所持する音楽データに対する私利私欲．．．イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。聴く曲と歌う曲。自分の音楽的なこのみはある程度あれど、聴くのと歌うのは別、という場合は多いようです。それまで、比較的歌うのが難しい曲を歌ってきたアーティストが、一緒に歌えるような曲調に変化してきた．．．そんな変化が一番感じられる曲をご紹介します。

倉木麻衣。現在でも活動を続ける息の長い歌姫だが、デビューした20世紀末は、いわゆる「ソウルディーヴァ」カテゴリーで、英詞の洋楽の薫り高い作品を歌っていた。それが2002年頃からJ-POPの色が強くなり、日本語詞の楽曲が多くなるという変遷があった。

本作“ベスト オブ ヒーロー”は、2006年リリースの23枚目のシングルで、ほとんど洋楽臭さはない王道のJ-POP。彼女の初期の曲は、英詞と独特のウィスパーヴォイスのため、かなり「歌いにくい」曲だったのだが、このシングルの表題曲は、ドラマ主題歌かつ内容的に「応援歌」という構成の曲なので、とても歌いやすい曲になっている。

その「ベスト オブ ヒーロー」。高橋克典演じる新米教師．．．元プロボクサーでありながら傷害事件を起こし、服役、その後立ち直って教師になったという熱血教師の物語の主題歌。♪この先に何があろうと／あの頃の僕等が／命がけで守ったもの／たとえ儚くても／心にともし踏み出せばいいよ♪からの、♪あきらめたらそこで the end／教えてくれたよね／僕達のベスト オブ ヒーロー♪と歌われる応援歌で、歌詞は明快、歌い方もクリア、そしてメロディラインもシンプル。いわば初期の頃からすると、麻衣らしくないが、非常に口ずさみやすい感じ。

カップリングの「Cuz you'll know that you're right」は一転、初期路線の延長で、歌詞こそワンフレーズ以外は英詞ではないが、歌い方も節回しも麻衣路線王道。キャッチーさという意味では表題曲に譲るが、こちらの方が「麻衣らしい」。実は曲としては彼女への提供がほとんどない（むしろアニメ系楽曲を多く手がけている）藤末樹で、タイトル曲の方が麻衣への提供が多い徳永暁人なのだが。

このあたりのシングル曲は、歌うのが難しかった旧来の曲から、共に口ずさめるような明快な楽曲になって、より広い支持を得た。ただ、それまで聴けばすぐ判った洋楽臭があり、ウィスパーヴォイスをもちいた独特の世界だった彼女の曲が、「どこかで聴いたことがあるような」曲になってしまったのも事実。

「聴く曲」と「歌う曲」、自分が聴くと心地良い曲と、自分が歌いやすい曲は違うのだな、と感じた曲でした。

ドラマとは関連性のないジャケット

【収録曲】

1. ベスト オブ ヒーロー

2. Cuz you'll know that you're right

3. ベスト オブ ヒーロー 〜Instrumental〜

「Cuz you'll know that you're right」