魔術師の帰還
「ピクサー」で成功を収めたジョブズだったが、「NeXT」は思い通りの成果を上げることができなかった。革新的なハード、ソフトを作り上げたものの売り上げは伸び悩み、1993年時点でハードウェアの開発は諦め、OSを他のコンピュータにライセンスするソフトウェア会社へとシフトしていた。しかし1996年に転機が訪れる。アップルは1991年に開発したOS7以降、次世代OSの開発に苦慮していた。そこで外部への委託を計画。候補を数社(最終的なライバルはジャン・ルイ・ガセーが興したビー社)リストアップしてコンペを行うのだが、そこで「NeXT STEP」が選ばれたのだ。この年の12月、アップルは「NeXT」を会社ごと買収することになる。もちろん、ジョブズを含めて。
会長の非常勤アドバイザーとして復帰したジョブズは迷走する会社にウンザリしていた社員やユーザーたちから歓迎される。そして半年ほどでジョブズを迎えてくれたCEOのギル・アメリオを、そのすぐ後には大半の取締役たちを追い出し、アップルの再建へと本格的に乗り出す。手始めに行ったのはマイクロソフトとの和睦。かつて蜜月関係だったマイクロソフトとアップルだったが、ウインドウズ発売以降は悪化の一途をたどり、著作権や特許をめぐる法廷闘争を繰り広げてアメリオ時代にはマイクロソフトはMacintosh用のオフィスは開発しないと宣言するところまで来ていた。豊富なアプリケーションと優れたマシンが揃ってはじめてユーザーはついて来る。そのことを「NeXT」時代に身にしみて分かったジョブズは躊躇なくビル・ゲイツとの交渉に入る。当時はユーザー同士の間でもウインドウズ派、Mac派に分かれて、どちらが優れたPCかを果てしなく論議していたものだが、この和睦はそんなユーザーたちすべてを驚かせる歴史的な出来事だった。さらにOS8へのバージョンアップを期に、1995年から発売されてきた互換機への新OSの供与はしない事を決めた。
そしてもう1つ、重要な仕事に着手する。肥大し、増えすぎていたラインナップの絞り込みだ。デスクトップとノート、そしてそれぞれに一般ユーザー向けとプロ向けの4タイプのみを作る。それにより消費者にとっては製品を選びやすく、社内的には無駄な生産ラインをカットする事ができた。このうちプロフェッショナル向けにリリースされたデスクトップ型PCがPower Macintosh G3、ノート型PCがPowerBook G3だ。CPUには省電力で発熱量が少なく、第2世代のPower Macintoshよりも性能のいいPowerPC750を採用。価格も前世代の最上位機種に比べて格段に安くなった。




