レビューメディア「ジグソー」

「GYARIにとってのボカロジャズ」という方向性を決定づけた一枚

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。音楽作品のバックボーン。歌詞付きの曲でなくても、曲を書くときに何かのストーリーを思い浮かべながら、曲が創られる場合が多いようです。思い入れのあるゲームの曲を、ジャズアレンジして、ボーカロイドに「演奏させる」という世界観を創り上げた作品をご紹介します。

 

GYARIココアシガレットP)。現在では自身でプレイして表現を行う、というより他者(VTuber)のプロデュースという方に力点を置いているが、その「プロデュース力」は名が識られ始めた当初からのものだった。

 

前作、“VOCALOID TRIO ACT2”

で取り上げられたジャズトリオ(「登場した」のはそのリメイク前の“VOCALOID TRIO”と思われる)。3人のボーカロイドをメンバーとしたそのユニットは、ヴォーカル(音声)としてはリンこと鏡音リンしか使っていないので、ベース担当とされた初音ミクとドラムスのKAITOはいわば「道具立て」。実際にはココシガPがプログラムした(一部は手弾きもあるかもしれないが)ものであって、声が聴こえるリン以外は「言われなければわからない」、設定上の存在。

 

しかし、電子界で知り合った別のマスターのPCにインストールされていたレンとの想い出に、ココアシガレットを咥えているリン、控えめだが怪力設定のミクと、リンには「便座カバー」「う○こ」と言われながらも我が道を行くKAITOが「演奏している」ていをとることによって、曲にストーリーが加わり、より生き生きと動き出す。その「バックボーン」となるストーリーまでまとめられた作品が、“CLANNAD LIVE!!”。

いつもの3人
いつもの3人

 

ボーカロイドたちがCLANNADライブをはじめたようです」。18禁ゲームも製作するゲーム会社Keyが手がけた恋愛アドベンチャーゲーム「CLANNAD(クラナド)」。恋愛を真面目に描いた感動的なストーリーで、いわゆる「泣きゲー」の不朽の名作と言われる。その主題歌「メグメル」とエンディングテーマ「時を刻む唄」、アニメ化時の2期のテーマ「小さなてのひら」をジャズアレンジしてつなげたもの。ドラマチックなピアノでスローに始まり、弓(ネギ)弾きのウッベが加わり一旦締めたあと、ドラムスがピッチを上げてリズムインし、リンの歌う「メグメル」につなげる。そのあとベースソロ(+カスタネットソロ?)を経て、ボサノヴァチックな「時を刻む唄」に繋がれ、粋なピアノソロへ。一度「時を刻む唄」に戻るが、最後にボサ調ながら若干ハードな「小さなてのひら」へ移行し、最後はお約束のぶっ壊れドラムソロ...だけでは終わらず、カスタネット乱打+「何かの」打撃音+ベースブリッジフレーズ..というお祭り状態で、ジ・エンド。10分を超える大曲で、物語性が感じられる作品。

 

CLANNAD LIVE!! normal version」は、1曲目とほぼ同じ曲なのだが、最後(最期?)が違う。ぶっ壊れドラムソロ...のあと、ピアノがテーマをワンフレーズ奏で、終わる「アブノーマル」ヴァージョン。1曲目の方の、カスタネット乱打のあとの「何かの」打撃音は、「動画」を観ていないと何が何やら、なのでそのネタ部分を削って、単体楽曲で成立するようにしたもの。

 

ボーカロイドたちがひぐらしのYOUをセッションしたようです」は、同人サウンドノベルを起点に、アニメ化、ゲーム化、実写映画化など何度も異なる手法でリリースされた、名作メディアミックス作品「ひぐらしのなく頃に」の、元々の音楽担当daiが担当した曲「YOU」のアレンジヴァージョン。ピアノの独奏で始まり、リンの歌声が続く♪もう一度あの頃に戻ろう/今度はきっと大丈夫/いつもそばで笑っていよう/あなたのすぐそばで/あなたは今どこで何をしていますか?/この空の続く場所にいますか?/いつものように笑顔でいてくれますか?/今はただそれを願い続ける・・・♪という歌詞が、選択肢の異なる物語を何度も巻き戻す形のストーリーに重なり、切ない。....と言っても、この曲も最後にドラムスがスピードアップしてリズムが明確な形になり、暴れ始めるのはGYARIの定石??

 

言ってしまえば、打ち込み主体のボカロジャズアレンジなのだが、それにキャラ付けをすることによって、物語性が感じられる。ちょっと斜に構えているリン、真面目だけど天然ちゃん(で怪力)なミク、いじられキャラ...というよりリンのおもちゃのKAITO。彼らの「存在」が定義され、あたかも彼らが演奏しているように聴こえるので、より強くストーリーを感じられるという造り。

この作品からCD量産は外部委託かな
この作品からCD量産は外部委託かな

 

そして、この作品には36ページのマンガが付属する。

このマンガが読み応えがある。
このマンガが読み応えがある。

 

GYARI(ココシガP)曰く「もしボーカロイドに意志があって/PCの中で生きてるとしたら/こんな感じなんだろうなあ。」という感じのストーリー。リン達の(ということはGYARIの)CLANNADに対する想いや、この曲のバックボーンストーリーが語られる。

冒頭の言葉
冒頭の言葉

 

そのなかに、他の有名Pに対する意見が書かれているのが面白い。これは、当時はGYARIが、まだ正面切って他Pの批評できるほど識られていなかった...という事なのだと(今の彼の知名度でこういう発言をすると大変)。

supercellには「名前だけで動画が伸びてしまう」ときわどい発言を
supercellには「名前だけで動画が伸びてしまう」ときわどい発言を

 

ジミーサムPにも触れられている(参考動画IDつき)
懐かしのジミーサムPにも触れられている(参考動画IDつき)

 

しばらく続く、GYARIのボカロワールドの世界観を決定づけた重要な作品です。

 

【収録曲】

<CD>

1. ボーカロイドたちがCLANNADライブをはじめたようです
2. CLANNAD LIVE!! normal version
3. ボーカロイドたちがひぐらしのYOUをセッションしたようです
4. CLANNAD LIVE!!
5. CLANNAD LIVE!! normal version
6. YOU SESSION!!

<BOOK>

A5 / 36P / モノクロ

 

「ボーカロイドたちがCLANNADライブをはじめたようです」

 

ボーカロイドたちがCLANNADを見たようです。

更新: 2021/07/07
必聴度

「ボカロ“ジャズ”」という観点で聴くと、まだ弱い

しかし、このあとしばらく続く、「ボカロジャズ“バンド”」のメンバーのバックボーンが確定したのは大きい。また後々の彼のカラーとなった、変拍子挿入や最後の爆裂ドラムソロなどの様式美は、すでにここで完成されている。

  • 購入金額

    1,250円

  • 購入日

    2018年01月20日

  • 購入場所

    駿河屋

13人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (0)

ZIGSOWにログインするとコメントやこのアイテムを持っているユーザー全員に質問できます。

YouTube の動画を挿入

YouTube の URL または動画の ID を入力してください

動画の ID が取得できません。ID もしくは URL を正しく入力してください。

ニコニコ動画の動画を挿入

ニコニコ動画の URL または動画の ID を入力してください

動画の ID が取得できません。ID もしくは URL を正しく入力してください。

ZIGSOWリンク挿入

検索対象とキーワードを入力してください

    外部リンクを挿入

    リンク先の URL とタイトルを入力してください

    URL を正しく入力してください。

    画像を挿入(最大サイズ6MB)

    画像を選択してください

    ファイルサイズが6MBを超えています

    別の画像を追加

    ZIGSOW にログイン

    ZIGSOW会員登録(無料)はこちらから