レビューメディア「ジグソー」

サウンドステージの広さとスピード感ある硬質な音色が特徴

どんな分野でも、多作なメーカーと寡作メーカーというものがある。

メーカーの規模、というのも関係するが、小ロットで次々と新しい商品を生み出し、古い商品は比較的早くにたたんでしまうメーカーもあれば、絞り込まれた商品を長く扱うメーカーもある。

 

OSTRY(オストライ)という中国のイヤホンメーカーがあるが、このメーカーはあきらかに寡作メーカー。

 

元はイヤホンのドライバーを設計していたというこのメーカー、2014年初頭に初のイヤホンをリリースしてからもう8年も経つのに、大きく分けると現在までに4種類、細かいチューニング違いを含めても7機種しかリリースされていない。

 

そのラインアップは以下の通り。

KC06:10mmのCCAWダイナミックドライバー1発のイヤホン(初号機)

 ・KC06A:KC06の低域重視チューニング版

KC07:10mmのCCAWダイナミックドライバー+knowles製BAユニットのハイブリッド機

KC08:大型の16mmのCCAWダイナミックドライバーのインイヤー型イヤホン

 ・KC08T:KC08の素材見直し版

 ・KC08A:KC08のドライバー刷新版

KC09:10mmのCCAWダイナミックドライバー採用のKC06の上位後継版

 

以前こちらでもレビューした、同社にとっての初号機、カッパークラッドアルミ線(CCAW)をボイスコイル線に採用した10mmのダイナミックドライバーを持つKC06

を核として、その低域をブーストチューニングしたKC06Aと、径は同じながら、ドライバーを2μm厚の新型にし、MMCX化でリケーブル対応にした上級機KC09、KC09と同じDDドライバーにさらにBAドライバーを追加した2ウェイのKC07。この4機種が10mmDDドライバー採用のカナル型イヤホン。

 

型番的には間に入っているにもかかわらず、KC08系は全く系統が異なり、16mm(厳密には15.4mm)のダイナミックドライバーを採用したインイヤー型のイヤホン。こちらはKC08⇒KC08T⇒KC08Aと、素材の見直しやドライバーの再設計で別路線で進化してきている。

 

このラインアップの中では、唯一の2ウェイ型のKC07OSTRYの最上位機種となる。

 

以前、KC06のダイナミック型とは思えない透き通った高音域に魅せられ、上位機種KC07に関してはオーディオイベントなどでプロトタイプの試聴なども経験済みだったcybercatは、その発売を心待ちにしていたが、発売されてみると、リケーブル対応化と2ウェイ化とで大幅に価格が大幅に上がってしまったうえ、結構指名買いで買う人が多いせいか、時間が経過してもあまり価格も下がらず、買い時を逃していた。しかし、発売後かなり経ってから、国内取り扱い商社のIC-CONNECTの直販でセールがあったため、購入してみた。

 

内容物としては、イヤホン本体と、MMCX接続の3.5mmシングルエンドのケーブル、携帯ケースに3種合計8サイズのイヤピ、保証書。

本国版のパッケージは横にスライドする別物。このケースがあきらかに日本版の方が良い。
本国版のパッケージは横にスライドする別物。このケースはあきらかに日本版の方が良い。

 

最初はケースの中に全てのものが収められている。
最初はケースの中に全てのものが収められている。

 

イヤピは3種類で8サイズ
イヤピは3種類で8サイズ

 

イヤホン本体は、KC06より大きなKC09とほぼ同じシェイプのタマゴ型のハウジングユニット形状。KC06の「シール」から大幅に高級感が増したフェイスプレートは、左右非対称で、右にはZのようなラインの中に「OSTRY」の社名が入り、左はKC07を示しているのか「Ⅶ」を図形化したような模様が描かれている。なお、このシンプルなデザインは日本専用のようで、本国ではKC06Aに似た、目玉を彷彿とさせるような厨二系の模様が描かれている。KC07は価格も上昇してしまったこともあり、購入層を考えると、あきらかに日本仕様の方が価格に合っていると思われる(なお、フェイスプレート以外も外箱やケースも日本仕様は本国仕様とは別モノ。特にケースは日本仕様の方が質が良いので、まれに流れている並行輸入品は、よほど安くないと掴む価値はないと思われ)。

KC06のシールから、大幅にグレードアップされたフェイスプレート
KC06のシールから、大幅にグレードアップされたフェイスプレート

 

イヤホンハウジングは、アルミ製特殊合金で造られており、チタンコーティングがされている。ノズルはステンレス製で強度を稼いだというのが謳い文句。形状に関しては、多数の耳型からシェイプを見直し、よりフィットするようにしたとのことで、たしかに装着感がイマイチで、何度かこのイヤホンレビューでも触れているように、「カラ耳(湿っていない)」で耳道が「下向き」で「細め」というcybercatの耳では、「据わり」がよいイヤーピースの選択や、装着方法の工夫がないと音質が安定しなかったKC06よりは安定度はかなり増している。

 

ケーブルの方は、銀メッキ6N単結晶銅線15本と5N OFC銅線15本の計30本を縒り合わせた線を採用し、それを8芯のツイスト編みをしたものを採用している。KC09は単なる銀メッキ銅線との事なので、OSTRYとしては初の銀メッキ銅線+銅線のハイブリッドケーブルは結構力が入っている。

ケーブルは太めだがしなやか
ケーブルは太めだがしなやか

 

イヤーピースの方は、3種類の系統。さらっとしたシリコンのモノが3サイズ。光沢があって少々ペタっとした感じのモノが2サイズ。このふたつは横から見た形状はだいたい同じで、球状に近いモノなのだが、導音管となる「穴」の大きさが後者の方が大きい。もう一系統は全く違う形状でダブルフランジ形...というか鏡餅型??

さらっとしたシリコンタイプ
さらっとしたシリコンタイプ

 

光沢があるタイプはなぜか2サイズ
光沢があるタイプは、なぜか2サイズ

 

特徴的な鏡餅サイプ??
特徴的な鏡餅サイプ??

 

cybercatのほっそーい耳道には、小さいイヤピをつけて奥まで入れて固定するか、大きめで「傘」が柔らかめのイヤピをつけてねじ込んで、「摩擦で支える」かどちらかなののだが、今回は前者。付属のイヤピでは、さらっとした方のシリコンの一番小さいもの以外は合わなかった。この3種、結構素材や形状が違うので、イヤピで装着性のみならず、音の方も変わりそうだが、今回は検証できず。

 

では、このイヤホン、どんな音がするのだろうか。

 

例によって、バッテリー保ちが良い初音ミクウォークマン

で100時間ほどエイジングを行った後、自分にとっての基準機となっているDAP、ONKYO DP-X1A

に直刺しで、いつもの音源を試聴してみた。なお、リケーブル対応機種だが、とくに交換は実施せず、付属ケーブルで3.5mmアンバランス接続。

 

まず、良録音で小編成ジャズのタッチのニュアンスまで収録されているPCM24bit/96kHzのハイレゾ音源からFLAC化した吉田賢一ピアノトリオの“STARDUST”

の中から「Never Let Me Go(わたしを離さないで)」。これはOSTRYらしい高域の美しさに、多少硬めながら芳醇な低域がついてきている。1つずつ入っているダイナミックドライバーとバランスドアーマチュアドライバーの担当帯域の明記がないのだが、前者が低域、BAドライバーが高域...という感じには、単純にきっちり分かれていないのかもしれない。元々、KC06はダイナミックドライバー1発で美しい高域を描き出していたし、低域側までエッジがたったKC07の音はなんとなく両ドライバーの担当領域は比較的重なっているのではないかと感じる。ベースソロの音の「角」もしっかりあり、スピード感がある。

 

もう1つのハイレゾ評価曲(PCM24bit/96kHz)、USBメモリでリリースされた宇多田ヒカルの“Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.1+2 HD”

から「First Love」。ヒカルの声の表情や、ギターノイズの描き出しなど、中~中高域のリアリティは高く、バックで広がるストリングスも広い。低域に関しては聞こえてはいるし、音質も悪くはないのだが、「圧」という点では若干他の領域からは「引く」感じ。もともとこの曲、2nd verseに入ると、ベースの圧が上がり、聴取環境によっては、全てを覆い尽くすような感じになってしまうことも多いが、硬い音質のせいか、そこまでの「厚かましさ」はない。ただ若干「どっしり感」はない感じ。

 

同じバラード系では、あやちゃんこと声優洲崎綾が歌う「」を、彼女のファーストファンブック“Campus”付属CDから。

パックの左右の広さが特筆すべき特徴。導入の静かな部分での、あやちゃんの声の透明感と近さも素晴らしい。ただソース側の問題もあり、サビの全てのパートが鳴る部分では、若干ヴォーカルが奥に行き、美点が覆い隠されるのは惜しいところ。ベースに関してはこの曲も大きめなのだが、イヤミではない程度に抑えられていて、バランスは悪くない。A~Bメロやブリッジ部分での右chのアコギ、左chのエレキギターの位置がかなり離れていて、音場が広い!計4本入っていると思われるギター系音色も、定位とともに鮮やか。

 

おなじあやちゃんの曲でも、一転して「音飽和系打ち込みダンス曲」であるデレマス楽曲「ヴィーナスシンドローム

はどうか(48kHz/24bitのマスターから96kHz/24bitにリマスタリングしたORT版ではなく、CDから起こしたFLACで評価)。これは、このイヤホンの「硬さ」がデジタルビートに合っている感じ。バスドラ連打の音色は若干クリップ気味のような感じなのだが、硬質でキレが良いので、ヴォーカルにあまり悪影響を与えないというか。この曲でのあやちゃんの声を味わうには、他に良いチョイスはいっぱいあるが、切れの良いダンス曲と考えると、硬くてスピード感があるこの再生環境はアリかもしれん。

 

激しめの曲と言うことでは、タイトなリズムと日野"JINO"賢二のスラップ&ラップが聴き所のジャパニーズフュージョン、T-SQUAREの「RADIO STAR」を、セルフカバーアルバム“虹曲~T-SQUARE plays T&THE SQUARE SPECIAL~”から。

キレッキレの板東クンのバスドラワークと、JINOのスラップの分離が良くて、低域のリズム感はいい感じ。ベースソロも主張が強くてリズムコンシャスなこの曲には合っている。一方、高域が硬質で美麗な印象があるKC07なのに、この曲では意外にも上の広さはさほどではなく、「ヌケ」という観点では今一歩。

 

時代を駆け上って、同じ「ハード」でも、古典ハードロックはEaglesの「Hotel California」を24K蒸着の同名アルバムから。

これはモダンな「Hotel California」。音が結構硬く、タイト。バスドラが当時の録音技術を反映してミュートがキツいのだが、アタックが強くて打ち込みのような音色。数多く聞こえるギターは左右に大きく広がり見通しが良い。印象的なベースラインもやや硬く、リズムはタイト。ちょっと音が硬くて、モダンすぎる?ただ、ラストのDon FelderとJoe Walshの掛け合いソロは、音が「立って」いて、心地良い。

 

再生能力が求められるオーケストラ曲は、「艦これ」楽曲=勇壮な戦闘曲「鉄底海峡の死闘」を交響アクティブNEETsの“艦隊フィルハーモニー交響楽団”から。

これは全体感で聴くか、分析的に聴くかで評価が分かれるかもしれない。単音単音は2wayとは思えない程の描画力で、弦の低域やティンパニのアタックなど低いところから、ブラスやストリングスの塊感のある中域、竹笛のように空間を渡るフルートのオブリや、トライアングルの響きと言った高音域まで上手く描けている。ただ、若干中高音が優勢で硬めの音造りなので、全体として聴くと「硬い」。そのため、クラシック系の重厚さは出ないというか。

 

最後に、配信圧縮音源の代表として新たに評価曲に加えたmp3楽曲(ビットレート269kbps)は、YOASOBIのサポートベーシストやまもとひかるの2nd配信シングル「NOISE」。

スピード感があって、ランニングベースを含む指弾きとスラップが頻繁に入れ替わる曲調だが、ソースの問題もあるのか、若干飽和気味。ただ、横の広さはかなり特筆すべきで、左chのオルガン系キーボードとワウギターの分離、右chで目立つピアノの後ろで鳴る生とエレキの2本のギターは分離よく聴こえる。

 

寡作イヤホンメーカーOSTRYの2022年春現在でも最上位機種、同社としては初、かつ現状唯一のハイブリッド機、KC07。ハイブリッド機にある固定概念?クリアな高音域+質感がある低域というモノとは違い、元々KC06ではダイナミックドライバー1発でも美麗な高音域を響かせていたので、BAドライバーを加えたことで、より硬さとキレが加わり、スピード感と楽器類のエッジが立った感じ。

 

音としては

◎くっきりとした音像で、横にも広いのでポジションがよくわかる

◎硬くエッジの立った音質で、スピード感もある

◎クリアな中高音域による「立った」ヴォーカル

OSTRY伝統の美麗な高音域

◎主張は薄いが、実はしっかりと下まで出ている低音域

●硬くてパキッとした音なので、緩やかな感じの音像を持つ楽曲は雰囲気を変える

●低域は「ある」が、高域に比べると華がないので、曲調や音源によっては腰高

●超高域の「ヌケ感」には乏しい

という感じ。

 

現代的な音楽や、タイトなリズムを持つ楽曲には相性が良いが、昔ながらのピラミッド型音像を持つ楽曲や、ふんわりとした楽曲には相性がありそうという感じ。ただ、カチっパキっとしていながら、横に広がりがある独特のサウンドステージは他にないもので、オリジナリティは高い。また、リケーブル対応と言うことで、自分でサウンドチューニングする事も出来る。

 

こんな魅力に溢れるイヤホンだが、唯一価格が....。

 

OSTRYの美点のひとつは、圧倒的コストパフォーマンス。KC06系がアンダー1万、KC09とKC08系でも1万円台前半であり、コストパフォーマンスは抜群だったが、このKC07はKC09にBAドライバーを追加し、ケーブルも高品位なものに変更した最上位版とは言うものの、定価で2万を超えるプライスタグであり、この価格まで出すなら、他にもいくつか選択できるものが出てくるので...

 

ただ美麗な高音域と広いサウンドステージ、硬くスピード感ある音色は、他にない特徴なので、1万台中盤なら間違いなく「買い」と言える音質。

 

そういう意味では、価格を注視しておいて損はないイヤホンだと思います。

 

【OSTRY KC07仕様】

ドライバー:10mmCCAWダイナミック×1+バランスドアーマチュア(knowles製)×1
感度:101dB(@1kHz)
インピーダンス:24Ω
再生周波数帯域:20 – 20,000Hz
歪み:<1% 101dB(@20upa)

ケーブル素材:8芯6N単結晶銅+銀メッキOFC銅線

ケーブル長:1.2m MMCX着脱式
プラグ:3.5mm ステレオミニ  オーディオなんちゃってマニア道

更新: 2022/05/09
高音

OSTRY伝統の美麗高音は健在

BAドライバーを足したことで、よりスピード感を増している

更新: 2022/05/09
中域

中域の分解能と横の広さが説得力がある

中域の音が定位よく、輪郭鮮やかに聴こえるので音数が多く聴こえる

更新: 2022/05/09
低音

ダルな感じ皆無の締まった低音

「絶対量」としては多くはないが、きちんと低いところまで出ている。しかもスピード感あり。

更新: 2022/05/09
音像

左右の広さとパキっとした硬さが快感

オールディーズな楽曲も、モダンな感じにしてしまうのは善し悪し。

  • 購入金額

    19,500円

  • 購入日

    2021年01月28日

  • 購入場所

    IC-CONNECT

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