さすがに闇雲にNASを買い漁るわけにもいかないので、zigsow編集部に相談することにした。待つこと半月でzigsow編集部から連絡がきた。「3.5インチSATA用のNASキットに2.5インチSATAのSSDを組み込むことはおすすめできません。」「Centuryというメーカーから今秋発売予定のNASキットの試作品と、シリコンディスクビルダーというCFカード複数枚を組み込んだ3.5インチSATAストレージの試作品をお借りしたのでKLIMAX DSに試してみませんか。」とのことだ。もちろん二つ返事でお受けした。そして数日後、私のもとへNASキットとシリコンディスクビルダーが送られてきた。届いたNASキットは試作品のため販売用にOSがローカライズされていなかったので、CenturyがTwonkyMediaを予めインストールしてくれていた。早速お借りしたNASをシステムに組み込んでみた。まず始めに感じたことは動作音が静かなことだ。HDDタイプのNASを使用していたときは常に動作音が気になって仕方がなかった。しかも読み込みが続けば内部の温度が上昇し、ファンが盛大に回り始める。それに比べシリコンストレージはそれ自体の温度上昇がほとんどなく、NASの電源部を放熱するためにファンが回るだけだ。レコード、テープ、CDなどの従来のオーディオソースはどれも必ず記憶媒体を回転させて音楽信号を取り出していた。そして常にその動作音に悩まされてきた。私が愛用していたLINNのCD12という装置はCDプレーヤーの中では動作音がかなり静かなほうであったが、それでも全く気にならないわけではなかった。しかしKLIMAX DSにシリコンストレージを組み合わせた場合は、可動部分が一切ないため動作音が全く発生しない。オーディオの長い歴史の中でも動作音が全く発生しない再生装置など前代未聞だ。
それでは実際にシリコンストレージとHDDのNASを聴き比べてみよう。比較に用いる曲は今回もノラ・ジョーンズの『come away with me』だ。音が出た瞬間に唖然としてしまった。まるで目を瞑って聴いていると本当にノラが目の前で歌っているかのようだ。音の定位が極めて明快で、ノラの口元にぴたりとフォーカスが定まっている。左右の広がりや高さの表現など、今までよりもさらに臨場感が増している。歌声は若干硬質な気もしなくはないが、淀みない再生音は快感だ。今度はオーケストラを鳴らしてみよう。やはりステレオ再現が抜群によい。各々の楽器にフォーカスがぴたりと定まり、音楽のパースペクティブはまるで揺らぐことがない。ホールの共鳴や床から伝わってくる振動など録音されている音を細大漏らさず再現してくれる。これ以上ないところまで登り詰めたと思っていたKLIMAX DSの再生音がさらに別次元の音になってしまった。なぜこれほどまでクオリティの高い音がするのだろうか。これがモーターレスというオーディオ再生装置の新境地なのだろうか。驚くべきほどにKLIMAX DSのパフォーマンスを引き出してくれたシリコンストレージ。私はもうHDDのNASには戻れないかもしれない。
小型、軽量、低消費電力と良いことずくめのシリコンストレージが今後あらゆるシーンで需要が高まっていくことは想像に難くない。そして、このスペシャルな記憶媒体が今後のクオリティオーディオにどう影響を与えていくのかが非常に楽しみだ。