【zigsowラウンジ編集部(以下編集部)】昨今のアナログ回顧ブームという流れの中でビンテージと呼ばれるカテゴリーがありまして、これは当然エテルナトレーディングさんも取り扱っていらっしゃるわけですが、世間ではこれに対して若干投機目的に向かうような流れもあると…。
そういったものを目の当たりにする入門者の方々は高いレコードが良いと思ってしまう風潮ができているように見えるのですが。
【高荷氏】決して高いレコードが良いレコードというわけでなく300円のレコードと3万円のレコードを比較した場合に、3万円が必ず勝つとは限らないです。全てはこれはジャッジする人の主観によります。300円が勝っても全くおかしくはありません。金額に左右されること無く自分の耳で確かめれば良いのです。テレビ番組で1億円のバイオリンと3000円のバイオリンを芸能人に比べさせてどっちが高いほうかというのがあるじゃないですか。…半分も当たらないですよね(笑)でも、その芸能人がその時に良いと思ったほうを良しとすればいいじゃないですか。たとえソレが3000円の方であったとしても、その人にとっては良かったわけですから、それは心の声に素直に従うべきです。
【編集部】心の声に従うコツは?
【高荷氏】コツですか(笑)シンプルに素直に生きていれば自然とそうなるしかないと思いますよ。頭の隅に『コレが果たしていくらになるのだろうか?』とか、雑念が入ると心の声が聞こえなくなるんですよ。
【編集部】いや、耳が痛い…。そろそろ次のお話へゆきましょうか。
【高荷氏】はっはっは。
【編集部】数えきれない枚数のレコードに触れてこられた高荷さんですが、レコードを持った瞬間や、ジャケットを僅かに見ただけで、ハッとするようなことは実際に起こりますか?
【高荷氏】そういう時もありますね。常時そうというわけではないですが…ただ、ある条件が整うとそういう状態になることはありますね。
【編集部】それはここ一番絶対に負けられない瞬間ということでしょうか?
【高荷氏】そうですね。
【編集部】そういった感覚は鍛えれば会得できるものなのですか?
【高荷氏】鍛えてできる類のものではなく、例えば子供がカブトムシを採りにいったときの気分じゃないかなと思います。少年の汚れ無き心ですね。その答えは非常にシンプルで、純粋に音楽を心から楽しみたいという気持ち、レコードハンターとしての究極の境地というものだと思います。
【編集部】クラシックレコードの取り扱いでは世界最大規模を誇り、業界ではプライスリーダーとしての地位を確立しているエテルナトレーディングさんですが、お店を経営するにあたっての心構えなどをお聞かせいただけますか?
【高荷氏】まず、一つ処に根ざすために大きな店舗を構えました。先行投資ですね。どうせやるんでしたら都会の中に憩いの空間を作りたいというのがあったわけです。買う買わないに関わらず、お店に入ってもらえれば多少でも和らいだ気分になってもらえるようにと。音楽が鳴っていて少しでも落ち着いた気分になってもらえれば、それはお店を作った甲斐があるわけですよ。私は「都会のオアシス計画」というのを考えることがあるんです。その中で自分ができることがレコード屋なんですよ。
【編集部】神保町という街にお店を構えた理由をお伺いできますでしょうか?
【高荷氏】ここが日本のカルチェラタンだからです。ここにお店を出さなければ意味が無いんです。文化的意識の高い人々が集う街。クラシックが似合う街なんです。
【編集部】出店した甲斐があったとの実感はございますか?
【高荷氏】あります。
【編集部】高荷さんのお客様に対してのポリシーをお話しいただけますか?
【高荷氏】「音楽を処方するドクターでありたい」気持ちと身体は密接に繋がっていますから、例えば体調が悪いときでもある種の音楽を聴くことによって体調が良くなるということもありえるんですよ。良い音楽を聴いて穏やかな気分になってほしい。常日頃からそのように心掛けています。