時代をリードしてきたAppleの作品たち Vol.3
──スティーブ・ジョブズとその魔法──

残された最後の魔法

2005年の6月14日。シリコンバレーの中心にあるハーヴァードと並ぶ名門校、スタンフォード大学の卒業式会場にジョブズは現れる。卒業する学生たちと関係者を前にスピーチすることになっていたのだ。「実は僕は大学を出ていないので、これが自分にとって、大学の卒業に最も近い経験になります…」。爽やかな陽射しが降りそそぐ中、演壇に立った彼はいつもの製品発表会の時よりも緊張しているように見えたが、聴衆から温かい笑いが起きると静かに語り始める。「今日は僕の人生から3つの体験をお話しようと思います。それだけです。たいした事ではありません。たった3つです…」。10数分のスピーチの中には彼の生い立ちから挫折、そしてがんとの闘いなどのエピソードが折り込まれ、彼の生き方を見事に要約した機微に富んだ内容だった。このときの祝辞は今も名スピーチとして多くの人たちに語られている。

 

(1)将来をあらかじめ見据えて、点(経験や知識など)と点をつなぎ合わせる事はできない。出来るのは後からつなぎ合わせる事だけ。だから、自分がいまやっている事は、いつか人生のどこかで実を結ぶだろうと信じて進むしかない。

(2)アップルを追い出だされなければ、現在の自分は無かっただろう。それは非常に苦い薬だったが。人生には頭をレンガで殴られるような時もあるが、重要なのは最悪の出来事に見舞われても信念を失わないこと。自分が素晴らしいと信じる仕事をすること。

(3)人間が持つ時間は限られている。だから、誰かの考えに従って生きる必要はない。大切なのは自分の内なる声に耳をすますこと、自分自身の心や直感に従い、勇気を持って行動すること。

(4)Stay hungry, Stay foolish.
       ────ハングリーなままであれ、愚かなままであれ。

 

 

2003年の10月、ジョブズはたまたま受けた腎臓のCTスキャンですい臓がんが発見され、一時は余命6ヶ月と診断される。しかしその後、治療可能なタイプながんと判明し手術を受け復活。スピーチの中でもジョブズは自分の病について、すでにクリアしたハードルとして語っている。しかし2005年以降、彼が新製品発表のプレゼンテーションを行う度に、年々痩せてゆく姿を見てファンやマスコミの間では健康不安説がまことしやかに流れた。事実、彼の病は進行していたのである。

だが彼は、すぐれぬ体調をものともせず製品の開発に没頭する。会社の業績は右肩上がり、「iPod」も音楽プレイヤー業界を席巻していたが、彼は近い将来、携帯電話がそのライバルになると踏んでいた。事実、日本では携帯電話で「着うた®」を聞くことはごく当たり前になっていた事を考えると、その危惧は的を射ていたといえるだろう。そして2007年の1月。サンフランシスコのマックワールドでアップル渾身の製品を発表する。iPodの機能と携帯電話としての通話機能、そしてPCと同じようにインターネットにアクセスできる未来の電話「iPhone」だ。


iPhone 4S 64GB Black(daiyanさんのもちもの)

ジョブズの仕事らしく、無駄なボタンは一切排除。マニュアルを読まずともマルチタッチスクリーンで直感的に操作ができる優れたユーザビリティ。なぞったり、摘んだり、傾けたりする度にスムーズに動く画面に、アップルファンや業界関係者は度肝を抜かれた。6月に発売されると予想通りの大ヒットとなる。日本では周波数帯の違いから初代「iPhone」は発売されなかったが、翌年7月には「iPhone 3G」が8GB、16GBの2タイプを発売。販売店に前日から行列ができる大フィーバーとなった。以降、「iPhone 3GS」「iPhione 4」「iPhione 4S」と毎年モデルチェンジがなされるが、その度に販売店の前に行列ができるのはすっかりおなじみとなった。「iPhone」の登場はスマートフォン市場の大きな起爆剤となる。


iPhone4S 64GB White(kazさんのもちもの)

「iPhone」には発売当初からバッテリーの減りの早さや電波の弱さという問題を抱えていたが、モデルチェンジを重ねるごとに問題は徐々に解決され機能も追加されていく。2009年発売の「iPhone 3GS」では3メガピクセルのカメラやハンズフリーボイスコントロール、テザリングやビデオなどの機能を追加。2010年発売の「iPhione 4」はさらに薄く軽量化し、高速・省電力化。マルチタスクが可能となり使い勝手も向上する。そして2011年に発売された「iPhione 4S」では処理スピードやカメラの向上の他に、ユニークな音声入力機能Siriも搭載される。日本語はまだフォローされていないが、質問に受け応えする様は、ひと昔前のSF小説を連想させる。

「iPhone」を語る上でもう一つ忘れてはならないのは豊富なアプリだ。「iPhone 3G」の発売と同時にサービスを開始した「App Store」上では、現在世界90カ国向けに42万5千本を超える「iPhone」「iPod Touch」「iPad」用のアプリが公開されており、2011年時点でダウンロード数も150億件を突破した。アップルは他社のアプリとは違い、「App Store」で公開するアプリを自社で管理し、事前に審査している。この事は行き過ぎた閲覧行為だと批判されたり、また購入者のデータも明かさない事からディベロッパーサイドからしばしば不満も上がるが、ウイルスや個人データの流出の危険性が排除される点でユーザーサイドからは概ね受け入れられていると言えよう。