レビューメディア「ジグソー」

ファンがそのアーティストに期待するものとの差

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。長い歴史を持つグループは自分たちの嗜好の変化や時代の要請などで少しずつその音楽性を変えていくことが一般的になっています。しかしファンは結構保守的で「自分の想像の範囲内」を期待します。海外進出をにらんで脱皮しようとしていたアーティストとそのファンの期待するものの間に透間が感じられ始めた作品をご紹介します。

CASIOPEA。もう何度もご紹介している日本を代表する老舗フュージョンバンドだが、1980年代初期のフュージョンブームから現在まで活動をしている“フュージョンバンド御三家”(CASIOPEA、T(HE)-SQUARE、NANIWA EXP(RESS))の中では最もテクニカル寄りで理論派、COOLでタイトな音楽性だった。

ただそのカラーが最も色濃く出ていたのは“黄金期”と呼ばれるメンツの時。

さすがにこれだけ永い間バンドで活動していると多かれ少なかれメンバーチェンジはあるが、CASIOPEAはデビュー後大きく2回その形態を変え、現在は第3期と呼ばれている。3作目からドラマーは変わったが(佐々木隆⇒神保彰)、他のメンツ=ギタリスト(野呂一生)、キーボーディスト(向谷実)、ベ-シスト(櫻井哲夫)は変わらずデビュー以来10年以上永く安定的な構成であった第1期。バンドが分裂し、ギタリストとキーボーディスト(野呂と向谷)が残ってそこにベーシストとしてチョッパーベースの達人鳴瀬喜博を迎えたものの、ドラマーが安定せず何度も変わり、最終的には第1期メンバーの神保がサポートメンバーとして出戻って支えることになった第2期。一時活動休止時期を挟んでデビュー以来ともに歩んだ向谷が抜け、オルガニスト大高清美を迎えて再始動した第3期(ドラマーは相変わらず神保のサポート)。

第1期後半の野呂+向谷+櫻井+神保の構成のときが“黄金期”なのだが、この時期はアルファレコードというレコード会社に在籍した時期とほぼ重なる。この作品はそのアルファレコードでの最後のオリジナルアルバム(このあとにライヴアルバムが出る)。

日本においてはCASIOPEAはフュージョンシーンのトップグループとして君臨していたが、海外ではフュージョンシーンというのはもはやなく、時代はスムーズジャズに動いていた。まだ若く、海外(主にアメリカ)進出の野望?を持っていた彼らはロック~ポップテイストを強めた作品で打って出ることにした。それが本作。

プロデューサーにDavid Bowieの右腕Carlos Alomarを据え、積極的にアメリカ人の歌うヴォーカルトラックを取り入れて、ポップス王道にアプローチした。

とは言っても、アルバムは高速超テクニカルチューン「Conjuction」で幕を開ける。♪Conjuction♪とネイティヴ発音のコーラスの合いの手が入るユニゾンキメキメ系の曲。短い曲だがまさにCASIOPEAという感じの幕開け。テクニックの見せ場の奔流で押し通す全力疾走曲。最後がブツッという感じで終わるのも余韻を残す。

「Sun」。英詞のヴォーカル入りの曲。それもフュージョンヴォーカル曲というよりはロック系ポップス。ギターソロやコードの付け方にの一部に「フュージョンらしさ」を感じるものの、ヴォーカル担当のゲストFrank Simmsの朗々とした歌い方と相まって、JourneyかTOTOかという感じ。

「Mr. Unique」はクロっぽい曲が多かったアルバム“JIVE JIVE”のファンクチューン「Fabby Dabby」を思い出させるようなファンキィタッチの曲。ただ音作りがなー。アルバム全体に言えることなんだけれど、当時はやりのゲートリバーブがスネアにかけられていて、ちょっとキレが悪くなっている。エレドラはともかく、このゲートの音は神保のプレイのタイト感や音色の「弾け」感を損ねるので重い感じに...

日本にもフュージョンシーンがしぼむ時期が来る、と世界の趨勢を見て判断し、よりポップな方向で海外に挑戦することで活路を見出そうとしたと思われる彼ら。ただ、その方向にはあまたアーティストがいて、「ギターソロが上手いポップス」「コードの付け方が洒落ているロック」のひとつにすぎなかった。

一方彼らを支えた日本のフュージョンフリークはポップで明快なCASIOPEAなんぞ求めていたわけではなく....

このアルバムの売れ行きが思ったほどではなかったので?、ずっと所属していたアルファレコードを離れ、POLYDORに移籍、さらにこの路線を進めることになるCASIOPEA。

4人のメンバーを従えてミックス作業をするCarlos Alomar(手前)
4人のメンバーを従えてミックス作業をするCarlos Alomar(手前)

アメリカでの成功にかけて自らを大きく変化させた彼ら。でもそれはファンの期待域をはずれたところまで行ってしまっていたものであり...

自分にとっては同じ年(1986年)のNANIWA EXPRESSの解散も重なり、「フュージョンは終わった」と思わせた作品。今聴くとこの作品は曲のキャッチ―さや随所に魅せるテクニックのきらめきなどよいところも多いけれど、でもやっぱり「CASIOPEAに期待していたもの」ではないんだよなー、と。

そのあたりの「塩梅」が難しいな、と思えた作品です。

【収録曲】
1. Conjuction
2. Coast To Coast
3. Keepers
4. Lunar Shade
5. Sun
6. After Glow
7. Mr. Unique
8. Samba Mania
9. Departure
10. Someone's Love
11. Mi Senora
12. Somethings Wrong (Change It)
13. Transformation 1
14. Planetoid Mother Earth

「Sun」

  • 購入金額

    3,200円

  • 購入日

    1986年頃

  • 購入場所

21人がこのレビューをCOOLしました!

コメント (2)

  • パッチコさん

    2015/08/07

    まさかのボーカル入りというイメージでしたねー。
    これはこれでいい感じ。
    そう。確かにロック的でした。
  • cybercatさん

    2015/08/07

    「フュージョンバンドCASIOPEAの作品」と思うからマイナス補正が入ってしまうんですよね。そこを取っ払えば悪くはないんですが。

    いわゆる「思ってたんと違う」ってヤツで。

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