三島の5年後輩で三島に憧れていた野坂昭如はその著『赫奕たる逆光 私説三島由起夫』のあとがきで、
「書き終えて思うのは、三島のすべては『仮面の告白』と、(豊饒の海シリーズの)『春の雪』『天人五衰』に凝縮されていること。
『英霊の声』以後の三島は、分裂症気質から、分裂病にふみこんでいる印象で、以後、自刃までの四年間の生は、存在苦とでもいいたい、苛烈なものだった。」
と述懐しました。
東大法学部を出て樺太庁長官まで登りつめるも失脚した出自は良くない祖父を、譜代大名の血を引き宮家で奉公した気位の高い祖母が憎み、時に狂人となる中、そのことが
生まれながらにひ弱で感受性の優れた三島少年に与えた悪しき影響は計り知れないものと推察します。
三島の聖セバスチャンへの憧れは、野坂昭如の言うように祖父への憧れであったのかも知れません。
男色の告白にとどまらず、友人の妹への肉欲とは切り離された愛と恋と執着も描かれており、自画像(自伝)的な傑作だと思います。
冒頭、三島はドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』の第三篇第三話(熱烈なる心の懺悔~詩)※以下一部抜粋 を紹介していますが、そこに三島の美学と告白の決意(結局自分しか愛せない男色家であり、革命に参加したドストエフスキーを目指すこと)を感じましたが如何に。
◯長男ミーチャ
「俺がどうしても我慢できないのは、美しい心と理性を持った立派な人間までが、往々聖母の理想を懐いて踏み出しながら、結局ソドム(悪行)の理想を持って終わるということなんだ。
いや、まだまだ恐ろしい事がある。つまりそのソドム(悪行)の理想を心に懐いている人間が、同時に聖母の理想をも否定しないで、まるで純潔な青年時代のように、真底から美しい理想の憧憬を燃やしているのだ。
いや実に人間の心は広い、あまり広すぎるくらいだ。俺は出来る事なら少し縮めてみたいよ。ええ畜生、何が何だか分かりゃしない、本当に!
理性の目で汚辱と見えるものが、感情の目には立派な美と見えるんだからなあ。一体ソドム(悪行)の中に美があるのかしらん?
・・・しかし、人間て奴は自分の痛いことばかり話したがるものだよ。」

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仮面の告白 (新潮文庫) 文庫 – 2003/6/1
三島 由紀夫
(著)
「私は無益で精巧な一個の逆説だ。この小説はその生理学的証明である」と作者・三島由紀夫は言っている。女性に対して不能であることを発見した青年は、幼年時代からの自分の姿を丹念に追求し、“否定に呪われたナルシシズム"を読者の前にさらけだす。三島由紀夫の文学的出発をなすばかりでなく、その後の生涯と、作家活動のすべてを予見し包含した、戦後日本文学の代表的名作。
- ISBN-104101050015
- ISBN-13978-4101050010
- 版改
- 出版社新潮社
- 発売日2003/6/1
- 言語日本語
- 寸法14.8 x 10.5 x 2 cm
- 本の長さ288ページ
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登録情報
- 出版社 : 新潮社; 改版 (2003/6/1)
- 発売日 : 2003/6/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 288ページ
- ISBN-10 : 4101050015
- ISBN-13 : 978-4101050010
- 寸法 : 14.8 x 10.5 x 2 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 52,945位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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著者について
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(1925-1970)東京生れ。本名、平岡公威。
1947(昭和22)年東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職、執筆生活に入る。1949年、最初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行、作家としての地位を確立。
主な著書に、1954年『潮騒』(新潮社文学賞)、1956年『金閣寺』(読売文学賞)、1965年『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)等。1970年11月25日、『豊饒の海』第四巻「天人五衰」の最終回原稿を書き上げた後、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。ミシマ文学は諸外国語に翻訳され、全世界で愛読される。
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2016年3月9日に日本でレビュー済み
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この小説はむかし女性たちの間でもよく読まれていたように思う。三島由紀夫の少年時代から23歳に至るまでの時期を自伝的に書いたものである。普通の自伝小説と違うのは彼の性欲を中心に描かれていることと甘い自己陶酔を排除していることである。戦後の作家としては太宰治が爆発的人気を博したが、三島は太宰を追うように出てきた。太宰の文章は流麗で音楽的だ。対する三島は単語そのものが典雅で難解だ。それは彼が20代前半の若者だった故の力みもあったのかもしれない。
三島は女性に対して性欲が湧かず、本当に性欲を感じるのは男に対してだという性倒錯者である。この小説に群がった女性読者にはそのあたりのことはよく分かっていたのだろうか? 三島が性倒錯者であることを率直に書いた作品は他にもあるのだろうか? ともあれ昭和20年代前半の日本ではこの作品は時代を超えた作品であったことは間違いない。
三島は女性に対して性欲が湧かず、本当に性欲を感じるのは男に対してだという性倒錯者である。この小説に群がった女性読者にはそのあたりのことはよく分かっていたのだろうか? 三島が性倒錯者であることを率直に書いた作品は他にもあるのだろうか? ともあれ昭和20年代前半の日本ではこの作品は時代を超えた作品であったことは間違いない。
2016年12月7日に日本でレビュー済み
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難解な文章ですが、少しずつ読んでいけばその当時の背景がわかっていき、楽しいですよ。
2018年9月15日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
三島由紀夫さんの本は例の立てこもり事件で昔は怖い文豪もいたんだなーと思いました
wikiで三島由紀夫が太宰治とのやりとりを見て「え?三島由紀夫って常識的な人なんだな」と思い
更に三島由紀夫は元々は頭が天才的に良くても体が小柄なのをコンプレックスだったという記述を見て、三島由紀夫の作品を読み漁りました。
内容は仮面の告白は自分の性癖や、死の恐怖 昔の文豪では読みにくい文章を使う傾向がありますが、この三島由紀夫の本は個人的に詰まる事なくスラスラ読めます。噂によればノーベル文学賞を受賞出来るぐらいの人だったのもうなずけます。
内容に関しては手短にいうと三島さんの過去と性癖(昔好きだった先輩)の内容です。
非常に面白くて強面な人だと思ったのに心が繊細な方なんだなと思いました。太宰治の本も好きですが三島由紀夫の本も同じぐらい好きです。
川端さんの場合は難しすぎて私には合いませんでしたが、右寄り、左寄りといわれている二人の文豪の作品はどちらも素晴らしいですね
wikiで三島由紀夫が太宰治とのやりとりを見て「え?三島由紀夫って常識的な人なんだな」と思い
更に三島由紀夫は元々は頭が天才的に良くても体が小柄なのをコンプレックスだったという記述を見て、三島由紀夫の作品を読み漁りました。
内容は仮面の告白は自分の性癖や、死の恐怖 昔の文豪では読みにくい文章を使う傾向がありますが、この三島由紀夫の本は個人的に詰まる事なくスラスラ読めます。噂によればノーベル文学賞を受賞出来るぐらいの人だったのもうなずけます。
内容に関しては手短にいうと三島さんの過去と性癖(昔好きだった先輩)の内容です。
非常に面白くて強面な人だと思ったのに心が繊細な方なんだなと思いました。太宰治の本も好きですが三島由紀夫の本も同じぐらい好きです。
川端さんの場合は難しすぎて私には合いませんでしたが、右寄り、左寄りといわれている二人の文豪の作品はどちらも素晴らしいですね
2018年10月9日に日本でレビュー済み
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.
1949年(昭和24年)に書き下ろしとして刊行された三島由紀夫の初期長編である。森鴎外の『ヰタ・セクスアリス』を連想させる、青年期の性を自己凝視した自伝的作品であり、三島の文壇登場を飾った代表作でもある。
小説家に限らず、物書きにとって最も身近な観察対象は自分自身であり、すべてをさらけ出す・・・自分の感性に嘘をつかずに創作する職業倫理から、人間の本源的欲求である「性」を凝視し、文章として顕現化するのは、むしろ自然な成り行きとも考えられる。
三島の『ヰタ・セクスアリス』(=性的生活)は、その「仮面」と「地顔」とのコントラストが異彩を放っており、また「性」に耽溺するでもなく、単純に傍観するでもなく、三島らしい人間の根源的欲求に対する知的な観察ぶりは、今日においても新鮮であり、いささかも色あせていない。
1949年(昭和24年)に書き下ろしとして刊行された三島由紀夫の初期長編である。森鴎外の『ヰタ・セクスアリス』を連想させる、青年期の性を自己凝視した自伝的作品であり、三島の文壇登場を飾った代表作でもある。
小説家に限らず、物書きにとって最も身近な観察対象は自分自身であり、すべてをさらけ出す・・・自分の感性に嘘をつかずに創作する職業倫理から、人間の本源的欲求である「性」を凝視し、文章として顕現化するのは、むしろ自然な成り行きとも考えられる。
三島の『ヰタ・セクスアリス』(=性的生活)は、その「仮面」と「地顔」とのコントラストが異彩を放っており、また「性」に耽溺するでもなく、単純に傍観するでもなく、三島らしい人間の根源的欲求に対する知的な観察ぶりは、今日においても新鮮であり、いささかも色あせていない。
2021年9月24日に日本でレビュー済み
三島は割腹自殺があまりに衝撃的で、強面の右翼作家と思ってる方も多いが、
男色でもあり、コンプレックスも強く、30代からひ弱な体を肉体改造したことなどは
知っていたので、大きな驚きもなくすんなり読めた。
三島は間違いなく天才的な作家だと思う。本作も24歳の時の作品。知識の豊富さに恐れ入る。
純文学の「潮騒」、
現代に警鐘を鳴らす「憂国」、「美しい星」、「若きサムライたちへ」
心理描写の巧みな「金閣寺」。
いずれも文体の美しさと、三島の異常な繊細さを感じる。
戦時中に青年時代を過ごし、戦争で死ぬ覚悟をしていた三島は、戦後社会が、戦争を風化させ、
国について深く考えない風潮に強い憤りを感じた。
(彼自身もまたおぼろげに予知していた。彼の行手にあって彼を待つものは殉教に他ならないことを。
凡俗から彼を分け隔てているものは、この悲運のしるしに他ならぬことを。)p45
聖セバスチャンのことを書いた文章だが、今にして読めば、三島本人の予言のようにも思える。
男色でもあり、コンプレックスも強く、30代からひ弱な体を肉体改造したことなどは
知っていたので、大きな驚きもなくすんなり読めた。
三島は間違いなく天才的な作家だと思う。本作も24歳の時の作品。知識の豊富さに恐れ入る。
純文学の「潮騒」、
現代に警鐘を鳴らす「憂国」、「美しい星」、「若きサムライたちへ」
心理描写の巧みな「金閣寺」。
いずれも文体の美しさと、三島の異常な繊細さを感じる。
戦時中に青年時代を過ごし、戦争で死ぬ覚悟をしていた三島は、戦後社会が、戦争を風化させ、
国について深く考えない風潮に強い憤りを感じた。
(彼自身もまたおぼろげに予知していた。彼の行手にあって彼を待つものは殉教に他ならないことを。
凡俗から彼を分け隔てているものは、この悲運のしるしに他ならぬことを。)p45
聖セバスチャンのことを書いた文章だが、今にして読めば、三島本人の予言のようにも思える。
2015年12月1日に日本でレビュー済み
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日本文学研究者のドナルド・キーンはノーベル文学賞の候補に川端康成ではなく三島由紀夫を推していたそうだ。歴史に「もし」はないというが、もし三島が自決せずに、もしノーベル文学賞を受賞していたら、日本文学界の景色はかなり変わっていただろう。この作品は三島の最初の長編書き下ろし作品だという。
先日平野啓一郎の『日蝕』を読んで、彼が「三島由紀夫の再来」と言われているのを見て、しばらく三島を読んでいないと思いこれを引っ張り出した。
三島はこの小説でフィクションを書くと言っていたそうだが、この「仮面」の裏側にあるのは三島自身であり、それは自画像ではないかと言われる。『仮面の告白』というタイトルが言うとおり、三島自身の自伝であるという論に賛成したい。
全体を通して一貫していることは、異性に対してではなく同性に心を動かされていたということだ。終いには自分でも恋していると思っていた園子さえ避けてしまった。女性に対して興味を持てなかったことを告白している。今でこそ芸能人などがカミング・アウトする姿が報道されるなどしてあまり違和感がなくなってきたが、当時は恐らくかなりセンセーショナルな話題であったのだろう。『仮面の告白』というタイトルがあまりに相応しく思えてくる。
先日平野啓一郎の『日蝕』を読んで、彼が「三島由紀夫の再来」と言われているのを見て、しばらく三島を読んでいないと思いこれを引っ張り出した。
三島はこの小説でフィクションを書くと言っていたそうだが、この「仮面」の裏側にあるのは三島自身であり、それは自画像ではないかと言われる。『仮面の告白』というタイトルが言うとおり、三島自身の自伝であるという論に賛成したい。
全体を通して一貫していることは、異性に対してではなく同性に心を動かされていたということだ。終いには自分でも恋していると思っていた園子さえ避けてしまった。女性に対して興味を持てなかったことを告白している。今でこそ芸能人などがカミング・アウトする姿が報道されるなどしてあまり違和感がなくなってきたが、当時は恐らくかなりセンセーショナルな話題であったのだろう。『仮面の告白』というタイトルがあまりに相応しく思えてくる。