レビューメディア「ジグソー」

弾む低域と塊感のある音で音楽を楽しく聴かせるFURUTECHダイナミック密閉型ヘッドホンADL-H128BR

 

 

ヘッドホンというデバイス、以前は「スピーカーで聴けない際の代用品」的捉え方を連れてきたが、今ではスピーカーとは異なる「音の出口デバイス」として市民権を得ている。「空気を伝わって前方から音がくる」スピーカーはやはり自然で多くの場合音響的にはベストだが、曲、プレイの細部を聴きこみたいときなどはむしろヘッドホンやイヤホンに軍配が上がる。さらにスピーカの場合音楽を聴く間その場所に呪縛されるが、ヘッドホンであれば自由だ。音漏れが少なければ、時間・場所を超越して自分がヘッドホンを付けた時に音楽に浸れる。それは時間を細切れに使わざるを得ない現代の生活環境にマッチしている。さらにスピーカーでは設置の自由度=セッティングの難しさがあったが、ヘッドホンなどではユニットと耳(頭部)の位置関係はおのずと制限を受けるので、開発者の思い描いた環境の再現が比較的容易だ。そんなこともあって、音楽を聴く1スタイルとして定着したヘッドホンリスニング、それを支えるヘッドホンも各社からいろいろな形式のものが大きな価格帯の幅を持って売られている。

 

とは言っても形式的にはヘッドホンはほぼダイナミック型といえる。イヤホンで採用例を伸ばしているバランスド・アーマチュア型は繊細な表現力はあるが帯域が稼げず、イヤホンほど小型化の要請が高くないヘッドホンにおいては採用するメリットに乏しい。根強いファンがいるコンデンサー型は再現性などは群を抜いているが、通常AC駆動となるアンプが必須なため、可搬性を著しく損なう。したがって世のヘッドホンのほとんどはダイナミック型だ。

 

一方ハウジングの構造としてはオープン型と密閉型がある。オープン型はユニット裏を開放した形式で、空間表現力と高音域の描写にすぐれる。一方密閉型はユニット背面をハウジングで完全に覆ったもので、低域の量感がまし、遮音性も高まるが、音質的にこもりがち。この両者は好みおよびTPOによって使い分けるが、外部環境の影響を受けづらく、音漏れの問題に神経質にならないでどこでも使えるのは密閉型だ。

 

ただ「密閉ダイナミック型」といってもその価格レンジは広大で、オーバーヘッド型(頭の上に左右のユニットをつなぐバンドがある典型的なヘッドホン)だけでも下は1000円ソコソコから上は数十万まで千差万別。そんな中、売価4~6万のあたりは規格外の超弩級機を除くと各社のフラッグシップ機がひしめくあたりで、このあたりがアツイ価格帯だ。

 

その価格帯に投入されたのがFURUTECH(フルテック)のADL-H128。FURUTECHは古河電工の高品位ケーブルの販売から始まり、今では電源タップやUSB DAC、ポタアン(ポータブルアンプ)なども手がける会社だ。これらのうちオーディオデバイスはADL(Alpha Design Labs)ブランドで販売される。ADLブランドのオーバーヘッド型ヘッドホンの2作目がH128。ケーブルからオーディオデバイスに入ったFURUTECHらしく、普通のオーディオブランドとは違う着眼点の製品になっている。

 

 

ADL-H128(以下H128)には3色の展開がされる。高価格帯のヘッドホンとしては珍しい。試作時にはイヤーカップが黒のものなどもあったが、最終的には

◎シルバーのボディとイヤーカップにブラックのイヤーパッドとヘッドバンドクッションのブラック

◎シルバーのボディとイヤーカップにブラウンのイヤーパッドとヘッドバンドクッションのブラウン

◎ガンメタのボディにネイビーのイヤーカップ、ブラックのイヤーパッドとヘッドバンドクッションのネイビー

となった。本品はブラウンのADL-H128BR。カジュアルな雰囲気があまり重くない感じだ。

先(装着時下側)のシャープな感じがイイデザイン
先(装着時下側)のシャープな感じがイイデザイン

 

付属品としてはおむすび型のケース

カラビナが付いてぶら下げられるようにはなっているが...つかうかな?
カラビナが付いてぶら下げられるようにはなっているが...つかうかな?

イヤーカップ部分は90度回るのでこういう形でケースに収める
イヤーカップ部分は90度回るのでこういう形でケースに収める

 

付属品としてはケースの他に3mの標準ケーブル1.3mのα-OCC採用ロジウムメッキ処理交換用ケーブルiHP-35Xと24K金メッキ処理された3.5mmステレオミニ→6.3mm標準変換プラグF63-S(G)が付く。

ケーブルが2本入ってているのがポイント
ケーブルが2本入ってているのがポイント

 

そしてなんと言っても本品の特徴はカップ形状。多くのヘッドホンが円形~長円形のイヤーカップ形状を採るのに対して、本品は逆三角形。しかもやや先端が前方に傾斜している。つまり、これはちょうど耳の形に合っている。デザイン的にも顎の線に沿って前に流れる動きを感じるが、これが単なるデザイン上の問題ではなく、耳を最低限の空間で覆いつつも耳介への負担がない形状となっている。以前から所持している密閉型ヘッドホンJCV HA-MX10-B(以下HA-MX10)と比較すると耳の形に合わせるからかヘッドバンドの位置の制約が多くなることは注意する必要がある。


H128はヘッドバンドをやや前目にしたときにちょうど良い感じ

HA-MX10はイヤーカップの位置の制約が薄いのでヘッドバンドの位置は自由度が高い。

 

逆三角形のイヤーカップは耳の形にフィッティングする一方、 cybercatの場合ヘッドバンドの位置がやや前寄りが強制された。ちょうど頭頂部の一番高い部分にあたるため、長時間のリスニングでは少し痛みを感じた。これはヘッドバンドの構造がやや開き目で奥行きがない(逆Uの字の幅が大きめで高さがない)構造に起因するのかもしれないが、やや改善の余地があるか。

二つのヘッドホンを比べるとヘッドバンドの逆U字の形状がかなり異なる。
二つのヘッドホンを比べるとヘッドバンドの逆U字の形状がかなり異なる。

 

その一方イヤーパッドは秀逸。薄めで最低限のHA-MX10-Bのイヤーパッドは、プロでも交換している人が多いと聞くが、H128のイヤーパッドは厚く、そして逆三角の辺によって高さを変えた形状により聴き疲れしない。

厚みのものすごい差は快適性と密閉性を提供する。
厚みのものすごい差は快適性と密閉性を提供する。

 

ちなみにイヤーパッド自体の外寸は長辺約10cm、短辺約7cmでさほどにH128が大きいわけではない。やはりこの独特の形状が耳介への負担を和らげているのだろう。

厚さ以外の外寸はさほどには違わない。
厚さ以外の外寸はさほどには違わない。

 

あと小さな事だが、H128にはヘッドバンドの調整の目安の目盛がない。左右均等に出すにはカチカチというクリック数を数えるしかない。

H128は外側にも...
H128は外側にも...

内側にも目盛はない
内側にも目盛はない

一方HA-MX10には目盛があり、左右均等の長さにするのが簡単。
一方HA-MX10には目盛があり、左右均等の長さにするのが簡単。

 

比較的重めのヘッドホンのため、左右バランスの狂いは疲労につながる。ここは改善を望みたいところだ。

 

 

音というものはスペック的な絶対値もあるが、他の同種のものと比較した時に一番違いが分かりやすい。ということで比較対象にしたのはJVC HA-MX10-B。

かなりクラスに差がある(2015年3月現在、H128はおよそ4万4千円、HA-MX10は1万6千円)のと、商品としての方向性が異なるのでどうかな?と思ったが意外に面白い対決になった。

 

HA-MX10はスタジオで使われることが前提の業務用。実は一般的な家庭用電化製品につくような無料保証期間はない(初期不良のみ)。またつかわれている部材も実用一点張りで、プラスチックハウジングでケーブルも着脱式ではない。付属品もミニプラグ⇒標準プラグへの変換プラグだけで、説明書もない。その保証や見た目の豪華さ、付属品を削り落とし、本体にすべてのコストをかけた「仕事に使い倒すため」のヘッドホンの地力は高く、H128と比べて大きく聴き劣りする、ということはなかった。また口径40mmのダイナミックドライバーを採用する密閉型という点でも同じで、比較にはちょうど良かった。

 

【仕様比較】

同じ40mmΦドライバーで密閉式のJVC HA-MX10-Bとの比較同じ40mmΦドライバーで密閉式のHA-MX10との比較

 

スペックを並べてみると両者のコンセプトの違いが判る。数値だけの比較をするならば、出力音圧レベルが高く、再生周波数帯域が広く、最大許容入力が大きいHA-MX10の方が出音が多い/広い/大きいように感じる。しかしH128の大きめのインピーダンスはこのヘッドホンが音質重視であることを示している。

 

また重量に関しては、2.5mもの直付けケーブルを含むHA-MX10が実測309gだったのに対して、

HA-MX10は公称と大きく違い309g。
HA-MX10は公称と大きく違い309g。

 

H128は本体のみで公称280g、3mの標準ケーブル込みで320gとなっている。これはプラスチッキーなHA-MX10に比べてヘッドバンドにアルミを奢るなど制振にも配慮したゴージャスなアピアランスのH128にとっての致し方ない重量増か。

 

この重量に関しては実測では、標準ケーブル込みでは337g、

標準ケーブルだと実測337g。
標準ケーブルだと実測337g。

 

同梱される1.3m長の交換用ケーブルiHP-35Xに付け替えると321gになる。

iHP-35X装着時は321g。
iHP-35X装着時は321g。

 

ということは公称が約320gなので、iHP-35Xの方が標準?という感じだ。なお、「標準」ケーブルの3mというのはミキシング卓の前を移動しながら使用することを考慮したHA-MX10と比較しても長く、用途としてはある程度の大画面に映写される映像(映画やコンサート)を見る際に、環境的・時間的に音出し出来ないためにコンポなどのヘッドホン端子から音を取りつつ画面(=コンポ)から離れて鑑賞する..というくらいしか思いつかない。2本が同じ長さならより高品位なiHP-35Xの方ばかり使うことになるだろうし、H128の能率が高くないことを考えればポータブルオーディオなどで必要なボリュームコントロールなどをつけてもあまり使い道がない(出音が大きすぎて「絞る」ことがほとんどない)ので、「1.3mの高品位ケーブルに加えて、あえてあと1本ケーブルつけるなら」この長さはたしかにベストの選択とは思えるが、いっそのことiHP-35Xだけに絞って少しでも売価還元したほうが良かったかもしれない。

本体側mini XLRジャック
本体側mini XLRジャック

 

実際に交換して聴いてみると...全然違う。これはプラセボではなく、また耳の良い一部の人だけが感じるものではなく、多くの人が実感できる違いだ。今まで機器接続のRCAケーブルなどを変えても、(超高級ケーブルを使っていないからかもしれないが)悪くはならないまでも誰が聴いても明確な向上という よりはニュアンスの改善程度だったので、当初リケーブルでそれほど変わるかな...と勘ぐって?いたが、この差は誰でもわかるはず。低域の質感響きが良く、中域の残響にやさしい膨らみがある(というか元がこっちで標準ケーブルではその情報が落ちているのかな)。

ちなみにこの端子はかなり抜き差ししづらい(特に標準ケーブル)
ちなみにこの端子はかなり抜き差ししづらい(特に標準ケーブル)

今回標準プラグのデバイスを使わなかったので使用していないが、金メッキの変換プラグも付く
今回標準プラグのデバイスを使わなかったので使用していないが、金メッキの変換プラグも付く

 

HA-MX10の耳の形に添ってはいない長円形のイヤーパッドと逆三角形の包み込むようなH128、薄くて一部は耳介に乗る形になるHA-MA10と厚く顔の輪郭に密着するH128。実際に音漏れはどれほど違うのだろう。能率が違うので再生デバイスのボリュームを同じにしても出音が違う。そのため、比較的曲を通して再生音量の差がない曲を再生し、イヤーカップの側に騒音計を起動させたiPhone5を置き同等の音量となるよう調整し、ヘッドホンをそれぞれ装着してそれに顔の前方側で密着させて曲のあるポイントで計測した。

環境騒音。道路沿いの家なのでさほどに静かなわけではない。
環境騒音。道路沿いの家なのでさほどに静かなわけではない。

87dBということは音漏れを気にする必要がある結構大きな音。
87dBということは音漏れを気にする必要がある結構大きな音。

H128は60dBから
H128は60dBから

63dBのあたり。
63dBのあたり。

同じ87dBに調整したHA-MX10は...
同じ87dBに調整したHA-MX10は...(撮影に失敗して再生位置が違うが音量は同じ)

61dBから...
61dBから...

64dBとなった。
64dBとなった。

もっと大きな差が付くかと思ったが、意外に1dBの差で誤差といえるかもしれない(曲の同じポイントで撮ったのでH128の方が1dB低いともいえるが、大差がないともいえる)。これは外から眺めていると気づきづらいが、H128には実は「ADL」のブランドネームが入っているイヤーカップの裏..というか下にベント穴があいている。適切な大きさのベント穴を設けると低域が増強されるが、静粛性は損なう傾向にあり、これが影響しているのかもしれない(iPhoneの計測位置的にもベント穴に近いし)。

「ADL」のロゴが刻まれたプレートに隠れるように一周ベント穴があいている。
「ADL」のロゴが刻まれたプレートに隠れるように一周ベント穴があいている。

 

少なくともこの比較では大きな差が出なかったイヤーカップ、はたして音質的にはどうであろうか?

 

 

なおここからの評価はすべてケーブルとしてiHP-35Xを使った場合の評価である。再生環境はAstell&KernのDAP、AK120

から直繋ぎで行った。

 

まず、J-POP系としては巨匠Tom Coyneのリマスタリングによって磨きのかかったMISIA初期の隠れ名曲「INTO THE LIGHT (15th ver.)」。

H128はダンサブル!ベースの音が弾んでる!!顎のあたりまで密着性の良いイヤーカップ、「Alpha トリフォーム・イヤーカップ (Alpha Triform Contour Earcups)」で響きまでグングン来る。ラストのドーンと広がるSEも豪快だ。最初の♪Into The Light~♪の繰り返し歌う部分のMISIAの声もバックで鳴るハンドクラップも芯がある。それでいて繊細な音もきちんと拾えており、右chで絶え間なく鳴るタンバリンの残響も良く聞こえる。ノリノリ!HA-MX10に換えるとかなり重心が上がる。CIEMやイヤホンの方の使用頻度が高いcybercatにとってはHA-MX10は低音が「出る」出口デバイスだったのだが、H128と比べると軽い。ただMISIAの声はとても明瞭。そしてMISIAの声にかけられたリバーブの感じがとても掴みやすい。薄いディレイがかかって加工されているのも明確。そして左右の音像も広い。まさにモニターにはぴったりだ。ただディスコ調のノリノリのリズムとしてはH128が優勢か。

 

クラシック系の曲としては小編成ながら、弦、金管、木管、打楽器にピアノとまんべんなく入った交響アクティブNEETsの「艦これ」オーケストラルアレンジ

から「飛龍の反撃」。勇壮なこの曲にH128は悪くない。コントラバスとティンパニ、チューバ、バストロといった低音が躰の芯を揺らす。グッと重心が低い音は壮大さ、雄大さを感じる。ただ部屋の広さ的には少し狭い感じになってしまうところは残念。HA-MX10に換えると一転、オーボエやクラリネットという木管が美味しくなる。弦のピチカートもピン!と立っている。部屋も一気に広くなる感じだ。細かいところを聴きたいならHA-MX10、全体のイメージに酔いたいならH128か。

 

古めのヘヴィメタ、VOW WOWの“Ⅲ”

から三連符系のヘヴィシャッフル「NIGHTLESS CITY」。音圧低めの昔の録音のこの曲はH128では意外に「来ない」。もちろん低音は出ているし、時々噛まされるバスタムの一撃の破壊力は素晴らしいのだが、出力インピーダンス3ΩのAK120を持ってしても単体駆動は苦しかったようで、ほぼフルボリュームでもやや遠くてリバーブがかかったような音。HA-MX10は出力が大きいだけあって腰高ながら結構ノれる。

 

新ジャンルボカロ曲にはじん(自然の敵P)の代表曲、「夜咄ディセイブ」。

これは圧倒的にH128。ヴンヴンうなる歪みがちのベース、複数オーバーダブされたディストーションギターの押し、タムの弾ける音。ヴォーカルはやや平坦だが、もともとボーカロイドの声にさほどの抑揚はない。「面」で押してくる感じがハイスピードな爆裂ボカロ曲に合ってる。一方HA-MX10はこの曲の骨組みが見えてしまう。じんのギタープレイは良く分かるし、ボーカロイドのIAの声は明瞭に聴き取れるのだが、もっと固まりでガツンと来て欲しいところが、妙に分離が良い。この曲の塊感がちょっとほぐれてしまう感じだ。

 

ハイレゾ系としては今までレファレンスとして聴いてきた宇多田ヒカルの「First Love」を“Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.1+2 HD”

から。ハイレゾ(24bit / 96kHzのwav)といっても元録音がアナログテープなので、メチャメチャ「化けた」ワケではない(ヒアリングは96kHz/24bit FLAC変換後)。元もかなり良い録音なので、良くなったところが希薄かと予想したが、情報量が多くなった正常進化版の良さがどちらのヘッドホンでも味わえる。H128はリバーブはやや後ろに行って、1stコーラスのギターが近い。さざ波のようなストリングスが寄せて、ベースが入ってくるサビの部分ではグッと重心が低くて、グルーヴィだ。ヒカルの声も深くてオトナっぽい。HA-MX10はピアノの響きやヴォーカルにかけられたディレイとリバーブが奥行きが深く、ストリングスが入ってくると部屋一面にいる弦楽隊が目に浮かぶリアル「さ」。ヒカルの声は震えが感じられより若い。甲乙つけがたいが詞の内容と合っているのはHA-MX10のほうか。傾向は違うが、僅差。

 

もうひとつFLAC 96kHz/24bitの鮮烈な録音、吉田賢一のピアノトリオがゴキゲンなスタンダードを演る、“STARDUST”

から、「Take The A Train」を。トリオなのでピアノ+ベース+ドラムなのだが、ベースはもちろんウッベでドラムはブラシなので、ハイレゾならではのその場の空気感まで描き出せるかがポイント。H128はいいなぁ。ベースとピアノの左手の低音域が強く、落ち着いた音色ながらスローなこの曲で引っぱる引っぱる!ドラムソロもスネアの裏の皮が震えるプレイで迫真。すべてが近いが3人の真ん中で聴いているような至福の時間。HA-MX10はすっと重心が上がってピアノの右手とハイハットの表情が良くなる。ブラシのドラムはヘッドの皮を1ランク薄くしたようなカル目の反応の良い感じの音に。響きが良く聞こえるので「部屋の大きさ感」が分かる。全体を聴くH128か、個々のプレイを楽しむHA-MX10かという感じ。曲としての一体感はH128に軍配?

 

ポータブルオーディオに使うヘッドホンとしては、曲により甲乙つけがたいが、ジャンル問わずソコソコこなすH128のフレキシブルさは好印象。ただ、収録レベルが低めのデータだと能率の低さが露呈するので、そういったソースを聴く際はポタアン必須か。

 

 

ヘッドホンはポータブルオーディオの出力デバイスとして使われることも多いが、PCオーディオのリスニング用にも使われる。DAP転送前のデータはPCに入っていることが多いし、可搬性を考えなければACアダプタが必要なDACやアンプをかませた構成も構築できる自由度がある。今回もう一つの環境としてオーディオボードONKYO SE-200PCI LTD

⇒アンプCarot One ERNESTOLO La Serie Limitata

を経由した環境も用意した。なおこの接続にはortofonの銀メッキOFCのRCAケーブル、AC-3800 Silver

を使用した(再生ソフトはfoobar2000)。

 

MISIAの「INTO THE LIGHT (15th ver.)」はH128ではむしろバスドラのビートが目立つ感じに。イントロのバックが薄いときに鳴る4つ打ちのバスドラがアタックが強くてイケイケ。この曲は15th ver.で初出時より現在のライヴアレンジに近く、リバーブやディレイを使ってスペーシィな空間をまとわせているのだが、それよりも中央のMISIAの声がガッツリ聴こえる近い感じの音場。高音寄りでやや神経質なAK120の直刺しから真空管アンプを噛ましたHA-MX10の音は格段に良くなった。ベースの弾みがグンとクローズアップされるとともにハイハットの刻みが埋もれず、グングン前に引っぱる。途中のリズムがオフった♪Fallin' in Love~♪の部分のリバーブ・ディレイを駆使した空間演出はこちらの方が良い感じだ。AK120直刺しだとH128の方がよかったが、これは僅差。好みの問題。

 

交響アクティブNEETsの「飛龍の反撃」はH128では相変わらず、低いところで支える低音楽器、特にコントラバスの量感がイイ。オンで食い付きで聴いているがごとくの迫力はさらに増す。HA-MX10にしても低音がAK120直より増してバランスが良くなる。オイシイところはこちらも同じで木管系。そして俯瞰で聴いている感じも同じ。AK120直と同じく広い部屋で演奏される楽曲の各パートに焦点を結ばせながら聴くHA-MX10か、全体で迫りくる音楽を体で感じるH128か。

 

VOW WOWの名盤“Ⅲ”から「NIGHTLESS CITY」はアンプを噛ましてもなかなか音量が取りづらい。元々の能率もあいまってHA-MX10の方がうるさく聞こえはじめるのは早いが、その時点では欲しいベースよりシンバルの方が大きく、特にハーフオープンのハイハットがノイジー。一方H128は低音側が強く上がややおとなしいので、ボリュームは上がりがちになるが上が充分聞こえるくらい上げると躰の芯を揺さぶる低音が入りイイ感じ。まさにヘヴィメタ。これはAK120直とは大きく違う。

 

逆の結果となったのがラウドなボカロ曲じん(自然の敵P)の「夜咄ディセイブ」を“メカクシティレコーズ ”から。最近流行の音圧高めのミックス、さらにもともと抑揚が少ないボカロの歌がバックに埋もれ気味に面で押してくる曲で、H128はこの手の曲に要求される「音の大きさ」を堪能できるまで音量上げるとベースの歪みが先に来る。音の大きさよりもノイジィな歪み音が来て没入できない。HA-MX10はこの手の曲に要求される「音の大きさ」を人間の耳が敏感な高い倍音域で感じるのでボリュームの要求度が低く、意外とイイ。

 

宇多田ヒカルの“Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.1+2 HD”から「First Love」は96kHz/24bitのハイレゾフォーマットで。これはH128のベースが心地よい。ゲートがかかったリムショットが刺激的にならず、音量が上げられる。ゆったりとしたベースのグルーヴに身を預けていると音楽に没頭できる。一方HA-MX10は生ギターの鮮度とヴォーカルにかけられている深いリバーブだ。ハッとする新鮮さ。やや探求的に細部を聴きたくなる。

 

もう一つのハイレゾ曲、「Take The A Train」は名ピアニスト吉田賢一のトリオ。これはAK120直と同傾向。H128はベースゴキゲン。バッシバシ指板に当たってる弦の唸りと響くボディの音を聴くとそこでプレイされているような臨場感。シンバルもイイ感じに枯れて耳障りではない。HA-MX10はピアノとシンバルレガートが立って臨場感はサイコー。シンバルヒットするときのスティックの鳴りも聞こえ、ハイレゾらしい。音域の高いところに充実した倍音があるので、ダイナミックレンジ感はこちらか。

 

 

今回FURUTECHの高品位ダイナミック密閉型ヘッドホン、ADL-H128BRを様々な音楽で聴いてみた。

様々な音楽を聴いて見た限りでは広いジャンルに対応できる柔軟性を持つヘッドホンだった。

 

製品としての特徴は

・「Alpha トリフォーム・イヤーカップ 」による密閉性と快適性の両立

・mini-XLR-Fコネクタ採用によるリケーブル可能な構造

・α-OCC採用ロジウムメッキ処理の交換用ケーブルiHP-35Xの付属

・高品位3.5mmステレオミニ→6.3mm標準変換プラグF63-S(G)の付属

と言ったあたりか。

 

特に、逆三角形の「Alpha トリフォーム・イヤーカップ 」による耳介への負担がない密閉性の向上は音楽への没入性を高めるとともに低音域の充実を果たしている。また交換ケーブルiHP-35Xは明確な向上が見られ、使わない手はない。

 

音色的な特徴としては

○密閉感が増強する充実した弾む低音域

○その低音が基音をしっかりと支える塊感のある中域

○尖ったところがない刺さりとは無縁の高音域

●空間の広さよりも塊感が優勢の音像

●細部の表現をモニターするよりも全体を固まりで聴かせる分解能

 といったところで、分析的に聴くよりは鑑賞的に聴くのが吉。弾むベースの上にヴォーカルやソロ楽器が説得力強く乗る曲にガツンと来られるような曲がスウィートスポット。高域の倍音と空間の広さが開放感とともに伝わるアコースティック系のインスト曲などはやや苦手か。

 

改善点としては

■ヘッドバンド形状が頭頂部にあたる場合もあるので、要検討

■ヘッドバンド部に目盛がなく長さ調節時に不便

■ヘッドホン標準ケーブルは長さ以外に必要性が薄いため、添付が必要か疑問

と言ったところか。

 

FURUTECHのフラッグシップヘッドホンADL-H128は、低域が充実した弾む楽しい音と耳介を包み込む逆三角形のイヤーカップによる密閉性で音楽に没入できるヘッドホンだった。また明確に効果が感じられる交換ケーブルも付属し、リケーブルの楽しみの扉も開いてくれるヘッドホンだった。このグルーヴィなしなやかな低音を是非一度経験してみることをオススメしたい。

 

末筆とはなりましたが、今回このような機会を与えてくださった フルテック株式会社様 、zigsow事務局様に御礼申し上げます。またレビューアップまでの応援など常に支えとなってくれたおものだちの皆様はじめジグソニアンのみなさまに感謝いたします。ありがとうございました。


【製品仕様】
形式:密閉ダイナミック型
ドライバー:40mm 特殊高性能マグネット  
イヤーパッド素材:合皮
コネクター:非磁性ロジウムメッキ仕様のα(Alpha) mini-XLR
コード:片出し(左)3.0m ストレート(着脱式)
出力音圧レベル(1kHz):98dB SPL/mW
再生周波数帯域:20Hz~20kHz
最大許容入力:200mW
インピーダンス(1kHz):68Ω
側圧:約4.5N
質量:約280g(へッドホンのみ) / 約320g(ケーブル含む)

付属品:

・ヘッドホン標準ケーブル(3.0m)

・3.5mmステレオミニ→6.3mm標準変換プラグF63-S(G)(24K金メッキ処理)
・交換用ケーブルiHP-35X(1.3m、α-OCC採用ロジウムメッキ処理)

・ヘッドホンケース

オーディオなんちゃってマニア道

更新: 2015/03/14
ADL H128 とヘッドホンリケーブル iHP-35X の音質レビュー PREMIUM REVIEW

全然別物。明らかに質感を増した中~低域。標準ケーブルに戻す理由が見つからない。

吉田賢一トリオの「Take The A Train」で比較すると出だしのウッベの質感が違う。きちんとボディが感じられる響き。曲に入ってドラムのブラシが回り始めると、ソコソコいい音と感じていた標準ケーブルでの音が紙を丸める時の雑音のように思えるほどの胴の響きが感じられる質感。驚いた。これはこの比較をさせるためにあえて標準ケーブルをつけているといわれても頷けてしまうかも。

更新: 2015/03/14
ADL H128 の使用感 PREMIUM REVIEW

耳介を圧迫せず、高い密着性と快適性を確保。

「Alpha トリフォーム・イヤーカップ (Alpha Triform Contour Earcups)」と場所によって厚さを変えたイヤーパッドによって、耳介を圧迫しないのに高い密閉性を確保。低音の響き、力強さと遮音性を確保。一方ヘッドバンドの角度はやや扁平で頭頂部の圧迫感を感じるかもしれない。

更新: 2015/03/12
ADL H128 のデザインについて PREMIUM REVIEW

機能とデザインの融合:「流れ」のあるカップデザインが秀逸

このヘッドホンの最大の特徴は「Alpha トリフォーム・イヤーカップ (Alpha Triform Contour Earcups)」と呼ばれる逆三角形のイヤーカップ形状。頂点をやや前に出し、一般的な耳の形に合わせてあり、分厚く、でも面によって厚さを変えたイヤーパッドと合わせて、密閉性を高め、高い遮音性と音楽への没入感を高める。そのヘッドホンでは珍しい円形~長円形ではない形状はデザイン的にも顎の線に沿った流れを感じる。

更新: 2015/03/14
ADL H128 で聴くべき曲、ジャンル PREMIUM REVIEW

ノリが良くやや音圧高めのJ-POP:MISIA「INTO THE LIGHT (15th ver.)」

H128の密着性が高いイヤーパッドで低音がヴンと響く。凝縮した塊感のある音で前に出てくる。特にベースがノれるフレーズのもので、バランスとしては高い方を重視したものがベスト。小編成で各人プレイが良く判るジャズトリオ、吉田賢一の「Take The A Train」のウッベの表現力も素晴らしかった。

更新: 2015/03/14
高音

形式のせいか低音が圧倒しているせいなのかやや弱い

密閉式、さらに顔の側面に密着するよう厚さを変えたイヤーパッドなど耳にダイレクトに音を届けるように設計されたH128は、高域はやや弱い。量が足りないわけではないし、帯域が狭いわけではないが、低域の押し出しの良さに対して主張が薄い。

更新: 2015/03/14
中域

ベースの力強さに乗る基音重視の中域

力強く弾みが感じられる低音域の上で聴きやすい基音中心の中域。塊感のある音場でガッツがある。

更新: 2015/03/14
低音

つつまれ感の強いイヤーパッドの効果もあり、ボディのある低音

音量のみガンガンにあるブーミーな低音ではなく、制動の効いた弾む低音。密閉型としても密着度の高い秀逸なイヤーカップ形状で響きのある低音が得られる。スラップよりもウッベがよく、打ち込みでもアナログシンセ風の芯のある音は合う。

更新: 2015/03/13
音像

パワフルな凝集した音で演奏が近い

押し出しのいい音でずんずん前に出る。ただその分広がり(とくに横方向)は広くない。

コメント (12)

  • 北のラブリエさん

    2015/03/14

    非常に興味深いレビューお疲れ様でした。
    やはりバランスケーブルが、というところが一番面白かったです。
  • cybercatさん

    2015/03/14

    ケーブルは先日の銀メッキRCAも含めて「激変」の経験はなかったので、話半分に聞いてたんですが予想を上回りました。
    比較対象機のケーブルがショボいので換えてみようかしらん
  • harmankardonさん

    2015/03/14

    お疲れ様です.

    音のイメージは同じでも,オススメ曲は全然違いますね.
    やっぱり,音は個人の好みですね.

    ケーブルは,iHP-35Xとの組み合わせ以外は考えられないですよね.
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