KLIMAX DS徹底攻略 第六話

KLIMAX DSを聴き終えて

■―最後に、皆さんの感想を聞かせていただけますか。

▽村井氏実は最初にKLIMAX DSで聴いた宇多田ヒカルはD730に比べてハイ上がりな印象を受けたんです。ところが、手嶌葵やベン・ハーパー、そしてスタジオマスターと聴いていくにつれてだんだんと高域の印象が変わってきたんです。こんなにリバーブがキレイに聴こえるものなんだなあと。

▼武田氏音楽制作をするときは大抵「こういう風にしておかないとこういう風に仕上がらない」というサバ読みをしながら制作します。世の中には想定したサバ読みの範囲を超えて再生してしまう機器があるのですが、このKLIMAX DSを通して聴くと作品を限りなく裸に近い状態で見られてしまうというか…。こういう規格外の製品は本当にエンジニア泣かせです。

▽太田氏DYNAUDIOのモニタースピーカーを通すとソースが痩せたか痩せてないかがよく分かるんです。こういうストレージからLANでデータを送るような装置で、痩せた感じもなくしっかりと質感が再現できるということには正直いって驚きました。時代が変わってきたんだなと。

アールスタジオ 聴き比べの様子

ルーツは蓄音機?

▼武田氏それでは最後に小話を…。昔、大手国産メーカーのテープデッキを使って仕事をしていたときのことです。そのメーカーのデッキには、真空管の時代からトランジスタが出始めた頃までシンクロナスモーターが使われていました。しかし、いつの頃からかカウンターを付けたり回転を正確にするためにサーボモーターに仕様変更されました。私のスタジオもその新型を導入することになったのですが、スペックはもともとBTS(放送技術規格)で統一されていて、モーター以外は大して変わっていないはずなのに音が急に窮屈になってしまったんです。外でNAGRAのデンスケで録音しているときにはストレスがないのに、会社に戻って買ったばかりのテープデッキで再生すると窮屈に感じてしまうんです。世の中がアナログからデジタルに変わるときにも、そういう枠にはめられたような感じがして馴染みにくかったものです。ところが、KLIMAX DSにはそういう枠にはまらないアナログ的な解放感が感じられるんです。

それから、私はその世代ではないのですが、ゼンマイ式の蓄音機が最高だという方がいるんです。ゼンマイ蓄音機は動力がゼンマイだけで速度調整もガバナーだけで行うので、回転がなめらかなんです。それが蓄音機の音の良さの秘密かもしれないですね。もう一つ蓄音機のことで面白い話を聞いたのですが、録音にこだわるスタジオでは、深い井戸を掘ってそこに重りを落とし、その力だけを動力にしてカッティングするというのです。おそらく重力は地球上で一番変わらない力の一つだと思うので、その重力を動力にすることでワウフラッターやコギングから解放された世界が見えてくるのかもしれないですね。一言でいうと回転系が悪さをしない音なんだと思います。そして今日聴かせていただいたKLIMAX DSにもそういったストレスのなさを感じました。

■―皆さん本日はありがとうございました。

KLIMAX DSとプロ機材

次回「周辺環境を見直そう」につづく