坂本真綾ロングインタビュー 前編

▲坂本真綾 PROFILE

1980年3月31日生まれ。15歳から、本格的に音楽活動を開始。ナチュラルなボーカルと、瑞々しい感性に裏づけられた作詞力が各方面から高い評価を得る。音楽以外の分野でも多彩な才能をみせ、舞台、声優、執筆活動、ラジオパーソナリティとして活躍中。

OFFICIAL HP:http://www.jvcmusic.co.jp/maaya/

トライアングラー

坂本真綾 トライアングラー

今春放送開始のTVアニメ
「マクロスF」オープニングテーマ
坂本真綾×菅野よう子×「マクロスF」
大型新番組「マクロスF」のための
スペシャル“トライアングル”
コラボレーション

NOW ON SALE

VTCL-35024 ¥1,050(税込)

菅野よう子さん(※1)

CM、ドラマ、映画、アニメ等、多数の作曲・編曲を手がける。坂本真綾の歌手デビュー作「約束はいらない」をプロデュース。

マクロスF(フロンティア)(※2)

SFロボットアニメ・マクロスシリーズの25周年記念作品。原作・総監督・バルキリーデザインは河森正治。

オーディション(※3)

アニメ「天空のエスカフローネ」の主役、神崎ひとみに抜擢される。このとき、菅野よう子、河森正治らと出会う。

Newシングル「トライアングラー」

■zigsow編集部 「zigsowへようこそ」でナレーションをされております坂本真綾さんに編集部がインタビューをさせていただきました。
坂本さん、どうぞ宜しくお願いいたします。
坂本さんのシングルCD「トライアングラー」が4/23より発売となりましたが、宜しければこちらのCD制作にまつわるエピソードなどがありましたら、教えて頂けますでしょうか?

▼坂本真綾さん 今回は私、坂本真綾とマクロス全体の音楽を担当する菅野よう子さん(※1)、そしてマクロスF(フロンティア)という新シリーズ(※2)、この三つの要素がコラボレーションするという作り方でしたので、いつもとは少しやり方が違いました。アレンジの方向性や楽曲全体のあり方は菅野さんの音楽世界、またマクロスの音楽世界で、そこに私がシンガーとして参加するというものでした。菅野さん・マクロスF(フロンティア)、そして坂本真綾。本当にお互いがそれぞれ刺激しあって生まれた楽曲で、どの要素が欠けてもこの曲にはならなかったと思います。それぞれの良いところを持ち寄り完成させた音楽だと思っています。

アニメの主役と主題歌に同時抜擢

■- 歌手としてデビューされた、当時のエピソードを教えていただけますか?

▼真綾さん 15歳のときにアニメ作品に出演する声優のオーディション(※3)を受けました。私は8歳の頃から子役として仕事をしてきましたが、TVアニメのレギュラーの仕事は初めてだったんですね。初めてのことに挑戦するというので、かなり最初は緊張したのですが、慣れていないところがフレッシュな感じで良い、と選んでいただいたので、わからないながらも本当に一所懸命やらせていただきました。そして、オーディションで決まった主役のほかに「主題歌も歌ってみる?」と。まさか自分がCDデビューするなんて、まったく予想外の展開で、嬉しい気持ちとドキドキするというか緊張したというか…。それでも初めてのことに、ひとつひとつチャレンジしていくことがすごく楽しかったな、と覚えています。

■- 主題歌のレコーディングの時、どんな気持ちだったか覚えていますか?

▼真綾さん 16歳で歌手としてデビューをする前に、CMソングの仕事もしていました。レコーディングは、15秒のCMソングが1曲分になったぐらいの違いしか感じていなくて、あまり抵抗なく入ることができました。本当に歌うことも好きでしたし、小さいときからスタジオには慣れていたのかなと思います。

8歳から仕事をして

■- 8歳からお仕事をされていると伺いましたが、具体的にはどのようなお仕事をされていたのでしょうか?

▼真綾さん CMソングやナレーション、時々テレビの仕事もありました。本当に様々な仕事を経験させていただくなかで、多かったのが洋画の吹き替えです。代表作は「ジュラシック・パーク」「マイ・ガール」や「ピアノ・レッスン」。当時、吹き替えの世界では、子供が子供の役を演じるという事が始まって間もない時代で、それまでは大人が子供の声を演じることが普通でした。その頃によく御一緒したディレクターの方とは、今でも仕事をさせていただいています。

■- 長いキャリアをお持ちですね。

▼真綾さん そうですね、8歳から仕事を始めて今年28歳になりましたので、ちょうど20周年になります。

■- プロフィールを拝見しますと内容も凄いですね。

▼真綾さん 子供のときに出演した作品を全部覚えている人が誰もいないので、プロフィールに載せているのはほんの一部なんです。本当に数え切れないほどの経験をさせていただきました。当時は「仕事をする」という感覚はなくて、同級生が部活や習い事をしているのと同じような感覚、それが私には演劇だったんです。自分が子役としてプロ意識があったかというと、それはほとんどなくて、当時は「楽しい」「好き」という気持ちだけでやっていたと思います。20周年というのも、なんだかおこがましいような、実は言葉にするには少し抵抗があります(笑)。でも自分でやりたくて始めたことなので、それを長く続けられて良かったと思っています。

■- 私でも知っている作品が沢山ありますから、誰もが坂本さんの声を一度は耳にしているかもしれませんね。
先程のお話でCMソングのお仕事をされていたと伺いましたが、何のCMか教えて頂けますか?

▼真綾さん 「西武百貨店」や「ネスレ」のCMソングです。他にも「のりたまふりかけ」「ポークリッチ」「牛乳石鹸」「石丸電気」などもやりました。

■- 記憶に残るCMソングばかりですね。
さて、CMソングもそうですが声優といいますと、一般に裏方のイメージがあると思います。顔の見えない「声優」というお仕事とは、どのようなものなのでしょうか。

▼真綾さん 私は「声優」という職業の存在を知らない状態から始めたので、例えばシュワルツェネッガーが日本語で喋っているのが当たり前だと思ってテレビを観ていたのに、劇団に入ってみたら「声の吹き替え」という仕事があってビックリしたんです。「あ、そうか、あの人たちは英語を喋ってるんだ!」って。まだ子供で、声優というものに対して予備知識のない状態で声優の仕事を始めました。そういう意味では、いま言われている「声優」という仕事のイメージが出来上がる前の時代からやっていましたので、私の感覚では…なんと言いますか、職人仕事だと思っています。今は作品の数自体も多くなりましたし、チャンネルも増えている時代で、アニメも外国のドラマも昔とは桁違いに数が多くなりました。それにともなって「声優」という仕事にも、様々なスタイルが生まれたんだと思っています。

■- 声優という職業も時代と共に変わっているのですね。

▼真綾さん 最近では、芸能人やタレントの方が「一度声優の仕事をしてみたい」なんておっしゃる事もよくあって、声優という仕事が「やってみたい」「面白そう」と思ってもらえるようになってきました。裏方であった仕事が脚光を浴びるようになったのは、すごいことだと思いますね。

坂本真綾という表現者

■- 声優、歌手、女優。幅広くご活躍されているなかで、どれかに重きを置いているということはありますか?

▼真綾さん それは本当に良く聞かれますが、私の中では「ひとつ」です。表現という形でバリアフリーなんです。本当に沢山の事をしているので「どれが一番好きなんですか?」と皆さんに聞かれますが、小さい時からやっているせいか、全てに垣根がないんです。色々な事ができるのが凄く好き、と言うか自分に合っているみたいです。もちろんひとつの事を追求していくことも大切ですが、いろんな筋肉をバランスよく使っていたい。歌が演技に良い影響を与える事もありますし、演技を頑張っていると歌や書くことにフィードバックできたりと、相互作用があるんです。でもいつかは「これが一番やりたい」というものが定まる可能性もありますが、今はどれが欠けても「バランスが崩れちゃうな」と感じています。

■- 坂本さんとお話をしていますと、しっかりとした考えと意思をお持ちの方だと強く感じます。ご自分の仕事に対して高い意識を持ち続けることを、常に心がけていらっしゃるのでしょうか。

▼真綾さん 私は、演技や音楽という仕事は「自分のためにやっていること」だと思っています。自分のためと言うと語弊がありますが「仕事のようで仕事でない」というか…人間としての修行の延長だと思います。ピアニストは他の演奏者の弾き方や音色を聴いて、その人の人間性が少しわかると聞いたことがありますが、私もお芝居を見ていると感じるものがあります。本当にちょっとした歩き方や話し方で、その人が歩んできた人生が見える瞬間があるんです。それは日常生活でも同じですが、私たちのように人前で、お金をいただいてステージに立つ人間にとっては本当に重要な事なので、「常に人から見られている」という意識を持っていなければならないと思っています。

■- 生きることと演じることが密接に関係していると。

▼真綾さん そうですね。技術やテクニックで、うまく歌ったり上手に喋るということではなく「人として日々の生活を試されている」そう思うようにしているので、自分がちょっとでも緩むと、とたんにそれが表現に出てしまいます。自分が尊敬している素晴しい先輩方に共通しているのは、技術や巧さのもっと奥にある、生きかたそのものに対する姿勢といいますか、妥協が無い。そういう人に憧れますし、いっぱい良い影響をもらっていますので、「そうなりたい」という気持ちがあります。私自身それを実行出来ているとはまだまだ言えませんが、その気持ちが「表現する」ことに全部活きてくるはずだと思って意識しています。

心地よく紡がれていく言葉たち。「表現することが仕事」と真摯に語られる坂本真綾さんの世界観に、いつの間にか引き込まれていきました。

彼女の表現力の源にあるものとは?

次回後編へつづく