比較明合成写真の撮影テク

 比較明合成星景写真は、特殊な機材は不要で、街中など光害があるところでも楽しめるデジタル時代の新しい表現手法だ。といっても、やはり押さえなければならないポイントはある。三脚とカメラを持って外に出る前に、比較明合成の撮影テクニックをまとめてみよう。


できるだけ高速なメモリカードを用意しよう

 比較明合成写真とは、本来ならば長時間露出が必要な撮影を、少ない露出時間に区切って撮影し、PC上の画像処理ソフトで合成して作り出すものだ。たとえば1コマの適正露出時間が15秒だとすれば、それを240コマ連続撮影すれば、1時間分の撮影をしたことと同等になる。

 問題は、コマとコマの間のわずかな時間である。星は日周運動でどんどん動いていくので、露出終了から次の露出開始までに発生するわずかな“隙間”が発生する。メモリカードへの書き込みが終わるまで、次のシャッターを開けるのを待っていたら、星の軌跡は点線になってしまうだろう。メモリカードへの書き込みを待たずにコマ間の間隔はできるだけ短く、可能ならばゼロにする。これが比較明合成を成功させるコツだ。

 ちなみに、デジタルカメラには、連写時にメモリカードへの書き込みが間に合わない時を想定して、内部にバッファメモリというメモリカードよりはるかに高速にアクセスできるメモリが用意されている。連写時は撮像センサーから読み出されたデータはまずバッファメモリに送り込まれ、そのバッファメモリからメモリカードへと少しずつ書き出される。つまり撮像センサーとメモリカードの間にデータを溜めるダムがあるようなものと考えればいいだろう。

 しかし、バッファメモリの容量はそれほど多くはない。カメラにもよるが数枚から十数枚くらいがせいぜいだろう。高速で連写をしていると、バッファメモリをすぐに使い果たしてしまう。そうなるとカメラは撮影をいったん止めて、メモリカードへバッファ内のデータを全て書き出す処理に専念する。この間は撮影ができないので、星の軌跡が途切れてしまうことになる。

 まずは自分のカメラがどの程度の連射速度・連写枚数に耐えられるのか、自宅でテストをしてみるといいだろう。撮影できるコマ数が分かれば、合計で何分の露出ができるのか分かるはず。 もっと長く連写をしたいのであれば、高速なClass6やClass10のメモリカードを用意した方がいい。

 なお、撮影中もメモリカードへの書き込みができる機種もあるので、それならば事実上、メモリカードがいっぱいになるまで撮影を続けることができる。

左は15秒露出16コマ連続撮影した画像(合計240秒)を比較明合成をしたもの。右は240秒を1ショットで撮影したもの。左はコマ間の隙間が発生し、星がギザギザになってしまっている。今のところ、この隙間を完全に消し去る方法はない。

JPEGかRAWの違いを把握しよう

 メモリカードに保存するフォーマットは、JPEGとRAW(ロー)がある。JPEGを選んだ場合はカメラ内でRAW現像処理が行われ、フルカラー画像として保存される。一方のRAWは、撮影したままの形式であり、まだカラー画像になる前の段階データだ。デジカメのスペックの一つである12bitや14bitと呼ばれるのはRAWの階調保持数であり、JPEGフルカラーの8bitより、はるかに多くの階調を保持している。

 RAWデータはPC上のソフトウェアでのRAW現像を行い、初めてカラー画像になる。ソフトウェアでの現像では、自分で階調や色の使い方を調整・選択できるので、カメラ任せのJPEGより多くの情報を引き出すことができる。露出が多少狂っても、ほとんど劣化せず調整できるメリットがある。すでにカラー画像となっているJPEGでは、画像処理に対して懐の深さが足りないのだ。

 ただし、RAWはJPEGに比べるとファイルサイズが大きい。上で述べたように、比較明合成では、コマとコマの間をできるだけ短くするためには、使っているカメラによっては、JPEGで撮影しなければならない場合もあるだろう。

 ちなみに、ここに紹介している比較明合成の星景写真は、ほとんどがJPEGで撮影されたものだ。試写を繰り返し、撮影時にホワイトバランスと露出設定をしっかり追い込んでおけばJPEGでも問題なく作品を作ることができる。

 逆に、時間がなく、設定を追い込む余裕がないのであれば、RAW形式で撮影しておき、PC上のRAWの現像ソフトウェアで細かく調整することになる。

カメラやメモリカードの性能に応じてJPEGとRAWを使いわけよう。RAW+JPEGは書き込み時間がかかりすぎるので、おすすめできない。

適正露出を求めよう

 暗い星を写したいからといって、いたずらに露出を多くしても、星は写らず、背景が明るくなりすぎて、真っ白な写真になるだけだ。天体写真にも“適正露出”があり、それを超えて露出をしてもよい写真にはならない。

 比較明合成写真における適正露出は、地上風景で決まる。街灯りが煌々としている市街地では控えめな露出になるだろうし、光害の少ない天文適正地ではたっぷりと露出をかけることができる。露出が少なければ明るい星しか写らないし、多ければ暗い星まで写る。

 だから、街中で撮るにしても、暗い山野で撮るにしても、まずは地上風景がほどほどに見えるくらいの露出を探ることから始める。光害の少ない山野でも、月の光があるときは、地上が明るく照らされるので適正露出が変わってくる。

 一般に露出は“絞り”と“露出時間”で決められる。デジタルカメラでは、ISO感度も1コマ毎に変更できるので、これを露出設定の一種として考えることもできる。つまり、同じ露出でも、絞り・露出時間・ISO感度の3つのパラメータによるさまざまな組み合わせが存在することになる。しかし、同じ露出だったとしても同じ写りになるわけではない。

 絞りを開放にすれば、光をたくさん取りこむことはできるが、レンズの収差といった悪癖が表面化してくる。露出時間を長くすれば今度はダークノイズ(後述)が増える。ISO感度を高くすれば、感度と引き換えに高感度ノイズが増える。いずれもメリットとデメリットを併せ持っている。

 撮影時は、これらを理解しつつ、最適な組み合わせを使うことになる。たとえば開放F値の明るい、高価なレンズを使って、1〜2段絞れば収差が少なくてすむし、高ISO感度でもノイズが少ないと定評のあるカメラを使えば高いISO感度で撮れる。かわりに露出時間を短くできる。

 星景写真では、このような画質の善し悪しの他に、星の写りそのものも違ってくる。たとえば、高ISO感度+短時間露出と、低ISO感度+長時間露出では、背景宇宙や地上風景は同じ明るさで写るものの、高ISO感度では暗い星まで写るが、低ISO感度では明るい星しか写らない。理屈的には同じように思えるが、星は撮影中に少しずつ撮像センサーの上を動いていくので、いくら長く露出しても暗い星まで写らないのである。

 また、暗い対象まで写っているほどよい天体写真と思われがちだが、星景写真というカテゴリでは、そうとはいえない。あまりに星が多すぎると、うるさいと感じてしまう。それは地上風景とのバランスでもある。露出を抑え、ほどよい明るさの星だけの軌跡で比較明合成写真を作ることが大切だ。

ISO200/露出240秒×5枚

ISO800/露出60秒×20枚

ISO3200/露出15秒×80枚

この3つの作例は、いずれも同じ夜に同じカメラ、レンズで撮影したものだ。露出時間、絞り、ISO感度を変えて、同一の露出になるように調整し、コマ数を変えて軌跡の長さが同じになるようにした。上に行くほど低感度で1コマの露出時間は長く、下に行くほど高感度で露出時間は短くしてある。見てのとおり、露出を変えると写真の雰囲気はガラっとかわる。


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