろえるのがベストなのですが、セクターサイズの違いなどもありますので、単純なファイルコピーで代用しました。
▲Crystal Disk Mark 5.1.1(約8割使用済)
シーケンシャル速度では読み書きともに3割前後落ち込んでいますね。ただ、ランダムでは目立った落ち込みは無く、意外と体感上は速度の低下は感じにくいかもしれません。
WD2003FZEXは8割方使い切った状態であってもランダム4Kの速度低下は殆どありませんし、実際に同じ内容を読み出してみてもWD2002FYPSよりも遙かに軽快でした。単純な公称性能では表れない辺りにも、進歩は確実に見て取ることが出来ますね。
Steamのゲームプレイにかかる時間を比べる(プレイ動画追加)
今回のプレミアムレビューのテーマは、Steam上で提供されているゲームを実際にプレイして、その快適度などを検証するというものでした。
正直言えば今までSteamは存在程度しか知らなかったのですが、無料で遊べるゲームの中にもかなり凝ったものや作り込まれたものもあり、このレビューが終わった後も利用してみようという気分にさせられるものがありました。
ただ、今回はレビューの課題ですので、まずはHDDのレビューに適したタイトルを探さなければいけません。個人的にFPSなどは趣味に合いませんので、このような課題だとタイトル選定になかなか苦労するのですが、今回は割合すぐに興味を引かれるタイトルがありましたので、これを使ってみることにします。
RaceRoom Racing Experience http://store.steampowered.com/app/211500/
かなり本格的なカーレースゲームですが、基本的なプレイは無償で可能となっていて、車両やコースなどのコンテンツを増やす際に有償で購入するという、スマホゲームのDLCと同じようなシステムとなっています。
このゲームは無償プレイ可能でありながら、描き込みなどもかなり細かく、その分データ量もかなり読み込むため、起動などにかなりの時間を要します。そこで今回はWD2002FYPS、WD2003FZEXに全く同じSteamの実行環境を用意WD2002FYPSにまず実行環境を用意して、それをWD2003FZEXにコピーして利用して、HDDによる実行速度の差を測定してみます。
結果については、以下の動画にまとめておきました。
まず、WD2002FYPSではアプリケーションアイコンをダブルクリックしてから、ゲーム操作の開始までに丁度60秒を要しました。それがWD2003FZEXでは約50秒へと短縮されます。約15%の高速化ですが、これくらいの時間を要しているとその差はかなり大きなものとなります。
そして環境設定などを終え、実際にレース開始ボタンを押してから、レース画面へと遷移するまでの時間も同様に測定してみましたが、こちらもWD2002FYPSの約40秒から、WD2003FZEXでは約33秒へと短縮されます。
おそらくこれを高速なSSDに交換すればさらに半分以下の所要時間に短縮することも出来ると思うのですが、このゲームは無料機能分だけでも19GB以上ものデータを要求します。これにDLCなどを追加することを考えると、未だに250GB~500GBクラスが中心となるSSDの容量では、少々心許なさを感じてしまいます。そう考えると、Steamのような環境で遊び倒すことには高速なHDDはまだまだ欠かせない存在ということが出来るでしょう。
なお、私の操作が下手すぎて動画の公開は見合わせたのですが、ゲームが始まってしまえばどちらの環境であっても特に引っかかりなどは無く、快適にプレイできたことは申し添えておきます。
この他に、比較的データ量が小さいゲームも少しプレイしてみました。
まずは、日本ファルコムの国産アクションRPG、「Ys Origin」です。
Ys Origin http://store.steampowered.com/app/207350/
実はこれは有料で購入してプレイしようと思っていたタイトルなのですが、日本語版が存在しないということで、急遽デモ版でのプレイに差し替えました。画面表示はすべて英語ですが、リリース直後に日本語版でクリアしたゲームですので、ゲームを進める程度であれば支障ありませんでした。
画質設定は以下の通りです。
「High-Definition」(※.日本語版では「高画質」)のプリセットから、解像度をWUXGAに設定した状態です。
これをWD2002FYPSと、WD2003FZEXとに同じようにコピーして序盤をプレイしました。
結論から言ってしまうと、どちらのHDDでも目立った差は生じなかったように思います。WUXGAというそれなりに高い解像度であっても、快適に動作してくれます。強いていえばマップ切り替え時の暗転時間が、WD2003FZEXの方が少しだけ短いかもしれませんが、RaceRoom Racing Experienceのような明確な差とはなっていません。
このほかにも日本ファルコムの「Ys」シリーズや「英雄伝説 空の軌跡」シリーズ、「ぐるみん」などは登録されているのですが、いずれも日本語版が提供されていないのが残念なところです。メディアレスでプレイできるSteamであれば、久しぶりにもう一度プレイしてみようと考えるユーザーも少なからずいると思うのですが…。
私がプレイするPCゲームというと、RPG、スポーツの他はせいぜいシミュレーションゲーム程度ですので、その中でここまで取り上げていないシミュレーション分野のゲームも少し動かしてみました。FPSやオンライン対戦系のものは全くプレイする気になれず、その意味で最近ではPCゲームのプレイ頻度が減っていたわけで…。
そのシミュレーションゲームとして取り上げるのは、サーカーチームマネージメントゲーム「Soccer Manager 2016」です。
Soccer Manager 2016 http://store.steampowered.com/app/407120/
これは無料プレイが可能となっていますが、実在のクラブのデータがきちんと入っています。
これは序盤では単にいろいろ必要なコマンドを実行していく形になりますので、派手な動きなどが無く、比較的PCの性能が低くても問題なくプレイできるタイトルです。当然、どちらのHDDでも軽快に動作してくれます。
強いていえば、この起動時の読み込みで、ほんの数秒ほどWD2003FZEXの方が速かったのですが、これはネットワークの速度などにも影響を受けていそうであり、一概には言えない部分です。
世界各国のプロリーグからチームを選択できますが、ここでは少し変わったところでセルビア・スーパーリーグの「Crvena Zvezda」 英語表記では「レッドスター」、すなわちレッドスター・ベオグラードを選択してみます。
プレイ開始直後です。この後少し動かしていても、HDDによる体感速度差は感じられませんでした。
当然ではあるのですが、やはり扱うデータが膨大になるカーレースのようなゲームであれば、HDDを交換する意義はきわめて大きいものがあったのですが、比較的データが小さく済むタイプのゲームでは、目立った効果というのは得にくいものがありました。
もっとも、最近は人気PCゲームの多くが圧倒的なデータ量で高画質描画という方向性となっていますので、特にFPSなどではHDDの高速化のメリットは絶大なのではないかと思われます。
発表から約3年ながら、未だに性能の高さは光る
WesternDigital製HDDの中でも、発表から長らくモデルチェンジされずに残っている、このWD Black WD2003FZEXですが、今なおモデルチェンジなしでも十分な性能を持っているという、メーカー側の自信の表れによるものなのかもしれません。
さすがにシーケンシャル速度だけを取り出してみてしまえば、他社を含む最新世代のHDDに差を付けられている部分もありますが、ランダム速度までも含めてみれば、現時点においても十分に高性能モデルの範疇に入っています。
今回はレビュー課題が「Steamのゲームを用いて」の検証でしたが、Steamで配信されている人気タイトルのような膨大なデータ量を要求するような環境で使ってこそ、WD Blackの優位性がはっきりするのは確かでしょう。今回私がプレイした「RaceRoom Racing Experience」では、アプリケーションアイコンをダブルクリックして、実際にレースを開始するまでの時間で考えると、WD2002FYPSをWD2003FZEXに置き換えるだけで、25~30秒程度短縮される計算になりますから、HDDの速度にこだわる価値は十分に見いだせます。
ただ、性能にこだわるという前提があってもネックとなるのは価格です。同容量のWD Blue WD20EZRZ-RTと比べてしまうと、WD2003FZEXの実売価格は2倍以上高くなってしまうのです。これがWD Blue比で3~4割の価格アップで済むのであれば、店頭でもこちらを積極的に選ぶユーザーも増えるのではないでしょうか。逆にここまでの価格差を付けるのであれば、使ってみれば判るという程度の性能向上では無く、表記上の性能に至るまですべてにおいて圧倒的な性能を実現しておいて欲しいところです。
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