適正露出を探ろう

 カメラを三脚に載せて撮る「固定撮影法」で撮れる写真は、大きく分けて二つある。一つが「星座写真」、もうひとつが「星景写真」だ。

 星座写真はその字の通り、星座を丸ごと写した作品を示す。星座でなくても、夏/冬の大三角のような特徴的な星の並びも星座写真のカテゴリに入れていいだろう。

 もう一つの星景写真は、星空と地上風景のコンビネーションを目的とした作品で、いわば「星のある風景写真」といえる。星景写真ではどんな星座や星を写したかということよりも、地上風景とのバランスや一体感で作品が創られる、奥の深いカテゴリだ。

 いずれも固定撮影あるため、露出時間が長くなると日周運動で星は軌跡を描いていく。星の軌跡の長さを変えることで写真の表情は全く違っていく。


軌跡の長さと露出の関係を知ろう

 星は日周運動で1時間に15度ずつ西へ動いていく。角度で見れば一定だが、移動する距離は空の場所(赤緯)によって違ってくる。天の北極のすぐそばにある北極星はほとんど動かないが、天の赤道付近(オリオン座など)は、早く動いていく。同じ焦点距離のレンズで同じ時間撮影しても、天の北極に近ければ軌跡は伸びないが、天の赤道付近だと軌跡がどんどん長く伸びていく。

 天の北極付近で軌跡を十分に伸ばしたいのであれば、露出時間を長くしなければならないし、逆に天の赤道付近で、ほぼ点像に星を撮影したいのであれば、露出時間を短く切り詰めなければならない。

 露出時間が長くなれば背景宇宙が明るくなり、露出オーバーになってしまうし、短くなれば逆に露出アンダーになってしまうので、それを補うために絞りとISO感度設定を使って、適正露出になるように調整する必要がある。

 たとえば、ISO1600/F5.6/露出5分で適正露出だとしよう。軌跡を伸ばしたいので露出を20分にしたいのであれば、そのままだと露出2段分オーバーになってしまう。そこで、ISO感度を2段落とす(ISO1600をISO400に)、絞り値を2段絞る(F5.6をF11に)といったように、EV値の調整を行うのだ。

 しかし、ISO感度と絞りは設定範囲に限りがあるため、それを飛び越えた露出設定はできない。つまり、背景が明るい光害地では、軌跡を伸ばしたくてISO感度をめいっぱい低くし、絞りを最大に絞っても、調整しきれないことがあるだろう。

 このように天体写真における適正露出は、背景宇宙が適切な明るさになるところで決まる。その露出範囲内でコントラストが得られる星しか写真には写らない。山奥の光害がないところにいけば、絞り開放、高ISO感度でも思い切り露出時間を延ばせるので、暗い星までしっかり写る。やはり空の暗いところほどメリットは高い。

星景写真は“星空のある風景写真”のことだが、単に地上を写し込むだけではなく、星空とのバランスを考えることが重要だ。絵になるオブジェを探すのも作品づくりひとつ。

星座写真は、その名のとおり星座や特徴的な星の並びを写すもの。星座の大きさから構図と焦点距離を考えて撮影しよう。なお、露出時間を伸ばすにつれ、星の軌跡が長くなっていく。軌跡が長すぎるとどの星座かわからなくなる。

軌跡の長さによる違いを見るため、露出時間を変えて撮影してみた。露出時間のかわりにISO感度を調整し、露出そのものは同じになるようにした。同じオリオン座を撮ったものだが、見た目がかなり変わることが分かる。また、高ISO感度ほど微光星まで写り込むこともわかる。
ISO200/露出4分→ISO800/露出1分→ISO3200/露出15秒

比較明合成で撮ってみよう

 では、光害地ではまともな天体写真を撮ることはできないのだろうか。ここ数年、星景写真の世界では、新しいカテゴリが開発され、活発に作品が創られている。それが“比較明合成写真”だ。これは、短い時間で連続的に撮影して、それらを画像処理で合成する手法だ。1分しか露出できない場所で、20分の軌跡の長さが欲しければ、1分露出の撮影を20コマ連続で行う。

 撮影後は、PC上のソフトウェアで合成する。各コマを読み込み、レイヤー状に積み重ね、レイヤーの合成方法を「比較(明)」とする。ほとんど動きがない地上風景の部分は、どのコマもほぼ同じ明るさだろう。対して星は日周運動で動いているので、明るいピクセルだけを拾っていけば、軌跡が連続してつながるのだ。

 それだけではない。1コマのわずかな時間では背景に埋もれて見えない微光星が、軌跡につながるため、夜空に多数の星が見えてくる。きっと「街が近いのに、こんなに星が写るんだ」と思うはずだ。おどろきがあるから面白いのだ。

 PhotoshopやPhotoshop Elementsでも比較明合成は行えるが、手動で1レイヤーずつ処理しなければならないので、枚数が増えるとかなりの手間になる。天体写真用の画像処理ソフトである「ステライメージ」には、バッチ処理で比較明合成を行う機能がある。次回の中級編では、比較明合成の画像処理について具体的に解説する予定だ。  比較明合成写真撮影のコツは、撮影時に連写の間隔を開けないこと。コマとコマの間を開けてしまうと、合成時に「線」となってつながらず点線になってしまう。こうなったらその撮影は失敗だ。

 書き込みが高速なメモリカードを使うのは当然で、カメラも書き込みバッファが十分にあるモノを選びたい。メモリカードへの書き込み中は撮影が止まってしまうカメラは、比較明合成には向かない。

近くの河川敷で撮影したもの。光害がそれなりにあるので、適正露出では星がほとんど写らない。

同じ露出設定を用い、タイマーリモコンで連続撮影したものを「比較明合成」で重ねた。1枚では見えなかった星々が主張をし始める。都会でも撮れる天体写真の好例である。

比較明合成処理はPC上で行う。天体写真用の画像処理ソフトウェアである「ステライメージ」には比較明合成を一括して行なう機能が搭載されている。

ディフュージョンフィルタを使ってみよう。

 夜空の星は非常に遠いので、望遠鏡を使っても星の面積を認識知ることはできない。全ての星は本来「点」だ。星自身が光を発しているために、明るさの違いを私たちは感じ取ることができる。しかし、印刷したプリント写真は、まわりの光を反射するだけなので、白い星は“すべて同じ明るさの白”にしか見えず、違いを表現できない。

 そこで、星の明るさを紙の上で再現するために、女性ポートレイトで使われている「ディフュージョンフィルタ」を使ってみよう。明るい星ほど大きくニジむので、星座や特徴的な星の並びがよくわかるようになる。

 針で突いたような鋭い星像もいいが、ほんわりとした星の表情も見る人を和ませてくれる。

 フィルタは、一般にソフト系フィルタ(ソフター、ソフトン等)と呼ばれるものを使えばよい。

ディフュージョンフィルタを付けずに北斗七星を撮ったが、よくわからないかもしれない。空が暗く、星がたくさん写る写真では、明るい星の並びが埋もれてしまうことがある。

ディフュージョンフィルタを使うと、明るい星ほどよりニジミが強調される。これならば北斗七星はすぐにわかる。教科書や図鑑の天体写真はこの手法で星座を強調しているものが多い。


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