レビューメディア「ジグソー」

平成シティ・ポップの頂点

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。音楽ジャンルは、リバイバルヒットなどで行きつ戻りつしつつ、らせん状に進んでいきます。かつては「いにしえの名曲」を他のアーティストがカバーして収めた作品が注目されたりしての再注目と言うのが主流でしたが、特に2020年代に入って、YouTubeのカバーなどにより、思わぬところから以前の名曲が掘り起こされたりします。そんな風に掘り起こされ、国内だけではなく、国外からも大きく支持を集めた、語り継がれるべき名曲を含んだ作品をご紹介します。

 

最近YouTubeで、英語圏だけではなく他文化圏でも取り上げられ、突然のリバイバルヒットとなるシティポップ。一般的には、1970~1980年代の「垢ぬけた」日本のポップスを指すが、このいわば「昭和シティポップ」に対して、2000年~2010年代にさらにテクノロジーを進め、より粋に昇華した「平成シティポップ」と言うモノが存在した。しかしこの頃の音楽界は、宇多田ヒカルなど歌姫がブラックテイストの歌を歌ったソウルディーヴァブームや、B'zやミスチル、コブクロなどのバンドブーム中心に回っていて、オンタイムではジャンルとしてさほど支持を得ているわけではなかった。しかし、そんな中にも近年その価値が見直されている作品が存在する。

 

キリンジ。「きりんじ」の音を持つグループは何度かその形態を変えているが、カタカナ表記のキリンジ時代は、堀込高樹と堀込泰行の兄弟デュオ。二人とも曲が書け、他者への曲提供も多い。キリンジのシングルはランキング的にはベスト50位前後と、「大」ヒットには乏しいが、特に玄人衆から強い支持を受けて、永く永く歌い継がれ、カバーの対象となっている曲も多い。

 

そしてキリンジは、冨田ラボこと冨田恵一がプロデュースとマニピュレート担当として参加していた。彼の感性と音世界が、二人の書く良質な楽曲に、粋で味のあるアレンジやバッキングをつけていて、彼らの作品を「平成のシティポップ」として至高のものとしている。

 

この“3”は、名の通り彼らの3枚目のアルバム。ほぼ高樹と泰行が半分ずつ曲を書き、いわゆる捨て曲無しの質が高い楽曲が並ぶ。シングルとしては3rd~6thシングルまでが含まれている。

 

アルバムは唯一の二人の共作、4thシングルの「グッデイ・グッバイ」で幕を開ける。このアルバム、二人に富田のみが加わって創られている曲と、リズム隊やホーン、ストリングスを入れたバンド仕立ての楽曲とが半々という形だが、この曲は四つ打ちのリズムがリードするバンド風の造りだが、実は打ち込み。粗い感じが、ほぼ四半世紀近く前の打ち込み楽曲とは思えないグルーヴ感(シングル“グッデイ・グッバイ”は2000年4月リリース)。とくにオルガンの音が小粋。

 

ファンキィな「車と女」は、スネアをバックビート(2拍目、4拍目)に入れないリズムパターンで、トリッキーな変拍子風に仕上げられている。これはバンド仕立て(ドラムスは打ち込み)で、細かく刻むベースパターンでスピード感を出す名手渡辺等のプレイと、後半ソプラノサックス吹きまくりの山本拓夫の熱いプレイで、かなり熱量を感じる曲。楽曲は兄の高樹の手になるモノ。

 

6thシングルでもある「エイリアンズ」。弟の泰行の書いたこの曲、リリース時はチャート最高42位と爆売れしたわけではないのだが、堀込兄弟と冨田だけで創られた音世界の完成度が高く、平成シティポップの頂点に推す人も多い。これは覚えやすいサビのメロディと、そこに至るまでの凝ったコード進行が秀逸。この曲のコード進行は 、裏コード(コード進行で、座りの良いトニックに進ませようとする代表的なコードであるドミナントセブンスの代理コード)を多用していてジャジィな響きが強いとか、9thや13thのテンションノートを使って、不安定な感じをだしたりと、非常に凝った造り。コード進行の普通では「ない」例として、音楽理論を学ぶときに取り上げられるほど、尖ったコード進行を持つ曲。それでいて覚えにくいわけではなく、二人の声と、泰行の粘るガットギターの調べ、淡々として温度感の無いバックトラックが、いつの間にか心に焼き付いている名曲(MVでは堀込高樹=兄、メガネをかけた方もギターを弾いているように撮られているが、CDのクレジットではこの曲での高樹はヴォーカルのみの参加で、ギターはアコースティックもエレキも泰行)。激しくもないし、エネルギー感も高くないのに、いつの間にか心に食い込んでいるというような不思議な曲。

 

本作は2014年にリマスターされた紙ジャケ盤だが、ボーナストラックとして、「エイリアンズ‐INSTRUMENTAL-」が初収録されている。オケだけ聴くとコード進行の妙というか意外性が良く味わえてイイナァ...サビ5小節目の借用和音Fm7が強烈。

 

このアルバム、元々YouTubeのオススメと連続再生機能でエイリアンズ」の森恵さんのカバーが出てきて、そのあとギタリストじぃえさんのギターアレンジ奏法解説動画、最後に本家も流れて、やっぱりいい曲だなーとしみじみ思って購入してみた次第。

 

「残る」曲は、決して派手な曲ばかりではないんだなー...と思ったり。

堀米兄弟のアクの強い顔がこれでもかと...ちな、CDレーベル面は若干反射が弱いせいかEACで時間がかかった。盤面は普通が良いかな...
ふたりのアクの強い顔がw...レーベル面は反射が弱く透けてる。盤面は普通が良いかな...

 

【収録曲】

1. グッデイ・グッバイ
2. イカロスの末裔
3. アルカディア(Album Version)
4. 車と女
5. 悪玉
6. エイリアンズ
7. Shurrasco ver.3
8. むすんでひらいて
9. 君の胸に抱かれたい
10. あの世で罰を受けるほど
11. メスとコスメ
12. サイレンの歌
13. 千年紀末に降る雪は
14. エイリアンズ‐INSTRUMENTAL-

 

「エイリアンズ」

更新: 2023/08/02
必聴度

シティポップの粋を集めた...

コード進行がとにかく神

  • 購入金額

    2,153円

  • 購入日

    2023年05月14日

  • 購入場所

    Amazon

11人がこのレビューをCOOLしました!

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