最後はかなり難しい話になってしまった。全く知らない人からすればとんでもないことをやっているように見えるかもしれないが、趣味の世界のことなので、ひとつひとつステップを踏みながら進んでいけば、それほど難しいことをしているわけではない。ハイ・アマチュアも最初はみな初心者であり、試行錯誤しながらスキルアップをしてきた。要は試行錯誤を楽しめるかどうかが大切だろう。
本稿の最後として、12月の月食と来年の金環日食について、そして趣味としての天体写真のつきあい方について解説する。
月は私たちにとって最も身近な天体であるとともに、天体写真の基本でもある。おそらく、多くの人が思っている以上に簡単に写すことができる。
月を撮るということは、遠くの風景(岩山)を撮ること同じだ。地上の風景も月も、光源である太陽から1億5000万km離れている。光のパワーは同等なのだ。だから、月は普通にオートで撮影でき、シャッター速度も地上撮影と同じく早いので赤道儀も必要ない。画面いっぱいに写すには焦点距離500mm程度が必要だが、拡大撮影だけが月の撮影の醍醐味ではない。
たとえば、2011年の12月10日(土)の深夜には、皆既月食が日本全国で見られる。月が地球の影に入り、真っ赤に変色していくようすを撮影するのはどうだろうか。三脚に広角レンズを使った固定撮影なので誰でも撮れる。長時間露出をするわけではないので、コンパクトカメラでもOKだ。ぜひチャレンジして欲しい。
撮影のシミュレーションはステラナビゲータを使おう。カメラの焦点距離と撮像センサーのサイズをステラナビゲータの“写野枠表示”機能に設定し、アニメ機能を使って、何分間隔で撮影すれば考えてみよう。最大皆既の瞬間に月が画面の中央に来るように構図を取ることが大切だ。
カメラを固定したまま動かさず、数分おきに撮影した画像を比較明合成の要領で合成すればかっこいい連続写真ができあがるはずだ。
太陽も天体写真の撮影対象のひとつだ。ただ、太陽は非常に光が強いため、望遠鏡やカメラで直接覗いてはならない。太陽写真を撮影するときは、レンズの前に減光フィルターを装着して撮影する。特に来年の2012年5月21日には、日本各地で金環日食が観測できることは覚えておきたい。横浜や東京も金環日食帯のど真ん中なので、リング状に欠けた太陽を楽しむことができるだろう。
望遠鏡で拡大撮影しても楽しいが、上記の月食と同じく、固定撮影で太陽が徐々に欠けていく状況を広角レンズで撮影するのがシンプルだ。こちらもステラナビゲータでシミュレーションしておこう。朝7時ごろのイベントなので、東の空が開けているところがいいだろう。地上風景と重ねて構図を取れば臨場感のある作品になる。シンボリックな地上オブジェクトが東に見える観測地を探しておくのもいいだろう。
一方、皆既日食は月が太陽を隠す現象で、太陽のまわりのコロナやプロミネンスを肉眼で観測できる唯一のチャンスだ。周囲が暗くなり、太陽が隠されてる瞬間のダイヤモンドリングは、とても神秘的で美しい。段階露光で撮影しHDR合成をするとコロナのディティールを映し出すことができる。皆既日食は、天体写真ファンにも人気の対象なのだ。
日本では2009年7月にはトカラ列島で皆既日食だったが、残念ながら天候には恵まれなかった。次に日本で皆既日食が見られるのは2035年9月2日で、北陸から関東北部で観測できる(東京は食分99%で皆既にならない)。
海外を含めれば、2年に一度以上は発生しているため、見るチャンスは何度もある。治安のよい国ならば、たいていはツアーが組まれている。近いところでは、2012年11月のオーストラリア・ケアンズの皆既日食だ。皆既日食は一度見るとハマってしまい、何度も見たくなる人が多い。海外の日食ツアーに自己資金をつぎ込んでしまうため、“日食貧乏”という言葉があるくらいだ。
どんな趣味でもうまくいかず、スキルアップに詰まってしまったら、心が折れてしまうだろう。そんなときに助けてくれるのが、同じ趣味の仲間たちだ。ひとりで楽しむより、仲間で情報交換をしながらの方が楽しいのはどの趣味でも同じことだ。
天体写真ファンのブログやホームページ、掲示板を探せば、毎月新月期の週末にはメジャーな観測地に自然に集まっていることがわかる。このような観測地は空の条件がよいし、なにより一人で撮影するより安心・安全なのが魅力だ。気軽に声をかけてみれば、いろいろ話を聞くこともできるし、上級者に教えてもらえることも多い。
GWなどの長期休暇を使って、もっと遠い観測地へ遠征する人達もいる。中にはオーストラリアやニュージーランドなど海外まで遠征をして、光害のない素晴らしい星空や、日本では見えない大マゼラン雲やみなみじゅうじ座を楽しんでいる人たちもいる。
駆け足で解説してきたが、実際は、マイペースで楽しんでいくことが大切だ。星空は私たちが生きている間に変わることはないのだから。