レビューメディア「ジグソー」

音楽から始まる世界...

所持する音楽データに対する私利私欲...イヤ私情私見あふれるコメント、音楽の杜。こういった分野のものは「好み」ですし、優劣を付けるのもそぐわない気がしますので、満足度の☆はあくまで私的な思い入れです。誰でも発信者になれるということは、才能が埋もれることが少ないと言うことです。イメージアルバムという分野があります。漫画や小説に対して、そのストーリー・キャラクターから受けるイメージを音楽化したものです。しかし、互いに補完しあう音楽と小説の両方を一人のアーティストが手がけるのは珍しいかもしれません。そんな音楽と小説のストーリーが渾然一体となって進む作品を手がけるクリエイターの作品をご紹介します。

じん、またの名を自然の敵P。Pと名が付くとおりボカロプロデューサーにしてギタリスト、そして小説家でもある。ボカロ系楽曲というのはその成り立ちからヴォーカルパート以外もDTMで創られることが多いが、彼はバンドサウンド指向であることが特徴。自身もギターを弾くため(キーボードも弾けるようだがたぶんデータとして取り込んでる)、ボカロ曲では珍しくギターオリエンテッドな曲が多いのが特徴。

そして彼が絶大な人気を誇るのはその世界観。各曲が1話完結の短編小説であり、諸作群が同じフィールドの設定に立ち、お互いに結びついていて、大きなストーリーを構成している。そして徐々にストーリーが進むという構成を取る。それでいて一つの世界を構成するキャラクターの違った側面を陽に当てることにより、曲調としては明るいポップス、ハードなロック、フォーク調、アイドルっぽい弾けた曲まであってバリエーションが多い。

cybercatは、まずジャズアレンジの方で彼の曲を識った。

ジャズと言うにはあまりにハードな曲調と印象的なギターのリフで(さらに言えばその洒落たPVの造りで)印象に残った「夜咄ディセイブ」。その元曲を聴いてこちらはこちらでハードなギターに印象的なPVでファンになった。ただその動画をニコ動のほうでみると「カノ」という書き込みが多くみられた。どうもPVに登場する赤い目の少年のことらしい。そこからたどって彼の曲1曲1曲が共通の世界観を構成するピースの1片であることを識り、この初回盤を探した。それは「メカクシティレコーズ・プレミアムブック」と呼ばれるストーリーやキャラ紹介が書かれたブックレットが付属すると言うことで...

プレミアムブックには各曲のバックボーンの紹介(上はサマーエンドロール)
プレミアムブックには各曲のバックボーンの紹介(上はサマーエンドロール)
各キャラの生い立ちの説明とカゲロウデイズに引き込まれた理由、イメージイラスト
各キャラの生い立ちの説明とカゲロウデイズに引き込まれた理由、イメージイラスト
さらに収録曲2曲のタブ譜付きバンドスコアが!
さらに収録曲2曲のタブ譜付きバンドスコアが!

彼の構築する世界は伏線が非常に入り組んでいて、SFタッチで、恋愛や親子の愛憎が語られていて、でも様々なネガを抱えた主人公たちが生きる青春物語であり...と入れ込む人が出てくるのが分かる複雑で奥が深い出来。

収められた曲達もそれぞれのストーリーのバックボーンが分かって聴くと、とても入り込める。

まず出逢いの曲「夜咄ディセイブ」。のちに「目を欺く」能力を身につけることになった母子家庭で育ったカノ。母親から受ける暴力で傷が絶えない自分の体を嘘でごまかし、周囲から母を悪く言われる元となる傷を消したいと願った少年の物語。なんと言ってもこれは印象的なギターのリフとちょっと歪んだようなボーカロイドの声(ボーカロイドとしてはVOCALOID3に属する「IA」を使用)がハードな曲調にマッチしてすごくイイ!

 

「夕景イエスタデイ」は一転してアイドルが歌いそうなサンバ系リズムのハッピーな曲。ラストの菊池真義のライトな感じのギターソロが軽やか。転調の多い曲だがPVとも上手くシンクロしていて、特にラストの♪もう一回♪の部分の画面と音とのハマり方は秀逸だ。

曲だけ聴くと底抜けに明るい曲だが、ここで歌われる二人は、この物語のキーの人物の一人である「目を覚ます」蛇にとりつかれたエネこと貴音と、その病弱な同級生で後に「目を醒ます」蛇にとりつかれるコノハこと遙。ともに実体の方は高校2年の時に命を落とすが、そんな彼らにも普通の学生生活があったんだ、と思うことで少し救われる。

ダークでハードな「アウターサイエンス」。物語の核心であるメデューサ一族の血を引く娘マリーと彼女が暮らす「カゲロウデイズ」が歌われる。物語は8月14日と15日を永遠にループしているがその理由や、「カゲロウデイズ」の成り立ちなどが頭に入っていないと一部歌詞が「なぜ?」となってしまう曲だが、カゲロウプロジェクトの曲としては(厳密にはストーリー部分の曲としては)最後の曲で、余韻を残す曲。

音楽や小説、アニメで微妙に筋が違うという並行世界。永遠にループする8月の半ばの暑い日を音楽ルートでは悲劇的に終わる(PVの最初にも「ROUTE BADEND」と見える)。彼等に救いは来るのだろうか。

数曲のPVが収められたDVDつき。どちらがCDでどちらがDVDかわかりやすいw
数曲のPVが収められたDVDつき。どちらがCDでどちらがDVDかわかりやすいw

その構築された世界観とサウンドは多くの支持を集めたじんと「カゲロウプロジェクト」。夏の日に、様々な曰くがある人々の人生が交差し、「カゲロウデイズ」という異世界に引き込まれる。そこで「目」に関する異能を持つことになり...という風にストーリーは続くらしいが、音楽・小説・アニメを通して全体で一つのストーリーが語られる、ということである意味「超メディアミックス」とも呼べる手法。この複雑に絡み合い、でも独立している作品群の関連性の謎解きをする魅力が、元の個々の作品の魅力に加わり、熱狂的ファンが付いた。ただ、彼らの一部は非常に排他的で独善的な面があり、「カゲプロ厨」と呼ばれてネット上で問題になっているのは不幸なこと。

あとこの装丁、面白い造りで、1stアルバムの「メカクシティデイズ」を収納できるスペースがある。そういう意味ではこの話の前半である1stと合わせてこそ一つの作品ともいえる。ただそのことについては、開封するととれてしまう「帯」に1行書いてあるだけで、それがない中古を購入した人や、帯の文句まで見ない人は「中身が入ってない!」と思うかもしれない(事実Amazonのレビューにそれらしい文言が見える)。ダミーケースのサイドなどに一言そのことを書いておいた方がよかったと思うけど。

このダミーボックス、説明ないと「空箱」に見える罠
このダミーボックス、説明ないと「空箱」に見える罠

ま、結局cybercatも1stに手を出す可能性が大なので、マンマと戦略に引っかかったんだけれどもw

【収録曲】
<CD>
1. サマーエンドロール (Instrumental)
2. チルドレンレコード (Re Ver.)
3. 夜咄ディセイブ
4. 少年ブレイヴ
5. 夕景イエスタデイ
6. 群青レイン (Re Ver.)
7. アウターサイエンス
8. オツキミリサイタル
9. ロスタイムメモリー
10. アヤノの幸福理論
11. マリーの架空世界
12. クライングプロローグ (Instrumental)
13. サマータイムレコード
<特典DVD>
1. チルドレンレコード (Music Video)
2. 夜咄ディセイブ (Music Video)
3. ロスタイムメモリー (Music Video)
4. アヤノの幸福理論 (Music Video)
5. メカクシティレコーズ

*初回限定盤特典
・ 特典DVD
・ スペシャルボックス仕様
・ デジパック仕様
・ メカクシティレコーズ・プレミアムブック封入

「アルバムダイジェスト」

  • 購入金額

    3,996円

  • 購入日

    2015年01月25日

  • 購入場所

    新星堂

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コメント (2)

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