万年筆の復権

万年筆、それはインテリジェンスの証し

20世紀半ばまでは筆記具の盟主として君臨するも、手入れ が不要なボールペンの登場でその座を追われた万年筆。哲学を感じさせるシンボリックなデザインや希少性ゆえに、万年筆には持ち主のインテリジェンスや人柄 を映す不思議な力が宿っているのではないかと思えてくる。近年、コレクターズアイテムとして人気を博しているのは、その希少性やラグジュアリーなデザイン 性が理由ではなかろう。

もちろん、筆記具としての実用性が向上したことも愛好者を増やしている一因。扱いやメンテナンスには注意を払う必要 はあるが、その手間を差し引いても、使うたびに自分の手に馴染んでくる極上の書き心地は他では得難いものがある。ペンを握る機会が少ない現在だからこそ、 万年筆で書くことの悦びをなお一層実感できるのだ。

 

輝かしい誕生から流行、そして黄昏

万 年筆の誕生をいつとするかは意見が分かれる。1748年にイギリスのヨハン・ジャンセンが考案した金属ペンとする説もあれば、1809年に同じくイギリス のフレデリック・バーソロミュー・フォルシュが発明し特許を取った、ペン軸にインクを貯める事ができるペンとする説もある。だが、現在の万年筆の機構を生 み出したのはアメリカの保険外交員ルイス・エドソン・ウォーターマンだ。

 

 

あ る日、彼は大口の契約を取り交わす際、ペンから漏れ出たインクのために大切な契約を逃してしまう。その苦い経験を元に1883年、世界で初めて毛細管現象 を応用した万年筆「ザ・レギュラー」を創り世に送り出す。その後、万年筆メーカー「ウォーターマン」として、グリップ付きのキャップを世界で初めて発売す るなどパイオニアとしての実績を十二分に残すが、アメリカ法人は倒産。現在はフランスを本拠地にブランドを展開している。機能性の追求だけでなく、著名な デザイナーとのコラボレートでデザインの向上にも力を入れており、bibirikotetuさんやAileさんのもちもののように美しいカラーリングとエ レガントなフォルムが特徴。まさにライティング・ジュエリーの名に相応しいともいえる。

さて、こうして登場した万年筆は瞬く間に世界へと広 がっていった。ビジネスの場面で、公文書の記録に、文豪たちの名作の誕生に…万年筆は実にさまざまなシーンで活躍。また、多くの歴史的瞬間に立ち会う事と なる。中でも1945年、太平洋戦争敗戦後の戦艦ミズーリ号での降伏文書調印式でダグラス・マッカーサー元帥が署名に用いた「パーカー」の「デュオフォー ルド」が有名だろう。その後も、1993年に米ロ間で結ばれたSTART2(第2次戦略兵器削減条約)の調印式で、当時のブッシュ大統領とエリツィン大統 領に使われるなど、その名を2度も歴史に残す。このため「平和のためのペン」とも呼ばれるようになった。「パーカー」は現在、英国王室御用達のペンメー カーで、洗練されたスマートなスタイルと耐久性がその特徴だが、愛好家から人気が高いのはやはり、長い歴史を持ち独特の重厚なフォルムが高級感を醸し出す 「デュオフォールド」だ。AKIRAさんのもちもの、デュオフォールド・クロワゾネ・リミテッドエディション・センテニアルは、1927年に発売された デュオフォールド・マンダリンイエローをモチーフにした限定品。世界に3900本しかないプレミアムな一品だ。
パーカー デュオフォールド クロワゾネ リミテッドエディション センテニアル(AKIRAさんのもちもの)

 

万年筆復権の立役者~ドイツの名品たち~

20 世紀の半ば、万年筆に強力なライバルが出現する。ボールペンだ。1940年代にはすでに開発されていたボールペンだが、急速な品質の向上と低価格化により 万年筆から筆記具の主役の座を奪ってしまう。時は高度成長期、能率が優先される時代にあっては至極当然の流れであった。

それからの数十年、 万年筆にとってはまさに冬の時代を迎える訳だが、それは一概にマイナスだったという訳ではない。大量生産ではなく、流行にも流されず、限られた愛好家たち に向けて作り続けられる事で、万年筆はさらなる魅力を醸成していく。中でも次に紹介する職人の国ドイツの2大メーカーは、現在の万年筆の復権の立役者と 言っても過言ではないだろう。

 



モンブラン 50′s マイスターシュテュック149(お富さんのもちもの)

 

その一翼を担うのは万年筆の最高峰とも呼ばれる「モンブラン」だ。日本人の間では一時期、『万年筆=パーカー』というイメージがあったものだが、今やその 座は完全にモンブランのものだろう。トレードマークは、アルプスの最高峰でもあるモンブラン山の頂とそれを覆う氷河をイメージした天冠のホワイトスター。 ニブには美しい彫刻と共にモンブランの標高である「4810」の数字が刻まれている。1906年の創業以来、「モンブラン」は実に数々の名品を世に送り出 してきたが、中でも傑作と呼ばれているのは1924年に誕生した「マイスターシュテュック」。特に「マイスターシュテュック149」は、万年筆を愛する人 であれば誰もが1本は手にしたいと思う逸品だ。

ずっしりと手に収まる黒いボディに光り輝く黄金の三連リング、そしてヨーロッパの職人の技が 凝縮した大ぶりのニブ。ペン先が踊るような書き味も抜群だ。ただ、高級ブランドグループ「リシュモン」に買収されて以降、ブランド力の向上に重きが置かれ 価格は年々上昇しすっかり高嶺の花になった感もある…。また年代により書き味も異なり、愛好家の間ではどのモデルが最良なのかで議論が尽きない。その魅力 の奥深さが伝わってくるエピソードと言えよう。

上で紹介した、お富さんのもちもの「50′s マイスターシュテュック149」は、「149」の中でも希少なコレクター垂涎のヴィンテージモデル。通常は金であるトレードマークのキャップリングの色が 銀金銀のツートンになっているのは、50年代の物だけの特徴だ。美しい艶を湛えるボディはセルロイド製。現行モデルとはまた違う、温かみのある握り心地と 柔らかな書き味はまさに絶品。マイスターシュテュック(=ドイツ語で傑作の意)の名に恥じない不世出の一本だ。



モンブラン マイスターシュテュック139(お富さんのもちもの)

 

「149」 よりもさらに上を行くとい言われる「モンブラン」の名作が上の「マイスターシュテュック139」。1930年代から1940年代の終わりまで作られた「モ ンブラン」の最高級モデルにして、「149」の原点。コレクターの間では幻と言われている1本だ。「149」に比べるとやや男性的なフォルムをしている が、愛好家の間ではこの「139」を支持する人も多い。そして、この「139」を有名にしたのが下の、モンブラン作家シリーズの中でも相当な高値を付けて いるペン「ヘミングウェイ」だ。1992年に数量限定で発売され、一時期50万円程度(現在は30万円程度)の高値が付いた逸品。今でもオークションに出 れば、確実に高値で売れる人気アイテムだ。「139」のフォルムに酷似した堂々としたフォルムと、金と濃い茶、朱色の渋いカラーリングがヘミングウェイの イメージに実にマッチしている。ちなみに当のヘミングウェイ本人はパーカー51を使っていたというが、そこはご愛敬。



モンブラン ヘミングウェイ(お富さんのもちもの)

 

さ てもう一つ、ドイツを代表するブランドが「ペリカン」だ。天冠に入るトレードマークはペリカンの母子像。「モンブラン」の“傑作”に対して、こちらの代表 作は1929年に登場したスーベレーン(=優れもの)シリーズ。中でも王道と言われるのが、お富さんのもちものにもある1987年に登場した「スーベレー ンM800」シリーズだ。特徴的なクリアと緑の縦縞柄が印象的な胴軸。堂々としたフォルムに似合わぬ、軽快で柔らかな書き味で世界中のファンを魅了し続け ている。また「ペリカン」はユニークな商品ラインナップも人気の一つ。atsuo@tokyoさんのもちもののにもあるリーズナブルであるが本格派の書き 味を楽しめる子供向けの「ペリカーノジュニア」から伝統的手法で丹念に作られる最高級品の「トレド」、世界の七不思議シリーズや世界の都市シリーズなどの コレクター向けの限定品まで実に幅広い。



ペリカン Souverän Füllhalter M 800(お富さんのもちもの)

 



ペリカン ペリカーノJr (atsuo@tokyoさんのもちもの)

 

かつての万年筆大国・日本は・・・

代表的な胴軸素材であったセルロイドの生産量が世界一だった事もあって、戦前は世界の万年筆生産量の半数近くを日本が占めていた。現在も「パイロット」 「プラチナ」「セーラー」の三大メーカーを始め、多くのメーカーが万年筆を生産しており、かつての勢いこそないが、綿々と受け継がれてきたその伝統と技術 は外国の万年筆と並べても遜色なく、銘品も多い。

中でも万年筆の良し悪しを決めるニブに関しては、世界的にも高く評価されているものの一 つ。日本語独特の「トメ」「ハネ」「ハライ」を美しく表現するために、多くの職人たちが積み上げてきた努力と技術の粋が結集しているからだ。ここでは 「セーラー」の「プロフィット21」を紹介しよう。このシリーズの特徴は日本語を綴るのに適した繊細で柔らかな書き味とシンプルだが高級感のある仕上が り。ちなみにgaucheさんのもちものは、穂先の左側にカットを入れた左利き仕様だ。つきさんのもちものは、万年筆ファンからの人気も高い「長刀(なぎ なた)研ぎ」。その名の通りペンポイントが長刀のように長く仕上げてあり、文字を書く時の角度で細字から太字まで調節して書く事ができるというものだ。

 



セーラー プロフィット21 レフティ(左きき用) gaucheさんのもちもの画像



透明プロフィット21 銀 長刀研ぎ(つきさんのもちもの)

 

愛蔵する悦び、こまめな手入れを要するがゆえに湧いてくる愛着…万年筆は実に多くの魅力を秘めている。ここまで、持つ者の所有欲を満たしてくれる数々の名 品たちを紹介してきた。しかし、あくまで万年筆は“書く”ための道具。自分の手に馴染む1本と出会い、ペンを走らせる楽しさこそが一番の魅力であろう。デ ジタル全盛の現在だからこそ、最良のパートナーと共に、その贅沢なひとときをじっくりと堪能してみてはいかがだろうか。