その進化は空を舞う騎士たちのために
木枯らしが吹き始めると重宝する革ジャンやブルゾン。中でもA-2やMA-1はその中でも定番中の定番だ。保温性に優れ、どんなファッションにも合わせやすい事から愛用している人も多いだろう。これらが米軍で実際に使われていたジャンパー(もしくはレプリカ)という事はご存知の方も多いと思うが、フライト用のジャケットである事は意外と知られていない。
フライトジャケットの歴史は戦争に航空機が導入された第一次世界大戦に遡る。大戦直後、航空機の主な任務は偵察であった。当初は互いに攻撃手段を持っていなかったため、空の上で敵国の航空機と出会っても戦闘に入る事はなかった。だが、偵察の重要性への認識が高まると、互いに航空機による偵察の妨害が始まるようになる。当時の空中戦は一対一のいわゆるドッグファイトだったのだが、戦闘においては敵機よりも高い高度を得る事で戦闘を有利に運ぶ事が出来た。そのため、大戦初期は高度1000m程度を飛んでいた航空機は、大戦末期には高度2000~3000mで戦う事となる。一般的に高度が100m上がると気温は0.6℃下がると言われているが、当時のコックピットは吹きさらしであったため、体感温度は想像を絶する物であったろう。そのため、各国はパイロットを守るために防寒効果の高いフライトジャケットの準備を迫られた。
今では信じられない話だが、第一次世界大戦までのアメリカは航空機に関して後進国であった。戦力としての航空機を軽視していたのだが、第一次世界大戦の末期に参戦するとその力不足を痛感。以降、航空機の開発やパイロットの育成に巨額の予算を投じていく。その後、戦闘機のコックピットには風防が設けられるようになったが、航空機が航行する高度はますます上昇。寒さからパイロットや乗組員を守るためにフライト用ジャケットの研究が急務となった。そんな流れを受けて誕生したのが「A-2」だ。
「A-2」はアメリカ陸軍航空隊によって1931年に採用されたサマーフライングジャケット。1963年に公開された映画「大脱走」(1963年・米)で、スティーブ・マックイーン演じる陸軍航空隊のヒルツ大尉が着ていた事でも有名だ。フライトジャケットといえば「A-2」か、後に紹介する「G-1」「MA-1」を思い浮かべる人も多いだろう。初期の物はホースハイド(馬革)で作られており、袖口と裾周りには風の進入を防ぐリブが付いているのが特徴。肩のエポレットはコックピットからパイロットが自力で出られない際に引っ張り出すための物だ。1945年「L-2」の登場で一時は現役を退くが、1988年より再び採用され、現在はゴートスキン(ヤギ革)を使用している。中綿が入っていないため冬場は少々寒いが、春秋を過ごすにはちょうどいい。
「A-2」がサマーフライングジャケットであるのに対し、1934年にアメリカ陸軍航空隊に冬季・寒冷地気候用のフライトジャケットとして採用されたのが「B-3」だ。シープスキンをそのまま裏返しにしたワイルドなフォルムと抜群の保温性が特徴。厳しい寒さの中での任務もこなせるよう、襟と裾を革のベルトで締める事ができる。高度1万メートルにも及ぶ空の上で、作戦任務をこなす爆撃機の乗組員に利用されたことからボマージャケットとも呼ばれることもある。第二次世界大戦の末期には、航空機内の与圧技術(気圧の低下による機内の温度や酸素濃度の低下を防ぐ技術)が向上し、機敏な動作の妨げになる「B-3」はその任を解かれるのだった。
────ここで簡単にだが、アメリカ軍のフライトジャケットの形式記号について簡単に説明しておこう。「A」=主に夏季用、「B」=主に冬季・寒冷地用、「L」=夏季用、「N」=寒冷地用、「MA」=中間温度(-10~10℃)地帯用、「CWU」=航空用衣料全般を指す。また、同じ型番の物であっても世代によって若干仕様が異なる場合、型番ではなくミルスペック(アメリカ国防省によって制定される軍用品に関する規格)で呼ばれる場合もある。
さて第二次世界大戦後期になると、革不足によりフライトジャケットの素材も次第に変わり、コットン製の「B-10」など革製以外のフライトジャケットも登場。中でも革新的だったのは1945年に採用された「A-2」の後継ジャケット「L-2」。素材には1935年に「デュポン社」が開発したナイロンを使用。「A-2」に比べ耐寒性は劣るが、非常に軽く機動性に優れていた。
「L-2」とほぼ同時期にコットンからナイロンへと素材を切り替えたフライトジャケット「B-15」が存在するが、その後継として1954年に登場するのがフライトジャケットの中では最も有名で、いまやブルゾンの代名詞的存在でもある「MA-1」だ。ボディはナイロン製、手袋を付けたままでも開閉できる大型のフロントジッパー、ニット製のリブ襟を採用。ミルスペックMIL-J-8279からMIL-J-8279Fまで7度の改良が施され、20年以上に渡り多くのパイロットたちに愛用された。ベトナム戦争中には、緊急時に味方の救助を待つ際の目印にできるよう鮮やかなオレンジ色の裏地を採用。ミルスペックMIL-J-8279DとMIL-J-8279Eがこれにあたる。
フライトジャケットブームの火付け役
かつて日本でもそうであったが、陸軍と海軍というものはそれぞれに独自の伝統を持ち、少なからずライバル心めいたものを持つものらしい。話は1930年代まで遡り、アメリカ陸軍航空隊が「A-2」を採用したのとほぼ同じ頃、アメリカ海軍航空隊は独自に開発したジャケット「M-422A」を採用する。「A-2」のホースハイドに対し、ボディにはゴートスキンを用い、襟にはビーバーラムを施した。革製だが肩から脇の下にかけてアクションプリーツが設けられ、腕もスムーズに動かす事ができる。その後も何度か改良が重ねられ、第二次世界大戦が終わり1950年代に入ると現在の「G-1」という型式を与えられる。
誕生から現在に至るまで70年以上に渡り海軍で採用されているように、「G-1」は非常に完成度の高いジャケットであったが、その名を一躍有名にしたのは1986年の映画「トップガン」だろう。トム・クルーズ演じる主人公のマーヴェリックが「G-1」を着ながらカワサキの「GPZ900R」を走らせる姿に日本中の若者が憧れ、「G-1」はもちろん作中に登場する他のミリタリーファッションや「GPZ900R」も人気を集めた。
軍服でありながら洗練されたフォルムと高い機能性で人気のフライトジャケット。他の服とのコーディネート、バイクに乗る際や防寒着としてなどさまざまなシーンで重宝するが、実は他にも楽しみ方がある。アメリカ陸軍や空軍には厳しい規定があるのだが、海軍では部隊章や配属艦、参加した演習や着艦回数などを示すパッチをジャケットに自由に貼る事が許されており(それを着て搭乗する訳にはいかないが)パイロットたちはそれぞれ自分のジャケットをコーディネートしているのだ。ルサールさんのもちもの「WEP MIL-18342B」はアメリカ海軍が開発したウインターフライングスーツ。「VF-154」や「F-8」など部隊や艦載戦闘機のパッチが貼られている。オリジナルの経歴を考えながら好みのパッチでジャケットを飾ってみるのも楽しい。
代表的なフライトジャケットをいくつか紹介してきたが、フライトジャケットにはオリジナル(兵士たちに正規に支給されている物)とレプリカがある。現役のオリジナルは入手が非常に困難で、また中古品も保存状態の良い物は非常に高値で取引されている。現在、新品で店頭に並んでいる品のほとんどは、軍が正規に採用したフライトジャケットをモデルに、素材からあしらいまでを精巧に再現したレプリカなのだ。同じ型式の物でもさまざまなメーカーがレプリカを製作しており価格帯もさまざま。ストリートファッション向けにアレンジした物からオリジナルと同等(中にはそれ以上!)の品質の物までとレパートリーも豊富。寒さが厳しくなってくるこれからのシーズン、皆さんも気に入ったジャケットを1着見繕ってみてはいかがだろうか?








