レビューメディア「ジグソー」

What You Draw Is What You Get.【追記2】

株式会社ワコム製液晶ペンタブレット「Cintiq 24HD touch」をレビューする事になりました。関係各位どの、この様な機会を頂きありがとうございます。一般的にこの手の製品がどのくらいの関心度があるのかはわかりませんが、ワタシの業界ではもはやワコムのタブレットは100%必需品となっておりますし、自宅にも3台ほど持っています。そんな業界標準とも言えるデバイスの新製品、楽しみです。


コンピュータ用語にWYSIWYG(What You See Is What You Get)というものがありますが、この「Cintiq 24HD touch」は、このSee部分をDrawに変えたようなデバイスではないかと思います(英語の堪能な方からの文法上のツッコミお待ちしてます)。通常のペンタブレットは言ってしまえば二人羽織みたいなもので、手元を見ないで画面をペンで操作するのが基本です。慣れれば問題なく書き込めるのですが、あと一歩という部分では、どうしても歯がゆさを感じていました。すでにワコムでは、画面に直接書き込むタイプの物は販売してはいるのですが、価格の部分で手が出ずにいました(液晶付きなので高いのは当然ですが)。

最近ではアニメーションスタジオの現場でも、アニメーターが作画する時に、原画をこのタブレットで描き起こすということをやっている所はあります。しかし巨額の資本が投入されたスタジオならいざしらず、なかなか導入も難しいのが現状です。ワタシの仕事では、そういう使い方をすることはあまり無いのですが、CG用のテクスチャーを描いたり、3Dでレンダリングした画像にディティールを書き足したり、ということをすることもあるので、直接画面に描き込めるというのが体験できるというのは、とても貴重な体験です。このレビューを通して使い勝手の面で有効であると思えるのであれば、今後の導入も検討したいと思います。

外観等は省こうと思ったのですが、この迫力をまず伝えたいと思います。本当にでかい!まさかこんなに大きいとは思わなかった。

しかもこのパッケージには、わかりやすいインストラクションが印刷されています。

画面の傾きは左右のレバーを使って任意の位置に調整できます。動きは非常にスムーズ。

パッケージから出してテーブルの上に置いてみた。横のノートブックとの対比で大きさがわかっていただけると思います。そしてこの重量がまたすごい。なんと約30㎏。このテーブルに載せるのに腰が抜ける思いです。移動作業は2人でやるようにインストラクションに書かれていますが納得。よいこの皆様は必ず2人でやってくださいね、確実に腰がやられます。

内容物はこんなかんじです。ACがレンガなのはしょうがないか。

ペンは手持ちのIntuos4のものと互換性があり、どちらも使えました。

ペンの先は一種類のみ。液晶画面の性質上、仕方ないところでしょう。

いざPCとの接続をしようとしたら大変な事が発覚しました。なんとこのタブレットはDVI端子しか繋げられない仕様。そしてDVI端子がワタシのノートにない!もちろんこういう機器をノートに繋げて使う想定を、ワコムではしていないのだろう。仕方ないので付属のコードのDVI端子>HDMI変換プラグをアマゾンで注文しました。そろそろHDMIがこういう機器にもついて欲しいな。そもそもノートPCを繋げる人が珍しいなのかもしれないけれども、今後はデスクトップPCというのは一般家庭から(自作PC以外)消えるんじゃないかな。かくいうワタシもデスクトップは今後使うつもりありません。しかしながら、このノートPCとタブレットを繋げて使うのはなんだか妙な感覚。外付けのUSBキーボードか何かを繋げないとこのような有様に。

こりゃ不便きわまりない。しかし再三言うけれども、この機器をノートに繋げて使うのは想定外だろうから、ワコムを責めるわけにはいきません。後にこのタブレットはキーボードを表示させることができるので、それを使ってキーボードを使用すればいいと気がついた。無事インストールも済み、いよいよ起動させてみる。今回はキャリブレーションソフトもお借りしていたが、時間の都合で割愛させて頂く。そもそも映像の仕事は印刷と違って、最終のアウトプットがバラバラなのであまり意味がないことも多いし、大体は編集室で調整します。

このタブレットでは直接画面を指で触ることも出来るので、ともかく汚れが気になります。実はモニター画面を指で触るのは、この業界では御法度なのだ。よってこんな物を用意しました。

これで画面を触っても手の跡が付き辛いはず。これは画面を指で触るフトドキモノに鉄拳制裁を食らわしていたエディターからの伝授。細かい仕様をチェックする時間も惜しいので、どんどん使っていってみて、不便に感じた部分のみ調べていく事にして作業を進めます。大体今までの使い方から、それほど離れていないという予想のものとにですが。

上の部分にボタンが付いてこの部分でタッチ機能のオンオフを切り替えたりできます。

毎回思うのはこのタッチ機能というのはブラウジングなどあまり作業に関係ない部分では非常に便利な機能なのだけれど、Photoshopなどの作業中にONにしているとどうしても誤作動が生じてしまいます。この点、他の方はどのように対処しているのか?気になるところです。ワタシの場合はほぼOFFです。また実際に作業してみて感じるのは、画面が大きいと腕の移動が大きくなり結構疲れる(笑)事です。もっと運動しろよ、ということですね。



さて、今回はどのような内容のレビューにしようかと考えた結果、『自分の好きな映画のワンシーンを再現』して見ることにしました。まあ、お察しの通り『アレ』です。まずはモデリングの為の資料をいろいろ探します。実はこの段階が一番楽しい。まずはシネフェックス第二号。83年当時一番充実した資料がこれです。まだネットもない時代なので、海の向こうの情報は今はなき西山洋書で揃えていました。情報がないなりに楽しい時代でした。

裏表紙にはでっかくブリンプの写真が載ってます、今でも本当に貴重な資料。

モデリングは3D Studio Maxで行います。といいつつ今回はどちらかというとテキスチャーを作る方が、このタブレットのレビューのテーマに沿っていると思いますので、モデリングに関しては3分間クッキングの如く軽く流します。

モデリング時のディティールのチェックのためレンダリングしてみる。

まずはボディ部分の展開図を書出しこれを元にディティールを描き足していきます。

この展開図に添ってベースとなるツギハギの模様を、素材集から切り貼りして作成します。今回はそれほど形がはっきりしているわけではないので、ざっくり作っています。作業していて気がついたのですが、このタブレットは画面上に直接描き込めるわけなので、画面の上に直接定規をあてて描くことが可能です。これはいい!というのは今までメカモノデザインの仕事で、ディティールを描き加える時などは、レンダリングしたあとに出力したプリントにトレペを上に貼り、ディティールを描き込んだあとに、スキャンして取り込んでいたりしたのだけど、このタブレットで直接描くことで、その工程をまるっきり飛ばせるわけだ。従来のペンタブでもできる人もいるが、実際はなかなか難しい。早速あとで試してみよう。話が横道に逸れたが続けます。

このブリンプの最大の特徴は、『訳の分からない日本語』がペイントされているということ。これはリドリー・スコットが、2020年くらいの時代にはアジアが台頭しているだろうという予測のもとに、この映画全体に日本語を散りばめた意図によるもの(そもそもリドリーはこの撮影をしていた頃は日本に来たことがなかったらしい)。おおよそ当たっていたけど、それは日本でなくて中国だったのかも。

スキャンした素材を適所に散りばめたあとは、全体にウェザリングを施します。そして細かいパーツやライト、などを仕込んでレンダリングしてみます。

本当はもう少し細部を詰めないといけないのだけど、最終的に画を汚すことになるのでこんなところで止めておきます。本体ができたところで、背景物を軽くモデリングします。

こういうものは大体今まで自分が作ったものの部品を、組み合わせて作ることが多いので、感覚的には昔ミニチュアを作っていた時のものに近いので愉しい。鉄やコンクリートのテキスチャーを組み合わせてマッピングしてみます。これらのモデルをレンダリングして次の過程に進みます。

【ここまで使用して気になった点】

○とにかく直接書き込めるのはいい!特に今まで諦めていた下書きからスタートしてフェニッシュまで持って行くことが容易になった。

○画面に直接定規をあてられる。絵描きにとってもこの感覚は素晴らしい体験。

○モデリング作業においても思いの外便利である。ラインを選択する際にも見た目に行えるのが最高。

○とにかくノートPCでの使用はお勧めできない。作例では使用しているが、外付けのキーボードが無い限りは不便だと言える。

○タッチ機能は限定的な使用に限る。こればかりは自分の利用範囲ではどうしてもこういう評価になるけれども、ぜひ他の方の使用方法を聞いてみたい。

ただ単に再現映像を作るだけでは能がないので、もう少しアレンジを加えて見ることにします。まずはAftereffectsに素材を読み込んで展開します。

こういうものを作るときは100%CGの素材だけだと、なんとなく味気ないものになるのでちょっとした味付けが必要になります。

それは雨とか空気中に漂う埃だったり、自然のノイズみたいなものです。

そして最終的にレンダリングしたものがこれです。ではこのムービーを元にして更に加工していきます。

CG上での動きは少しなめらかすぎるので、手ブレ感を入れるためにスマートフォンで外の風景をムービーで撮影し、それを取り込んだあとにその動画をトラック機能を使い動きを抽出、それをCG上にトレースしました。そしてタイトルを加えて、再レンダリングしました。

 



ホンの短い時間で作ったので、このくらいの出来でご勘弁ください。
と同時に仕事の方でも、このタブレットを使用してみました。例によってオンエア前ですので詳細は書けませんが、オンエアが始まったので軽く解説をしてみます。今回はルミネのバーゲン告知のCFのコマ撮り撮影した素材のマスク切りに使って見ました。ルミネが近くにあったらぜひお買い物に駆けつけてください。

比較的小規模な撮影ですが、設備の整ったスタジオで撮影します。

こんな感じの撮影風景です。ちなみにカメラはイオスのものを使っています。撮影した素材はPCにダイレクトに取り込み、ある程度アニメーションの区切りがいいところで、動きのチェックをします。コマ撮りというのは本当に地味な作業で忍耐を要します。しかしながら出来上がった動画を見ると、俄然テンションが上がる愉しい作業でもあります。

今回は時間があまりなかったので、種のアニメーションをあとで細工する必要があり、マスクを切っています。その作業をこのタブレットで行なってみました。

このような感じで種のみを切り取って位置を動かせるようにしています。作業中の動画を撮る余裕がなかったのでちょっと乱暴ですが、実際にこのような感じで作業を進めているという参考として観ていただければ幸いです。このような作業は現状のタブレットでも十分に対応可能ですが、やはり画面に直接描いていけるということのメリットは大きいです。これもオンエアが始まったらリンクを貼ります。

11日よりTVCF開始なので解禁します。

取り急ぎWEB上でアニメーションを御覧ください>オフィシャルページ

http://www.lumine.ne.jp/bargain2012s/

早速職人がヨウツベにあげていますね、仕事がはやいなあ。

これは実際に定規をあてて描いているところです。このマシンは没になったもので、かろうじてアップしても問題無さそうなものですが、このように描いていけるのは作業効率の大幅なアップですね~。

 


非常に短い時間でしたが、このタブレットを使ってみての感想は欲しい!ただし会社で使いたい!です。一般家庭にはやはり大きいし、正直オーバースペックだと感じました。もし自分が使うとしたらもうワンサイズ小さいほうが、取り回しやリーチの長さなど考えると(身長は低い方では無いですが手の振りが大きくなります)、その方が使いやすそうだと感じました。

ただ絵を描くことを本気の趣味にしたい人などは、まさにうってつけのタブレットだと思います。確かに高価ですが、その価値は十分にあることは間違いありません。

 

このレビューを読んで、「Cintiq 24HD touch」の購入を決意されたイラストレーターがいらっしゃることを偶然知りました。苦労して書いた甲斐があったというもので、非常に嬉しく感じます。今後の彼女のご活躍と幸運を祈ります。

コメント (21)

  • 愛生さん

    2012/07/10

    作成された10秒の動画ですが、ちょっとワクワクしてしまいました。

    直接描けるのと、画面を見ながら手元のタブレットで描くのでは、かなり効率が違ってくるのでは?と思います。
  • manya嫁さん

    2012/07/10

    レビューお疲れ様でした。素晴らしい内容!

    DVI端子しかだめだっていうのが意外でした。
    やはりノートに繋ぐことは想定外なんでしょうね。やはり家庭向けというよりもその大きさからいっても会社用なんでしょうね。

    タッチ機能は「指で描く」ような感じで描画できたら面白いと思いますが、作業中には機能OFFしてしまうでしょうね。誤操作してしまいそうですし。

    直接定規を当てて作業できるのが、アナログ人間的には嬉しいな~って思いました。
  • hyoueさん

    2012/07/10

    愛生さん、ありがとうございます。ちょっと色々立て込んでいる時のものなので、自分的なアラがちょっと目立つのですが、そう言っていただけるとありがたいです。

    やはり直接画面に描き込めるメリットは、かなりありますね。真っ直ぐなラインも定規を使って描けますし、紙に描く感覚に近いと思います。ただ画面の構造上致し方無いのですが、画面の厚みの分だけ、ペン先と描かれるポイントにズレが生じます。慣れれば問題ないのですが、この時間ではやや違和感を感じました。
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