『質実剛健』…そんな言葉が似合うヤツ
ひと昔前まで、腕時計は何をするにしても必要なパートナーだった。仕事や待ち合わせの際に時計が止まり四苦八苦した、なんて経験は皆さんにもあるだろう。だが、携帯電話にPC、タブレットなどその役割を担う携行品が増え、わざわざ腕に時計を巻かなくとも『時刻』がそこら中に溢れる時代になった。ここ十数年の間で、時計に求められる役割はインテリアやオシャレ、コレクションの対象へとすっかりシフトしてしまった感がある。
そんな世の流れにあらがうかのように性能にこだわり、優れた機械式時計を世に送り出し続けているのがスイスの時計メーカー「オメガ」だ。「デ・ヴィル」や「コンステレーション」のような高級腕時計の名に恥じないラグジュアリーラインも用意しているが、「オメガ」といえば「スピードマスター」や「シーマスター」のような技術の粋を集めた格調高い──ややもすると無骨な──フォルムの時計たちを真っ先に思い浮かべるのである。
「オメガ」製品の多くは機械式時計だ。機械式時計とは動力にゼンマイを用い、開放されたゼンマイの力で複雑な歯車を動かし正確に時を刻む時計のこと。ケースから出たリューズを回して動力をためる手巻き式と、着用者が動くたびに時計内部に仕掛けられた回転錘(ローター)が回り動力をためる自動式(オートマチック)の二つのタイプがある。その仕組みの原型は中世末期の欧州に誕生し、数々の職人たちの手により磨き上げられてきた伝統の技術だ。機械式時計に高価な物が多いのは、この職人たちの技術の粋が集められている事に他ならない。1960年代までは時計と言えば機械式時計を指し、中でも最新の技術を盛り込んだ「オメガ」の時計は正確さや堅牢さにおいて群を抜いていたが、1970年代に入ると大量生産に向いたクオーツ式(動力源は電池で電子回路を用いた時計)が主流となり、機械式は一部の愛好家たちの物になってしまった。「高価なこと」「手入れに手間が掛かること」など、クオーツ式時計に主役の座を奪われた理由はいくつかある。しかし複雑ながら無駄の無い、数々の仕掛けが詰まった“機械の塊”には、古くからのファンだけではなくデジタル世代をも魅了する不思議な魅力がある。事実、21世紀に入り、機械式時計の良さは多くの人々の間で見直されつつある。実はそのキッカケも少なからず「オメガ」の功績にあるのだ。まずは機械式時計の雄「オメガ」の魅力について見ていこう。
人類の冒険と共に歩んだ歴史
「オメガ」の祖であるルイ・ブランが懐中時計の組み立て工房を開いたのは1848年。メーカー名として「オメガ」を名乗り始めるのは、キャリバー(時計内部のムーブメントの型式)「オメガ」を制作した1894年からだ。以降、多くの名作と呼ばれる自社設計のムーブメントを輩出していく。1932年にはロサンゼルス・オリンピックの公式計時を担当(現在まで23大会の計時を担当しており、これは時計メーカーとして最多)、1930年代にはウォータープルーフ時計「マリーン」を発売。その精密さゆえに女性パイロットとして有名なアメリア・イアハートを始め、多くのパイロットたちが空の冒険の友に「オメガ」を選んだ。
「オメガ」の技術力は各国の軍隊からも高く評価され、第2次世界大戦中はイギリス軍からの要請に応え高性能の防水時計を供給する。戦後改良を加え、1948年に発売するのが「シーマスター」だ。「シーマスター」はイギリスやフランスなど多くの国の海軍にも制式採用されたほか、多くの海洋冒険家や海底探査のプロジェクトに携わってきた。中でも有名なエピソードは1976年、フランス人ダイバー、ジャック・マイヨールがエルバ島沖で水深101メートルというフリーダイビングの世界記録を樹立した際に、パートナーとして同行した事だろう。
やりくりさんとみっちゃんさんの「シーマスター」は型番こそ違うが300メートル防水の自動巻き。裏蓋とリューズにはスクリュー方式を採用し水の浸入をシャットアウト。10時の位置に付いているヘリウムエスケープバルブで時計内部の圧力調整して水圧からボディを守る。また風防には光の反射を抑えるサファイアクリスタルグラスを採用、文字盤と針には蛍光塗料が塗られているため、ほの暗い水中でも時間を読む事ができる。ちなみに文字盤を囲むベゼル部分は反時計回りにしか回らない。これはベゼルを使って酸素ボンベの残量を計算する際に、ベゼルがズレても致命的な事故を起こさないための配慮だ。
「シーマスター」の活躍でその性能の良さは広く認められていたが、「オメガ」の名を決定的に高めたのは1957年に誕生した「スピードマスター」だ。1961年、時のアメリカ大統領ジョン・F・ケネディは「10年以内に月面に人類を送り、無事帰還させる」と一般教書演説で宣言し、それを受けてNASAは来るべき宇宙計画の準備に着手。その流れで想定される様々な悪条件に耐える正確な時計の選定に入るのだが、その基準は多岐に渡る厳しいものだった。無重力と磁場、激しい衝撃や振動、極寒、高温、真空…さまざまなメーカーの時計がテストにかけられたが、当時、それら厳しいハードルをすべてクリアした時計は唯一この「スピードマスター」だけであった。1965年3月、こうして「スピードマスター」はNASAの公式クロノグラフとなり、1966年からは「スピードマスター・プロフェッショナル」と改名される。
運命の瞬間がやってきたのは1969年7月20日02時05分。アポロ11号が月面に到着し、乗組員たちが「スピードマスター」を腕にまいて月面に立った瞬間「スピードマスター」は初めて月に降り立った時計“ムーンウォッチ”の称号を手にした。その後も「スピードマスター」は様々な宇宙計画に携わり、映画でも話題を集めたアポロ13の事故の際もその正確さで宇宙飛行士たちの命を救っている。今日、アメリカの宇宙開発はペースダウンを余儀なくされているが、ロシアの有人宇宙事業では今なお「スピードマスター」が宇宙飛行士たちの標準装備となっている。
機械式の人気復活のきっかけになったコーアクシャル
冒頭の方で機械式時計の人気復活に「オメガ」が寄与したと書いたが、その一つがコーアクシャル・エスケープメントの導入だ。この技術はイギリスの独立時計師ジョージ・ダニエルによって1974年に発明された。簡単に説明すると、機械式時計はゼンマイの巻き戻る力を利用して歯車を回転させて秒針や分針を回すのだが、そのスピードを調整するのにガンギ車と脱進機、そしてヒゲゼンマイを利用したテンプという機構が必要だった。このガンギ車と脱進機は1分間に数百回と頻繁に接触するため、正確な時を刻ませるためには摩擦部分へのこまめな注油が必要となり、定期的なオーバーホールが要求される点が機械式時計の欠点であった。彼が生み出したコーアクシャル・エスケープメントはそれまでのガンギ車と脱進機、テンプのこれまでの仕組みをガラリと変え、メンテナンスが必要となる期間を飛躍的に延ばす画期的なものだった。反面、量産が難しかったため、長らく市販の時計には採用されなかったのだが、「オメガ」は1999年に発売した「デ・ヴィル・コーアクシャル」にこの機構を取り入れる。以降、「シーマスター」や「スピードマスター」などにもコーアクシャル・エスケープメントを取り入れたモデルが登場。メンテナンス時期を大幅に延ばした事で、機械式時計の再評価に大きく貢献した。
「オメガ」の名を高めてきたのは積み重ねてきた技術とチャレンジスピリットに他ならないが、デザインにおいても他の高級時計と肩を並べる。特に星座を意味する「コンステレーション」シリーズの優雅で気品に満ちたフォルムは、スポーツウォッチとしての「オメガ」を忘れさせる美しさでファンも多い。クロノメーターとは高精度の航海時計のことだが、「コンステレーション」はCOSC(スイス クロノメーター検定協会)のクロノメーター検定をクリアした最高精度のムーブメントを内臓している。もともと、このクロノメーター検定は1970年代以前は各地の天文台によって行われていた。GPSなども無い時代、外海を航海する船舶は正確な時刻と星座の位置によって自らの位置を把握していたのだが、クロノメーターとしての精度を認定するのにおいて天文台は打ってつけの機関だった訳だ。裏蓋に描かれた天文台と八つの星は、その厳しい審査をクリアしてきた証しなのだ。Level4さんのもちものは、11個のダイヤをあしらったラグジュアリーなモデル。現在は生産されていない。
「コンステレーション」(Level4さんのもちもの)
ここまで紹介してきた3つのラインの他に、いち早くコーアクシャル機構を取りれた「デ・ヴィル」というラインもあるが、「オメガ」の魅力を語る上で忘れてはならないのはさまざまな限定モデルの存在だろう。「オメガ」はオリンピックや宇宙開発に関わる記念モデルや変わったところでは裏蓋にメーテルが描かれた「銀河鉄道999」モデルなど、アニメや人物とコラボした物が数多くある。aimaruoさんのもちもの「オメガ・パイロット」も航空計算尺が付いた希少な限定モデルだ。また、ルサールさんのもちものである「スピードマスター・プロフェッショナル X-33」はNASAと共同開発したクオーツ式の宇宙時計。チタンボディは耐久性に優れ、1000日までのミッションタイムの設定やクロノグラフなど様々な機能が搭載されている。ちなみに映画「マイノリティリポート」の中でトム・クルーズもこれを着用していた。

「パイロット」(aimaruoさんのもちもの)

「スピードマスター・プロフェッショナル X-33」(ルサールさんのもちもの)
機械式時計「オメガ」のゆくえ
ここまで「オメガ」の魅力的な商品を紹介してきた訳だが、こうした機械式時計の強みは文明の中で生活している限り、なかなか実感する機会はない。だが大地震のような天災や遭難などのアクシデントでライフラインから隔絶されたとき、我々はその良さを思い知ることになるだろう。さて、人類が新たな世界を切り開くとき、常に傍らにいた「オメガ」だが、その進歩はまだまだ終わらない。2012年に完成が予定されている国際宇宙ステーション、そして2030年の火星への有人飛行を見据え、今も新型「スピードマスター」の開発に取り組んでいると聞く。彼らが赴く先に果たしてどんなフロンティアが広がっているのか?
「オメガ」ファンならずとも注目せずにはいられないところだ。







