私たちが見ている夜空の星や銀河は、近いものでも数十年、遠いものでは数千万光年ものはるか彼方にあるため、その光は極めて淡いもののだ。昨今のデジタルカメラが高性能になったとはいえ、ふつうに撮ったのでは、まったくと言っていいほど写らないだろう。
しかし、淡い光であっても、撮像センサーの同じ場所にずっと当て続ければ、光が積み重ねられ、徐々にコントラストがあがってくる。追尾撮影はいわば光を蓄積するための装置といえる。
固定撮影では星は同じ場所に留まることなく、少しずつ写野の中を動いていき、いずれは写野外に出てしまう。これは、星が天の北極(≒北極星)を中心に東から西へ回るように動いているからだ。そして、このことは、地球が自転していることによる“見かけ上の動き”であることは、学校の教科書に載っていたとおりだ。
赤道儀は、地球の自転と反対の動きを行い、写野内で星が動かないようにするためのものだ。つまり、赤道儀の回転軸を地球の自転軸と完全に平行にし、その軸を回転させて星の動きをキャンセルしようというわけだ。
赤道儀には2つの軸があり、地球の自転軸と平行にセッティングする軸を“赤経軸”または“極軸”といい、赤経軸と垂直方向の軸を“赤緯軸”という。赤道儀を正しくセッティングすれば、赤経軸を動かすだけで星の動きを追いかけられるようになる。
赤道儀にはいろいろな種類がある。カメラレンズで手軽に撮るためのポータブル赤道儀(通称“ポタ赤”)から、50kgもの大きな望遠鏡を載せられる大型赤道儀までさまざまだ。初めて買うのであれば、軽くて持ち運びやすいポータブル赤道儀や小型赤道儀がベストだろう。
固定撮影では、ほとんどの場合、写るのは“星だけ”だ。宇宙からは、宇宙空間に漂うガスからなる散光星雲や、近くの恒星の光に反射して輝く反射星雲など、さまざまな光が届いているのだが、あまりにも淡すぎて、星や星雲がどんどん動いて言ってしまう固定撮影では写らないのだ。
その点、追尾撮影を行えば、星の淡い光はデジタルカメラの撮像センサーの同一のピクセル上にずっと注ぎ込まれるため、淡いといえど光が積み重ねられ、ある程度の力強さを持ってくる。すると今まで見えなかった対象が浮かび上がってくる。
星座写真のように“星と背景宇宙”だけでなく、階調が豊かで複雑に入り込んだ宇宙の表情を見ることができるようになる。これこそ天体写真の醍醐味のひとつだ。
星だけではなく、散光星雲や星団などを含めたエリアを“星野(せいや)”と呼ぶ。そして、星野を写した写真を、星の並びだけを写す星座写真に対し、“星野写真”と呼ぶ。星野写真を撮るためには、追尾撮影による長時間露光が必須の条件になる。
追尾撮影は、“いかに極軸を地球の自転軸と平行に設置できるか”で成功率が決まる。設置精度が低いと、追尾精度が落ち、星がきれいな点像にならず、細長く伸びてしまう。
赤道儀を地面に置いたら、次に行うことは“極軸合わせ”だ。ほとんどの赤道儀には極軸望遠鏡が付いており、望遠鏡を覗くと北極星の位置や目盛が記されたスケールが描かれている。現在の観測地の経度(兵庫県明石市が135度)、観測日、時刻から北極星の位置は決まってくるので、指定どおりに北極星をスケールに導入すれば、極軸が合ったことになる。「合ったになる」と言ったのは、機械精度や公差がどうしても残るので、100%にはならないからだ。
極軸があった状態で赤経軸のモーターを入れると、赤道儀は星と同じ速さで恒星時駆動をはじめる。これで“星を追いかける”ことになるのだ。
初心者にとって、最初の壁となるのが極軸合わせだろう。極軸合わせがいい加減だと追尾撮影はまず失敗してしまう。あわてず、十分に追い込み作業をして欲しい。
追尾撮影は、長時間露光をすることでより暗い星や暗い星雲まで写すことを目的としている。しかし、長い時間シャッターをあけたままにすれば、光害の影響で写真は真っ白に飽和してしまうだろう。
追尾撮影で宇宙の神秘の一部分を味わってみたいのであれば、やはり空の暗いところに行くしかない。“天体写真は機材より空で決まる”と言われるくらい、よい作品を得るためには空の暗い場所にいくことが重要視される。高級機材を使って街中で撮影するより、安価な機材でも良質の空の元で撮影した写真の方が高いクオリティの作品になるだろう。
しかし、空の良いところは街から離れた山野であり、標高も高い。気軽に行ける場所ではないとは思うが、いずれはぜひチャレンジしてもらいたい。初心者も上級者も関係なく、行けば誰でも平等に手に入るのが良質の空なのだから。
次回の上級編は、いよいよ望遠鏡による天体写真撮影とその画像処理方法を解説する。また、現在のアマチュア天体写真のディープな世界をお見せしようと思う。天体用に改造されたデジタルカメラや、元から天体撮影用に開発された専用のカメラの話などもしてみたい。