レビューメディア「ジグソー」

各アーティストのBillyへの愛が感じられる

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。トリビュートアルバム。支持を受けるアーティスト、プレイヤーに対するリスペクトをこめて、他者がその人物の曲を歌ったり演奏したりした作品のことをこう呼びます。そして意外に難しい作品群でもあります。その対象となったひとの個性の強さや同時代の人なのかどうかなどの関係で、あまりにまるコピーになってしまう場合や元と変えすぎて何の曲やらわからなくなってしまう場合もあります。そんなジャンルの作品をご紹介します。

Billy Joel。20世紀にヒットを連発したポップス界の巨人。さすがに近年はシングルやアルバムなどのリリースは絶えているけれど、ライヴではまだ現役で、老いてなお味のある歌声を聴かせてくれている。

日本でも特に1970年代後半に大ヒット連発し、強く印象付けられた。また彼の曲は行進曲やBGMにアレンジしやすかったのも多かったこともあり、その後スタンダードポップスとして定着し、20世紀末に洋楽に親しんだ世代は少なくとも何らかの曲の旋律は識っているという状態。

そんな彼の曲を(主に)日本のアーティストたちが歌ったのがトリビュートアルバム“We Love Piano Man:Tribute To BILLY JOEL”。ただ、リリースに合わせて新たにレコーディングされたものだけでなく、各人が手がけていたカバー曲を収めたものもあるので曲ごとの肌触りはやや統一されていない。

まだ対象が存命のアーティストということで?あまり元曲と違った突飛な解釈もされず、かと言って教科書的に完コピのような面白みのないものでもない各アーティストの個性が出つつの作品となっていてとても楽しい。

自分にとってBillyを識るきっかけとなったアルバム“The Stranger”の表題曲「The Stranger」はさかいゆうが手掛ける。さかいのアメリカンな感性とJ-POPの技法が上手く溶け合った作風がとてもよい。元曲よりもソリッドでストリートな感じに仕上がっているこの曲は、さかいの曲にそこはかとなく漂うイロクな薫りと、彼とBillyが根幹に持つ「ポップさ」という二つが上手く溶け合っている。この曲はさかい自身の4thアルバム(4YU)の初回生産限定盤の特典カバーCD「さかいゆうCOVER COLLECTION」に収められているが、ベーシスト兼トラックメーカーのShingo Suzukiとの共同アレンジなのが特徴。類家心平の乾いたペットがイイ。

沁みる旋律を持つバラードかつ、綺麗なだけではない真実を語る詞が刺さる名曲「Honesty」は活動中止前(2011年)のアンジェラ・アキのアルバム“WHITE”から。彼女自身が弾くピアノのみの弾き語り。美しく感情のこもった発音で歌うアンジェラの歌がドストレートに響く。元曲にはドラムスやベース、ストリングスが入っているが印象としては驚くほど両者は近い。♪Honesty is such a lonely word/Everyone is so untrue/Honesty is hardly ever heard/And mostly what I need from you♪という所の声の力強さは素晴らしい。

マエストロ冨田恵一のバックアップでオールディーズな薫りのある「あの娘にアタック(原題「Tell Her About It」)」を軽やかに歌うのは土岐麻子。ジャズとJ-POPの中間にいる麻子のセンスが素晴らしく、マルチプレイヤー冨田のギターのカッティングとベースパターン、彼の手になる2小節1パターンのリズムトラックで構成される複合リズムがとても小粋。最後に転調してからの抜いた感じの歌い方が上手いな。

他にもORIGINAL LOVEの田島貴男が漢っぽく歌う「My Life」や、オリジナルに勝るとも劣らないゴスペラーズの完璧なコーラスが味わえる「The Longest Time」など、どの曲もBillyへの愛に溢れている。
元詞と訳詞の脇にはその曲にまつわるBillyのエピソードが添えられる
元詞と訳詞の脇にはその曲にまつわるBillyのエピソードが添えられる
Billyの歌にリアルタイムで触れることが出来、またその彼に影響を受けたアーティストがBillyへのリスペクトを込めて歌う歌を聴くことができる時代に生まれたことを感謝したくなるアルバムです。

【収録曲】()内邦題、--内参加アーティスト
1. Piano Man -K-
2. The Stranger(ストレンジャー) -さかいゆう-
3. Just The Way You Are(素顔のままで) -槇原敬之-
4. My Life -田島貴男[ORIGINAL LOVE]-
5. Honesty -アンジェラ・アキ-
6. Allentown -YO-KING[真心ブラザーズ]produced by 冨田恵一-
7. Tell Her About It(あの娘にアタック) -土岐麻子 produced by 冨田恵一-
8. She's Always A Woman -松下奈緒 produced by 冨田恵一-
9. The Longest Time -ゴスペラーズ-
10. New York State Of Mind(ニューヨークの想い) -JUJU-

「アルバムスポット」


「The Stranger」さかいゆう
  • 購入金額

    2,700円

  • 購入日

    2017年02月28日

  • 購入場所

    TOWER RECORDS

14人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (4)

  • cybercatさん

    2017/03/27

    レビューでは触れなかったけれど、槇原敬之の「 Just The Way You Are(素顔のままで)」やYO-KINGの「Allentown」もいいですよ。

    「Honesty (アンジェラ・アキ)」

  • 北のラブリエさん

    2017/03/27

    おお、いいですね。
    贅沢を言うと若手ロックバンドあたりに「We Didn't Start the Fire」をやってほしかったかも。
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