“ギターヒーロー”の誕生
青春時代、ギターに憧れを持たなかった男はいないだろう。その憧れの源は時代を彩った“ギターヒーロー”たち。三大ギタリストと呼ばれたエリック・クラプトン、ジミー・ペイジ、ジェフ・ベック。ギターの常識を覆したジミ・ヘンドリックス。元祖早弾き男リッチー・ブラックモア。タッピング奏法をロック界に広めたエディ・ヴァン・ヘイレン…。6本の弦を、時には暴力的なまでに激しく、時には涙するほどに優しく奏でる彼らの姿に我々は胸を躍らせ、彼らの愛機を手にする事を夢見たものだ。ギターの歴史、それは彼ら“ギターヒーロー”の歴史に他ならない。
現在、最もポピュラーな楽器である「エレクトリックギター」の原理が誕生したのは1920年代から30年代頃といわれているが、初めて製品化されたのはビートルズのメンバーが愛用したことで有名な「リッケンバッカー」が1932年に製造した「フライングパン」だ。しかし、当時はわずかな本数しか売れず、エレキギターが一般の支持を得るにはさらなる時間が必要だった。
エレキギターが演奏の主役として認められるようになったのは1950年代も終盤。サックスの引き立て役でしかなかったギターを中心に据えた「ギターインスト」で全米チャートを席巻し、現在までに6000万枚以上を売り上げた「ギターインストの達人」デュアン・エディ。さらには、ジョン・レノンをして「ロックンロールに別の名前を与えるとしたら、それはチャック・ベリーだ」と言わしめた「偉大なるロックの父」チャック・ベリーという二人の“ギターヒーロー”の活躍に因るところが大きい。彼らの功績により、ギターは主役の座に一気に上り詰めた。1960年の「英国ニューミュージックエクスプレス」の人気投票で、エルヴィス・プレスリー、フランク・シナトラを抜きトップを勝ち取ったのがデュアン・エディだったことからも明らかである。こうして、カリスマの影響もありギターが売れるようになると、また新たな怪物が生まれる。後世のギタリストたちに最も影響を与えた「“ギターヒーロー”の中のヒーロー」、ジミ・ヘンドリックスの登場だ。
ジミヘンとストラトキャスター
ジミヘンについていまさら多くを語る必要はないだろう。彼のライブにはビートルズやローリングストーンズのメンバーが毎回顔を出し、マイルス・デイビスが「僕は彼のような音楽がやりたかったんだ」と絶賛、エリック・クラプトンが「彼には絶対に敵わない」と脱帽したロック史上最高の天才。音楽的な功績はもちろん多大だが、それとは別にフェンダー社の銘器「ストラトキャスター」に与えた影響も大きい。
発売された当時、ストラトキャスターは不人気なギターで生産は打ち切り寸前だったが、ジミヘンがその圧倒的なテクニックと独創的な音作りでストラトキャスターの魅力を大衆に植え付け、文字通り飛ぶように売れる人気ギターへと変えた。
デビューからドラッグのオーバードーズで亡くなるまでわずか4年間の活動だったが、ジミヘンは後のミュージシャンたちに大きな影響力を与えることになる。なかでも、最も身近で大きな影響を受けたのはエリック・クラプトン。ジミヘンの後を受け継ぐかのように、彼の死後から頻繁にストラトキャスターを使い始め、今では「クラプトンといえばストラトキャスター」というほど彼のトレードマークになっている。中でも、安く手に入れた3本のギターから良いパーツだけを集めて1本にしたという黒いストラトキャスター「ブラッキー」が有名。1973年以降メインギターとして使用され、2004年に自ら作った薬物依存治療施設へのチャリティーのために競売にかけられたのだが、ギターとしては当時最高価格の95万9500ドル(約1億1千万円)の値がついた。元値はナッシュビルで1本100ドルで叩き売られていた当時不人気のストラトキャスター3本分。すべて58年~59年のヴィンテージだったらしい。
不慮の事故で亡くなった「ブルースの巨人」スティーヴィー・レイ・ヴォーン、「元祖速弾き」リッチー・ブラックモア、「孤高のギタリスト」ジェフ・ベックなど、他にもストラトキャスターをトレードマークにした“ギターヒーロー”は多い。そして全員が、ジミヘンのフォロアーであることを公言している。
彼らを魅了したストラトキャスターの魅力は、なんと言ってもそのソリッドな音色。シングルコイルのピックアップは出力が弱いものの、幅広いジャンルに適応できる音の深さがある。リア、フロント、センター、さらにはその中間のハーフトーンと、それぞれ違う音色を3つのピックアップを切り替えるだけで使用できる点も曲構成に影響を与えた。クリーンなサウンドを最も得意とするが、ジミヘンに代表されるように大出力のアンプと組み合わせることでハードな音で鳴ることが証明された。どんなサウンドにも高レベルで対応できる柔軟さがストラトキャスターの特徴だ。ちなみに、フェンダー社の創設者レオ・フェンダーは、ジミヘンの演奏を聴いて「こんなのはストラトキャスターの使い方ではない」と怒りをあらわにしたらしい。ストラトキャスターの潜在能力は創設者の思惑をも超えていたようだ。
ロックの申し子・レスポール
ストラトキャスターと並ぶ、もうひとつのギターの雄といえば、ギブソン社のレスポールシリーズ。名ギタリスト「レス・ポール」のアーティストモデルとして開発されたギブソン社の看板商品。中でもレスポール・スタンダードとレスポール・カスタムは数々のギターヒーローに愛された名品だ。その特徴は、ボディが重くサウンドは太く重厚で、クリーンよりも歪ませたディストーションサウンドを得意とする。いわばロックのために作られたギターといっても過言ではない。
シングルコイルを2つ並べたハムバッカーピックアップを採用したことにより、従来のギターよりも出力が大きく太い音色が実現された。しかし、1952年に登場し58年に現在の形に完成されたレスポールだったが、当時はロックが誕生したばかりでそれほど重い音を必要としていなかった。ライブで弾くには重量が重過ぎることもあり、レスポールは不人気商品として1960年には生産中止の憂き目に合う。
その状況を救ったのは、やはり一人の“ギターヒーロー”だった。当時まだストラトキャスターを使っていなかったエリック・クラプトンが、ブルースブレイカーズのアルバムに参加したときに使ったレスポールとマーシャルアンプの組み合わせによるディストーションサウンドが「極上のサウンド」と絶賛され、以降レスポールの再評価とともに生産が再開。今では当たり前となったレスポールとマーシャルの組み合わせを数々のミュージシャンが取り入れ、現在の人気へと繋がっていく。
レスポールは、そのルックスも人気要因のひとつ。木材の数百本に1本しかないといわれるボディに虎目がはっきりと出たレスポール・スタンダードは見た目が美しく希少価値も高い。ヴィンテージの価格は少なく見積もっても数十万円以上。数百万円するものも珍しくない。すでに工芸品としての地位を確立していると言ってもいい。
ただし、ギタリストたちを魅了したのは、その荒々しく太いサウンド。ジミー・ペイジを始め、スラッシュ、ザック・ワイルドなど、テクニックよりも勢いと力強さを感じさせるギタリストたちに愛されているのだ。
ヴィンテージとリイシュー
美しく幅広い音色が特徴的なストラトキャスターと激しく荒々しいレスポールはギター界の人気を二分する両雄だが、どちらも1950年代半ばから後半に作られたヴィンテージギターが特に素晴らしいといわれている。ストラトキャスターは1957年が当たり年といわれ、それなりに本数もあるので入手しやすい(といっても状態が良ければ数百万円はする)がレスポールは生産自体が少ないため入手は困難。世界に千数百本しかない58年~60年のレスポール・スタンダードは、状態が良好なら1本数千万円と、まさに高嶺の花といえる。もちろん希少価値が高いだけではなく、良い具合に角が取れた雄々しいサウンドはその金額に見合うだけの物があるのだそう。またストラトキャスターのヴィンテージも年月とともに音が枯れ、スマートなだけでなく音色に渋みと凄みが加わってくる。年月を経なければ実現しない音色だからこそ、ミュージシャンたちはこぞって買い集めているのだろう。

Gibson Custom Shop Historic Collection SG Standard Reissue VOS(zigsowユーザのみ閲覧可能)
ただ、現在も製造しているギブソンやフェンダーのギター(リイシュー)より確実に良いというワケではない。現在の製造技術、特にカスタムモデルの成長はすさまじく、個体のばらつきは非常に少なくなっている。今、あなたが持っているギブソン、フェンダーまたはミュージックマンでもESPでもアイバニーズでも、20年後にはとてつもない銘器にになている可能性もある。かつてのレスポールやストラトキャスターがそうであったように“ギターヒーロー”の登場によってその評価はガラリと変わるのだ。また価値が上がるかどうかではなく、自分が気に入ったギターこそが世界で最高の1本というのも一つの真実だ。よく知られているように、暖炉の木材を使って自作したギター「レッドスペシャル」を使い続けて世界最高峰にまで上り詰めたクイーンのギタリスト、ブライアン・メイのような例もあるのだから。

























































黒塗りの系譜



